中野くんは中立でいたい

蜜柑

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中立の朝

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 高校生活を平穏にすごしたい。それは誰もが思うことであり願うことでもある。
 しかし、平穏にすごすのはなかなかどうして難しい。
 大人しすぎるとスクールカーストの底辺、陰キャラの烙印をおされ、オタクやぼっち、苛められっ子に。
 騒がしすぎたり、オラオラ系になるとスクールカーストの上位、陽キャラになってしまい、世間から不良のレッテルを貼られる。
 そんな厳しい学園生活を平穏にすごす方法はただ一つ。中立の存在であることだ。
 中立、陽キャや陰キャのどちらにも偏らない立ち位置。
 スクールカーストの位置で言うと真ん中になるだろうか?
 いや違う。スクールカーストの真ん中は陽キャの取り巻きになる。それは僕が求める中立ではない。
 僕、中野昴が目指す中立とは陽キャに媚びへつらうわけでも、陰キャを見下すわけでもない第三の立ち位置。
 スクールカーストでは表せない立ち位置、それこそが僕が望む中立なのだ。

         ◆



 朝七時ちょうど。目覚まし時計に頼らず、起床した。
 ぐーと体を伸ばし、部屋のカーテンを開ける。寝惚け眼に朝日は眩しい。
 「今日も晴天、晴れ晴れとしたいい天気」
 目を細め、僕はお天道様に一拍手一礼する。
 「今日も平穏にすごせますように」
 .... 別にお願いしたからといって平穏に暮らせるとは思っていない。
 いや、そもそもこれはお願いではない、何故なら僕は神様なんて非科学的存在を信じていないのだ。
 幽霊もしかりユーマもしかり僕は目で見たものしか信じないことにしている。
 ではさっきのお参りもどきは何かというと、一種の日課だ。
 僕は毎回七時ちょうどに起き、太陽に向かって平穏にすごせますようにと一拍手一礼するようにしている。曇天の日にはだいたいあそこら辺に太陽があるだろうと推測し、一拍手一礼する。
 いつからしているのかと聞かれれば、いつからだろう?
 気づけばしていた。
 「昴、起きなさい。ご飯よ!」
 一階から母の声が鮮明に聞こえてくる。朝から大声とは。元気のようでなによりだ。
 適当に「降りる」と返事をし、机の上にある学生鞄の中身をチェックする。
 これも決まった行動だ。因みにさっきの母の呼び掛けも数分の誤差はあるが、だいたい太陽に一礼した後に聞こえてくる。
 通学鞄の色は黒一色。肩から下げるタイプで変なバッチやキーホルダーは貼らないようにしている。
 中立であるためには装飾を施してはならない。
 アニメキャラのキーホルダーだと陰キャラに。某有名スポーツのロゴシールだとこれまた陰キャラ、もしくは陽キャラに目をつけられかねない。
 机の引き出しから、時間割り表を取りだし、教科書を入れていく。
 ノートを入れるときは一応パラパラと捲って確認する。
 「よし、宿題はやっている」
 宿題をやってくることは中立であるために最も必要な事項である。
 宿題を忘れると、教師からは悪い評価をつけられ、宿題を忘れた生徒からは妙な親近感を与えてしまう。
 親近感を与えるとどうなるか、周りによってくるだろう。
 陽キャラが寄ってくるとウェイウェイ的なノリに。陰キャラだと根暗的なノリになる。
 中立であるためには宿題は決して忘れてはいけないのだ。
 また、宿題の解答にも注意しなければならない。全問正答はガリ勉に見えてしまうし、不正解が多いと不真面目に見えてしまう。
 そのため正誤を半々にして不真面目でもガリ勉にも見えないようにして答える必要がある。
 やれやれ、中立の道のりも楽じゃない。
 忘れ物がないか再度確認して、一階へと降りる。
 一階へと降りて決まってすることは母に挨拶することだ。
 そういうわけで、キッチンに立つ母におはようと朝の挨拶をする。
 母は僕の顔を見るとしかめっ面をし、続けてため息をついた。
 息子の顔をみてため息とは失礼な人だ。
 「七時二十分。昴、あんたっていつもこの時間に降りて、挨拶するね.... 」
 それの何処が悪いのだろうか?
 「それに弁当も。いつも決まったメニューだよ。私としてはもう少し派手にしてあげたいのに、あんたが中立とかなんとか言うから味気ない彩りになるよ。工夫してウサギさんや牛さん、日の丸とか、ほら今流行ってるキャラクター弁当とかは駄目なのかい?」
 高校生男子の弁当にそんな可愛らしい工夫はいらない。後、日の丸はキャラ弁しゃない。
 「とにかく何時も通りでお願いするよ。それにほら、キャラ弁じゃお金がかかるでしょ?」
 僕はそれだけ言って洗面台に向かう。やれやれ、こんな長話は予定からずれている。
 洗面台に向かう際、母の小さな声が聞こえた気がした。
 しかし、気がしただけなのでやはり気のせいで母は何も言っていないのだろう。
       
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