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第8話 「浦安の男」

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大学4年生になり、僕は21歳になった。
この頃、僕の1DKの部屋に住みついていたゲイ友Kが一向に出て行かないので、流石に文句を言うと、一緒にもう少し広い部屋に2人で住もうと言う。
いわゆるルームシェアだ。
この時も優柔不断な僕は、Kの言う通りにした。
どうせならと言うので新宿に近く、当時家賃相場の比較的安かった東中野の2Kのアパートに2人で引っ越した。
それぞれ自分の個室を、ようやく確保した。

東中野は新宿から2駅で今まで住んでいた所沢より遥かに便利だった。所沢に住んでいたのは、僕の大学が西武池袋線内にあったためだが、東中野に引っ越した結果、乗り換えは必要になったが、新宿と池袋に定期で乗降できるようになった。

初めて付き合ったHと別れ、数人の男とSEXをしたが、付き合おうと言う男には、なかなか巡り合えなかった。

相変わらず土曜日ごとにKと一緒に新宿二丁目に遊びに行っていた。
そんな折、店で見かけた一人の男が気になった。

僕は、自分が文科系でスリムな方なので、マッチョじゃなくていいから、少し太めくらいの男がタイプだと気づき始めていた頃だった。
僕が気になった男は、まさにそんな体型だった。
顔もハンサムではなかったが、優しそうで僕のタイプだった。

今まで一度も自分から声を掛けたことなどなかった。
この夜も、声を掛けてみようか、でも断られたら嫌だなと、なかなか踏ん切りが付かない、いつもの自分だった。
18歳の頃から全く成長してないと自分を心の中でなじった。

そうこうしているうちに時間はどんどん流れ、彼は彼の友達と別れて帰る様子だった。
彼が店を出て行った瞬間、僕は、

「今行動しなきゃ、また後悔する」

と思って、店を飛び出した。

外は雨が降っていた。
ちょうど目の前に傘を差して帰ろうとする彼がいた。
僕はいきなり彼の傘の中に飛び込んで

「あの・・僕じゃダメですか?」

と彼に聞いた。
自分でも、この行動にはびっくりした。
彼は

『いや、カッコよくて素敵だよ』

と言ってくれた。
その後は流れに任せて、彼の家に行くことになった。
彼は浦安に住んでいた。

浦安の彼の家に着くと、それぞれシャワーを浴びた後、彼は僕をソファに座らせ、彼は僕の目の前に膝立ちして

『綺麗な体だね』

と言いながら僕の体を愛撫してくれた。
ベッドに移り、彼が僕の上に覆いかぶさると、彼の体重の重さが僕には気持ちよかった。
彼は僕の弱点が乳首だと分かると執拗に乳首を責めてくれた。
すごく気持ちよくて僕のチンポはビンビンだった。

「あん、あん」

と声を出すと

『可愛い』

と言って抱きしめてくれた。
すごく優しかった。
僕にバックは求めてこなかったけど、お互いにフェラしたりして射精した。

僕はHと別れて初めて、この人だったら上手くいくかもしれないと思った。
彼はJ君、25歳の会社員だった。

翌日、彼と別れて東中野の家に戻った。
ゲイ友のKは

「あんた、あんなダサい男がいいの?趣味悪ぅ」

と言われた。
そりゃKはJ君のことタイプじゃないでしょと僕は思った。

「あんた、あんなのと付き合うとか言わないでよ。友達として恥ずかしいから」

とも言われた。

そこへ浦安の彼から電話がかかってきた。

『また会える?また来てくれる?』

その電話をKが聞いていた。
主体性のない僕は、「ごめん、もう会わない」と断ってしまった。
誰が何と言おうと、友達からあんな男と言われようと、自分が好きなら関係ないと今では、はっきり言えるけど、21歳の僕はバカだった。

それでも、もう一度彼から電話がかかってきた。
この時は運が悪いことにKが電話に出た。

「何度も電話しないでください。友達はもう会わないと言っています」

と言うKの声が聞こえてきた。

僕はJ君ごめんねと心の中で叫んでいた。

いわゆる世間体とか、そういうものは全く気にする必要はないし、自分の心に正直に生きることが先々後悔しないことだと分かったのは、随分後のことだった。
本当に優しくしてくれたJ君に申し訳ない。
今でもそう思っている。
僕が友達の価値観に左右されない主体性を持った心をしていれば、この先、少なくとも何回かはJ君と会っただろうし、本当は会いたかった。
これは全て僕の責任だと、ずっと後悔している。
もっと自分をしっかり持っていたら、人から何と言われようと自分の信じる道を歩むことができたらと悔やんでも悔やみきれない程後悔したJ君との思い出となった。
本当に僕はろくでもないバカですね。

【あとがき】
実はその後、1回だけ二丁目の店で彼を見かけた。
彼はゲイの友達と話しながら僕の方を見ていた。
薄笑いを浮かべながら。
今思えば、あれは、明らかに僕への嘲笑と軽蔑の眼差しだった。
当時はそれも分からなかったが、好きだ好きだと言っておきながら、次の日には、手のひらを返したような態度をとったのだから、彼の反応は当然だったと感じる。
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