彼とメガネの彼の話【時々番外編更新】

アキノナツ

文字の大きさ
上 下
36 / 39
番外編

揺らめく時間 (※)

しおりを挟む

「あの山に登らない?」
りんが、カメラのレンズを向ける。
反射で避けてしまった。
見遣ると、やっぱり剥れた倫がいた。

「また避けるぅ~」

俺が資料を読んでる隣で、倫が静かにカメラの調整をしていた。
いたはずだったんだ。
いつもの如く唐突に、ゆったりした時間が破られた。

「あの?」
カメラを覗いて、あっちを向いてしまった。
真司しんじくん達にも会いたいし」
楽しそうな声だ。
怒ってる訳ではないようだ。
背中を見せてるのは、遠くの対象物に焦点を合わせてるだけだろう。

「今度の休みが重なった時にするか?」
「うん、晴れるといいね」
いい笑顔で振り返った。

共有してるカレンダーを確認してみる。
日帰りもいいが、泊まりでもいいか。そうすると、休みを取るか。
頭の中で忙しく調整に必要な手続きを組んでいると、シャッター音が響いた。

ハッと音の方を見ると、これまたいい笑顔で倫が画像をチェックしていた。

「倫さん…」
なんで撮りたがるか。こんなおじさん撮ってもつまらんだろう。

「いいじゃん」
俺の声にちょっと不満気な声。

「考え事してる顔って、難しい顔してるだけだろう」
本当に何がいいんだか…。

「それがいいの。優太ゆうたの色んな表情撮りたい。オレだけのコレクション。実物が一番なんだけど、この時間の優太を残したいんだ」
アプリを閉じると、スマホのカメラを立ち上げた。

「倫、こっち」
ちょいちょいと手招きする。
俺だって…。
キョトンとしながらも素直に俺に近づいてくる。
肩を抱き寄せて、倫と2人、画角に納めて、シャッターを切る。

「俺としたらコレの方がいいかな」
画像を確認してみる。一人より二人の方が良い。
二人がいいな…。
スマホの中に、ちょっと驚いた顔の倫がいた。俺はいつもの冴えないおっさんだ。倫は可愛い。

「もぉ。貸して」
スマホを奪われて、俺の膝に乗ってぎゅっと顔を寄せてくる。
「ほら、笑って」
急に言われても無理なんだが。頬が引き攣る。写真は苦手だ。
自撮りになってるので、引き攣る顔の俺がこっちを見てる。
その横で唇を尖らせた倫が、焦ったそうにしてる。

「もぉ。こっち向いて」
スマホを持ってない方の手を俺の顎に当てて、グイッと向きを変えられた。

「こっち?」
至近距離の倫と目が合う。
ムフンと笑う倫。
なんだかキスしたくなるような幸せな気分。

額を寄せて、上目遣いで見遣ってくる倫が愛おしい。
ぼやぁんと見詰めてると、電子音。

あっ……やられました。

「倫さん…」
「おー、優太めっちゃコレいい! 共有していい?」
返事を待たずに、自分のスマホと連動してる。

この写真どうしよう……。
真司とかにうっかり見られるかもしれないから消してしまうか? パソコンに保存か。
倫はどうしてるんだろう。

悩んでると、頬に柔らかいものが押しつけられた。
チュッとリップ音。そして、電子音。

はぁぁぁ!!!!
「倫!」
「コレもいいな」

頬が緩んだふんわりした表情の俺の横でいい笑顔でカメラ目線の倫が収まってる。
ニヤけたおっさん。恥ずかしいぃぃぃ! 泣きそう。

「遊ばないでくれ……」
ああ! 情けない顔ばかり撮られるッ!

ソファに凭れて天を仰ぎ見たが、恥ずかしくて両手で顔を覆った。
メガネがずり上がって、おでこに引っ掛かってるのを感じる。

「優太ぁ、いい写真だよ。優しい顔してる。オレ好きだよ?」
「ニヤけたおっさんだよぉ~」

「ニヤけてる? 包んでくれる感じの優しい顔。優太らしい、オレの好きな表情なんだけどなぁ」
手の甲に、指にと唇が触れてる。

チュッチュとリップ音が、鳥の囀りのようだ。
メガネが彼の手で回収された。

コトンと固い音がする。

「優太、スマホ置いたからぁ。顔見せて? 優太ぁ」
困り声の倫。
んーーーー、胸の奥がざわつく。こんな声をさせちゃいけない。……でも、タイミングが……。

チュッチュと囀りが、手の甲を掠める。
手を広げて、倫の顔を包む。
目が至近距離で合う。
柔らかく優しく唇を重ねる。

唇に細かく振動してる。笑ってる。倫は笑っててくれてる方が良い。

首に腕が回る。ソファとの隙間に手が滑り込んでくる。背中に掌の温もりが。

ムニュムニュと唇が食まれてる。
俺も食み返す。
倫を抱き寄せる。より近くに彼を感じたい。

ハム、ハム…とゆったり唇の柔らかさを互いに感じあって、いつしか深く感じ合っていた。
上顎を舌先で撫でるとピクッと身体が揺れる。反応が可愛くて、もっとと撫で摩る。

ふるふると背が震えて、身体が胸がビッタリとすり寄せてくる。
背から腰のラインをするり、するりとゆっくり撫で下ろして辿っていく。
絡む舌が、ふるりと震え動きが止まる。
尻のラインをサワサワと撫でると、口の中に吐息が溢れる。

倫が感じてる。
もっと…。
今日はするつもりはなかったんだが、抜き合うぐらいいいかな……。

チュッと唇を離す。
希望を告げようとすると、倫が頬を擦り寄せて耳元で囁く。

「擦りあって…眠りたい」
既に声が眠そうだ。

ああ……それ、いいな……。

もう何もせず、絡んで、眠りに落ちるのはいいなぁ。
あとの事は、目が覚めてからでいいか。

俺にしがみ付いてる倫をそのまま抱き上げて、寝室へ。

リモコンでリビングの明かりを消す。

あちこちに点いてる小さな照明が間接照明になって、薄っすらと部屋を照らしてる。

倫の脚が絡んで、更に密着する。
尻を支える俺の掌が、弾力を確かめている。

その合間も唇を合わせる。

クスクスと笑い合う。
穏やかな時間を戯れあって、ベッドに横たわる。
脚を絡め互いの兆した昂りを示し合うように擦り付け、唇を味合う。

ゆったりとした昂りの中、徐々に倫が眠っていく。
俺も、釣られるように、溶けるように、緩やかに、腕の中に倫を抱き込み、眠りに落ちて、行った……。



しおりを挟む

    読んでくれて、ありがとうございます!

  『お気に入り』登録してもらえたら嬉しいです。
      更に、感想貰えたら嬉しいです!


      ↓ ▼ ↓ ▼ ↓ ▼ ↓ ▼ ↓

▶︎▶︎恥ずかしがり屋さんの匿名メッセージはココ!◀︎◀︎
 (アカウントなしで送れます。スタンプ連打もOK♪)

      ↑ ▲ ↑ ▲ ↑ ▲ ↑ ▲ ↑
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】エルフの喫茶店は、今日も客が一人しか来ない

チョロケロ
BL
退屈だったエルフのフォルンは暇つぶしに喫茶店を開くことにした。暇つぶしなので全てが適当だったのだが、なぜか一人だけ常連客がついた。こんな店によく金払えるなと不思議に思っていたのだが、どうやらお目当てはコーヒーではなくフォルンだったらしい。おもしれーと思ったフォルンは、常連客を揶揄いまくるのであった。 【ヒョロメガネ×エルフ】 ムーンライトノベルズさんでも投稿しています。

Hand in Hand - 二人で進むフィギュアスケート青春小説

宮 都
青春
幼なじみへの気持ちの変化を自覚できずにいた中2の夏。ライバルとの出会いが、少年を未知のスポーツへと向わせた。 美少女と手に手をとって進むその競技の名は、アイスダンス!! 【2022/6/11完結】  その日僕たちの教室は、朝から転校生が来るという噂に落ち着きをなくしていた。帰国子女らしいという情報も入り、誰もがますます転校生への期待を募らせていた。  そんな中でただ一人、果歩(かほ)だけは違っていた。 「制覇、今日は五時からだから。来てね」  隣の席に座る彼女は大きな瞳を輝かせて、にっこりこちらを覗きこんだ。  担任が一人の生徒とともに教室に入ってきた。みんなの目が一斉にそちらに向かった。それでも果歩だけはずっと僕の方を見ていた。 ◇ こんな二人の居場所に現れたアメリカ帰りの転校生。少年はアイスダンスをするという彼に強い焦りを感じ、彼と同じ道に飛び込んでいく…… ――小説家になろう、カクヨム(別タイトル)にも掲載――

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

Take On Me

マン太
BL
 親父の借金を返済するため、ヤクザの若頭、岳(たける)の元でハウスキーパーとして働く事になった大和(やまと)。  初めは乗り気でなかったが、持ち前の前向きな性格により、次第に力を発揮していく。  岳とも次第に打ち解ける様になり…。    軽いノリのお話しを目指しています。  ※BLに分類していますが軽めです。  ※他サイトへも掲載しています。

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

家事代行サービスにdomの溺愛は必要ありません!

灯璃
BL
家事代行サービスで働く鏑木(かぶらぎ) 慧(けい)はある日、高級マンションの一室に仕事に向かった。だが、住人の男性は入る事すら拒否し、何故かなかなか中に入れてくれない。 何度かの押し問答の後、なんとか慧は中に入れてもらえる事になった。だが、男性からは冷たくオレの部屋には入るなと言われてしまう。 仕方ないと気にせず仕事をし、気が重いまま次の日も訪れると、昨日とは打って変わって男性、秋水(しゅうすい) 龍士郎(りゅうしろう)は慧の料理を褒めた。 思ったより悪い人ではないのかもと慧が思った時、彼がdom、支配する側の人間だという事に気づいてしまう。subである慧は彼と一定の距離を置こうとするがーー。 みたいな、ゆるいdom/subユニバース。ふんわり過ぎてdom/subユニバースにする必要あったのかとか疑問に思ってはいけない。 ※完結しました!ありがとうございました!

処理中です...