冬の夜空に、華開け。

アキノナツ

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ニューヨークのクリスマス

スノードーム(終) ※

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 ◇◇◇


 ぼんやりと目が覚めた。
 幸福感に吐息が漏れる。
 温もりが自分を包んでくれてる。身体の怠さも腰の鈍痛もあらぬところの違和感も、何もかもが幸せと言っていい。羽の生えた心持ちだった。

 カーテンを透かして陽が差している。
 随分とゆっくり寝てしまったようだが、そんな事はどうでもいい。帰る日が決まってるだけで、予定なんてあってないようなものだから。

 シーツがさらりとしている。
 そう言えば、ツインの部屋だった。ベッドのサイズは日本のものより大きいので、二人難なく収まってる。
 という事は、あちらは情事の痕跡で目も当てられない状態という事だ。

 昨夜のあれこれを思い出して、身体が熱くなると同時に後ろの違和感が鮮明になってくる。まだ彼が挿入はいってるような感覚。幸せな感覚なんだが、恥ずかしい。

 近くで息遣いを感じる。抱き合って寝てるんだから当たり前。寝息を聞きながら、この後どういった顔で会えばいいんだろうと考える。

 研究職にしては、いい身体してる…。目の前の身体を見つめる。
 胸筋に引っ付いて寝てた。この腕も筋肉が綺麗についてる。ジムでも行ってるんだろうか…。

 ぼんやりと彼の身体の隙間から陽の光りを見てるとキラキラしてるのが見えた。スノードームの中みたい…。ホコリが陽光で光ってるんだろう。

 ここは二人の世界。
 二人で完結してる幸せな空間。

 一歩外に出ればまた離れ離れ…。この時間を大切にしたい。
 声が聞きたい。直に鼓膜を揺するあの声…。好き。

『お兄ちゃん』と呼ぼうとして違和感覚えた。

 んんん?

 なんて呼んだらしっくりくる?
 困った。

 だってさ、あの時、このお腹に熱のが広がった時、あの声で、オレの名前を言ってくれたんだよ。口数が少なくて、お前とかしか呼んでくれなかったから、忘れちゃったのかと思ったけど。あれはすごい破壊力だね。

 深く繋がって溶け合う感じだね。

 となると、オレもってなるわな。

 んー、『浩之ひろゆき』…浩之さん…あー、違う。違うわぁ~。
 どう言い表せばいいか悩むけど違う。
 どうしようかなぁ…。

 あっ! 『ヒロにぃ』がいい。
 ぐっと近くなる感じ。
 くふふ…と笑ってしまった。

 幼い頃を思い出す。『ひろゆき』が上手く言えなくて、『ヒロ兄ちゃんたん』と呼んでたんだ。いつしか名前を呼ぶのが気恥ずかしくなって、『お兄ちゃん』としか呼ばなくなったんだった。

 ヒロにぃ、ヒロにぃと繰り返し口の中で転がして、気恥ずかしくても、心が蕩ける。

 んー、一層の事『ヒロ兄たん』と呼んでやろうかな。
 あー、ダメダメ! オレが保たない。きゃぁ~、恥ずかしい。

 思わず両手で顔を覆って身体を小さくしていた。

 細かな振動がオレの身体に伝わってくる。
 気づいて、ますます身体が熱くなってくる。
 見られてた。
 笑われちゃってるよぉ~。

「なに、可愛い事してるの?」

 顔が上げれなくてますます小さくなる。

 ツンツンとつむじが突かれる。
 ちょっとムッとした。ムッとしたまま、文句を言いつつ顔を上げる。

「ヒロにぃ、便秘になったらどうするんだよッ」

 キョトンとした目と会った。

 ん? 何か変な事言ったか?

「間違えた? 下痢だったっけ? 背が伸びない? え? なんだった?」

 思いっきり笑われた。

「なんで笑うんだよぉ~」
 泣きそう。

「ふうぅははは…。ごめん。可愛い。もう一回言って?」

 目尻を指の腹で拭ってる。涙流す程?
「便秘?」
 よく分からない。
「違う」
 唇を親指の腹でゆっくり撫でられる。なんだかエロい。ゆっくり往復する指。早く言ってと言われる感じ…。でも、違うって言われちゃった。なんて言ったかな? 頭の中でさっきの言葉を思い出してみる。

 往復する指をなんとなく咥えて舐めていた。
 見上げてた顔がみるみる赤くなってくる。
 ちょっと面白くなって、チュッと吸ってみた。

「…あ、煽らない、で、くれ」

 こんな面白いの止めるはずがないじゃん。
 れろッと舐めてしゃぶる。
 色っぽく見えてるかなぁ。エロくなってるだろうか。
 裸で抱き合ってる事を思い出す。
 あっちも触っちゃう?

 胸の前にあった片手をスーッと下へ伸ばしていく。視線を離さないようにしてたつもりだったけど、一瞬離してしまったようだ。オレがしようとしてる事がバレてしまった。
 彼が動く。
 やられてなるものか。遂行しようと急いで手を伸ばした。

「あっ……ミツっ!」

 垂れてると思ってたソレは、勃ちあがっていて、先端に指先が触れた。触れた瞬間、呼ばれた。

 キュンとなって掴んでしまった。つい…。

 昨晩散々出して、空になったと思ってたのに、勃ってる。緩くだけど…ああ、朝立ち?
 元気だねッ!

 照れ隠しにモニュモニュ握って、シコシコと扱いてしまった。

「だから…、あ…ま、不味いっ…てぇ…」

 なんで?

「朝からしちゃう?」

 バカと言われながらも、お尻の割れ目に手が差し込まれ、窄まりを撫でてくる。

「ヒロにぃ、したい?」
 嬉しそうに目が細まる。
「めちゃくちゃしたい」
 チュッとキスされた。

 甘い2日目がスタートした。


 ◇◇◇


 あっという間に5日目の夜になってしまった。明日の昼過ぎには日本に帰ってしまう。あー、距離が恨めしい。
 彼が取れた休みは1週間。日本にしては長くとれたと思うよ。ゴールデンウィークとかの連休でもない時期に頑張ったと思う。
 だから、お土産もたくさん買った。

「1週間なのに、なんか計算おかしくない?」
 俺の腕の中でプンプンしてる。
「おかしくない」
 面白いけど、おかしくないから、こめかみにキスしながら、ちゃんと伝える。日付変更線の関係上、仕方がないのだ。ただそれだけ。それだけだが、確かに恨めしいな。

 甘い日々だった。
 観光もした。有名な美術館にも行った。手を繋いで歩く街は色づいて、世界が輝いてるようだった。
 外では気持ちが赴くままにキスをした。
 部屋では時間を惜しむように繋がった。

 俺は、「ミツ、ミツ…」と彼を求めた。
 肌には、鬱血痕と歯形がいっぱいついてしまった。背中もいっぱいだよ。暫く人前に肌を晒せないだろう。
 俺はまだ付け足りないと肌に唇を這わせる。舐めて吸って、跡をつける。

 何年振りにこの愛称を口にしただろう。
 本当は、『光次こうじ』。水戸黄門を観てたミツが、『光圀みつくに』が自分と同じ字だと言うのが面白くて、『ミツ』と揶揄ったのがそのまま定着してしまった。

 誰も呼ばない愛称。俺しか呼ばない。俺だけ。

 今度は、俺が日本に行こうか。
 避けていた日本に行くのは、なんだか滑稽だな。

「オレ、こっちに来れるようにする」
 喘ぎながら、嬉しい事を言ってくれる。
「ああ、待ってる」
 壁に押さえつけながら、腰を緩く揺する。
 甘い声が鼓膜を擽ぐる。何度耳にしても足らない。

 立ちバックの繋がりは深く繋がれる。彼の反応もいいので、ついつい部屋の中だとところ構わず、彼の中に俺を収めてしまっていた。

 脱がした服が足元に蟠ってる。
 帰ってきて、すぐ彼が欲しくなってしまった。
 彼が身体を捩ってキスを求めてくる。舌を突き出し、舌を当て合い舐って、絡めて遊ぶ。くふふと笑って唇を押し当ててくる。貪りように口づけを交わす。

 上も下も繋がり、水音が両方からする。外でもさっき繋がってしまった。彼のナカに留まってた残滓が俺を迎えてくれる。あれからゴムは使ってない。薄い隔たりもない熱の交わりは俺たちを狂わせる。
 卑猥な音が、さっき声を殺して繋がったスリルを思い出させる。

 我慢できずに激しく突き上げる。
 口の中に喘ぎを響かせながら、彼も堪らないと俺の手を前に導く。彼もしっかり勃ち上がって熱い。
 熱い交わりは夜遅く、空が白々となるまで続いた。


 ◇◇◇


 オレの拠点は彼の近くになる。時差はほとんど無い。
 結局日本を脱出しましたよ。
 オレも思い切った事をしたと思う。英語だって、まだ片言なのにさ。

 帰国してすぐに師匠のところに行った。
 合気道の支部か何か海外にないか。そこで指導員の枠が空いてないか。と矢継ぎ早に質問してしまった。

 ヨーロッパに空きが出来たのが、パスポートに幾つもスタンプが押された春だった。

 早期退職の手続きをした。ただの退職のつもりが、出来る歳になっていた。諸々の手続きと準備をしていたら秋になってしまった。

『今度はスケートしよう』
 点灯式の季節になっていた。
 スノードームは、飛行機でヒビが入るかもってのが嫌で、彼に預かって貰っていた。

「英語はなんとかなってきたけど、スケートはダメだよ」

 荷物を詰める指には指輪が嵌ってる。
 露店の指輪。今度はペアの指輪を買う予定。
 いつの間に買ったのか、スノードームの変わりと言って、指に嵌めてくれた。ケースはキラキラした透明プラスチックのカッティングされたようなものだった。安っぽい感じなのに、とっても綺麗で…。

「スノードームみたいだろ?」

 出国するギリギリに渡してくるってッ!
 この人、サプライズ好きだったのか?!

 輪の大きさを調整出来る玩具の指輪。確かに気になって見てたとは思う。綺麗だったし。
 いつ買ったんだ!

 そんな事を思い出してくふふと笑ってしまった。

『何か可笑しかった? 早くミツの声を直に聴きたいよ』

「オレも」

 彼はあれから要求をしっかりしてくるようになった。オレもする。
 意見は、互いにしっかりしてる。遠慮はしないから、喧嘩にもなるけど、仲直りも早い。だって、時間が勿体ない。

 時間は有限なんだ。

 あと何回あの大きな星を見上げる事ができるだろう。
 いつまでも手を繋いて居られるようにしたい。

 パスポートとチケットを確認。

「明日にはそっちだよ」

『空港で』

 互いの耳元にリップ音が届く。
 オレも海外ナイズされてきたな…。

 スーツケースを転がし、空っぽの部屋を後にした。



===========

お待たせしてしまいました。
SSのノリで書き出したら、長くなってしまったです。
もっと絡んでも良かったかなぁと思いつつも、コレで( ̄▽ ̄;)

小ネタはあるにはあるんですが、致してるだけって感じのとか、モジモジしてるだけのとか、ぼんやり形にはなってないですが。気が向いたら書くかもで…。

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