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番外編
テーラーの手
しおりを挟む優太大学院時代の話。
倫が渡米してしばらく後ぐらいかな。
では、どーぞ~。
=============
清水さんは、テーラーとしての腕は最高だと思う。
性格に少々難があるだけなんだけど、そう少々ね。大きい少々ですけどね!
あれは、大学でスーツが必要になったのが、始まりだった。
持ってるスーツを持ってこいと教授に言われた。
持ってたら、着ろと言われたので着たら「やっぱりな」と言われた。
ん?
意味が分からん。
ちょいとサイズ感が違う気はするけど、ずっとこうなので、別に違和感……正直に言いますよ。
気になってました!
手足の長さが直して貰っても微妙に違和感あるんです。
「吊りが悪いとは言わんが、私も殆ど吊りで用が足りてるが、お前のはちょっと違う気がする。今回はそれでいいが、どうにかしとけ」
どうにかと言っても、どうすればいいんだ?
スーツ売り場でぼんやり見てたら、オーダースーツという単語が見えた。
オーダーかぁ。これならピッタリのを用意できるか?
敷居が高いな…。
もう少し猶予があるし…。
踵を返して、他の買い物を済ませる為に、スーツ売り場を後にした。
「おーい、山田」
ぽんっと肩を叩かれた。
振り返って、サークルで一緒だった奴だとは思い出したんだが、えーと、名前は…。
「よぉ」
返しはしたが、思い出せん。
スーツ姿だ。
彼は卒業して社会人として、立派に働いているとみえる。
一方、俺は大学院生。博士課程で給料が発生してるとはいえ、どうも学生気分が漂っている。
名刺を渡してきた。
へぇ、名の知れた企業の営業マンか。
えーと、『寺田』
そうそう、寺田だよ。
「お前なんでこんなとこ居んの?」
んー、相談してみるかな。スーツ着なれてるみたいだし。
オシャレ着のテナントが入ってる階層でうろつくのは、確かに場違いな格好であるのは認めるが。
小綺麗ではあるがな。
「スーツ見に来たけど、ピンと来ない」
奥のテナントを肩越しに親指で指す。
「スーツ?」
キョトンとしてる。
「時間あるか?」
「あー、1時間かな」
腕時計を見て、んーと考えてたが、計算出来たようだ。
「充分。お茶でもしようか。相談がある」
30分も有ればいい。
「へぇー、あの教授が言うなら、合ってないんだろうな。私服は別に変じゃないのにな」
コーヒーチェーン店でお茶を濁してる。
寺田は、なんだかクリームとか色々乗ってる。店員に呪文を言ってたな……。
倫ならついていける事なんだろうけど、俺はあまり興味がないから、覚える気は無い。
こう言うところでは、カフェオレをお願いする。
「袖をちょっと長くしないとダメだから、サイズ大きくしたり、直しでなんとかしてたけど、どうも上手くいかないのは、分かってたんだよ」
「あぁ! なるほどね」
スマホを取り出して、何か操作してる。
何か分かってくれたらしい。
カフェオレを啜る。
「ほれ、スマホ出せ。ーーー送るから、受け取れ」
スマホを開くと、ププッっと共有していいかと表示してきた。
受け取って、中身を確認する。
テーラー?
「遠い親戚なんだけど、腕の良いテーラーなんだよ。コレも作って貰った。値段は吊りよりは高いけど、保ちがいいからトントンだよ」
情報を補足してくる。
腕を出してきた。触れという事か?
触って、驚いた。
「なんだコレ? 気持ちいい触り心地だな」
「だろ? 着てても肩凝らないし疲れないんだぜ」
一気に乗り気になった。
今から行ってもいいかな。
「ありがとう。連絡してみる」
「名前出して貰っていいから。ゴチィ。じゃ」
腕時計を見て、カップを手に席を立った。
時間は充分余ってる。短時間で終わってお互い良かった。
別れて、すぐ連絡を入れた。
すぐ来いと言われた。
寺田の名前出した。まどろこしいので、正直に話した。静かだなと思いながら、話終わると、急に「すぐ来い」と強く短く言われた。
商売人だよな?
スマホ片手にすぐ来た。
洒落たヨーロッパ風の店構え。
店構えにビビった。
来いと言われたからなと自分に言い聞かせて、扉を開ける。
カランランラン……
ドアベルが軽やかに鳴る。
「いらっしゃいませ」
目の細い、ヒョロっとしたテーラー服の男が迎えてくれた。
「山田です」
「君か…」
上から下まで舐めるように見られた。
「なるほどねーーーこっち来て」
壁の棚に布のロールかいくつも収まってる部屋に招かれる。
「用途は?」
「学会とか発表とかの時に着ます」
「ふーん、じゃぁ……この辺りの色かな。院生?」
「はい。博士課程の2年です」
「3年修了か。なるなる。君のボスは良い人だね」
「何か?」
「卒論発表だろ? ま、先と言えば先だけどね。あと、教授について学会行ったりしたり?」
「あー、そうですね」
「取り敢えず、1着作ろうか」
「じゃあ、こっち」
手招れかれる。
大きな鏡がある部屋だった。
「コレ着て」
Yシャツを渡される。
どこで着替えるんだろう。
「どこで?」
「ここで。ヌードも見たいから。…あ、あっちに着替える場所はあるよ」
ヌードという言葉に、俺の顔が真っ赤になったのかも知れない。
男同士だし、下着も着てるから別に良いんだけど。一応教えてくれたけど、ここでYシャツに着替えた。
「筋肉質だね。運動してた?」
シャツの上を撫でるように手が滑っていく。
「中高と陸上してました」
袖丈を見てる。
「そう。今も走ってるとか?」
「はい」
なんで分かったんだろ?
「結構困ってたでしょ? 手脚長いね。ん~。パターンオーダーよりイージーオーダーにしようか。フルオーダーばかりがオーダースーツって訳じゃないんだよ」
話がどんどん進んでいく。
◆◆◆
「優太ぁ、テーラーさんとの付き合い長いの?」
倫のこんな質問で、あれこれ思い出していた。
あの頃は、倫が渡米して、気が抜けてるというか、凹んでたというか。兎に角、隙だらけ状態だったと思う。
「倫が渡米して、暫くしてからだから、15年程?」
なんで清水さんの事を聞かれてるんだ?
「後ろ狙われてたんだよね?」
なんでそういう事は覚えてるかなぁ!
◆◆◆
採寸して、型紙を作って、型紙の修正、仮縫いして修正とフルオーダーのような作り方だった。
「これってイージーオーダーですよね? フルオーダーみたいですね」
思わず言ってた。
これだけ度々顔を合わせてると、元から清水さんは砕けた感じで喋ってたから、こちらも気を許しつつあった。
「これから付き合い長くなりそうだし、時間も決まってないでしょ? 一回型紙作ったら、あとは楽だからね」
ということは、コレは、フルオーダーってことか?!
スーツの話以外もする様になっていた。仲のいい友人が渡米してしまって、寂しいなんて話までしてしまっていた。
「その友人、友人じゃないよね?」
「えっ?」
鏡の中の俺の間抜けな顔と言ったら……。
「君、捨てられたんだよ。私と付き合わないか?」
「はぁ?」
鏡越しに清水さんと目が合う。
糸目が弧を描く。
「君の身体は魅力的だね。私ならもっと喜びを提供出来ると思うよ」
艶がある空気感。
「何言ってるんですかぁ?」
惚けてみた。
清水さんの手が肩にかかる。
「君、対象は男で当たりだろ? 私もいけるんだよ。君に興味がある。ーーー愛の告白と受け取って貰えると嬉しいな」
「愛?!」
振り返ると、顔が近かった。
「君を好きになった」
キスされると思った。思わず後ろに引いてバランスを崩した。
グッと腰に手が回り支えられる。
テーラーって力持ちなのね。
「ちなみに…俺はどっち?」
なんでそんな訊き方をしてしまったのだろう。
「んー、私はバリタチと言ったら分かる?」
分かってしまった。もう戻れないな。どうしよう。
「うふふ、仕事に戻ろうか」
揶揄われたのか?!
もうすぐスーツが仕上がる。
型紙は出来たから、これから、スーツを作る時は、2週間程で出来る。
俺を立たせると、裾を調整して、終わり。
「今度、デートしよ?」
そんな言葉で、着替えに送り出された。
デート?!
◆◆◆
「あの人、清水さんって言うんだ。で、寝たの?」
何故、ストレートに訊いてくる。
笑顔が怖いんですけど、倫さん。
「寝てないよ。デートはしたけど。スーツの動きが見たいとか言われて」
「何それ!」
うん、何それです。
デートの最中めっちゃ口説かれたのは、倫には言わない方が良いかな。
◆◆◆
「私はね、テーラーでやっていける腕はあると思うんだよ。でも、恋愛はこっちほど上手くいかない。店で燻ってるからかと、外にも出てみたけどね」
喫茶店で、テーラーの手が紅茶の入った茶器を美しく口に運ぶ。
「はぁ…」
曖昧な返事しか出来ない。
コーヒーを口をつける。
このブレンド、美味しいな。
「どうも、私ね、二つ名がついちゃって」
「二つ名?」
「クラッシャー」
「はぃい?」
「そんな気は無いんだけど、相手から取っちゃってたり、転向させてたり。でも、みんな喜んでくれてたんだけどね」
倫との仲も壊す気か?!
「で、付き合う気になった? 天国に連れていける自信があるよ?」
目を細めて微笑んでる。
無理!!!!
「ごめんなさい」
「正直に言いすぎたかなぁ。どうしたら、君みたいな一途な子を捕まえれるんだろうね」
知らんがな!
「君の想い人が羨ましい」
美しい所作で紅茶を飲んでる。
どうやら諦めてくれたみたいだけど、、、本当に諦めた?
「じゃあ、これで納品って事で。これからもご贔屓に」
最高にいい笑顔だと思う。
見惚れてたのだろうか。
「惚れた?」
なんて言われた。
「惚れてません」
「店に戻ろうか」
それからの付き合い。
◆◆◆
「本当に寝てない?」
倫が執拗い!
もう五月蝿いから、口を塞ぐ。
「誤魔化されないぞぉ」
でも、トロンとしてますが?
ソファに押し倒して弄る。
喘ぎ声が漏れてきた。
清水さんとは、もう合わせない方がいいだろうな。
危うく、二つ名が発動するところだったよ!
あぶない、あぶない。
==========
テーラーさんのお話(スピンオフ)はこちら。
『テーラーのあれこれ』
https://www.alphapolis.co.jp/novel/825350246/266780014
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