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二人っきり
第6話
しおりを挟むあー、楽しかったなぁ。
帰省も悪くない。
優太がいたから楽しかったのかな。
明日も楽しみ。ウフフ。
鍵、鍵…。
オートロックを開けると、自分の部屋の前に。
なんだか久々に帰ってきた気分。
電車で寝たけど、眠いや。
さっさと寝ようっと。
鍵を回す。
カチャンと解錠。
ドアを開けて入る時、ふと視線が下に。足元に吸い殻があるのに気づいた。
あれ?
掃除の人、お休みだったのかなぁ。
オレ、タバコ吸わないんだけど、こういうのは嫌だな。
足でちょんと横に蹴った。後で掃除しておこう。
後ろ手に鍵を閉める。
帰省で戻った習慣。
んーー、はぁー、よく寝た。
実家の布団もいいんだけど、こっちの方が馴染んでる。
どうもお邪魔してる感があった。実家なのに。
こちらの方が帰ってきた気がする。
今の自分はココが拠点なんだと思った。
持ち帰った汚れ物の洗濯準備。
今日は帰らないから部屋干しの準備もする。
自分の持ち物と雰囲気の違う下着が出てきた。
優太とこで借りたパンツ。
洗濯して返す?
新しいの買って返した方がいいな。
洗濯機をスタート。
行く前に買おうか。
お泊まり準備。
ゲームも持ってこうっと。
るんるんで洗濯物干したり、支度してた。
玄関で物音がした。
ん?
誰か来たのかな。
スマホをチェック……何も来てない。
来る前はみんな連絡くれるしな。
あっ、鍵掛けてたんだ。…開けにいく?
……気分じゃないし、放置でいいか。
なんて考えてると、ドン!と音がした。
!!!
びっくりしたな。
ドアを叩いた?
アレは蹴ったよね? ね?
……怖い。
そーっと玄関に向かう。
ドアスコープで様子を伺って、驚いた。
あいつがいた。
ソリが合わなくなって、避けてたヤツ。
何で?
何なの?
『居ねーのかよ。使えねぇな!』
またドン!とドアが振動する。
うん、蹴った。
ドン!は蹴った音でした。
ジャリっと音がして足音が遠のいて行く。
行った……よね?
怖かったぁぁ……。
何だったんだろう。
早く出掛けよう。
さっさと支度を済ませる。
そーーっとドアを開けて、外をキョロキョロと伺って居ないのを確認すると、施錠して出口を目指す。
玄関先にあった吸い殻はあいつのだったんだ。
さっきも捨ててったみたいで、踏まれた吸い殻があった。よく見たら、他にもいくつか同じのがあった。
留守の間来てた?
駅に向かった。
電車に乗る頃には、怖かった事はすっかり忘れていた。
優太のホットワインで頭がいっぱいになっていた。
どんなのだろうなぁ~。
そうだ!
次の駅にあるショッピングモールに寄って、優太に返す下着とツマミとお菓子…買おう。
優太って対戦モノのゲームって久々じゃないかな。
◇◇◇
今日になった。
部屋の掃除、その他諸々終わりました。
冷蔵庫にあったモノで適当に作ったのも、冷蔵庫に突っ込んである。
昼過ぎに倫がここに来る事になってる。
来たら、一緒に買い出し予定だが、俺大丈夫だろうか。
昨日、風呂でヌいてしまった。
男だから、普通に、ヌキたい時だってあるよ。あるけど。
昨日はいつも違って、指の感覚が、俺が触ってるのに、倫に触られてるようで、気づいたら、倫のあの指を思い出してやってました。止まんなかった。
あーーーーッ、もう!
止まらず続けてやっちゃたんだよ。
顔が熱い。
メガネの下から手を突っ込んで顔を覆う。
罪悪感でいっぱいです。
ズルズルと顔を擦りながら、口元を両手で覆うと昨晩の感覚を思い出して、息が熱い。
妄想の倫とは違って、実際の感触を思い出しながらは、途轍もなく気持ち良かった。
ーーー良かったじゃない!
いや、じゃないじゃなくて、気持ち良かったのは良くて。
あー、もう! そういう事でなくて!
セットしていた髪を掻き乱した。
妄想が妄想で収まらなくなってる気がする。
マズイ。
とーーーーッてもマズイ。
もうすぐ、倫が来る。
あーーーーーッ、来るんだよぉ。
◇◇◇
ちょっと早かったかなぁ。
ピンポーン。
軽やかな音。
ん?
連打はダメかな?
んーーーーー……エイ!
ピンポーン。
もう一回!
ピンポーン。
カチャ…ン。
なんか音が重い?
出てきた優太が、なんというか……色っぽい?
髪がちょっと乱れてる?
なんか目が濡れた感じで、頬もほんのり赤い?
「調子悪い?」
「大丈夫。ごめん。寝てた」
髪をかきあげる仕草もいつものクールな感じじゃなくて……ドギマギするじゃないか!
ーーードギマギ? なんで?
「お邪魔しまーす」
荷物を置いて出掛ける予定だから、優太の脇をすり抜けて上がり込む。
何度か来てるから、勝手知ったるなんとやらで、邪魔にならなそうなところに荷物を置く。
「さ! レッツゴー!」
髪を整え、コートを羽織る優太を見たが、さっきまでのモワンとした何かは無くなってて、いつもの優太だった。
「うん。行こうか」
「乾き物とお菓子は買ってきたよ」
「サンキュ。昼、食べた?」
「あ、まだだ」
「買い物ついでに何処かで食べるか」
二人で出掛けるのは、初めてじゃないのに、なんだか新鮮な気分。
「軽めがいいな」
「了解」
ちょっと買いすぎた。
重いのは、主に酒。
重い物は主に優太が持ってる。
オレも両手が塞がってるから、分担は出来てるよね?
精肉店での揚げ物の匂いに釣られて、メンチカツやコロッケとか買った。
熱々だ。
その出来立ての揚げ物は、オレの片手を占拠している。
ズッシリだよぉ。楽しみ。
これがお昼!
ビールとかを冷蔵庫と今から飲むのとに振り分けながら、小皿と箸を出したりして、二人で分担作業。
湯気で蒸れ蒸れの袋を開けて、香りを楽しむ。
優太は、りんごやワインなどをキッチンに置いてる。
惣菜とかを皿や小鉢に入れて冷蔵に入れたりと買ってきた荷物が次々と捌かれ消えて行く。
昼間っからビール!
背徳感満載!
ローテーブルにコロッケとビール。
小鉢の惣菜がいくつか。
いっぱいですな。
ソファを背にラグに座り込む。
「食べよう!」
プシュウと音がしてカリュリュとプルタブを開ける。
コップなんて要らないや。缶のままで良い!
互いに缶を掲げる。
「「乾杯!!」」
カツンとぶつかる。
何に対しての乾杯かなんて、なんだって構わない。細かい事はいいんだよ~。
「くぅうう~」
空きっ腹に浸みるぅ。
まだ熱いメンチカツを一口。
買って正解!
「これ美味い!」
横で優太が笑ってた。
暫くこの揚げ物たちに集中しよう。
◇◇◇
美味しそうに食べてる。
横並びに座ってしまった。
リモコンを手にする。
ルーティン発動。
ザッピング。
ニュースないな。ワイドショーぽいのしかないか。これでいいかな。
「これにするの?」
コロッケに齧り付きながら訊いてくる。
「他のにする?」
「じゃあ、こっち。お天気の人が面白いんだ」
リモコンの上で指が数字を探して、ボタンを押した。
決まった番組があるのか。
ザッピングは悪かったな。
おふくろに目が回るって怒られた事があった。
気をつけよう。
こんなに日が高いうちから飛ばしたらマズイ。抑えて、抑えて…。
台所とかに途中立てばいいか。
このコロッケ美味いな。あの店チェックだな。
倫を目の前にしたら暴走するかと、悩み過ぎて、居眠ってた。
人間悩み過ぎると寝るのか。
いや、ただの寝不足だ。
呼び鈴で目が覚めた。
……そう言えば、倫なんか驚いてた?
だらしない顔してたかな。
気をつけよう。
暴走も余計な心配だったみたいだ。
落ち着いてるよ。隣で飲んでても平気だ。
缶ビール1本でほんのり赤くなってる倫は、上機嫌でゲーム機をセットしている。
対戦ゲームをするらしい。
卓上のゲーム機のようだが、テレビにセット出来るとか言ってる。
「画面大きい方がいいだろぉ」
鼻唄混じりでコードを繋いでる。でも、……手元が怪しいな。
「代わるよ」
横で見てたが、なんとなく分かる。出来るだろう。
「お願ーい」
コードを渡してくると、ビールに手が伸びる。
「倫飲み過ぎるなよ。ホットワインの味が分かんなくなるぞ」
「おっと。ありがとうぉ」
「そうそう、懐かしいスナック菓子あったんだよ」
買い物袋を持ってきた。
「おっとそれから、これ。この前の下着の返し」
繋ぎ終わって振り返ると、紙袋を渡された。
洗って返すにしたら早いな。買ったのか。
「わざわざ……なんだコレ」
「可愛いだろ?」
「チェックとか普通の柄のでいいんですが?」
黒地にピンクのウサギが散らばってた。
俺もアルコールが入って気が緩んでたんだろうか。
トランクスを目の前に広げて、眺めて、倫の腰に合わせて「お前の方が似合うだろ」なんて言ってた。
下着なんて、外から見えないんだから、適当でいいと思うんだが。
「そう? 履いた方がいい?」
その声に。正気になった。
慌てて元の袋に突っ込んで横に置いた。
「ありがとう。貰っとくよ」
「そう? 履いたら見せてね?」
はぁああ?
眉間に皺が寄ったと思う。
「下着なんてわざわざ見せるもんじゃないだろ?!」
「えー、見せたい時あるよ。この前も見せっこしたよ」
息を飲んだ。
衝撃です。危険です。倫さん!
よく今まで無事だったなーーーもしかして、経験済み?
「女の子の下着も可愛いのあるよ。今度一緒に買い行く?」
やっぱり、倫はそっちなんだ。
俺なんて、俺自身がよく分かってないんだよ。
元々、性的なものに淡白だったんだが。
いつからだったか、回ってきたAV見てもムラッと来ない。
ゲイなのかとも思って、そっちの雑誌もAVも見た。
でも、こっちでもムラッと来ない。
勉強にはなりました。
発見はあった。どちらでも倫に似てる点を見つけるとどっちのAVも兆すので、正直、区分出来ない事態に困惑はしております。
つまりは、倫を重ねると、ムラッとしてしまう訳で。何故?
バイなの? ゲイなの?
そして、考える事を放棄した。
倫だけでいいよ。
「機会があればな」
ため息混じりに返す。
「バレンタインの返しとか? いやーん、エッチィ」
きゃっきゃしながら、コントローラを渡してくる。
昔よく食べたスナック菓子をパーティ開けして広げる。
おや? コレ昔した事あるような。
思った感想を伝えると、リメイクらしい。
じゃあ、コレ出来るかな。
うろ覚えのコマンドを打ち込んでみた。
「お! 発動した」
「えー、優太。上級者かよぉ~」
スナック菓子を頬張りながら、ブーブー言ってる。
「これしか覚えてねぇわ。ヨシ! イケる。コイ!」
パンツの事もセクシャルの事もすっかり明後日に飛んでった。
気づいたら、薄暗くなってた。
ゲームからテレビに切り替える。
「風呂入れてくるわ」
部屋の照明のスイッチ入れるついでにバスルームに向かった。
戻ってくると、空になってた缶や器が片づけられていた。
気分が上がる。
風呂が溜まるまでの間に下準備だけしとくか。
「片付け、ありがとう」
いつもは小鍋なのだが、ちょっと大きめの鍋。
りんごとオレンジと料理にも使える赤ワイン。
ワインは、ちょい良い物を買うつもりだったのだが、倫がいつもで良いって言うからいつもの買ってしまった。
シナモンスティックにスターアニスとクローブのスパイス系を並べる。
「簡単なの?」
「この前のとはちょっと違うな。折角だから、ちょっと本格的。でも、難しいもんじゃないよ」
「優太がこの前飲んでたのがよかったなぁ」
拗ねた口調が可愛くなって、吹いてしまった。
「分かった。これが気に入らなかったら、それ作るよ」
オレンジとりんごを洗う。オレンジを拭いてたら、倫がりんごを拭いてた。
キッチンに倫と並んで何かするなんて、夢みたいだ。
ルームシェアの話、覚えてるだろうか。覚えてるかの話をすると喧嘩の話に触れるから、話は振らないが。したいな……。
オレンジの皮を削ぐように剥いて、鍋の中に落として行く。
白いボールになったオレンジを絞って果汁を。皮付きのオレンジは輪切りに。
それらも鍋へ。
りんごをまな板へ。包丁を当てがい…そろそろ風呂溜まったかな。
「倫、先に風呂入っておけば?」
「一緒に入る? 真司くんと一緒に入れなかったじゃん」
あの時は勢いで入ろうとしてしまったが、俺もチャレンジャーだね。
「後で入る。シャンプーは…」
説明しないとな。初めてだな。
手を拭きながら、ユニットバスに向かう。
トトトと、後ろから倫がついてくる。
ゲームしてる内にアルコールが多少は抜けたみたいだ。
鼻唄でも聞こえそうな雰囲気のまま、説明を聞いてる。
「分かった!」と笑顔。
キッチンに戻った。
りんごは縦に四つに切って、芯を取る。
皮付きのままイチョウ切りに。
鍋の中に切った端から入れていく。
シナモンスティックなどのスパイスを入れて、砂糖を入れて、ワインを注ぐ。
そうそう、親父に貰ったブランデーも入れよう。
火にかけて、極々弱火にした。
調理器具を片付け終わった頃、ホカホカの倫が上がってきたようだ。
俺も入るか。
手のオレンジの匂いをとりたい。
顔を上げて、びっくりした。
「り、ん……」
淡いピンクというかクリーム色に近いのか?
モコモコのウサギがいた。
「コレいいだろ?」
フードに付いた垂れ耳を持ち上げて、ピョンと跳ねてる。
素材は同じモコモコだが、下は普通にズボンの形だ。上はちょっと長め。
「ルームシューズ持ってきたら、完璧だったかなぁ」
「それ以上可愛くならなくていい」
額に手を当てて、くらくらするのを抑えた。
鍋のアルコール所為なのか、思考の混乱からなのか分からない。
「やった。優太に可愛いって言ってもらった」
ムフフと笑ってる。
風呂上がりのビール飲んでる。
ウサギが腰に手を当てて缶ビール。
なんだこの光景。クラクラする。
「風呂入ってくる」
可愛いって何なのだろう。
可愛いが迷子。
倫はどんな恰好してても可愛い。
地が可愛いんだから、何もそんなに可愛いに拘らなくても。
風呂でそんな事を考えて、性的な何もかもが吹っ飛んでた。
風呂から上がると部屋に香りが充満してた。
換気扇回してたんだが。
「倫、そろそろ出来る」
「おー」
「好きなマグ持ってきてくれ」
「コレとコレ」
大きめのマグを棚から出してきた。
チーズとかオードブル的なのを出した。
俺はパジャマ代りのフリースのルームウェア。楽だからコレでいいんだよ。
さて、飲み会の再開。
「倫、御所望のホットワイン」
「んー」
不満? 反応が真司なんだが。
真司って大きくなったら、倫みたい?
いやぁ、ないな。
「熱い?」
そこ?
「それほどでも」
「優太、火傷した」
「あー、マーマレード入ってないし大丈夫」
「そっか」
フーフーしながら飲み出した。
味見した。悪くなかったんだが。
「へー、美味しいね」
良かった。
◇◇◇
優太のおでこ隠れてる。
前髪長かったんだ。
オレはカッコイイはないから、可愛いを目指してみたけど、最近それも違う気がする。
高校ん時とは違うし、分かってるんだけど、女子ウケも良いから、このままの路線。でも、なんか違う気がしてきてるんだよな。
そう言えば、部屋の中でこんなに長い時間、二人っきりで優太といた事ってなかったな。
優太はカッコイイよな。
「優太、カッコイイよな?」
変な顔~。
「酔った?」
心配そうに訊いてくる。
確かに酔ったかも。悪酔いしてる感じはないけど。気分は良い。
結構、飲んだな。
鍋のホットワインは空になった。
今は優太が作ってくれたカクテル。
ワインとビール合わせたモノ。
ちゃんとカクテルの名前もあるらしいが、美味しいから別にいいさ。
◇◇◇
「可愛いやめよっかなぁ」
倫は、なんちゃってカクテルをチビチビ飲んでる。
「倫はそのままでいいよ。格好なんて関係なく可愛いよ」
「優太って、全然さ、可愛いって言ってくれなかったよな」
「そんな事ないだろ」
アルコール度数は低いけど、もう結構飲んでる。そろそろ切り上げるべきかな。
俺も残り物でカクテルもどき作って、飲んでた。
「この前から言ってくれるようになったけど、言わせてる感じだし。ーーー高校ん時とか周りは可愛いって言ってくれてたんだよ」
「そうだったな」
「優太、ずっと一緒にいるのに言ってくれなかっただろ?」
はて? 言ってなかったか?
じっと見つめてくる。
絡み酒か? 違うな。酔ってるけど真剣だな。
どう答えるべきか……。正直に。
「可愛いってずっと思ってたよ。合格発表のあの時からずっと」
俺も酔ってるな。こんな事言うつもりはなかった。
「え……」
引かれた?
ええい、ままよ!
「高校の時は、真司に思う可愛いと同じだったと思う。いつだったかな。また連絡取れるようになってからかな。前より可愛いと思ってる」
俺、何を告白してんだ。これ告白だよな?
ほら、倫が固まってるじゃん。
あー、酒が悪いのか? 時間か?
「オレさ。最近さ。女の子とエッチしてても、気持ちいいんだけど違うんだよ。女の子可愛いんだけど、オレなんだか可愛くないんだ」
つらつらと倫が話してる。その話、その告白聞きたくなかった……。
「この前、四人でしてみたんだけど、やっぱしっくりこないんだよ。気持ちいいんだけど」
膝抱えて、小首傾げながら、可愛く、ポツポツ話す。
「四人?!」
数字に反応してしまった。混乱してきた。
「カップルで見せ合うやつだよ。乱行じゃないよ」
いやいや、それって、乱行では?!
頭の中を酔いだけじゃない何が駆け回ってる。
「付き合ってる子が居るのか?」
「いない」
「別れた?」
俺は何を訊いてるんだ。
「その場だけ」
み、乱れてる。倫さん……。
「それ嫌になって、辞めたんだけど」
「辞めたんだ」
ほっとした。
何を聞かされてるんだろう。
「オレ、可愛い?」
脈絡がわからなくなってきた。
何なんだ。
なんの告白大会?
酔ってるな。
もう、何を求められてるのか分かんないが、俺が思ってる事を伝えないといけない気はする。
「倫は、そのままでいいんだ。俺が可愛いとは思ってる倫は、自分にも他人にも真っ直ぐで、素直なところ。信念があるところ。進路は自分のものって言った倫は可愛くてカッコ良かった。
格好が可愛いもいいと思う。
それは、倫がコレと思ってる恰好だから、可愛いんであって、外見が可愛いってのとは違うんだよ。
その……ナニを…してた自分が可愛いとは違うって思ってた時の倫は、可愛いくなかったんだと思う。
その時の倫を見てないからなんとも言えないけど……」
めっちゃ喋った。
俺史上初かもしれない。
「オレがオレじゃなかったて事?」
「そうかもな」
喉乾いた。
水が飲みたい。
麦茶が目について、手を伸ばす。
掴むと一気に呷った。
あれ? なんか変……。
鈍ってる喉が焼ける。
倫がビール飽きたって言うからワインをビールで割ってカクテルぽいのを作った。
香り付けにブランデーを使おうかとコップに入れて、使わずに放置していたのを思い出した。
そんな量はなかったけど、摂取済みの酒量から考えたら……。
「今のオレは?」
「めっちゃ可愛い。好き……」
やっぱり、回った。
プツンと意識が途切れた。
◇◇◇
優太が沈んだ。
『めっちゃ可愛い』って!!!!
言ってくれた!
可愛いって褒めてくれた!
沈むちょい前、なんか言ってたけど……ま、いいか。
転がってるコップを机に戻す。
重くて運べそうにないな。
仕方なく膝枕して、残ってたカクテルを飲んでた。
オレってカッコよかったんだ。その要素ないと思ってた。
進路って事は、高校の時の話かな。
自分が自分である事。
あー、そんな精神で動いてた気がする。
今のオレってどうよ?
そっかー。
ブレてたから可愛くなかったのか。
やっぱ、優太はかっこいいわ。
可愛くあろうとか、かっこよくあろうとか、男らしくとか、そんなのいいんだよな。
オレがオレらしくあったら、それでいいんだ。
スッキリしたら、眠くなってきた。
手元のグラスも空になった。
んー、この机の上、片付けたい。
優太を放置して片付け始めた。
鍵っ子でひとりっ子のオレはなんでもひとりでやってた。手が回る人間がやるべきだから。
でも、そこはオレ的な感じで、分別までだったりする。えへへ。
洗い物は明日でいいだろ?
ゴミはゴミ箱へ。
机拭いて。
割とスッキリ。
毛布は、何処かなぁ~?
ふわふわしたまま、寝室から引っ張ってくる。
優太を突いてみるけど、起きない。
メガネを外してやる。
ムフフ……可愛い。
ローテーブル退けて、毛布広げて、優太を転がして。
簀巻きの出来上がりぃー!
なんか楽しい!
クッションを優太の頭に当てて枕にしてやる。
起きないな。
寂しいぞ。
顔にかかった髪をそっと退ける。
吊り目の目も今は閉じてる。
まつ毛長いな。
オレどこで寝よっかな。
優太にひっついて寝たら、暖かいよな。
真司くんに追い出された時の事を思い出してた。
ソファでと思ったけど、クッション集めて、毛布ちょっと解いて、潜り込んで優太にひっついてみた。
あったかい。
なんか安心するなぁ。
◇◇◇
やば、酒で落ちたのは初めてだわ。
酒の分解酵素は活発で回復は早い方だ。
両親からの遺伝子だろう。感謝。
夜中かな。
モコモコの腕が首に巻きついてる。
モコモコ?
抱きつかれてる?
ココにいるのは、俺と倫だけ。
だから、コレは倫。
油が切れたブリキの玩具のように首を回すと、倫がすやすやと間近すぎる状態で寝てた。
俺、倫に告白してしまった。
聞きたくもない話も聞いたけど……。
それで倫を嫌いになったりする気もないし、そんな起きる気配すらない。
どんな倫も好きだ。
倫は倫だ。
俺は倫が好きだ。
◇◇◇
朝だ。
ベッドで寝てた。優太の。
優太が居ない。
あんなに飲んだのに、頭も痛くないし気分もイイ。
モコモコの袖を見てて、急に色褪せて見えてきて、さっさと着替えた。
「おはよう」
朝ご飯を用意してた優太がおはようって笑ってる。
お粥と昨日の残り物が並んでた。
◇◇◇
倫が元気に帰って行った。
昨日の告白大会は触れられなかった。
なんとなくスッキリした倫を見てたら、何か思う事があったのか。
何はともあれ、元気が一番。
一週間、ほとんど一緒だった。
明日はどうする?って過ごすのは楽しかった。
もっと、もっと二人で、二人っきりで過ごしたい……。
===============
『守りたい。』へ続く。
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