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11.聴いてやろうぞッ!

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我は水と骨ガムを貰ってご満悦じゃ。

下僕は冷蔵庫の扉を開けてブツブツ言っておったが、四角いケースに入った物を取り出して、温めておる。

あの電子レンジというのは、ブーンと嫌な音がするが、我、妥協の出来るお犬さまじゃ。我慢してやる。

食後はまた電話しておる。
電話を切って、うろうろしておる。
出掛ける支度はしておる。

………おる、の。何をしておるのじゃ?

散歩にしては早い時間じゃ。

今度はスマホと睨めっこ。

緊張? 動揺? 苛立ち?
発汗しておる。どちらにしても嫌な汗じゃ。

嫌な匂いをさせて近づいてきて撫でまくりじゃ。うん、少し落ち着いたの。よいよい。嫌な匂いが薄まった。

「ちょっと出掛けてくる。もう直ぐアイツも帰ってくるから」

おー! 留守番か?!
我、ちゃんと出来るぞ。任せよッ。
ご褒美は、グレードアップの食事で手を打ってやろう。

短いしっぽを目一杯振って、「行ってらっしゃい」をしてやった。
下僕1号は、これをすると笑うのじゃ。ほんに良い顔で笑うのじゃ。笑うのじゃ……。

「可愛いヤツ。早く帰ってくるッ」
待っててくれと足早に外へ。自転車が出ていく音がした。

よく考えたら、ここにひとりって…初めて…じゃ。

お気に入りのボールを咥えて、ふかふか寝床へ向かった。骨ガムも持ち込む。
落ち着かぬ。そばに落ちていた靴下を引き込んで、ひと心地…。




玄関が開いた。
耳がピクピクなってしまう。

「あれ?」
独り言が漏れとる。『先生』が消えた事に気づいたようじゃ。
アヤツなら出迎えは不要じゃの。

「おやや? ロドリゴル3世だけ? お留守番? 良い子だねぇ」

お、お前!
良い子はお前じゃ!
我の名をさらりと言いよったの!褒めてつかわす!

思わず、飛び起きてしっぽをぷりぷり振って笑顔で迎えてしもうた。

「役所行ったの?」
我を抱っこして撫でてくれる。思った通りゴッドハンドじゃぁぁああああ!
机の紙を見ておる。

「鉢合わせはないと思うけど、どうしても要る書類だったのかな。明日は仕事するって約束だからか?」

ソファでなでなでされておる。
お腹を見せて、ハァハァとしてる我をこれでもかとマッサージじゃ~。溶かす気かぁぁぁ~。

「お前の『臨時ご主人さん』はね。こんな田舎にいる人じゃないんだよ? 両親の事がなかったらここには戻って来なかったし、『彼氏さん』とも会ってない。先生が幸せなら仕事も進むし。協力もするけど…」

我を持ち上げて、ニッと笑った。
足がぶらぶらして落ち着かぬ。

「聞く?」
聴いて欲しいようじゃの…。
バゥと小さく吠えてやった。
膝に移動して撫でられながら男の声に耳を傾けた。

「先生ね。役所で大泣きしたんだよ。
入院手続きして、介護申請して、これで終わりかってところで、葬儀になって。
死亡届けに遺族年金の手続き、介護の各事業所の選定と契約手続き…。
先生頑張ってね。私は先生の仕事の調整で走り回って頭下げてた。あと少しだからって言葉信じてさ。
でね、役所の受付で書類があと一箇所書くってところで、『これで最後ですか?』って訊いたんだって。『はい、最後ですよ』って言われたら、涙が止まらなくなったそうですよ。
いい大人の男が泣くって迷惑だっただろうなって言ってたけど、その通りだよね?」

クツクツ笑ってやがる。コヤツ腹黒って言う悪役か?

「で、奥から出てきたのが『彼氏さん』。あっ、その時は彼氏じゃないか。で、彼氏さんが大学の後輩ってものあって、お近づきだよ。そして、猛アタックで先生が落ちました。先生がこっちだってのは薄々気づいてたけど、まさか付き合う人が出来るとはね…。彼氏さんは、いい人ですよ。ちょっと先生を甘やかせて何を考えてるのかって思う程ですけどね。でも今は…」

その男が立っておった。

「役所にいたら、会えたかもでしたね、『彼氏さん』」



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