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第16話 マーベルス侯爵
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昨日の夕方、マーベルス町に到着して、使いを侯爵邸の領主館へと出してあった。
なんでも今朝朝食後から会いたいとさっそく連絡があった。
ここまで乗ってきた馬車に再び乗って、町の中心にある領主館まで向かう。
通りは広く、また石畳が整備されていて綺麗に整えてある。
かなりの財力があるようだった。
俺の前世と比べてもかなり栄えているようだ。
堀を橋で超えて、領主館の敷地へと入っていく。
その門のところで一度、顔を確認される。
「ゴブリン……ですね、はい。通っていいですよ」
話はちゃんと通っているらしい。
馬車の窓から顔を出して、ニコニコしておく。
ゴブリンも笑えば笑顔になる。ちょっと怖いけど。
そうして控室へと通してもらい、すぐに謁見になった。
謁見とはいっても、いわゆる玉座による対面式ではなく、応接室で行われることになっていた。
先に部屋に通されて待つ。
「マーベルス侯爵がお会いになります」
執事が入ってきて定番の台詞を言う。
俺たちは立ち上がって、部屋に入ってくるのをじっと待つ。
すぐに足音が聞こえてきて、部屋へと入ってくる。
「ようこそ、マーベルスへ。わざわざすまないね」
「あ、どうもどうも」
「ゴブリン、なんだね。本当に」
「あ、はい」
「えっと辺境の村シャーリア村のさらに先に住んでいるとか?」
「そうです。エルヘレス森の中腹にある崖の洞窟に住んでおります」
「なるほど。やっぱり原住民みたいな生活を?」
「それが、最近、交易をはじめたので、ちょっと人間臭くなってきました」
「あははは、人間臭いとは、ゴブリンなのだろう?」
「もちろんです」
「申し遅れました。エルヘレス森ルフガル洞窟のベダの息子、長のドルと申します」
「アーノルド・マーベルス侯爵という」
とまあ雑談は進んでいく。
「お土産をお持ちしています」
「確認を」
「はい」
執事さんが回収していく。
「製塩を一袋。スパイダーシルク一着分相当ですかな。それから宝石、あと魔石ですね」
「ふむ。高価な物ばかりだが」
「はい。せっかくのお土産なので」
「それは有難いが」
「ゴブリンの生活にはほとんど使わないものばかりなので」
「なるほど」
「魔石はオークの魔石がひとつございます」
「オークは中級の魔物だが、ゴブリンが?」
「はい。手負いでしたので仕留めたと聞いております」
「そうか。しかしゴブリンがオークを倒すのか、ふむ」
戦力として見ているのだろうか。
それとも俺たちが人間を襲うとしたらという考えだろうか。
少し緊張するが、顔は笑っているので、大丈夫だろう。
ただ好奇心が強いという話は本当のようだ。
「オークは一匹だったそうで、そこを複数のゴブリンの集団で倒せば、犠牲は出ますが、倒せないことはないかと」
「そうか」
「それに加え、今は人間製の防具、槍などを装備しており、当時よりみな強くなっています」
「そうかそうか」
領主様はちょっと嬉しそうに笑う。
「街道を通ってきたと思うが、実は途中でオークの被害はたびたび起きていてな」
「そうなのですか」
「そうだ。ゴブリンでも倒せるというのは、人間にとってはいい話だ」
「私たちの共通の敵ですからね」
「そうだな」
なぜかオークも豚人族という亜人にカウントされるものの、人間を特に嫌っている。
そういう宗教観というかそういうものとしかいいようがない。
人間と一緒に暮らせるビジョンが浮かばないのがオークというものだった。
一方、ゴブリンは奴隷ではあるものの、人間と共存しているともいえる。
「実は、ゴブリン村の戦士が五名、最近も謎の死を迎えていて、どうもオークの犠牲になったのではと考えています」
「そうか、やはり」
「はい。オークは強暴ですし、私たちの敵です。お肉は美味しいんですけどね」
「そうだな」
そういえば人間やゴブリンはオークを食べる。
そりゃ嫌われても当然かもしれない。
食べ物と共存は難しい話だ。
一方、ゴブリンは不味いらしい。
ゴブリン自身もオークも人間も、ゴブリンは食べない。
オオカミはゴブリンも食べるようだが、何が違うのかは分からない。
「お土産はいただいた。よくきてくれた」
「ははっ」
「ルフガル洞窟のベダの息子、ドル。そなたをナイトに任命する。ゴブリン村の長として今後も励むように」
「有難き、幸せでございます」
「ゴブリンがオーラル王国の騎士爵以上に任命された例はこれがはじめてのはずだ」
「さようですか」
「ああ。我々はルフガルのゴブリンと同盟を組む。お互い良い関係を築こうじゃないか」
「はい、そうしたいです」
「規則があってややこしいのだが、税金はお土産の代金で賄うので今年は免除とする」
「はい」
「それで申し訳ないのだが、五名ほど戦士を戦力として出す必要がある。勤務地はデデム町だな」
「わかりました」
「五名でも出費だが、よろしく頼む」
そうか徴兵ではないけれど、常備軍の戦力としてカウントされるのね。
まあ国の一部に組み込まれるということはそういうことなのだろう。
五名ならなんとか出せない規模ではない。
こうして俺たちは国の一部として認められ、その傘下に入ることになった。
ゴブリンの奴隷狩りからも名目上だけど保護されることになった。
これにて俺たちに討伐隊が出るということはなくなったのだ。
また来た道を戻ってゴブリン村まで帰って行った。
ちなみに騎士爵のナイトだけは各領主の権限で与えることができる。
しかし騎士爵という名前には反して爵位にカウントされない。
男子伯侯公爵の五爵は国王の専任事項となっている。
いつかはゴブリンの貴族なんてなってみたいかもしれない、などと思っていたが、実際に村長レベルのナイトになると、何だか複雑な思いだ。
辺境も辺境の男爵とかもやってみたい。
「ゴブリン男爵」
その語感が何だか面白くて、何回か反芻してみる。
今はナイトで世襲もない。
正式な貴族「ゴブリン男爵」そういうのも、悪くはないかもしれない。
なんでも今朝朝食後から会いたいとさっそく連絡があった。
ここまで乗ってきた馬車に再び乗って、町の中心にある領主館まで向かう。
通りは広く、また石畳が整備されていて綺麗に整えてある。
かなりの財力があるようだった。
俺の前世と比べてもかなり栄えているようだ。
堀を橋で超えて、領主館の敷地へと入っていく。
その門のところで一度、顔を確認される。
「ゴブリン……ですね、はい。通っていいですよ」
話はちゃんと通っているらしい。
馬車の窓から顔を出して、ニコニコしておく。
ゴブリンも笑えば笑顔になる。ちょっと怖いけど。
そうして控室へと通してもらい、すぐに謁見になった。
謁見とはいっても、いわゆる玉座による対面式ではなく、応接室で行われることになっていた。
先に部屋に通されて待つ。
「マーベルス侯爵がお会いになります」
執事が入ってきて定番の台詞を言う。
俺たちは立ち上がって、部屋に入ってくるのをじっと待つ。
すぐに足音が聞こえてきて、部屋へと入ってくる。
「ようこそ、マーベルスへ。わざわざすまないね」
「あ、どうもどうも」
「ゴブリン、なんだね。本当に」
「あ、はい」
「えっと辺境の村シャーリア村のさらに先に住んでいるとか?」
「そうです。エルヘレス森の中腹にある崖の洞窟に住んでおります」
「なるほど。やっぱり原住民みたいな生活を?」
「それが、最近、交易をはじめたので、ちょっと人間臭くなってきました」
「あははは、人間臭いとは、ゴブリンなのだろう?」
「もちろんです」
「申し遅れました。エルヘレス森ルフガル洞窟のベダの息子、長のドルと申します」
「アーノルド・マーベルス侯爵という」
とまあ雑談は進んでいく。
「お土産をお持ちしています」
「確認を」
「はい」
執事さんが回収していく。
「製塩を一袋。スパイダーシルク一着分相当ですかな。それから宝石、あと魔石ですね」
「ふむ。高価な物ばかりだが」
「はい。せっかくのお土産なので」
「それは有難いが」
「ゴブリンの生活にはほとんど使わないものばかりなので」
「なるほど」
「魔石はオークの魔石がひとつございます」
「オークは中級の魔物だが、ゴブリンが?」
「はい。手負いでしたので仕留めたと聞いております」
「そうか。しかしゴブリンがオークを倒すのか、ふむ」
戦力として見ているのだろうか。
それとも俺たちが人間を襲うとしたらという考えだろうか。
少し緊張するが、顔は笑っているので、大丈夫だろう。
ただ好奇心が強いという話は本当のようだ。
「オークは一匹だったそうで、そこを複数のゴブリンの集団で倒せば、犠牲は出ますが、倒せないことはないかと」
「そうか」
「それに加え、今は人間製の防具、槍などを装備しており、当時よりみな強くなっています」
「そうかそうか」
領主様はちょっと嬉しそうに笑う。
「街道を通ってきたと思うが、実は途中でオークの被害はたびたび起きていてな」
「そうなのですか」
「そうだ。ゴブリンでも倒せるというのは、人間にとってはいい話だ」
「私たちの共通の敵ですからね」
「そうだな」
なぜかオークも豚人族という亜人にカウントされるものの、人間を特に嫌っている。
そういう宗教観というかそういうものとしかいいようがない。
人間と一緒に暮らせるビジョンが浮かばないのがオークというものだった。
一方、ゴブリンは奴隷ではあるものの、人間と共存しているともいえる。
「実は、ゴブリン村の戦士が五名、最近も謎の死を迎えていて、どうもオークの犠牲になったのではと考えています」
「そうか、やはり」
「はい。オークは強暴ですし、私たちの敵です。お肉は美味しいんですけどね」
「そうだな」
そういえば人間やゴブリンはオークを食べる。
そりゃ嫌われても当然かもしれない。
食べ物と共存は難しい話だ。
一方、ゴブリンは不味いらしい。
ゴブリン自身もオークも人間も、ゴブリンは食べない。
オオカミはゴブリンも食べるようだが、何が違うのかは分からない。
「お土産はいただいた。よくきてくれた」
「ははっ」
「ルフガル洞窟のベダの息子、ドル。そなたをナイトに任命する。ゴブリン村の長として今後も励むように」
「有難き、幸せでございます」
「ゴブリンがオーラル王国の騎士爵以上に任命された例はこれがはじめてのはずだ」
「さようですか」
「ああ。我々はルフガルのゴブリンと同盟を組む。お互い良い関係を築こうじゃないか」
「はい、そうしたいです」
「規則があってややこしいのだが、税金はお土産の代金で賄うので今年は免除とする」
「はい」
「それで申し訳ないのだが、五名ほど戦士を戦力として出す必要がある。勤務地はデデム町だな」
「わかりました」
「五名でも出費だが、よろしく頼む」
そうか徴兵ではないけれど、常備軍の戦力としてカウントされるのね。
まあ国の一部に組み込まれるということはそういうことなのだろう。
五名ならなんとか出せない規模ではない。
こうして俺たちは国の一部として認められ、その傘下に入ることになった。
ゴブリンの奴隷狩りからも名目上だけど保護されることになった。
これにて俺たちに討伐隊が出るということはなくなったのだ。
また来た道を戻ってゴブリン村まで帰って行った。
ちなみに騎士爵のナイトだけは各領主の権限で与えることができる。
しかし騎士爵という名前には反して爵位にカウントされない。
男子伯侯公爵の五爵は国王の専任事項となっている。
いつかはゴブリンの貴族なんてなってみたいかもしれない、などと思っていたが、実際に村長レベルのナイトになると、何だか複雑な思いだ。
辺境も辺境の男爵とかもやってみたい。
「ゴブリン男爵」
その語感が何だか面白くて、何回か反芻してみる。
今はナイトで世襲もない。
正式な貴族「ゴブリン男爵」そういうのも、悪くはないかもしれない。
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