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番外編
山頂でのひと時
しおりを挟む前回で書けなかった登山のお話。
==============
「来て良かったよ」
優太が携帯用ミルで豆を挽いてる。
参道も兼ねている登山道は平日にも関わらず賑わっている。
そこから少し横に逸れた奥まったところにこの休憩場がある。
東屋で簡易コンロで湯を沸かし、コーヒーの準備をする優太の起こす音を聴きながら、レンズを眼下に広がる街の風景に向ける。
「それは良かった」
静かな声音に心が落ち着く。
あの時とは少し様子が違うが、オレはこの風景をレンズ越しに見て、決めたのだった。
あの時の決心が、今の自分を創った。
後悔はない。
海を隔てて、長く彼と離れてしまったが、その時間さえも今は愛おしく感じる。
今、彼はココにいてくれている。
振り返れば、そこに居てくれる。
「倫さん、どうぞ。あ…パウンドケーキ…切れてないや」
困り顔でホイルの上の塊を見ている。
「イイじゃん。フォークでつつけば?」
カメラを片しながら、東屋に近づく。
「それが……おふくろ忘れたか? フォークが入ってない」
ホトホト困ったと凹んだ声。
「珍しいね。じゃあ、こうすればいいじゃん」
持たせてくれたオヤツに不備なんで、山田家では珍しい。
ナイロン袋を手に嵌めてパウンドケーキを豪快に掴むと、二つに割った。
「コレで食べたらイイ。もし残っても袋にINさ」
ニッコリ笑って、半分を差し出し渡す。
苦笑いで受け取ってくれた。
「うん。味は流石だね。美味しい」
早速齧り付いた。
料理上手のおふくろさんである。
「オレさ、この景色をカメラから見てて決めたんだ」
パウンドケーキを頬張りながら、遠くまで続く街並みを見る。
「ああ、覚えてる。電話くれたな」
同じようにパウンドケーキに齧り付いてる優太が、感慨深げに呟いた。
「覚えてくれてたんだ…」
コーヒーを含んで、眉が寄った。
含み笑いと共にスティック砂糖が差し出される。
掴んだはいいが、片手でどうしようと思ってたら、そっと出て来た手が、ピッと封を切ってくれた。
封が切れた筒を傾ける。
サラサラと落ちていく白い粉を見つめる。
カランとスプーンがカップに入った。
淡々となんて事のない様子。無駄のない流れ。
オレたちの何時がココにある。
「忘れる訳ないだろ。倫の言葉だ」
もう一本と掴むと、同じ事をしてくれる。
「オレの言葉?」
サラサラ落とす。
「俺にとって、倫が全て。言葉ひとつ。状況ひとつ。表情ひとつ。忘れた事はない」
「オレ……愛されてるって事?」
カラカラと混ぜる。
まだ口に含んで無いのに口の中が甘ったるい。
どうにかしたくて、カップを傾けた。
少し苦いのが救いになった。
上気する頬を山の風が撫でてくれる。
「そうだ」
事もな気に言い切られた。
優太が頼もしく見える。
「オレも……愛してる」
街の方向いてパウンドケーキに齧り付いた。
優太から何も返ってこない。
ちょっと視線を優太に戻すと、真っ赤になって固まってる男がいた。
オレと視線が合ってるのに気づいて、やっと動いた。
嗚呼、オレは何でカメラを持ってないんだ……ッ。
一等素晴らしい笑顔の唯一がそこにいた。
心に焼き付けた。
一緒にいてくれてありがとう、優太……。
===============
『優太良かったな』ってのが書きたかったのです。
途中とか色々端折っちゃった。
短いけど、今の書けるのはこんな感じが精一杯です。
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