断罪された挙句に執着系騎士様と支配系教皇様に目をつけられて人生諸々詰んでる悪役令嬢とは私の事です。

甘寧

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 ベルベットは目の前の光景に今すぐこの場から逃げたい衝動に駆られている。それもそのはず、小さな食卓テーブルに大の大人二人が睨みをきかせながら座っているのだから。

「もお~、今日はネリーがいないからお茶は我慢してよね」
「あ、じゃあ私が入れて……」
「ベルはそんな事しなくていいよ」

 壁によりかかりながら腕を組み、心底面倒くさそうにリアムが二人に向かって言い放った。これはチャンスとばかりにベルベットが嬉々として腰を上げたが、すぐリアムに睨まれた。

 リアム曰く「こんな二人にベルが手間をかけることは無い」との事。これは逃げれないと察したベルベッドは小さく「はい」と返事をして、大人しく着席した。

 ジェフリーとロジェはしばらく黙っていたが、ジェフリーがやけにリアムを気にしている事に気がついた。

「何処かで見たと思えば、お前は……」
「ん?」

 おもむろにリアムに声をかけた。

「お前は孤児院であった男だな?」

 その一言で場の雰囲気が変わった。

「は?誰のこと言ってんの?見間違えもいいとこでしょ」
「……私が見間違えるはずがない」
「はっ!!どっからくるのその自信。自意識過剰男とか、きっしょ」

 ジェフリーはリアムを確信している様に言うが、当のリアムはそれを否定。
 一方通行の会話に苛立ちを隠すことなくジェフリーはリアムを鋭い目つきで睨みつけているが、当のリアムはへらつきながら相手をしている。

 実際、リアムもジェフリーの一言で孤児院であった騎士だという事を思い出し、家に入れたことを心底後悔していた。内心焦りはあるものの、そこは元隠密の者。容易に自分の正体を明かすはずもなく、平然を装いながらあしらっている。

「ちょ、ちょっと待って!!少し落ち着いて!!……団長様も、これ以上揉めるのならお引き取り願います」

 ”孤児院”という単語を聞いて他人事ではないベルベットがすぐさま間に入り、それとなく帰宅を促した。このまま帰ってくれれば儲けものだが、顰め面のまま黙ってしまった。これは暗に帰らないと言う意思表示だろう。

 何故こんなにもここに執着しているのか分からないが、黙ってくれればそれでいい。

「──……ああ、残念。面白くなって来たところですが、どうやら迎えの者が来てしまった様です」

 窓の外を気にしていたロジェが呟いた。

 見ると、従者らしき者と騎士数名が家の前に待機しているのが見えた。
 ロジェは身一つでこの家にやって来たので支度するほどの事もなく、そのまま外へと出た。

「これといったお構いも出来ず、すみません」
「いいえ。貴女に拾われていなければ今頃どうしていた事か……後日改めてお礼に伺わせて頂きます」
「いいえいいえ!!そんな、当然のことをしたまでですので、お礼なんて要りません!!」

 何だかんだお茶一つも出さずに帰してしまったことに少し申し訳なさが残るが、お礼は断固拒否する。

 そんなものは要らないから、今後私に関わらないでくれ。そう言えたらどれ程楽になれるか……

「それでは私の気が済まないのです。それとも、このまま連れ去って私の気が済むまでお礼をして差し上げても宜しいのですが……?」

 獲物を狙うような眼で見つめられ、ベルベットは背筋が凍りつくような感覚に襲われた。
 自分は間違いなく悪役令嬢なはず。にもかかわらず、対象者二人が訳の分からない行動を示していることに困惑した。

(こ、こんな展開知らない!!)

 そもそも追放後の生活がどのようなものだったかは定かでは無いが、今言えることは絶対こんなはずではなかったと言うこと。

「…………様。その辺で……」

 蛇に睨まれた蛙状態のベルベットを哀れに思ったのか、従者であろう男が耳打ちしてくれた。

「仕方ないですね……」

 不服そうに言うと、ベルベットの手を取り「必ずお礼はさせて頂きますね」と微笑みながら言うと手の甲に口を付けた。

 その言葉が奴隷フラグの様に聞こえ、ベルベットは顔面蒼白になった。

「さっさと行け」
「ああ、貴方の事も覚えておきますね。まあ、今後会うこともないと思いますが」
「それはお互い様だな」

 ロジェの手を払うようにしてジェフリーが割り込んできた。

 睨み合う二人に従者の男が何度もロジェを呼び付けると、ようやくその場から足が動いた。
 笑顔で手を振りながらこの場を後にするロジェを呆然と見つめ、姿が見え無くなると再び現実に引き戻される。

「貴女はあの様にチャラチャラした者が好きなのか?」
「え?」

 ジェフリーの言葉に固まった。

 どこをどう見たら好意があるように見たのか。まずそこを知りたい。しかしまあ、ここで変な誤解を生むよりはっきりさせといた方がいい。

「えっと……どちらかと言えば苦手なタイプですが?」
「そうか。ならいい」

 ベルベットの言葉に思わず頬が緩みそうになったジェフリーは口元を抑え顔を背けた。
 そんなジェフリーを怪訝そうにベルベットが見つめていると、その視線に気づいたのか顔を向けてきた。

「気がないようならば、あの様な者を容易く家に招き入れることはしない方がいい。ああいう者は勘違いしやすい。今後危険が及ぶことも考えられる。分かってくれるか?」

 やけに饒舌に喋るジェフリーに驚きつつ、その言葉の重みをひしひしと感じた。正直な所、そんなことを言われる筋合いはないが共感出来るところもあった為、すんなりと受け入れた。

 ベルベットが頷いたのを見てジェフリーは満足したのか自身も王都へ戻る為に馬を走らせた。その姿を確認すると、すぐにリアムを呼びつけながら家の中に入った。
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