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4.真司は泣かない。
しおりを挟むこの日が来た。
幼稚園の時大好きだったミヨちゃんとの再会!
ミヨちゃんのお母さんは、『素敵なレディーに育てるから中学で会いましょうね』って、お母さんに卒園式の後に言ってたらしい。
素敵なレディーってどんなレディーか知らないけど、ミヨちゃんに会えるのは嬉しい。
僕は真新しい中学の制服の襟元を整える。
詰襟ってちょっと窮屈。
よく兄ちゃんこんなの着てたな。
高校はブレザーのところがいいな。
貼り出されて名簿を見て教室へ。
先生がやってきて、リボンが配られ、体育館へ。
式も終わり、自己紹介も済んで、結局ミヨちゃんは僕のクラスにはいなくて、しょんぼりとお母さんのところに行った。
お母さんは役員の何かがあるらしいので、お父さんのところに行ってと言われた。
お父さんのところに行ったら、名簿を全部写真に撮ってくれたらしい。七クラスもあったんじゃ友達何処か分からんもんなって笑ってた。
お父さんの実家はもっと山の方だ。昔行った記憶がある。虫捕りしてて、うっかり迷子になりかけてめっちゃ怒られた。
お父さんの学校はこんな数のクラスなかったからお前達は名前覚えるの大変だなと言ってたけど、ボクだって、全員は無理だよ?
帰り道、倫兄に会った。
最近こっちに帰ってきた。
兄ちゃんは大学行ったまま。
なんだかまだまだ勉強するんだって。
友達に話したら「留年してんじゃねぇの」とか言われた。
父さん達の話では、留年って単語聞かないな。
インとかなんとかカテイがとか言ってたけど、ボクの卒業と同じぐらいでシュウリョウとからしい。
終了だから、「終わり?」って聞いたら「違う」って言われた。もう分かんない。
倫兄に写真撮ってもらった。
プロのカメラマンに撮って貰って良かったなって父さんがガハハって笑ってる。
倫兄は修行中とか言ってる。アマとプロの中間だから、中途半端とか言ってる微妙な顔。
困ってるから、倫兄を虐めないでほしい。
父さんは放って置いて、倫兄と帰ることにした。
父さんなんかあっち行け、べー。
「真司くん?」
聞き慣れない声に呼びかけられた。
振り返ると、薄っすら記憶にある顔のおばさんが立ってた。その隣の女の子のは記憶がある!
面影あります!
「ミヨちゃん!」
うわっ! やらかした!
ミヨちゃん物凄くイヤな顔してる。
中学生で『ちゃん』呼びはイヤだよね、ごめん。
ジェントルマンになれてないね。紳士って難しい。
「ミヨさん?」
言い直し。
ごめんさい。苗字知らないです。
「松本」
不機嫌そうに言われた。
「はい、松本さん。久しぶりだね」
心にしっかりメモりました!
「幼稚園で一緒だったんだ」
隣の倫兄に紹介した。
「私は保護者じゃないんですけど。この子の兄の友人です」
二人に誰だろうって見られてた倫兄が華やかな笑顔で自己紹介してた。
うっわぁ、よそゆきの笑顔だぁ。
倫兄曰く、営業スマイルだって。
営業してた時に習得したって言ってた。
二人とも倫兄にメロメロだね。
ボクが二組で松本さんが四組だって。
階も違うから滅多に会えないなぁ。
「また学校で」って別れた。
お母さんによろしくって言われたけど、何よろしくなんだろ?
会えなくて残念だったのかな。
そのまま伝えとこう。
「あっ! 幼稚園」
「どうしたの?」
不思議そうに倫兄が見てる。
「この近くなんだ。幼稚園。制服見せに行きたい!」
「ほうほう、良いねぇ。寄り道するか」
学校から帰ったら、倫兄が母さんとお茶してた。
二人は茶飲み友だちなのだそうだ。
「よぉ! お帰りぃ。勉強どうよぉ?」
いつもの人懐っこい笑顔。
こっちの笑顔の倫兄が好き。
「まあまあかな。ーーーー母さん、プリント。提出のが入ってる」
「了解しました。おやつどうする?」
「食べる。着替えてくるね」
二人はまた話し出した。話が尽きないらしい。
そう言えばこういう時、兄ちゃんは、いっつも隣で詰まらなそうにお茶飲んでたな。
どっか行ったりとかしないで、倫兄の隣にはいるんだよな…。
倫兄のいる時はおやつのグレードが上がる。やったね。
お使いを頼まれた。
倫兄はもう帰るらしく一緒に出る事にした。
学校の出来事を話しながら歩いてたら、
「山田くん!」
ミヨちゃんの声!
ニヤける顔をなんとかジェントルマンで押さえ込んで、振り返る。
「今帰り?」
「うん、委員会だったから」
声がちょっと弾んでる。
駆けてきたんだ。嬉しい!ボクを見つけて走って来てくれるなんて!
「倫さんはどちらに?」
「もう帰るよ」
「一緒に帰りましょ?」
ボクは? 倫さん???
倫兄を見たら、営業スマイルで「いいですよ」って。
お使いあるから、別れた。
夕方だもの。女子を守るのもジェントルマンの役目だもんね。
倫兄は紳士だもんね。だもんね。ーーーーね。
あのモヤモヤした出来事から、ミヨちゃんと会うと倫兄の事を聞かれる。何が好きかとか家族構成とか歳とか色々。
なんなんだよ!
そんなこんなでなんだか最近倫兄に冷たくしちゃう。
倫兄の事大好きなのに!
意地悪な自分が嫌い。
イライラする!
叫びたいけど、学校でしたらダメ。
家もダメだ。
部活で走った。
兄ちゃんと同じ陸上部に入った。
種目は違うけど。
ボクは短距離。
ダッシュを繰り返す。
叫びたい気持ちを全部全部ぶつけて、ダッシュ、ダッシュ!
モヤモヤが晴れない……。
「山田くん、倫さんの連絡先教えてくれない? スマホ買ったの」
ボクの連絡先じゃないの?!
「訊いてみないと。ボクのじゃダメ?」
「んー、ま、いいわ。取り敢えず山田くんの教えて。倫さんにも訊いといてね」
釈然としないまま、連絡先の交換をした。
ミヨちゃんの連絡先をゲットしたというのに気分が沈んだまま。
倫兄にぶっきらぼうにミヨちゃんの事を伝えたら、びっくりするぐらい苦々しい顔をした。
「断っといて。ーーーそうだな。家族以外には教えてないって言っといてくれていいよ」
いつもの笑顔の倫兄だった。
家族?
ボクは家族?
ああ、親戚みたいな感じって事か!
なんだか嬉しい。
ミヨちゃんに、倫兄が言ったままを伝えた。
ミヨちゃんは、キリキリと眦を上げて、ボクは親戚でも家族でもないじゃないのに変だとか言われた。
ちょっと怖い。
「山田くんは、私の恋を邪魔するの? ヒドイ!」
恋?!
「松本さんは、倫兄が好きなの?」
ボクの大好きなミヨちゃんは、倫兄が好きだったんだ。
恋は応援するものって母さんが言ってたけど。
ボク…ボク、無理……だ。
「好きよ。大好きよ。今度告白するんだから。協力しなさいよ」
目が怖い。ギラギラしてる。
ボクは小動物になった気分。
「い、嫌だ!」
逃げた。
走った。走った。走った!
ミヨちゃんが!
倫兄なんて!
みんな、なんで!
ボクは、ボクは……。応援出来ないボクは嫌い!
みんな嫌い!!!
走って、走って、打つかった。
白衣のおじさんがすっ転んでた。
「ごめんなさい!」
慌てて謝った!
「すっごいタックルだったよ」
イテテと立ち上がって、パンパンと汚れを払ってた。
「……おいで」
と手を掴まれると何処かに連れていかれる。
保健室に入るといつも開いてる扉が閉められた。
カタンと扉の向こうで札が当たる音がした。
「さてと、名前は?」
丸イスを勧められた。
汚れた白衣を脱ぎながら、おじさんが訊いてくる。
たぶん、保健の先生だ。
新しい白衣を羽織って、流しに向かった。
「山田、真司です」
「山田くん……真司くんね」
なんだかボクじゃない誰かを見てる気がするして思わず後ろ見ちゃった。
カリゴリ、キュルと鳴る器具からなんだかいい匂いがする。
お湯がシュッシュッと沸いてる。
「はい、どうぞ」
マグを渡された。
コーヒーが入ってた。黒い。
ここ学校だよね。
戸惑って、先生を見たら、にんまり笑って「ナイショだよ」と言われた。
いいのかな……。
先生がいいって言ってるんだから、大丈夫かな。
「いただきます」
「どうぞ」
苦かった。
とっても苦かった。
兄ちゃんが飲んでたコーヒーよりも苦かった。
涙が滲むほど苦かった。
「色々あるさ。叫びたい時だってあるさ。泣きたい時だってあるさ」
事務椅子に座って先生が笑ってる。
苦いコーヒーを先生は普通に飲んでる。
「泣きたい時は泣いていいんだよ。苦くて泣けるね」
大人はこんな苦いのも飲めるんだ。
「君は…真司くんは今泣きたいんだよ。苦いコーヒーの所為にしていいよ。ここには、私しかいないし。校舎の外れだから誰も来ない」
?
何言ってるの?
ボク泣かないよ?
変な事言うなと思ってマグの中見てたら、なんか落っこちた。
上から?
天井見上げたら、歪んでる。
あれ?
マグ握りしめて泣いた。
なんか泣いた。
声も出して泣いた。
途中、マグとタオルを交換された。
涙でグシュグシュだ。
そのタオルで鼻かんじゃった。
グスグスしてたら、マグを渡された。
甘いに匂いがする。
母さんがよく入れてくれるココアだった。
泣き止んだ時はもう部活も終わって、帰る時間になってた。
「時間ズラすといいよ。ここに居な」
おしぼりを渡してくれた。ひんやりする。
「目に当てて」
ボク、先生のファンになりそう!
「失恋なんて人生何度でもあるさ。青春だねぇ」
デリカシー!
なんなんですか、この先生!!!
ファン撤回!
ーーーーーーー
青春だね…。
この保健の先生は、『みのりん先生』です。
『二人っきり』
https://www.alphapolis.co.jp/novel/825350246/512774071
『保健師は考える』
https://www.alphapolis.co.jp/novel/825350246/831777036
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