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街に明かりが灯りだした頃、シャルロッテは既に賑わっている酒場の扉を開けた。
「おや、いらっしゃい」
いつものように活気のいい女将の声が店に響き渡り、いつものようにカウンターの奥にある席に着いた。すぐに目の前にジョッキに入った酒が運ばれてきた。それを一気に呷り、崩れるようにカウンターに突っ伏した。
──あの後、抵抗虚しくルイースにしっかりお持ち帰りされた。
見覚えのある部屋に放り込まれ頑丈に鍵までかけると、覆いかぶさるようにして詰め寄られた。
「本当に貴女は私の気を引くのが上手いですね」
「引いてるつもりはないわよ。…っていうか、退いてくれる?」
平常を装っているがビジュアルが良すぎるので、心臓に悪い。ルイースの胸を押して距離を取ろうとするが、頑なに拒んでいる。
シャルロッテは溜息を吐くと、ルイースの胸に指を当てた。
「いい事?貴方が私に興味を持ったのは、生まれたての雛が最初に親を見た時と同じような感覚なのよ。雛はいずれ巣立つ。貴方も他の女に目を向けるべきよ」
「そんな事言って、逃げようたって無駄ですよ」
上手いこと伝えたと思ったのに、間髪入れずに一脚された。
「…そう…」
引いてダメなら押してみろってね。
シャルロッテはルイースをベッドに押し倒すとその上に跨り、髪を掻きあげながら見下ろした。
「分かったわよ。そんなに癒して欲しいならしてあげる」
「─!?」
首の太く浮き出た血管を指でなぞりながら、シャツの中にするりと手を入れ這わせると、ビクッと大きく体が跳ねた。
(ふふっ…大きな口叩いといてだらしない…)
内心ほくそ笑みながら、シャツのボタンに手をかけた。その時…
「え」
腕を掴まれ、体が反転した。
そのままルイースに覆いかぶさられる形になり、乱暴に唇を奪われた。
「─ん゛!?」
すぐに唇は離れたが、獰猛な目つきで見つめられ剣呑な空気が漂ってくる。
ルイースはシャルロッテの上に跨ったまま、自身のシャツのボタンを外すと、わざとらしくはだけて見せた。
その姿の艶っぽいことこの上なく、もはや色気の暴力が犯罪レベル。
──だがしかし、ひよっこに実権を握られるのは癪。こちらにも女としてのプライドがある。
「快楽を覚えたばかりのひよっこが、随分と大胆な事をするな」
「教えてくれたのは貴女ですよ」
「………」
睨みつけるシャルロッテの顎を持ち上げ、再び口付けを交わそうとした。が、その時ノックする音が聞こえた。
「旦那様、お時間です」
執事の者だろうか、低く落ち着いた声が聞こえた。
「…今手が離せないんです。後にしてください」
「いけません。本日は我が国が主催の夜会です。周辺国からも旦那様とお会いになりたいというお方が、数多く集まっております」
ああ、そういえば前に哉藍がそんなことを言っていたな。なんでも、絶世の美女と呼ばれる姫様も参加するとかしないとか…
夜会と言えば聞こえはいいが、要は大規模な見合いの場。当然、目玉はこの男。
ルイースを欲しているのは何処の国も同じだが、この男はこの国から出ることはないと断言している。それならば、自分の娘と縁を持たせようと、他国の貴族達は必死になっている。もしもルイースのお眼鏡に叶えば、その家は地位も名誉も手に入る。
この国としても他国の者と婚姻を結ばせれば、こちらの立場も上になる。万が一の場合には後ろ盾にもなる。
このまま嫁が見つかってくれれば、私に執着することもなくなる。
(私としても願ったり叶ったり!!)
シャルロッテはバレないように顔を輝かせた。
「あら、残念ね。約束があるんじゃ行かなくてわね?」
「…嬉しそうですね」
「そ、そんなことないわよ?」
緩む頬はそう簡単に隠すことは出来なかった。
「旦那様!!」
「…………チッ、分かりました」
不機嫌全開で舌打ちをすると、はだけていたシャツを整えながらベッドを下りた。
「すぐ戻ってくるので、大人しく待っていてください」
そう言うだけ言うと、部屋を出て行った。
まあ、大人しく待っている事などするはずなく…シャルロッテはベッドから飛び降りると、窓に手を掛けた。
バチンッ!!
窓に手が触れた瞬間、弾かれた。
「…用意周到なんだから…」
シャルロッテはパンッと手を叩くが、窓が開くことはない。自分の術が弾かれたことに悔しがるどころか「くくくっ」と笑みがこぼれた。
「やるわね…だけど、この程度じゃ私を閉じ込めておくのは無理よ」
シャルロッテが集中しながら呪文を口にすると、バンッと勢いよく窓が開いた。
こうしてルイースの屋敷から脱走したシャルロッテは、その足で酒場へ姿を変えてやって来た。
今回の夜会は国王も力を入れているらしいし、戻ってくるのは明日の早朝…いや、昼頃か?何にせよ、これで私が執着される理由はなくなったわけだ。
「今日の酒は一段と美味い」
ご満悦で二杯目を受け取り、口を付けようとした所で「お隣よろしいか?」と声がかけられた。
「ええ、どう、ぞッ!?」
振り返ったまま、シャルロッテの動きが止まった。
そこには眼鏡をかけ、長い黒髪を後ろに一つに束ねた男が立っていた。明らかに只者じゃない雰囲気を醸し出している。
整った顔をしているので、店内にいる女性陣はチラチラと気にする素振りを見せてはいるが、声をかける者はいない。見た目がよくても、得体の知れない者に声をかけようと言う強者はいないという事だ。
だが、シャルロッテはこの男の正体を知っている。
「…なんて恰好してるんです?」
「貴女を真似たんですよ。いやぁ、この姿のお陰で楽に城を抜けれました」
そう、こいつの正体はルイースだ。
「おや、いらっしゃい」
いつものように活気のいい女将の声が店に響き渡り、いつものようにカウンターの奥にある席に着いた。すぐに目の前にジョッキに入った酒が運ばれてきた。それを一気に呷り、崩れるようにカウンターに突っ伏した。
──あの後、抵抗虚しくルイースにしっかりお持ち帰りされた。
見覚えのある部屋に放り込まれ頑丈に鍵までかけると、覆いかぶさるようにして詰め寄られた。
「本当に貴女は私の気を引くのが上手いですね」
「引いてるつもりはないわよ。…っていうか、退いてくれる?」
平常を装っているがビジュアルが良すぎるので、心臓に悪い。ルイースの胸を押して距離を取ろうとするが、頑なに拒んでいる。
シャルロッテは溜息を吐くと、ルイースの胸に指を当てた。
「いい事?貴方が私に興味を持ったのは、生まれたての雛が最初に親を見た時と同じような感覚なのよ。雛はいずれ巣立つ。貴方も他の女に目を向けるべきよ」
「そんな事言って、逃げようたって無駄ですよ」
上手いこと伝えたと思ったのに、間髪入れずに一脚された。
「…そう…」
引いてダメなら押してみろってね。
シャルロッテはルイースをベッドに押し倒すとその上に跨り、髪を掻きあげながら見下ろした。
「分かったわよ。そんなに癒して欲しいならしてあげる」
「─!?」
首の太く浮き出た血管を指でなぞりながら、シャツの中にするりと手を入れ這わせると、ビクッと大きく体が跳ねた。
(ふふっ…大きな口叩いといてだらしない…)
内心ほくそ笑みながら、シャツのボタンに手をかけた。その時…
「え」
腕を掴まれ、体が反転した。
そのままルイースに覆いかぶさられる形になり、乱暴に唇を奪われた。
「─ん゛!?」
すぐに唇は離れたが、獰猛な目つきで見つめられ剣呑な空気が漂ってくる。
ルイースはシャルロッテの上に跨ったまま、自身のシャツのボタンを外すと、わざとらしくはだけて見せた。
その姿の艶っぽいことこの上なく、もはや色気の暴力が犯罪レベル。
──だがしかし、ひよっこに実権を握られるのは癪。こちらにも女としてのプライドがある。
「快楽を覚えたばかりのひよっこが、随分と大胆な事をするな」
「教えてくれたのは貴女ですよ」
「………」
睨みつけるシャルロッテの顎を持ち上げ、再び口付けを交わそうとした。が、その時ノックする音が聞こえた。
「旦那様、お時間です」
執事の者だろうか、低く落ち着いた声が聞こえた。
「…今手が離せないんです。後にしてください」
「いけません。本日は我が国が主催の夜会です。周辺国からも旦那様とお会いになりたいというお方が、数多く集まっております」
ああ、そういえば前に哉藍がそんなことを言っていたな。なんでも、絶世の美女と呼ばれる姫様も参加するとかしないとか…
夜会と言えば聞こえはいいが、要は大規模な見合いの場。当然、目玉はこの男。
ルイースを欲しているのは何処の国も同じだが、この男はこの国から出ることはないと断言している。それならば、自分の娘と縁を持たせようと、他国の貴族達は必死になっている。もしもルイースのお眼鏡に叶えば、その家は地位も名誉も手に入る。
この国としても他国の者と婚姻を結ばせれば、こちらの立場も上になる。万が一の場合には後ろ盾にもなる。
このまま嫁が見つかってくれれば、私に執着することもなくなる。
(私としても願ったり叶ったり!!)
シャルロッテはバレないように顔を輝かせた。
「あら、残念ね。約束があるんじゃ行かなくてわね?」
「…嬉しそうですね」
「そ、そんなことないわよ?」
緩む頬はそう簡単に隠すことは出来なかった。
「旦那様!!」
「…………チッ、分かりました」
不機嫌全開で舌打ちをすると、はだけていたシャツを整えながらベッドを下りた。
「すぐ戻ってくるので、大人しく待っていてください」
そう言うだけ言うと、部屋を出て行った。
まあ、大人しく待っている事などするはずなく…シャルロッテはベッドから飛び降りると、窓に手を掛けた。
バチンッ!!
窓に手が触れた瞬間、弾かれた。
「…用意周到なんだから…」
シャルロッテはパンッと手を叩くが、窓が開くことはない。自分の術が弾かれたことに悔しがるどころか「くくくっ」と笑みがこぼれた。
「やるわね…だけど、この程度じゃ私を閉じ込めておくのは無理よ」
シャルロッテが集中しながら呪文を口にすると、バンッと勢いよく窓が開いた。
こうしてルイースの屋敷から脱走したシャルロッテは、その足で酒場へ姿を変えてやって来た。
今回の夜会は国王も力を入れているらしいし、戻ってくるのは明日の早朝…いや、昼頃か?何にせよ、これで私が執着される理由はなくなったわけだ。
「今日の酒は一段と美味い」
ご満悦で二杯目を受け取り、口を付けようとした所で「お隣よろしいか?」と声がかけられた。
「ええ、どう、ぞッ!?」
振り返ったまま、シャルロッテの動きが止まった。
そこには眼鏡をかけ、長い黒髪を後ろに一つに束ねた男が立っていた。明らかに只者じゃない雰囲気を醸し出している。
整った顔をしているので、店内にいる女性陣はチラチラと気にする素振りを見せてはいるが、声をかける者はいない。見た目がよくても、得体の知れない者に声をかけようと言う強者はいないという事だ。
だが、シャルロッテはこの男の正体を知っている。
「…なんて恰好してるんです?」
「貴女を真似たんですよ。いやぁ、この姿のお陰で楽に城を抜けれました」
そう、こいつの正体はルイースだ。
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