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番外編
揺らめく時間 (※)
しおりを挟む「あの山に登らない?」
倫が、カメラのレンズを向ける。
反射で避けてしまった。
見遣ると、やっぱり剥れた倫がいた。
「また避けるぅ~」
俺が資料を読んでる隣で、倫が静かにカメラの調整をしていた。
いたはずだったんだ。
いつもの如く唐突に、ゆったりした時間が破られた。
「あの?」
カメラを覗いて、あっちを向いてしまった。
「真司くん達にも会いたいし」
楽しそうな声だ。
怒ってる訳ではないようだ。
背中を見せてるのは、遠くの対象物に焦点を合わせてるだけだろう。
「今度の休みが重なった時にするか?」
「うん、晴れるといいね」
いい笑顔で振り返った。
共有してるカレンダーを確認してみる。
日帰りもいいが、泊まりでもいいか。そうすると、休みを取るか。
頭の中で忙しく調整に必要な手続きを組んでいると、シャッター音が響いた。
ハッと音の方を見ると、これまたいい笑顔で倫が画像をチェックしていた。
「倫さん…」
なんで撮りたがるか。こんなおじさん撮ってもつまらんだろう。
「いいじゃん」
俺の声にちょっと不満気な声。
「考え事してる顔って、難しい顔してるだけだろう」
本当に何がいいんだか…。
「それがいいの。優太の色んな表情撮りたい。オレだけのコレクション。実物が一番なんだけど、この時間の優太を残したいんだ」
アプリを閉じると、スマホのカメラを立ち上げた。
「倫、こっち」
ちょいちょいと手招きする。
俺だって…。
キョトンとしながらも素直に俺に近づいてくる。
肩を抱き寄せて、倫と2人、画角に納めて、シャッターを切る。
「俺としたらコレの方がいいかな」
画像を確認してみる。一人より二人の方が良い。
二人がいいな…。
スマホの中に、ちょっと驚いた顔の倫がいた。俺はいつもの冴えないおっさんだ。倫は可愛い。
「もぉ。貸して」
スマホを奪われて、俺の膝に乗ってぎゅっと顔を寄せてくる。
「ほら、笑って」
急に言われても無理なんだが。頬が引き攣る。写真は苦手だ。
自撮りになってるので、引き攣る顔の俺がこっちを見てる。
その横で唇を尖らせた倫が、焦ったそうにしてる。
「もぉ。こっち向いて」
スマホを持ってない方の手を俺の顎に当てて、グイッと向きを変えられた。
「こっち?」
至近距離の倫と目が合う。
ムフンと笑う倫。
なんだかキスしたくなるような幸せな気分。
額を寄せて、上目遣いで見遣ってくる倫が愛おしい。
ぼやぁんと見詰めてると、電子音。
あっ……やられました。
「倫さん…」
「おー、優太めっちゃコレいい! 共有していい?」
返事を待たずに、自分のスマホと連動してる。
この写真どうしよう……。
真司とかにうっかり見られるかもしれないから消してしまうか? パソコンに保存か。
倫はどうしてるんだろう。
悩んでると、頬に柔らかいものが押しつけられた。
チュッとリップ音。そして、電子音。
はぁぁぁ!!!!
「倫!」
「コレもいいな」
頬が緩んだふんわりした表情の俺の横でいい笑顔でカメラ目線の倫が収まってる。
ニヤけたおっさん。恥ずかしいぃぃぃ! 泣きそう。
「遊ばないでくれ……」
ああ! 情けない顔ばかり撮られるッ!
ソファに凭れて天を仰ぎ見たが、恥ずかしくて両手で顔を覆った。
メガネがずり上がって、おでこに引っ掛かってるのを感じる。
「優太ぁ、いい写真だよ。優しい顔してる。オレ好きだよ?」
「ニヤけたおっさんだよぉ~」
「ニヤけてる? 包んでくれる感じの優しい顔。優太らしい、オレの好きな表情なんだけどなぁ」
手の甲に、指にと唇が触れてる。
チュッチュとリップ音が、鳥の囀りのようだ。
メガネが彼の手で回収された。
コトンと固い音がする。
「優太、スマホ置いたからぁ。顔見せて? 優太ぁ」
困り声の倫。
んーーーー、胸の奥がざわつく。こんな声をさせちゃいけない。……でも、タイミングが……。
チュッチュと囀りが、手の甲を掠める。
手を広げて、倫の顔を包む。
目が至近距離で合う。
柔らかく優しく唇を重ねる。
唇に細かく振動してる。笑ってる。倫は笑っててくれてる方が良い。
首に腕が回る。ソファとの隙間に手が滑り込んでくる。背中に掌の温もりが。
ムニュムニュと唇が食まれてる。
俺も食み返す。
倫を抱き寄せる。より近くに彼を感じたい。
ハム、ハム…とゆったり唇の柔らかさを互いに感じあって、いつしか深く感じ合っていた。
上顎を舌先で撫でるとピクッと身体が揺れる。反応が可愛くて、もっとと撫で摩る。
ふるふると背が震えて、身体が胸がビッタリとすり寄せてくる。
背から腰のラインをするり、するりとゆっくり撫で下ろして辿っていく。
絡む舌が、ふるりと震え動きが止まる。
尻のラインをサワサワと撫でると、口の中に吐息が溢れる。
倫が感じてる。
もっと…。
今日はするつもりはなかったんだが、抜き合うぐらいいいかな……。
チュッと唇を離す。
希望を告げようとすると、倫が頬を擦り寄せて耳元で囁く。
「擦りあって…眠りたい」
既に声が眠そうだ。
ああ……それ、いいな……。
もう何もせず、絡んで、眠りに落ちるのはいいなぁ。
あとの事は、目が覚めてからでいいか。
俺にしがみ付いてる倫をそのまま抱き上げて、寝室へ。
リモコンでリビングの明かりを消す。
あちこちに点いてる小さな照明が間接照明になって、薄っすらと部屋を照らしてる。
倫の脚が絡んで、更に密着する。
尻を支える俺の掌が、弾力を確かめている。
その合間も唇を合わせる。
クスクスと笑い合う。
穏やかな時間を戯れあって、ベッドに横たわる。
脚を絡め互いの兆した昂りを示し合うように擦り付け、唇を味合う。
ゆったりとした昂りの中、徐々に倫が眠っていく。
俺も、釣られるように、溶けるように、緩やかに、腕の中に倫を抱き込み、眠りに落ちて、行った……。
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