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プロローグ
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「なんや君、死にたいんか?」
木の枝にロープを括りつけていると、頭上から声がかかった。
見上げると、ふわふわ人間?が浮いている。
「……まあ、見た通りだと思うけど?」
私は驚くこともなく問いかけに応えると、信じられない様な者を見るで見られた。
「……驚いた……君、僕が見えるんやね……?」
「は?見えるし聞こえてますけど?」
何を言っているんだこの人は……?そんな事をのんきに思っていると、手に持っていた縄が生き物のように私の手からすり抜けて、不思議な男の手の中に納まった。
「不思議な子やねぇ~……どや?ここで出会ったんも何かの縁や。死ぬんは一旦持ち帰って、残りの人生僕にくれんか?」
「は?」
「安心し、ちゃんと対価は払うで?君が望む死に方をさせたる。――なんせ僕は死神やからね」
そう言って男は不気味に笑った。
❖❖❖
私の名前はリズヴィーナ・シュミレット。元伯爵令嬢だ。
今の私はリズと名乗るただの平民。
そんな私の隣にはつい先日出合った死神だと言う男が微笑んでいる。
私のお父様、シュミレット伯爵はとても厳しい人だった。それは娘の私だけではなく、使用人や妻であるお母様も同様。
私達に自由はなく、許可なく屋敷を出る事さえ許されなかった。
そんなお父様に耐えきれず辞めていく使用人は後を絶たず、遂にはお母様まで私を置いて逃げてしまった。
置いていかれた私にお父様は「お前のせいだ!!」と罵った。
そして、その日を境にお父様はより一層厳しさを増した。
厳しいと言えば聞こえはいいかも知れないが、精神的な虐待と一緒。
私を厳しく縛り付けることで、お母様を失った喪失感を補っているようにも見えた。
そんな毎日を繰り返すうちに私から笑顔が消え、心が凍りついたように何も感じなくなった。
私はお父様の娘ではなく傀儡の様な存在になった。
ある日、ふと思ってしまった。
私は何の為に生きているのか?
何故この世に生まれてきたのか?
生きている意味があるのだろうか──……?
きっと私はこの世に幻滅したのだろう。
気がついたらロープを庭にある木の太い枝にかけていた。
――そして、この男に出会った。
「僕に君の人生くれるっちゅーなら、この狭い鳥籠から出したる。外の世界に飛び出してみんか?きっと楽しいで?」
そんな事を言われ、コクンッと頷いた。
見ず知らずの男について行くなんて怪しすぎる。けれど、どこにいても地獄ならまだ知らぬ世界を見たかった。
私の言葉を聞いた男はニッコリ笑い「ほな、ここから出よか?」と私の手を引き屋敷へと歩み進めた。
「リズ!!お前をこの伯爵邸から追放する!!今この時より私の娘でも何でもない!!今すぐ出て行け!!」
屋敷に入った途端お父様から告げられた絶縁宣言。
訳が分からずその場に佇んでいると、後ろからクスクス笑う声が聞こえた。
「なに呆けとるねん。言ったろ?鳥籠から出したるって……これで君は自由やで?」
この男の言葉を信用したつもりはなかったが、まさか本当に自由になれるとは思っていなかった。
「……貴方は何者なの?」
「言ったやろ?死神や」
そう言って微笑む男を私は死神だとは思えなかった。
けれど、それ以上の詮索はしない方がお互いの為だと思いやめておいた。
「荷物それだけなんか!?」
「……ドレスなんて持って行っても仕方ないでしょ?」
私が手にしている旅行鞄を見た男は驚いたように声を上げた。
これから平民になる私にはドレスも宝石も不要。
鞄の中に入っているのは必要最低限のものだけ。
「まあええか。ほな、行こか」
「ちょっと待って。貴方、名前は?」
「ああ~……そうやね……クロ。とでも呼んでくれてたらええよ」
『呼んだらええよ』って事は、要するに本当の名を教えるつもりはないという事なんだろう。
「そう、私の事はリズって呼んでくれたらいいわ」
「ほな、リズこれからよろしゅうな」
「ええ。宜しくね……クロ」
こうして、私と死神クロとの生活が始まった。
木の枝にロープを括りつけていると、頭上から声がかかった。
見上げると、ふわふわ人間?が浮いている。
「……まあ、見た通りだと思うけど?」
私は驚くこともなく問いかけに応えると、信じられない様な者を見るで見られた。
「……驚いた……君、僕が見えるんやね……?」
「は?見えるし聞こえてますけど?」
何を言っているんだこの人は……?そんな事をのんきに思っていると、手に持っていた縄が生き物のように私の手からすり抜けて、不思議な男の手の中に納まった。
「不思議な子やねぇ~……どや?ここで出会ったんも何かの縁や。死ぬんは一旦持ち帰って、残りの人生僕にくれんか?」
「は?」
「安心し、ちゃんと対価は払うで?君が望む死に方をさせたる。――なんせ僕は死神やからね」
そう言って男は不気味に笑った。
❖❖❖
私の名前はリズヴィーナ・シュミレット。元伯爵令嬢だ。
今の私はリズと名乗るただの平民。
そんな私の隣にはつい先日出合った死神だと言う男が微笑んでいる。
私のお父様、シュミレット伯爵はとても厳しい人だった。それは娘の私だけではなく、使用人や妻であるお母様も同様。
私達に自由はなく、許可なく屋敷を出る事さえ許されなかった。
そんなお父様に耐えきれず辞めていく使用人は後を絶たず、遂にはお母様まで私を置いて逃げてしまった。
置いていかれた私にお父様は「お前のせいだ!!」と罵った。
そして、その日を境にお父様はより一層厳しさを増した。
厳しいと言えば聞こえはいいかも知れないが、精神的な虐待と一緒。
私を厳しく縛り付けることで、お母様を失った喪失感を補っているようにも見えた。
そんな毎日を繰り返すうちに私から笑顔が消え、心が凍りついたように何も感じなくなった。
私はお父様の娘ではなく傀儡の様な存在になった。
ある日、ふと思ってしまった。
私は何の為に生きているのか?
何故この世に生まれてきたのか?
生きている意味があるのだろうか──……?
きっと私はこの世に幻滅したのだろう。
気がついたらロープを庭にある木の太い枝にかけていた。
――そして、この男に出会った。
「僕に君の人生くれるっちゅーなら、この狭い鳥籠から出したる。外の世界に飛び出してみんか?きっと楽しいで?」
そんな事を言われ、コクンッと頷いた。
見ず知らずの男について行くなんて怪しすぎる。けれど、どこにいても地獄ならまだ知らぬ世界を見たかった。
私の言葉を聞いた男はニッコリ笑い「ほな、ここから出よか?」と私の手を引き屋敷へと歩み進めた。
「リズ!!お前をこの伯爵邸から追放する!!今この時より私の娘でも何でもない!!今すぐ出て行け!!」
屋敷に入った途端お父様から告げられた絶縁宣言。
訳が分からずその場に佇んでいると、後ろからクスクス笑う声が聞こえた。
「なに呆けとるねん。言ったろ?鳥籠から出したるって……これで君は自由やで?」
この男の言葉を信用したつもりはなかったが、まさか本当に自由になれるとは思っていなかった。
「……貴方は何者なの?」
「言ったやろ?死神や」
そう言って微笑む男を私は死神だとは思えなかった。
けれど、それ以上の詮索はしない方がお互いの為だと思いやめておいた。
「荷物それだけなんか!?」
「……ドレスなんて持って行っても仕方ないでしょ?」
私が手にしている旅行鞄を見た男は驚いたように声を上げた。
これから平民になる私にはドレスも宝石も不要。
鞄の中に入っているのは必要最低限のものだけ。
「まあええか。ほな、行こか」
「ちょっと待って。貴方、名前は?」
「ああ~……そうやね……クロ。とでも呼んでくれてたらええよ」
『呼んだらええよ』って事は、要するに本当の名を教えるつもりはないという事なんだろう。
「そう、私の事はリズって呼んでくれたらいいわ」
「ほな、リズこれからよろしゅうな」
「ええ。宜しくね……クロ」
こうして、私と死神クロとの生活が始まった。
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