15 / 17
第15話 人間の世界
しおりを挟む
人間用のバッグにお土産の荷物を積んでルフガル洞窟をあとにする。
「んじゃ、ガルド、よろしく」
「はいよ。リーリアとは何回か来たが、ゴブリンを連れていくのははじめてだな」
「俺は常識があるから大丈夫だが、他のゴブリンの時は気を付けてやってくれ」
「分かった。その知識はいったいどこからくるんだか」
「あはは」
転生知識ではある。秘密だった。
前世から五十年ほど進んでいるようなのと、俺が住んでいるのはもう少し南部だった。
地域的な差もあるだろう。
半日と少し歩いてリーリアの出身地、シャーリア村に到着した。
「シャーリア村の俺んちに泊まれ」
「わかった」
ベッドがあった。久しぶりだ。
流石に悪いと思って、近くの小川で体を洗った。
出るわ出るわ、汚い水。
汚れが茶色い水になって流れていく。
まあゴブリンだしな。
メルセ川でたまに全身洗っていたのにこれなのだ。
リーリアは洞窟の中でタオルのようなもので拭いていたけれど、他のゴブリンはそういうことはしていなかった。
もちろんリーリアはグレアも同じように洗っている。
ガルドの家でご飯を食べる。
最近はリーリアのご飯も人間食に近かったので、それほどの感激はないものの、フォークとナイフだった。
「ドル。領主の館ではナイフとフォークだ」
「知っている。使えるぞ」
「え、そうなのか?」
「ああ」
「ならいい。練習していけ」
「助かる。ゴブリンになってから使ったことがない」
「だよなぁ」
翌日、そうして街道を二人して歩いていく。
歩くこと一日、デデム町へと夕方到着した。
基本的に一日毎に村か町があるようになっている。
そのほうが旅が便利だからだ。
だから野宿することはほとんどない。
ただ、ルートによっては近道とかいいつつ野営が必要になるようなケースもある。
「よう」
「こんばんは」
「本当にゴブリンを連れてきたな」
「首輪をしていないわ」
受付嬢が俺を見て驚いている。
普通は所有者を表す首輪をするのだ。
脱走しても取れない丈夫な奴だ。
「どうも。ルフガル洞窟の長をしています。ベダの息子、ドルです」
「ふむ。デデム町冒険者ギルド長、ゲレンデです」
「ご丁寧にどうも」
貴族よろしく、手をまげて挨拶してみる。
ゴブリンの癖に生意気な、みたいになってしまった。
「礼儀作法も覚えているんですね。これはガルドが?」
「いや、俺は何も」
「へぇ、変わっていますね」
さて冒険者ギルドで岩塩二キロを売ってしまう。
残りはほとんど献上品だ。
「明日、馬車を用意しています。マーベルス町までご案内しますね」
「了解しました」
「本日はギルドの三階にお泊りください」
冒険者ギルドには偉い人を泊めるための宿泊施設があるのだ。
特に町が小さいと宿屋も小さなところしかないので、有難がられる。
ギルドの一階の酒場で夕食の飲み食いをして、三階へ引っ込む。
翌日の朝。
ヒヒーン。
馬車が回ってくる。
俺とガルド、そしてゲレンデさんもついてくるらしい。
三人で馬車に乗り込む。
「では出してください」
「出発します。マーベルス町までですね」
「そうです」
最終確認をして、御者が馬に合図を送ると進みだす。
懐かしい。馬車の感覚がよみがえってくる。
馬車は快適とはいえないものの、荷物を背負って歩くよりはいい。
景色が流れていくのを眺めながら、さてどうしたものかと考える。
「マーベルス侯爵でしたっけ、どんな人なんでしょう」
以前貴族をしていたのは隣の国だったので、この国の貴族は詳しくない。
主要な町の名前など地理は変わっていないようなので懐かしいものの、こちらも詳細までは知らなかった。
「そうですね。好奇心旺盛、利に敏いお方でしょうか」
「ふむ」
「合理的に考えて、物事を判断するタイプでしょうか。まあ貴族らしいといえば貴族っぽい方ですね」
「なるほど」
「ゴブリンだからと言って悪いようにはしないでしょう」
馬車で街道を進む。この街道は主要街道になっており整備が進んでいるためあまり揺れないのだそうだ。
そうして夕方ぎりぎり、閉門間際にマーベルス町へと到着した。
「ぎりぎりでしたね」
「はい。これ以上速く走ると揺れるので……」
つまり御者は閉門時間を考慮してなんとか揺れないようにしてくれていたのだ。
なんというか貴族っぽい扱いになんともいえない。
城壁の中は市場になっていて、人々が行きかっている。
表通りの真ん中は馬車道専用で空いているが、人が横切っていくのが見える。
「けっこうな賑わいだ。いい街なのだろう」
「そうですね。ゴブリンでも分かります?」
「はい、一応」
「こりゃ失礼しました」
「なんなら百まで数えましょうか? 一、二、三、四」
「いえいえ、結構ですよ」
ゲレンデさんにもゴブリンがどういったものか理解がまだ出来ていないのだろう。
「普通のゴブリンはこんな町を見たら目ん玉飛び出るほどびっくりしますね」
「あぁ、やっぱりそうなのですね。なんだか安心しました」
「あはは」
冒険者ギルドへと話が通っていて、やはりこちらのギルドで宿泊することになった。
さすがに地方都市だけあって、かなり豪華な部屋だった。
「んじゃ、ガルド、よろしく」
「はいよ。リーリアとは何回か来たが、ゴブリンを連れていくのははじめてだな」
「俺は常識があるから大丈夫だが、他のゴブリンの時は気を付けてやってくれ」
「分かった。その知識はいったいどこからくるんだか」
「あはは」
転生知識ではある。秘密だった。
前世から五十年ほど進んでいるようなのと、俺が住んでいるのはもう少し南部だった。
地域的な差もあるだろう。
半日と少し歩いてリーリアの出身地、シャーリア村に到着した。
「シャーリア村の俺んちに泊まれ」
「わかった」
ベッドがあった。久しぶりだ。
流石に悪いと思って、近くの小川で体を洗った。
出るわ出るわ、汚い水。
汚れが茶色い水になって流れていく。
まあゴブリンだしな。
メルセ川でたまに全身洗っていたのにこれなのだ。
リーリアは洞窟の中でタオルのようなもので拭いていたけれど、他のゴブリンはそういうことはしていなかった。
もちろんリーリアはグレアも同じように洗っている。
ガルドの家でご飯を食べる。
最近はリーリアのご飯も人間食に近かったので、それほどの感激はないものの、フォークとナイフだった。
「ドル。領主の館ではナイフとフォークだ」
「知っている。使えるぞ」
「え、そうなのか?」
「ああ」
「ならいい。練習していけ」
「助かる。ゴブリンになってから使ったことがない」
「だよなぁ」
翌日、そうして街道を二人して歩いていく。
歩くこと一日、デデム町へと夕方到着した。
基本的に一日毎に村か町があるようになっている。
そのほうが旅が便利だからだ。
だから野宿することはほとんどない。
ただ、ルートによっては近道とかいいつつ野営が必要になるようなケースもある。
「よう」
「こんばんは」
「本当にゴブリンを連れてきたな」
「首輪をしていないわ」
受付嬢が俺を見て驚いている。
普通は所有者を表す首輪をするのだ。
脱走しても取れない丈夫な奴だ。
「どうも。ルフガル洞窟の長をしています。ベダの息子、ドルです」
「ふむ。デデム町冒険者ギルド長、ゲレンデです」
「ご丁寧にどうも」
貴族よろしく、手をまげて挨拶してみる。
ゴブリンの癖に生意気な、みたいになってしまった。
「礼儀作法も覚えているんですね。これはガルドが?」
「いや、俺は何も」
「へぇ、変わっていますね」
さて冒険者ギルドで岩塩二キロを売ってしまう。
残りはほとんど献上品だ。
「明日、馬車を用意しています。マーベルス町までご案内しますね」
「了解しました」
「本日はギルドの三階にお泊りください」
冒険者ギルドには偉い人を泊めるための宿泊施設があるのだ。
特に町が小さいと宿屋も小さなところしかないので、有難がられる。
ギルドの一階の酒場で夕食の飲み食いをして、三階へ引っ込む。
翌日の朝。
ヒヒーン。
馬車が回ってくる。
俺とガルド、そしてゲレンデさんもついてくるらしい。
三人で馬車に乗り込む。
「では出してください」
「出発します。マーベルス町までですね」
「そうです」
最終確認をして、御者が馬に合図を送ると進みだす。
懐かしい。馬車の感覚がよみがえってくる。
馬車は快適とはいえないものの、荷物を背負って歩くよりはいい。
景色が流れていくのを眺めながら、さてどうしたものかと考える。
「マーベルス侯爵でしたっけ、どんな人なんでしょう」
以前貴族をしていたのは隣の国だったので、この国の貴族は詳しくない。
主要な町の名前など地理は変わっていないようなので懐かしいものの、こちらも詳細までは知らなかった。
「そうですね。好奇心旺盛、利に敏いお方でしょうか」
「ふむ」
「合理的に考えて、物事を判断するタイプでしょうか。まあ貴族らしいといえば貴族っぽい方ですね」
「なるほど」
「ゴブリンだからと言って悪いようにはしないでしょう」
馬車で街道を進む。この街道は主要街道になっており整備が進んでいるためあまり揺れないのだそうだ。
そうして夕方ぎりぎり、閉門間際にマーベルス町へと到着した。
「ぎりぎりでしたね」
「はい。これ以上速く走ると揺れるので……」
つまり御者は閉門時間を考慮してなんとか揺れないようにしてくれていたのだ。
なんというか貴族っぽい扱いになんともいえない。
城壁の中は市場になっていて、人々が行きかっている。
表通りの真ん中は馬車道専用で空いているが、人が横切っていくのが見える。
「けっこうな賑わいだ。いい街なのだろう」
「そうですね。ゴブリンでも分かります?」
「はい、一応」
「こりゃ失礼しました」
「なんなら百まで数えましょうか? 一、二、三、四」
「いえいえ、結構ですよ」
ゲレンデさんにもゴブリンがどういったものか理解がまだ出来ていないのだろう。
「普通のゴブリンはこんな町を見たら目ん玉飛び出るほどびっくりしますね」
「あぁ、やっぱりそうなのですね。なんだか安心しました」
「あはは」
冒険者ギルドへと話が通っていて、やはりこちらのギルドで宿泊することになった。
さすがに地方都市だけあって、かなり豪華な部屋だった。
10
お気に入りに追加
16
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ボッチになった僕がうっかり寄り道してダンジョンに入った結果
安佐ゆう
ファンタジー
第一の人生で心残りがあった者は、異世界に転生して未練を解消する。
そこは「第二の人生」と呼ばれる世界。
煩わしい人間関係から遠ざかり、のんびり過ごしたいと願う少年コイル。
学校を卒業したのち、とりあえず幼馴染たちとパーティーを組んで冒険者になる。だが、コイルのもつギフトが原因で、幼馴染たちのパーティーから追い出されてしまう。
ボッチになったコイルだったが、これ幸いと本来の目的「のんびり自給自足」を果たすため、町を出るのだった。
ロバのポックルとのんびり二人旅。ゴールと決めた森の傍まで来て、何気なくフラっとダンジョンに立ち寄った。そこでコイルを待つ運命は……
基本的には、ほのぼのです。
設定を間違えなければ、毎日12時、18時、22時に更新の予定です。

テンプレな異世界を楽しんでね♪~元おっさんの異世界生活~【加筆修正版】
永倉伊織
ファンタジー
神の力によって異世界に転生した長倉真八(39歳)、転生した世界は彼のよく知る「異世界小説」のような世界だった。
転生した彼の身体は20歳の若者になったが、精神は何故か39歳のおっさんのままだった。
こうして元おっさんとして第2の人生を歩む事になった彼は異世界小説でよくある展開、いわゆるテンプレな出来事に巻き込まれながらも、出逢いや別れ、時には仲間とゆる~い冒険の旅に出たり
授かった能力を使いつつも普通に生きていこうとする、おっさんの物語である。
◇ ◇ ◇
本作は主人公が異世界で「生活」していく事がメインのお話しなので、派手な出来事は起こりません。
序盤は1話あたりの文字数が少なめですが
全体的には1話2000文字前後でサクッと読める内容を目指してます。
Re:Monster(リモンスター)――怪物転生鬼――
金斬 児狐
ファンタジー
ある日、優秀だけど肝心な所が抜けている主人公は同僚と飲みに行った。酔っぱらった同僚を仕方無く家に運び、自分は飲みたらない酒を買い求めに行ったその帰り道、街灯の下に静かに佇む妹的存在兼ストーカーな少女と出逢い、そして、満月の夜に主人公は殺される事となった。どうしようもないバッド・エンドだ。
しかしこの話はそこから始まりを告げる。殺された主人公がなんと、ゴブリンに転生してしまったのだ。普通ならパニックになる所だろうがしかし切り替えが非常に早い主人公はそれでも生きていく事を決意。そして何故か持ち越してしまった能力と知識を駆使し、弱肉強食な世界で力強く生きていくのであった。
しかし彼はまだ知らない。全てはとある存在によって監視されているという事を……。
◆ ◆ ◆
今回は召喚から転生モノに挑戦。普通とはちょっと違った物語を目指します。主人公の能力は基本チート性能ですが、前作程では無いと思われます。
あと日記帳風? で気楽に書かせてもらうので、説明不足な所も多々あるでしょうが納得して下さい。
不定期更新、更新遅進です。
話数は少ないですが、その割には文量が多いので暇なら読んでやって下さい。
※ダイジェ禁止に伴いなろうでは本編を削除し、外伝を掲載しています。

アーティファクトコレクター -異世界と転生とお宝と-
一星
ファンタジー
至って普通のサラリーマン、松平善は車に跳ねられ死んでしまう。気が付くとそこはダンジョンの中。しかも体は子供になっている!? スキル? ステータス? なんだそれ。ゲームの様な仕組みがある異世界で生き返ったは良いが、こんな状況むごいよ神様。
ダンジョン攻略をしたり、ゴブリンたちを支配したり、戦争に参加したり、鳩を愛でたりする物語です。
基本ゆったり進行で話が進みます。
四章後半ごろから主人公無双が多くなり、その後は人間では最強になります。

悪役顔のモブに転生しました。特に影響が無いようなので好きに生きます
竹桜
ファンタジー
ある部屋の中で男が画面に向かいながら、ゲームをしていた。
そのゲームは主人公の勇者が魔王を倒し、ヒロインと結ばれるというものだ。
そして、ヒロインは4人いる。
ヒロイン達は聖女、剣士、武闘家、魔法使いだ。
エンドのルートしては六種類ある。
バットエンドを抜かすと、ハッピーエンドが五種類あり、ハッピーエンドの四種類、ヒロインの中の誰か1人と結ばれる。
残りのハッピーエンドはハーレムエンドである。
大好きなゲームの十回目のエンディングを迎えた主人公はお腹が空いたので、ご飯を食べようと思い、台所に行こうとして、足を滑らせ、頭を強く打ってしまった。
そして、主人公は不幸にも死んでしまった。
次に、主人公が目覚めると大好きなゲームの中に転生していた。
だが、主人公はゲームの中で名前しか出てこない悪役顔のモブに転生してしまった。
主人公は大好きなゲームの中に転生したことを心の底から喜んだ。
そして、折角転生したから、この世界を好きに生きようと考えた。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる