保健師は考える

アキノナツ

文字の大きさ
上 下
10 / 10

後3.保健師の微睡

しおりを挟む

さ、寒い……。

書斎のカウチソファベッドで毛布に包まってミノムシになっている。

リビングでは、一人だし、なんとなく暖房入れるのが気がひけて、狭いところが落ち着く事もあって、自室に閉じ籠った。
暖房も入れた。
さっきまで生姜湯を飲んでぬくぬくしてたはずだったんだけど、急に寒くなってきた。

窓を見ると、カーテンの隙間から見える空がなんだかどんよりしている。

ちらちらしてるのはもしかして……。ああ、雪だね。

雪か。

小宮こみや、大丈夫かなぁ。

部活指導に出掛けてる。

見る間に粉雪から綿雪に変わっていく。

傘持って行ったかなぁ。

斜めに降ってない?

なんだか眠くなってきた……。

小宮の事は気になるけど、あの男は自分でなんとかするさ。


◇◇◇


ゆらり、ゆらり、ゆら……

暖かいな。
ハンモックのようなゆったりとした揺らぎに、ふにゃふにゃになっていく。

頭がもそもそする。
鬱陶しいーーー寝かせてくれよ。
毛布の中に、もそっと、更に潜り込もうとして動いて行き止まった。進めるスペースがない?

ん、んー。もぉぉぉぉぅぅぅ。

腹が立ってきて、毛布の中でモソモソしてたら、背中をぽふうん…ぽふんと心地いい振動が響いてきて、眠りに誘ってくる。
なんだ、なんなんだ、この気持ちいいヤツは?

ぷふぁっと毛布から顔出して、開かない目をシワシワとしてると石鹸の匂いのする温かい何かに包まれて、視界か暗くなった。

この匂い知ってる。

小宮か。

風呂上がりの匂いと小宮の匂いが混ざって、気持ちも落ち着いて、ますますふにゃふにゃだよ。

あったかいのな……。

襟足をサワサワ触ってるなと思ってると頸をもにゅもにゅ揉み始めた。
何それ気持ちいいんですけどぉぉ。
蕩けるぅぅぅ。

うふぅん。

気持ち良さに出た吐息は甘ったるい声を乗せて小宮の服に吸い込まれた。

うむむ……断じて誘ってないです。

小宮さん…ナニが当たってるような気がしますが、私はその気はないので悪しからず……。

「みのるさん」
甘ったるく耳元で囁かれる。

ふわふわあったかくて、トクトク規則正しい鼓動にうつらうつらしてきた。
程よい締め付けで抱きしめられて、更に意識がすーっと落ちていく。

「あんなとこで寝てたら、風邪引きますよ」
声の響きや振動も気持ちいい。
「今日はよく寝ますね」
もにゅもにゅされながら、優しく撫でられる。

年に一度か二度ごく稀に微睡ながら、長々と眠る事がある。それが今日だったみたいだ。

撫でる仕草は猫を撫でてるみたいだな。

私は、老猫だ。
優しくしてくれ。
頭やこめかみに吐息がかかる。
キスでもしてくれてるのだろうか。

すまない。
起きれそうにない。
瞼も重くて。
鼻をゴリラに擦るつける。
頬が擦れる服の摩擦も心地いい。
ここはとっても居心地が良くて、困る。
ホント、困ってるんだよ、小宮。

お前の思いのままに付き合ってやりたいとも思うが、ちょっと無理かな。

やりたいんだろうな。

別れてくれや。

私がお前から離れられなくなる前に。

な?

「離れませんよ」

眠い。
思ってるだけだと思ってたら、言葉が出てたのか。

じゃいいや。

したいんなら、寝ててもしたらいいぞ。

くすくす笑ってる。

何が可笑しいんだろう。

私は本気だが。

私の身体を使えばいいだろ。

ガタついてるが、まだ使えるだろう。

なんだ、苦しいじゃないか。
抱きしめられてる。締め付けられるな。
嫌な締め付けじゃない。
これ、好きかも。

もう少し寝ていいか。
抱きしめててくれてるか?

私の身体なんて好きにしてくれていいよ。

とは言え、目が覚めたら動けないまで使われてたら、怒るかもな。
うふふ…。


◇◇◇


んーーーーッ!

ぐいーーーーんと伸びをした!

寝た!
起きた!

パチクリと目を開くと、赤っぽいが明るい夜用の照明だった。
リビング?

ベッドでドロドロを覚悟してたんだが。毛布にくるまったまま、小宮に抱っこされてた。

「えーと、おはよう?」

ちょっと怖い顔の小宮。
寝すぎだと怒られるのかな。

「その辺転がしてくれてよかったのに」

怖い顔いやーんと手でゴリラの顔をマッサージ。
覚えてる範囲で16時間は寝てたみたいだな。
壁の時計を見てほぼ夜中の時間の表示に、申し訳なくなった。

「あ、雪どうだった?」
「積もってると思います。今も降ってるみたいです」
「明日まで残ってるかな。雪だるま作りたい」
あ、ちょっと表情緩んだ。
「子供ぽいって思ったか? おっさんだってはしゃぎたい時あるんだよ」
くふふと笑うと、雪の酷さを話し出した。
大変だったみたいだ。

「凄く吹雪いて、切り上げて帰ってきました。ずぶ濡れで、風呂入って、みのるさん見つけて。起きなくてツツいて遊んでました」

心配顔に、優しい顔に、思い返した感情が顔に出てる。
面白い。

「ポトフ出来てますが、食べますか?」
「この時間から食べたら、太るな。代謝が悪くなってるんだよな」
おっさん臭い事言ってる自覚はあるけど、事実だ。許せ。
このまま普通に寝てしまうか。

「運動したら、プラマイゼロですよ」
はひ?
あー、えーと、小宮さん?やるの?

えっ? えーーーっ?!

待ってたの?!

あー、その顔は確定なのね。

仕方がない。付き合いましょうか。

ナイショだけど、私もしたい。
えへッ。


しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

【完結】雨降らしは、腕の中。

N2O
BL
獣人の竜騎士 × 特殊な力を持つ青年 Special thanks illustration by meadow(@into_ml79) ※素人作品、ご都合主義です。温かな目でご覧ください。

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

君に望むは僕の弔辞

爺誤
BL
僕は生まれつき身体が弱かった。父の期待に応えられなかった僕は屋敷のなかで打ち捨てられて、早く死んでしまいたいばかりだった。姉の成人で賑わう屋敷のなか、鍵のかけられた部屋で悲しみに押しつぶされかけた僕は、迷い込んだ客人に外に出してもらった。そこで自分の可能性を知り、希望を抱いた……。 全9話 匂わせBL(エ◻︎なし)。死ネタ注意 表紙はあいえだ様!! 小説家になろうにも投稿

「恋みたい」

悠里
BL
親友の二人が、相手の事が好きすぎるまま、父の転勤で離れて。 離れても親友のまま、連絡をとりあって、一年。 恋みたい、と気付くのは……? 桜の雰囲気とともにお楽しみ頂けたら🌸

別れの夜に

大島Q太
BL
不義理な恋人を待つことに疲れた青年が、その恋人との別れを決意する。しかし、その別れは思わぬ方向へ。

十七歳の心模様

須藤慎弥
BL
好きだからこそ、恋人の邪魔はしたくない… ほんわか読者モデル×影の薄い平凡くん 柊一とは不釣り合いだと自覚しながらも、 葵は初めての恋に溺れていた。 付き合って一年が経ったある日、柊一が告白されている現場を目撃してしまう。 告白を断られてしまった女の子は泣き崩れ、 その瞬間…葵の胸に卑屈な思いが広がった。 ※fujossy様にて行われた「梅雨のBLコンテスト」出品作です。

雪は静かに降りつもる

レエ
BL
満は小学生の時、同じクラスの純に恋した。あまり接点がなかったうえに、純の転校で会えなくなったが、高校で戻ってきてくれた。純は同じ小学校の誰かを探しているようだった。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

処理中です...