彼とメガネの彼の話【時々番外編更新】

アキノナツ

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寄添う二人

第3話

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帰国してから数ヶ月。

進展?

キスしたね。
帰国してすぐしたね。
再会してすぐしたね!

ーーーーそれだけです。
それだけ!

一緒に寝ます。
抱き枕になってます。

個展の準備とか、親しい人への帰国の挨拶。
拠点を日本に移すので、挨拶回りに名刺配り。

忙しく出掛ける所為か、抱き込まれるとぐっすり寝てしまう。
条件反射並みにコテンです。
マジです。

叫びたい! oh  no!!
何も起こらない。

ーーーー心地いいんですよ。

抱き込まれて、スリスリされて、ポンポンされると、気づいたら朝で、隣は空っぽ!!!

この数ヶ月ずっと一緒に寝てた訳じゃないけど。お互い出張とかあったし。

でもね、でもね。
優太ゆうた! 手出してくれ!
いや、オレから行ったらいいのか?!

どうやって???

『優太ぁ、しよ?』
ーーーーー軽く死ねる。

あの頃、恥ずかし気もなく、よく言ってたな、オレ!
きゃーーーーーーッ!!!

優太の枕に顔を埋める。

ぐるんぐるんと身体をベッドの上で右へ左へ悶え転げてます。
勃ってきそう。
そろそろ優太が起こしに来る。

何度も朝、こんな事をしてる。

りん、ご飯できた」
ほら、来たよ。

「おはよう」
今日は、ベッドに枕抱えて座って、優太を迎える。

「おはよう」
優しく笑う優太、好き!
ああ、これが言えれば、いいんだよな!
でも、言えない!
恥ずかしい!

40過ぎた男が、恥ずかしがってる!

はぁー、あっちでセックスしてた時ってどうやって誘ってたかなぁ…。
ーーーー流れ? ノリ? そんな雰囲気?
あれれ?

オレって……。

ボスン!
枕に顔を埋める。

「倫? 体調悪い?ーーー顔赤いな」
隣に座った優太がスマホを触ってる。
ほっぺたを枕につけて、ぼんやり見てた。
何してるんだろ……。

「今日は、倫は打ち合わせとかは無いね。俺は、午後からでいいな。ーーーちょっと寝とく?」
風邪か何かだと勘違いされた?
オレ、恥ずか死にしてるだけです。

「大丈夫。ちょっと自分に恥ずかしくなってただけ」
「え? 何?」
心配そうに、額に手を当てたりしてくれる。

「いいから! 大丈夫! 放っておいて!」
更に恥ずかしくなって、グイッと優太を押しやってしまった。

「分かった」
寂しそうな背中を見送った。

ごめん、優太。
……これも言えないよぉ!
こんな事も言えないなんて、何をどうしたらいいんだろう。

泣ける…。


◇◇◇


倫……どうしたんだろう?

寝室からたぶん…泣いてる。押し殺した声が聞こえる。

もしかして、ホームシック?!
離婚したとか言ってたけど、マリーさんが恋しいのだろうか。

あっ! 招待状来てたんだった。
これ渡したら、少しは気が晴れるかな。

あーーー、逆効果かも。
とは言え、招待状だからな。渡さないと。

そっと、朝食の横に、目立つようにちょっと離して置く。

オフホワイトの上質な紙の長封筒。
『牧野 倫 様』
真司しんじ嬉しそうだったな……。


***


『兄貴! 倫兄りんニィは親族席でいいよな?!』
親族じゃないが、そんな格式張ったのじゃないって言ってたし、いいんじゃないかな。

「彼女さん側が良いって言ったらいいんじゃないか?」
相手に了解してもらったらいいんじゃないかな。よく分からんが。

『じゃあ、良いて事だな。招待状送るから! あとよろしく』
ブツンと切れた。了承済みか。

真司が結婚かぁ。

大泣きする小さな真司。
噛みついて殴ってくる真司。
暴れて泣き喚く真司。
ーーーー可愛かったなぁ。
思い出されるのは、どれも大騒ぎの真司だった。


***


目元をちょっと赤くした倫が出てきた。

コーヒーを啜りながら見守ってたら、洗面所に向かいかけて、こっちにきた。

???

抱きつかれた。

おっとコーヒー溢す。
机に置いて、倫の背に手を回す。
なんとなくトントンしてた。

「優太、ごめんね」
「何もされてないよ」

「うー、ごめん」
また泣き出しそうだ。

「分かった、分かったよ」
分かってないけど、トントン。

んーーー、キスしたい。

これってキスする感じ?
違うだろう。泣いてるのに。
でも……したいなぁ。
どうしようかな……。

倫、誘ってくれないかな。


◇◇◇


優太、誘ってくれないかな。

トントン気持ちいい。

キスしたいけど、酷い顔してるし。

……膝の上に座っていいかなぁ。

首に回した腕を更に背中も含めて深く回した。
顎が完全に優太の肩の上だ。

耳を優太の首にくっつける。

クイッと腰を引っ張られた。
バランスを崩して、横座りで、膝の上に座らされてた。

嬉しくってきゅっと抱きついた。

「苦しそうな姿勢だったから……ダメだった?」
ぐりぐりと肩口に顔擦りつけるように無言で首を振った。

トントンが続いてる。

「どうしたの?」
真司くんに言うみたい。
ぐりぐり。無言。
ちょっと抗議の気持ちを込める。倫です!

「倫。顔見たい」
ぐりぐり。

「倫さん?」
うぐぐぅ! 優太、狡い! その呼び方に弱いの知ってるだろ! ワザとだ!

ぎゅーーーーーっ!
抱きついた。
顔見せない!
見せられない。酷い顔してる。おじさんの泣き顔なんて可愛くなくて見せれる訳ないじゃん!!!
鼻もグスグス鳴ってるんだよ?!
イヤ!

「倫さーん、顔見たいな?」
甘い声……これって誘ってくれてる?
でも、でも……。

下向いたまま、膝から飛び降りると、洗面所に駆けた。
「顔洗ってくる!」

ちょっとはマシな顔になっただろうか。
なんであんなに泣いたんだろ。

戻ってきたら、優太は誰かと電話してた。

優太がこっちを見た。
目が合うと、にっこり笑って手招きする。

「ちょっと待って」
電話の相手に言うと、オレに白い封筒を渡してきた。

「真司から。ーーーー待てなかったみたいで、電話してきた。返事が欲しいって」

結婚式の招待状みたいだと思ったら、ソレでした。
しかも、真司くんの結婚式。

「親族席を用意したらしいから来てって」
「親族席?」
電話の相手は真司くんらしい。結婚式か……。

「俺の隣」
「えっ…」
プロポーズ?!

「真司にとったら、倫も家族らしい」
優太は穏やかな顔で保留中のスマホを差し出した。
そうですよねぇー。オレの頭ってお花畑!

スマホを受け取ると、保留を解除した。

真司くんの声が……野太い。

当たり前なんだけど……。ね?


◇◇◇


行っちゃった。

洗面所に駆けてく倫の背中を見送る。

もうちょっとな感じだったのに、たぶん。

『倫さん』って呼び掛けると、甘く笑ってくれてたなって呼び掛けてみた。笑って欲しかったんだよ。

顔上げてくれたら、顔中にキスしたら、もっと笑うと思ったんだけどな。
キスしたいのを誤魔化せて、願望も満たせていいかなと思ったんだが。

なんだかなぁ。
言い訳ばかりで、直感情で動けないのが、年齢の壁なのだろうか……。

言い訳を用意してからじゃないと動けなくなってる気がする。
保身? 防衛? なんだろうねぇ……。

温くなったコーヒーを飲んでるとスマホが振動した。

呼び出しか?

准教授になっても、教授は俺をまだ助手扱いだ。准教授になれたのも教授のおかげでもあるんだが。

画面に『真司』
おや? 昼休みは、まだまだ先だが……。待てなかったか。
苦笑いで、応答。

「どうした?」

『兄貴。電話の表示通りの相手とは限らないんだから、ちゃんと名乗ろうね』
名乗るなら、お前からだろうって言ってやりたい。
役所の人間って声だな。役所の人間だが。

ーーー気に入らん!

「ん? ちゃんと確認してから掛けろ。掛けてる方が間違ってるのが悪いと思え」
以前の失敗を指摘してやった。
大人気ないが、俺が相手で良かったな!

『アレは悪かった。もう言わないで下さい。』
向こうで頭を下げてる勢いだ。

よしよし。

『倫兄の返事が欲しい。直に掛けるの照くさくて……』
一応、番号は知ってるんだ。
照れ照れだな。
周りに人居ないだろうな。残念な顔になってるんだろうな。
兄ちゃん、お前の評価が気になる。

「催促するな。待てないか? 昨日届いたところだぞ」
『まだ見てないの?!』
「お前なぁ……」
『何だよ?』

倫が戻ってきた。

「ちょっと待って」
真司を待たせる。大人しく『待て』が出来ないと、彼女さんが大変だ。

招待状を渡して、話してる途中、驚いたり、顔赤くしたり、苦笑したりと倫の表情がくるくる変わる。

可愛いな。

真司と話してるうちに、朝ご飯温め直すかな。


◇◇◇


さっきから甘い顔で、ご飯食べてるオレを見てる。

やっぱり、さっきの誘ってくれてたんだ。

キュン!
オレにまだチャンスはあるって事だよね?!

でも、優太! 分かりにくいよ!
八つ当たり。

やはり誘惑する気で誘わないとダメなのか?!

んーーーーー!!!!
頭がぐるぐる!
どうする?!


***


下着売り場に足を踏み入れ、回れ右した。
動悸が酷い。

カフェでクリームソーダを突いてる。

作戦会議だ。

安易にエロい下着でと思ったが、短絡的でした。
それに、買うならネットにしよう。

昔はよく入れてたな、オレ。

そう言えば、優太と致してた時は…ロングTシャツ着てた。
手持ちにあったか?
ーーーあるよ。着てるじゃん。

以前の感じで着た自分を想像してみよう。

ーーーーーダメだ。

もう似合わない。
しかも今のアレって、作業着に近い。

でもーーーー着てみるか?
着たら、誘ってる空気感出るかも?

いやいやぁー、既に着てたの見られてる。
腿は出てないけど。

現像作業して出てきた時、会ったよ。
そんな空気は微塵も起きなかったぞ!

アレは仕事モードだったからか?
腿とか出してなかったから?

出したところでエロ…色気は……今のオレには、無いな。
今のオレに、色気か……。

エロさが出る格好……。

昔、雑誌の撮影の時、エロ全面にってのやったなぁ。
あれ、どう表現してたっけ?
あー、ウン十年前の表現は如何なモノか……反対に有りか?

すっかり透明な緑の液体は、クリームが混ざり切って向こうが見えなくなっていた。

ーーーー大胆に?

クリーム炭酸を飲み干しても、なおも答えが出ず、作戦は立案されなかった。



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