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episode.6
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「……もう一度言ってもらえる?」
王城の一室で冷淡に落ち着いた声で問いかけるのは聖女であるシャノン。彼女が視線を送る先には全身を黒で纏めた男が跪いている。この男は聖女の為に神殿から配属された暗部の者だ。
「申し訳ありません。ベルベット・ダグラスを仕留める事が出来ませんでした」
「そう……それは何故?」
「はい、騎士団の団長であるジェフリー・サンダースの応戦があり、ゴロツキ程度の盗賊では到底相手になりませんでした」
シャノンはそう話す男の元へ無言で歩み寄ると、脇腹目掛けて思いきり蹴りつけた。男は「ぐっ」と小さな悲鳴を上げ蹲ったが、すぐに体を起こし再びシャノンの前に跪いた。
シャノンはそんな男を蔑むような目で見下ろしながら口を開いた。
「盗賊程度で充分と言ったのは貴方では?最初から貴方が動いていれば良かったのではなくて?」
「も、申し訳ありません。ですが、この度の件は我々が出ていてもジェフリー団長と対立する事になっておりました。あの方を相手にすれば、聖女様の事が公になる可能性があります」
言い訳するように言い放つ男だが間違った事は言っていない。団長であるジェフリーにとって訓練を受けた者と、ただのゴロツキの区別は容易い。訓練を受けた者がベルベットの命を狙っていると分かれば実家であるダグラス公爵が黙ってはいない。
公爵夫婦は娘であるベルベットを大層可愛がっている。今回の婚約破棄の件でも怒り心頭で国王の元へやってきていたぐらいだ。
ただ、今回の件は国王陛下も寝耳に水だったらしく誠心誠意謝った後、事の発端である王子を一月の間謹慎とする処分を与える事で何とか許して貰えたようだ。それは婚約者でもあるシャノンも同様。二人は一月の間会うことも文を交わすことさえも許されなかった。
傍から見れば甘い処分だが、ベルベットも了承して自ら進んで国外へ出て行ったと言うこともあり、これ以上長引かせても時間の無駄と言う判断だろう。
「……分かった。この度の件は水に流しましょう」
「寛大なお心感謝致します」
男は胸に手を当て、深々と頭を下げた。
「ただし、次はないわよ?」
そう言い放つシャノンは聖女とは思えない程、冷たく残忍な表情を見せていた。男はゴクッと息を飲み「御意」と伝えた。男はシャノンが何故ここまでしてベルベットを消そうとしているのか理由は知らない。知っているのは「神託があった」という事だけ。果たしてそれが真実なのかどうか……
◈◈◈
「ベル、見て。捕まえた」
ある日、リアムがそう言って掲げたのは、縄でグルグル巻にされた貴族らしき男性。子供が昆虫を捕まえた時のように嬉々として言うので、あれは人ではなくて新種の何かでは?と思ってしまった。しかし何度見てもそれは人で、ぐったりと横たわっていた。
正気に戻ったベルベットは慌てて傍により縄を解くと、口に手を当てた。荒いがちゃんと呼吸しているのが分かり、一先ず安心した。このまま外に置き去りにしておく訳にもいかず、リアムにベルベットの私室に運ぶようにお願いした。
「……ん……」
「あ、目が覚めましたか?」
暫くすると目を覚ました男がグラつく頭に手を当てながらゆっくり体を起こした。
「……ここは……?」
「ここは私の家です……うちの者が失礼をしてしまったようで申し訳ありません」
目を覚ましたら知らぬ家に知らぬ女がいれば戸惑うだろう。ベルベットは簡単に経緯を説明し、深々と頭を下げてリアムの仕業を謝罪した。
「そうですか……実は、森に入ったところで甘い匂いのする不思議な花を見つけてその匂いを嗅いだら意識が遠のいて……」
ああ、あの花が原因だったか。
「その花は曼仙花という花です。甘い匂いで人や動物を誘いますが、その香りは一種の麻酔のような作用をもっています。嗅げばしばらくは夢の中で、どんな強靭な者でも無防備になる。そこに目を付けた者が曼仙花を使って悪事を働いているなんてことも多いですね」
てっきりリアムがこの人に害をなしたと思い込んでいたが、どうやら思い過ごしだったらしい。
「ですが、おかしいですね……この家近辺には生えていないはずなんですが……」
この花の匂いは広範囲に散布される。風の向き次第ではベルベットの家にも被害が及ぶと考え周辺には生えないようにしていた。
おかしいな……思ってハッと何やら察したベルベットがリアムの方を見ると、明らかに動揺したリアムが必死に視線を外そうと明後日の方向を向いている。
「リアム、貴方の仕業ね?」
「あ!!その言い方はないんじゃない!?僕一応ベルの護衛役だよ!?」
「はぁぁ~……平民になったんだから護衛は必要ないって言ったじゃない」
結果的にはやはりリアムの仕業で間違いなかったようだ。まあ、こんな薄暗い森に人が来れば怪しいと思うのも仕方ないことだけど、もう少し友好的対策をお願いしたい。
「僕が殺さないで生け捕りにしたんだから、その辺は褒めてくれてもいいんじゃない?」
確かにそう言われたらそうなんだけど……
「すみませんが、貴方は……?」
リアムの言葉に頭を抱えていると、男が問いかけてきた。
「あ、名乗るのが遅れて申し訳ありません。私はこの家の主人のベルベットと申します。ベルと呼んでください」
「そうですか。ではベル、助けていただき感謝します。ありがとうございます」
「いえいえいえいえ!!元はと言えばうちの者せいですし!!」
丁寧に感謝の言葉を口にしながら頭を下げられ、慌てて頭を上げてくれるよう伝えた。
(それにしても……)
この人の装いはここら辺では見たことがないな……それに育ちがよさそうなところを見ると上級貴族だろうと言う所までは分かるが、ベルベットにはどうも気になる点があった。
(この人の顔どっかで……)
「ああ、すみません。私はロジェ=リュディック・ダリガードンと申します。気軽にロジェとお呼びください」
その名を聞いて思い出した。
──この人、攻略対象者だ。
王城の一室で冷淡に落ち着いた声で問いかけるのは聖女であるシャノン。彼女が視線を送る先には全身を黒で纏めた男が跪いている。この男は聖女の為に神殿から配属された暗部の者だ。
「申し訳ありません。ベルベット・ダグラスを仕留める事が出来ませんでした」
「そう……それは何故?」
「はい、騎士団の団長であるジェフリー・サンダースの応戦があり、ゴロツキ程度の盗賊では到底相手になりませんでした」
シャノンはそう話す男の元へ無言で歩み寄ると、脇腹目掛けて思いきり蹴りつけた。男は「ぐっ」と小さな悲鳴を上げ蹲ったが、すぐに体を起こし再びシャノンの前に跪いた。
シャノンはそんな男を蔑むような目で見下ろしながら口を開いた。
「盗賊程度で充分と言ったのは貴方では?最初から貴方が動いていれば良かったのではなくて?」
「も、申し訳ありません。ですが、この度の件は我々が出ていてもジェフリー団長と対立する事になっておりました。あの方を相手にすれば、聖女様の事が公になる可能性があります」
言い訳するように言い放つ男だが間違った事は言っていない。団長であるジェフリーにとって訓練を受けた者と、ただのゴロツキの区別は容易い。訓練を受けた者がベルベットの命を狙っていると分かれば実家であるダグラス公爵が黙ってはいない。
公爵夫婦は娘であるベルベットを大層可愛がっている。今回の婚約破棄の件でも怒り心頭で国王の元へやってきていたぐらいだ。
ただ、今回の件は国王陛下も寝耳に水だったらしく誠心誠意謝った後、事の発端である王子を一月の間謹慎とする処分を与える事で何とか許して貰えたようだ。それは婚約者でもあるシャノンも同様。二人は一月の間会うことも文を交わすことさえも許されなかった。
傍から見れば甘い処分だが、ベルベットも了承して自ら進んで国外へ出て行ったと言うこともあり、これ以上長引かせても時間の無駄と言う判断だろう。
「……分かった。この度の件は水に流しましょう」
「寛大なお心感謝致します」
男は胸に手を当て、深々と頭を下げた。
「ただし、次はないわよ?」
そう言い放つシャノンは聖女とは思えない程、冷たく残忍な表情を見せていた。男はゴクッと息を飲み「御意」と伝えた。男はシャノンが何故ここまでしてベルベットを消そうとしているのか理由は知らない。知っているのは「神託があった」という事だけ。果たしてそれが真実なのかどうか……
◈◈◈
「ベル、見て。捕まえた」
ある日、リアムがそう言って掲げたのは、縄でグルグル巻にされた貴族らしき男性。子供が昆虫を捕まえた時のように嬉々として言うので、あれは人ではなくて新種の何かでは?と思ってしまった。しかし何度見てもそれは人で、ぐったりと横たわっていた。
正気に戻ったベルベットは慌てて傍により縄を解くと、口に手を当てた。荒いがちゃんと呼吸しているのが分かり、一先ず安心した。このまま外に置き去りにしておく訳にもいかず、リアムにベルベットの私室に運ぶようにお願いした。
「……ん……」
「あ、目が覚めましたか?」
暫くすると目を覚ました男がグラつく頭に手を当てながらゆっくり体を起こした。
「……ここは……?」
「ここは私の家です……うちの者が失礼をしてしまったようで申し訳ありません」
目を覚ましたら知らぬ家に知らぬ女がいれば戸惑うだろう。ベルベットは簡単に経緯を説明し、深々と頭を下げてリアムの仕業を謝罪した。
「そうですか……実は、森に入ったところで甘い匂いのする不思議な花を見つけてその匂いを嗅いだら意識が遠のいて……」
ああ、あの花が原因だったか。
「その花は曼仙花という花です。甘い匂いで人や動物を誘いますが、その香りは一種の麻酔のような作用をもっています。嗅げばしばらくは夢の中で、どんな強靭な者でも無防備になる。そこに目を付けた者が曼仙花を使って悪事を働いているなんてことも多いですね」
てっきりリアムがこの人に害をなしたと思い込んでいたが、どうやら思い過ごしだったらしい。
「ですが、おかしいですね……この家近辺には生えていないはずなんですが……」
この花の匂いは広範囲に散布される。風の向き次第ではベルベットの家にも被害が及ぶと考え周辺には生えないようにしていた。
おかしいな……思ってハッと何やら察したベルベットがリアムの方を見ると、明らかに動揺したリアムが必死に視線を外そうと明後日の方向を向いている。
「リアム、貴方の仕業ね?」
「あ!!その言い方はないんじゃない!?僕一応ベルの護衛役だよ!?」
「はぁぁ~……平民になったんだから護衛は必要ないって言ったじゃない」
結果的にはやはりリアムの仕業で間違いなかったようだ。まあ、こんな薄暗い森に人が来れば怪しいと思うのも仕方ないことだけど、もう少し友好的対策をお願いしたい。
「僕が殺さないで生け捕りにしたんだから、その辺は褒めてくれてもいいんじゃない?」
確かにそう言われたらそうなんだけど……
「すみませんが、貴方は……?」
リアムの言葉に頭を抱えていると、男が問いかけてきた。
「あ、名乗るのが遅れて申し訳ありません。私はこの家の主人のベルベットと申します。ベルと呼んでください」
「そうですか。ではベル、助けていただき感謝します。ありがとうございます」
「いえいえいえいえ!!元はと言えばうちの者せいですし!!」
丁寧に感謝の言葉を口にしながら頭を下げられ、慌てて頭を上げてくれるよう伝えた。
(それにしても……)
この人の装いはここら辺では見たことがないな……それに育ちがよさそうなところを見ると上級貴族だろうと言う所までは分かるが、ベルベットにはどうも気になる点があった。
(この人の顔どっかで……)
「ああ、すみません。私はロジェ=リュディック・ダリガードンと申します。気軽にロジェとお呼びください」
その名を聞いて思い出した。
──この人、攻略対象者だ。
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