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二人っきり

第5話

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家を出れたのは、真司しんじが学校から帰った後だった。

駅まで付いてくると頑として譲らない。
りんは別の駅だからココには居ないと言っても聞き入れてくれない。

帰って来るまでに出れたら良かったのに、細々とした雑用をしてたら、なんとなくこうなってしまった。

たぶん、居ると思ってるのだろう。

仕方がない。
電話をしてみるか。

あと少しで駅だ。
ほら、駆けて行ったよ。

出た。

ホームだと言う。
電車乗る前か。
ちょっと真司と話して貰う事に。

ビデオ通話にする。

楽しそうに話してる。
またねって手を振って、元気にスマホを返してきた。
画面が黒い。
乗ったのかな?
俺も行かないと倫の乗った電車が来る。

「真司まっすぐ帰れよ」

もう用はない!とでもいう様に「行ってらっしゃい!」と笑顔で手を振ると一目散に駆けて行った。
相変わらず、足が速い。
アイツも陸上やるようになるんだろうか…。

電車で合流。
慌ただしい帰省になった。
倫はゆっくり出来なかったのでは無いだろうか。

俺は色々疲れた。
資料整理は出来なかったが、それはどうとでもなるからいいのだが。

おふくろの生暖かい視線が何ともはや、こう……何というか、……たぶん、……バレたな。

ん?

おふくろにバレる程度の誤魔化しなら、何故、倫にバレてない?

隣で荷物を整理してる倫を見る。
土産に持たされたらしい。荷物をひとつにしたいようだ。
視線に気づいて、ニコニコと笑顔で応じてくれる。
何?と視線で訊いてくる。

「荷物持とうか?」
「大丈夫。纏まったし。ーーーー優太ゆうた。ありがとな。母さんも父さんもめっちゃ喜んでくれた」
終始笑顔だ。良かった。

「帰り、明日にすれば良かったかな」
「これ以上いたら、もっと!てなりそうだったから、これで良い」
ポスンと背もたれに身体を預ける。

「次の帰省も優太と一緒が良いな」
ニカッと笑って、こちらを見遣ってくる。

急に体温が上がるのを感じた。

あー、抱きしめたい!
妄想じゃなく、直接!
あー、ここ電車! 公共の場!
変態行為は犯罪。
これは、友情行為?
ダメダメ、抱きついたら、今の俺、何かしそう……。

脳内で理性と欲望が激しくぶつかり合う。

片手で顔を覆う。
メガネが邪魔だ。

顔が熱い。

外すと内ポケットにしまった。

両手で顔を覆うと、両肘を膝に肯定して下を向いて固まった。
落ち着け、俺。

「優太?」
倫が心配そうに、身体を寄せて、囁く。
小声なのは、電車だからで、やましい気持ちの俺のとは、全然違う訳で。

「大丈夫」
全然大丈夫じゃないんだが。

「次の乗り換えでゆっくり出来るから、もうちょっと」
肩を優しく摩ってくれる。

「ごめん。もう大丈夫」
ちょっと落ち着いた。

落ち着かせた。

主にアレを。


◇◇◇


優太が隣の席で、頭からコート被って寝てる。
ここからは暫く座りっぱなし。
スマホのゲームを立ち上げた。

窓の外は夕闇に包まれつつあった。

呼ばれた気がして隣を見る。

ちょっと動いてるみたいだけど、寝てるよね?

『呼んだ?』と訊くのは、起こし事になるかも…。

優太に耳を寄せる。

オレを呼んでる?
寝言?
夢までオレと一緒?
なんだろう……。嬉しい。

スマホを閉じて、ポケットにしまった。

コートから出てた手を触ってみた。
指、長いのな…。

つつーーっと節の出た長い指をそっと辿った。

ピクッと動いた。

動きを止めて、様子を伺うが起きた感じはしない。

楽しくなって、手の甲に手を乗せてみた。

お?
背丈はそれほど変わらないから、手のサイズも変わらないと思ったのに、指が長い?
ちょっとジェラシー。

ホントに?

指の間に指を入れて、合わせてみる。
やっぱり長い?

あっ、手の平合わせて測った方が分かりやすいか。

そっと手を返す。
力が抜けてる。
寝てる。

コートがずれて、髪の毛が見えてる。
顔が見たいな。
メガネにコートが引っかかってるみたい。
したまま寝ちゃったのか。
コートずらしたら、起きちゃうよね。起こしたら悪い。

あっ、指、指。

手首のところ合わせて、手の平を…ここもちょっと優太の方が大きい?
じゃあ、指の長さ比べるんだから、指の付け根を合わせて……あー、ちょっと長い。

手の平の分と合わせると、長いってなる訳か。ちょっとちょっとの積み重ね。
スッキリしたけど、ちょっと腹が立つな。

手の平を合わせてると温かい体温を交換してるみたいで、なんか変な気分。

指を絡めてみた。
恋人繋ぎ?

慌てて手を離した。

顔が熱い。

窓へ身体ごと向きを変える。暗くなった景色が飛ぶように流れている。


◇◇◇


倫が遊んでる。

さっきまで、高校の時の倫の夢を見ていた。

俺は何故か中学生だった。
詰襟で動きを制限されてて、姿勢を真っ直ぐに倫を見てた。
呼びかければ、ニコニコ笑顔の倫が振り返る。

手を繋いで、俺は背伸びをして、何とか倫にキスしたくて、背伸びして、頑張ってるんだけど、届かない。

倫に屈んで欲しくて、呼びかける。

手が熱い。

目が覚めたら、倫が俺の手で遊んでた。

頑張って力を抜いて、コートの隙間から観察していた。
手のサイズを比べ測ってるみたいだったが……何故指を絡める?

手を握り返しそうになった。

恋人つなぎ?!
この状態にボンと体温が上がった。
マズイ!と思ったタイミングで、サッと手が離れた。

ドドドーーーーッ!
全身が心臓になったみたいだ。

どうして!?
倫、何を?!
手のサイズ比べてただけだよね?!
絡める必要あった?!

たぶん顔は真っ赤になってる気はするが、倫の様子が気になって、コートを少しズラした。

倫の背中が見えた。
窓の外を凝視してる顔が映ってる。
こちらには気づいてないみたいだ。

倫の耳が赤かった。




「明日ウチで宅飲みという事で。泊まるつもりでいるんだろう? 支度して来いよ」
声が上擦らないように気をつける。

「うん。そのつもりぃ~」

明るい声。少し安心。

「「じゃ!」」

お互いにスッと手を挙げるとそれぞれの方角へ。

夜風に吹かれて、ぶらぶらと帰る。
色々荷物が増えてた。
おふくろ、何を入れたんだ?

別れ際なんだか二人して視線が合いにくかったな。

あの後、俺は寝たふりを続行して、何とか気持ちを落ち着けて、やり過ごした。

完全に落ち着いた時には、降りる駅が近づいてて。
コートから顔を出したら、窓を向いたまま倫が寝ていた。

起こして、バタバタ降りて、別れた。

頭の中整理したいが、何を整理したいのか分からん。

ーーーー混乱してる。

手を見てた。
指に倫の感触が蘇る。

自分の指に唇が触れていた。

倫の指に口づけしてる気分だった。

明日ーーーー大丈夫だろうか。


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