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3.エンチャンター(1)
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エルフの美少女、ラティア嬢のクラスはエンチャンターだった。
付与術師というやつだが、身体的接触をしていないと、効果を発揮できないという、クソ要素がある。
前衛が立ちまわって戦闘しているときに、いちいちくっついていられたら邪魔以外の何物でもない。
だからクラスのうち『最も役立たずのエンチャンター』と呼称されている。
これは事実だが、俺には関係がない。
俺はウォーロックだ。
そして範囲魔法を得意とする。
この範囲魔法は全方向で、俺を中心に発動するため、俺の至近距離にいないと、味方だろうが死ぬ。
逆に言えば、俺の至近距離にさえいれば、安全なのだ。
魔力は俺から出ているが、火の玉が俺の体から直接飛んでいくわけではないので。
放出された魔力が一定距離を離れると、物質化して炎になるらしい。
俺の背中に引っ付いて、俺を大幅に強化してくれるエンチャンターは、相性が非常にいい。
他職には宝の持ち腐れだが、俺個人には、絶大な効果が見込める。
「というわけで、ラティア嬢は、俺と相性が非常にいい」
「はいっ、そうみたいですね。でも範囲魔法なんて実在していたんですか、おとぎ話ですよね?」
「バラエルの話か? 実話なのだろう」
「実話、なんですか、にわかには信じがたいです。すごいです」
「まあな」
「それにしても、相性がいいとか、なんか恥ずかしい台詞ですね」
「そうだな」
「その、あの、体の相性みたいで」
頬を染めて、目を逸らすラティア嬢。
おい聖女だろ。なんだよエッチの相性とか想像してるのか。
むっつり助平だろ絶対。
ちなみにエンチャンターに似ているが全然違う職業にバッファーというのがある。
補助魔法を使う魔法使いだ。
身体強化、魔法攻撃力強化魔法などを相手に掛けることができるが、その倍率は低い。
確かに身体的接触を用いず、ヒールのようにバフ魔法をするだけで、お手軽なので重宝するが、その効果は限定的だ。
それに対してエンチャンターの強化は、倍近いという噂がある。
倍の攻撃力とか、想像を絶する。
そして「体の相性がいい」相手とは、さらに倍ドンで強力になるという、これまた根も葉もない、エッチな噂がある。
だからエンチャンターは性的な噂話が絶えない。
彼女も少なからず、そういう話を聞いたことがあるのだろう。
まったく純真な俺の聖女に何を吹き込んでるんだか。
「体の相性……た、確かめてみますか? 初めてなので本当か分からないんです」
もう夕方。これから寝る時間だ。
目を潤ませている。
夕日で光はやや赤いが、ラティア嬢の顔はその中でもさらに真っ赤なのが分かる。
なんだか、俺とラティア嬢が今からしけ込むみたいじゃないか。
「あの、宿屋まで、一緒に行ってください」
「金貨やったろ、ひとりで行けないのか?」
「あの、ひとりで宿屋に行くと、連れ込まれそうになったことがあって、怖いんです」
俺の腕の裾をギュっと強く握ってくる。
その手はわずかに震えていた。
唇もきゅっと結んで、何かに耐えるような表情をしている。
どこにもクソ野郎はいる。
なるほど、これほどの美少女がひとりで宿屋に来れば、一発ヤッてやろうという不届き者がいてもおかしくはない。
「それから、これはお願いなんですけど」
「なんだ」
「一緒の部屋に、その、泊まって欲しいです。も、もちろんダブルベッドで」
「そんなに宿屋が怖いのか?」
「はい」
なるほど、これは問題だな。
俺のことは怖くないのだろうか。
一番、悪いことをしそうな格好をしている黒ずくめなのだが。
宿は裏路地のヤバそうなところは避けた。
お嬢さんを連れていけるような宿ではない。もちろん一発ヤるだけなら別だ。
一本裏通りにある、知る人ぞ知る感じの比較的綺麗だが値段は手ごろな宿屋を見つける。
「よし、ここにするか、いいな?」
「はい」
ラティア嬢はまだ俺の服の裾をギュっと握って離さない。
よほど怖い思いをしたと見える。
ドアを開け、受付を済ませる。
宿屋の主人は、俺をしっかり見た後ラティア嬢をさっと見ていぶかしむが、見て見ぬ振りをして、何食わぬ「俺は何も知らないですよ」という顔で鍵を渡してくる。
「くれぐれもトラブルはご遠慮ください」
「分かってるって」
俺はできそこないの笑顔を貼り付けて、それに応じる。
ラティア嬢も怖がりながらも笑顔を浮かべて店主に頭を下げる。
店主はその時初めてラティア嬢の顔をはっきりと見たのだろう。
鼻の下を伸ばして店主は一言。
「いくらだ?」
「は?」
俺は一瞬意味が分からなかった。宿代を払ったのはこちらだ。
「その子、いくらだったの? 後で俺にも貸してくれる? それでいくら?」
「は?」
「奴隷でしょ? いくらで買ってきたんだい? それとも化粧もしてないけど娼婦なの?」
「どっちでもない。知人だ」
「うそん」
「本当」
俺は店主をにらみつけるが、平気な顔をしている。
無駄に場数を踏んだこういう店主は質が悪い。
「そんな見え見えの嘘ついてもダメだよ」
「本当に知人だ。シメるぞ」
「ひっ、こわ。これだからウォーロックはおっかねえ」
「分かってるんだったら、黙ってろ」
「あーはい。すみませんね。で一発だけでいいよ、いくら?」
「貸出するわけないだろ、頭に魔法叩きこむぞ」
「うひょおお。こりゃあ失礼。どうぞごゆっくり。げへへ」
付与術師というやつだが、身体的接触をしていないと、効果を発揮できないという、クソ要素がある。
前衛が立ちまわって戦闘しているときに、いちいちくっついていられたら邪魔以外の何物でもない。
だからクラスのうち『最も役立たずのエンチャンター』と呼称されている。
これは事実だが、俺には関係がない。
俺はウォーロックだ。
そして範囲魔法を得意とする。
この範囲魔法は全方向で、俺を中心に発動するため、俺の至近距離にいないと、味方だろうが死ぬ。
逆に言えば、俺の至近距離にさえいれば、安全なのだ。
魔力は俺から出ているが、火の玉が俺の体から直接飛んでいくわけではないので。
放出された魔力が一定距離を離れると、物質化して炎になるらしい。
俺の背中に引っ付いて、俺を大幅に強化してくれるエンチャンターは、相性が非常にいい。
他職には宝の持ち腐れだが、俺個人には、絶大な効果が見込める。
「というわけで、ラティア嬢は、俺と相性が非常にいい」
「はいっ、そうみたいですね。でも範囲魔法なんて実在していたんですか、おとぎ話ですよね?」
「バラエルの話か? 実話なのだろう」
「実話、なんですか、にわかには信じがたいです。すごいです」
「まあな」
「それにしても、相性がいいとか、なんか恥ずかしい台詞ですね」
「そうだな」
「その、あの、体の相性みたいで」
頬を染めて、目を逸らすラティア嬢。
おい聖女だろ。なんだよエッチの相性とか想像してるのか。
むっつり助平だろ絶対。
ちなみにエンチャンターに似ているが全然違う職業にバッファーというのがある。
補助魔法を使う魔法使いだ。
身体強化、魔法攻撃力強化魔法などを相手に掛けることができるが、その倍率は低い。
確かに身体的接触を用いず、ヒールのようにバフ魔法をするだけで、お手軽なので重宝するが、その効果は限定的だ。
それに対してエンチャンターの強化は、倍近いという噂がある。
倍の攻撃力とか、想像を絶する。
そして「体の相性がいい」相手とは、さらに倍ドンで強力になるという、これまた根も葉もない、エッチな噂がある。
だからエンチャンターは性的な噂話が絶えない。
彼女も少なからず、そういう話を聞いたことがあるのだろう。
まったく純真な俺の聖女に何を吹き込んでるんだか。
「体の相性……た、確かめてみますか? 初めてなので本当か分からないんです」
もう夕方。これから寝る時間だ。
目を潤ませている。
夕日で光はやや赤いが、ラティア嬢の顔はその中でもさらに真っ赤なのが分かる。
なんだか、俺とラティア嬢が今からしけ込むみたいじゃないか。
「あの、宿屋まで、一緒に行ってください」
「金貨やったろ、ひとりで行けないのか?」
「あの、ひとりで宿屋に行くと、連れ込まれそうになったことがあって、怖いんです」
俺の腕の裾をギュっと強く握ってくる。
その手はわずかに震えていた。
唇もきゅっと結んで、何かに耐えるような表情をしている。
どこにもクソ野郎はいる。
なるほど、これほどの美少女がひとりで宿屋に来れば、一発ヤッてやろうという不届き者がいてもおかしくはない。
「それから、これはお願いなんですけど」
「なんだ」
「一緒の部屋に、その、泊まって欲しいです。も、もちろんダブルベッドで」
「そんなに宿屋が怖いのか?」
「はい」
なるほど、これは問題だな。
俺のことは怖くないのだろうか。
一番、悪いことをしそうな格好をしている黒ずくめなのだが。
宿は裏路地のヤバそうなところは避けた。
お嬢さんを連れていけるような宿ではない。もちろん一発ヤるだけなら別だ。
一本裏通りにある、知る人ぞ知る感じの比較的綺麗だが値段は手ごろな宿屋を見つける。
「よし、ここにするか、いいな?」
「はい」
ラティア嬢はまだ俺の服の裾をギュっと握って離さない。
よほど怖い思いをしたと見える。
ドアを開け、受付を済ませる。
宿屋の主人は、俺をしっかり見た後ラティア嬢をさっと見ていぶかしむが、見て見ぬ振りをして、何食わぬ「俺は何も知らないですよ」という顔で鍵を渡してくる。
「くれぐれもトラブルはご遠慮ください」
「分かってるって」
俺はできそこないの笑顔を貼り付けて、それに応じる。
ラティア嬢も怖がりながらも笑顔を浮かべて店主に頭を下げる。
店主はその時初めてラティア嬢の顔をはっきりと見たのだろう。
鼻の下を伸ばして店主は一言。
「いくらだ?」
「は?」
俺は一瞬意味が分からなかった。宿代を払ったのはこちらだ。
「その子、いくらだったの? 後で俺にも貸してくれる? それでいくら?」
「は?」
「奴隷でしょ? いくらで買ってきたんだい? それとも化粧もしてないけど娼婦なの?」
「どっちでもない。知人だ」
「うそん」
「本当」
俺は店主をにらみつけるが、平気な顔をしている。
無駄に場数を踏んだこういう店主は質が悪い。
「そんな見え見えの嘘ついてもダメだよ」
「本当に知人だ。シメるぞ」
「ひっ、こわ。これだからウォーロックはおっかねえ」
「分かってるんだったら、黙ってろ」
「あーはい。すみませんね。で一発だけでいいよ、いくら?」
「貸出するわけないだろ、頭に魔法叩きこむぞ」
「うひょおお。こりゃあ失礼。どうぞごゆっくり。げへへ」
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