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二人っきり
第4話
しおりを挟む緊張する。
倫が家に遊びに来る。
正確には、CDを返すというミッションを行なうだけだ。
駅で待ち合わせる事にした。
緊張で手汗が……。
改札で待ってるが、西口改札って送ってたが…。色々考えてしまう。
メッセージをチラッと確認。既読と返信もある。
大丈夫。
おふくろが家に居てくれるとかで、お茶菓子用意していた。
お茶菓子のストックを見て、真司の友だち仕様ばかりだとぼやいていた。
「買ってくるわぁ~」
上機嫌に買い物に出掛けて行った。
それでもいいんだけど…と言いたかったが、嬉しそうなのでそっとしておいた。
真司は夕方早めに帰って来るらしい。
駅の大きな時計を見る。
昨日、帰ってからCDを探したが、直ぐに力尽きて寝てしまった。
真司と遊んでから始めたのが敗因だな。
疲れが溜まってたか。
さっきまで、思いつくところは探したが無かった。
あと思いつくのは、一箇所。
これでなかったら、弁償しよう。
あの頃、頭にきてたから、倫に関する物を全部何かに突っ込んで、奥のどこかに突っ込んだ気はする。
なんだか喧嘩した後あたりの記憶が曖昧なんだよな。
捨ててない気はするんだけど、何処に仕舞ったんだか。
怒りで頭が真っ白になってた気がする。
「優太ぁ」
倫がトトトと駆けてくる。
可愛い…。
今日も可愛いを堪能したい…。
いつものダボっとした格好だ。
昨日は一応考えてたのか。
「CD見つかった?」
第一声がそれか。目的だからな。
進捗は送っていたが、報告は大事だからな。
「あと一箇所探す。今のところ無くて…ごめん」
「ふーん、優太にしては珍しいよね」
「無かったら弁償する」
キョトンとしてる。
何故、キョトン?
こちらが戸惑った。変なこと言ったか?
「弁償なんていいよ。見つかんなかった時はそん時。縁が無かったて事だよ」
いつものニコニコ顔で言うと、袖を引いてきた。
「優太ん家どっち?」
右、左とキョロキョロ。
早く連れてけとグイグイ強く引っ張り出した。
「分かったって! こっちだ」
袖を掴んだまま着いてくる。
か、可愛い…。
心の写真を撮りつつ、僅かに伝わってくる体温に、悦びを噛み締めていた。
「優太は筋肉痛とか大丈夫?」
袖を掴んでた手を離して、腕を掴み直してきた。
一瞬離れた時に萎んだ気分が、即復活!
腕ですか?!
布越しですが、温もりが…善き。
でも、なんだか近いな。
ーーー何故?
もしかして……。
「倫は筋肉痛?」
ちょっと探り。
「うん、ちょっとね。えへへ…」
なんだか重くなってきてないか?
「運動とかしないのか?」
両手で腕に捕まってきて「昔っから授業以外はしてないよ。ムフフ……引っ張っててくれぇ」と笑ってる。
やっぱり、歩きたくないのね。
高校の時もこんな事あったなぁ。
ぶら下がり出した。
俺は笑えてるかな。
あらぬ妄想が暴走しそうですッ。
不意打ちの接触はやめて欲しい!
「優太、なんか顔赤いーーーオレ重い?」
笑ってる。
「だ、大丈夫」
グッと更にぶら下がって来る。
ズルズル引きずる。
靴がジャリジャリいってる。
「靴削れるぞ!」
「おんぶってぇ~」
ケラケラ笑ってる。
「ただいまぁ」
結局、腕を振り切って、走った。
追っかけっ子みたいになって連れてきた。
抱きついてくる倫と逃げる俺。
なんで逃げたんだろ……。
ヘタレな俺。
なんだかいつもと違う感覚が湧いてきて、引き剥がしてしまった。
「優太、速いよぉ。……ゲホ」
後ろでゼィゼィ言ってる。
マジでちょっとは走った方がいいですよ、倫さん。
「いらっしゃい。ーーー優太、何やったの?」
にこやかに出てきたおふくろが見る間に険しい顔になる。
「いや、えーと、ちょっと運動?」
真司じゃないが視線が定まらない。
「おふくろ、水」
「ハイハイ」
キッチンに引っ込んでいった。
「倫、上がって」
「お邪魔しますぅ」
やっと呼吸の落ち着いた倫が、靴を揃えてついてきた。
テーブルにお茶のグラスが置いてある。
そう言えば、ウチは麦茶が一年中冷蔵庫にあるんでしたね。水代わりに飲んでるんでした。
「ミネラルウォーターなんて洒落た物ないからね」
おふくろが笑ってる。
「客間に持ってて」
「ここでいいよ」
ダイニングテーブルについた。
「えー、せめてリビングにしてよ。台所って。ーーね?」
「僕もここで良いですよ」
僕?
「あら、硬くならないでよ。直に喧しいのが帰ってくるから、普段通りでいた方が良いわよぉ~」
ニヤニヤするおふくろ。
へらっと倫が笑う。
「えへへ。いただきま…あ、ーーー手洗って来る。洗面所どこ?」
グラスを掴もうとして、止まった。
掌を見るとこちらを見て立ち上がった。
そう言えば、俺も洗ってなかったな。
「こっち」
戻って来ると、客間にカステラとお茶がセットされてた。
おふくろの方が固いんじゃないのか?
チラッとおふくろの様子を伺うと、ウキウキしっぱなしだ。
「倫さんって、高校の時からの友達だって?」
おふくろが倫に話しかければ、昨日に引き続き、喋り出したら止まらない倫。
二人で盛り上がり出した。
俺、置いてきぼり。
打ち解けてもらって嬉しんですけど、なんか寂しい。
カステラ食べ終わった。
倫の前からお茶は減ってるけど、カステラ半分しか減ってない。俺早い?
手持ち無沙汰……。
「CD探してくる」
二人は夢中だ。
そっと席を離れて、自室へ。
さてさて、何処なんだよ、CDくん。
部屋は探した。
部屋の中は幾つも蓋の開いた段ボールなどで、ちょっと荒れてます。
引越し直後でもここまでじゃないだろう。
部屋にはないってことか。
段ボールを閉めて、トントンと押し入れにお仕込んでいく。
作業スペース確保して、廊下に出る。
奥に向かって、天井の金具を専用の棒で引っ掛かてひき開けて、階段を下ろして久々に開けた屋根裏の収納庫へ。
ここになかったら、外の納屋だけど、流石にそこには入れないよ。
だから、ここだな。
照明のスイッチ…何処だっけ?
ーーーあった。
おふくろも親父も適当に突っ込むなよ。
えーと、ここに入れる時は、マジックで名前書いてるはずなんだけど。頭きてたしな……。書いたかなぁ…。
どこかな…。
幾つか箱を横に避ける。
ーーーーコレかな?
「おお! なにコレ?! 優太いるの?!」
倫の声。
デカいな。
ギシギシと階段状の梯子が軋んでる。
登って来てるのか?
「すぐ降りるから。そこのドア開いてる部屋が俺の部屋。散らかってるけど、そこで待っててくれ」
ひょっこり顔を出した倫の目がキラキラして、キョロキョロ見てる。
ハイハイ、秘密基地みたいだよな、わかるけど、埃っぽいだけの納戸ですよ?
「ほらほら、降りてくれ。俺が降りれんって」
「えへへ……」
悪びれずトトトと降りていく。
へー、真司でもゆっくりでしか降りれないのに、身軽だな。
ひと抱えある段ボールをココで開けても上の灯りでは暗いので、整理も兼ねて下で見る事にした。
先を行く倫が、俺の部屋に入るなり、キョロキョロ始まった。物色?
ドギマギしてしまう。やましい物はないはずだが。
たぶん、ないはず? 何故疑問形の自分!
「あちこち開けて探してたから、荒れてるけど珍しい物はないぞ」
「卒業アルバムとかないの?」
「そこの本棚にあると思う」
るんるんと花でも飛んでそうな足取りで本棚に向かっていく。
「優太ん家も初めてだけど、優太の部屋も初めて。楽しいね」
「楽しんでくれて良かったよ」
釈然としないモヤモヤが頭を覆う。
広げる前に、そこらに広げた段ボールを全部仕舞ってしまおうか。
小中高の卒業アルバムを引っ張り出して、机に積むと椅子に座って見始めた。
おいおい、高校は同じだろうとツッコミたかったが、倫が余りに楽しそうに見てるので、何も言えなかった。
屋根裏の以外は片付けた。やっと開けた。
やっぱり倫関連のものばかりだった。
倫に見られたら気恥ずかしいので、さっさとCDを探す。
ーーーーーーーあった。
目的の物を取り出すと箱をそっと閉じて、押し入れに入れた。
倫は中学のを見てた。
横に立ったのに気づいてない。
二年の時の体育祭のダイジェスト。クラス対抗リレーに出てたな。写ってる。
「優太ってこの頃から長袖なのな」
「CDあったよ」
問いに答えずCDを差し出す。
「あったんだ! サンキュ…それどうしたの?」
「ん?」
親指の関節付近に血が滲んでいた。
あ、ヤバッ……真司に噛まれたのところ、血が滲んでたか。
今朝、顔洗ってる真司が可愛くて、顔拭いてやるついでにほっぺぐりぐりして突き出た唇を摘んだら噛まれたんだった。
少し動いてしまったので、傷になってしまった。ちょっとミスった。
そんな事を説明も出来ず、困ってると、
「傷残るからちゃんと手当てしないとぉ」
心配気に言われた。
「舐めとけばいいんじゃないのか?」
「マジで言ってるの?」
渋い顔の倫。初めて見たかも。
こういう傷は洗って終わりだった。
薬なんてつけたら、真司の口に入るかもしれないから恐ろしくてつけれなかった。
実家にいる時は、薬は使わない。
ここ以外で怪我はほとんどした事ないから、自分に手当なんてした事なかった。
「救急箱は?」
「下にある」
真司には丁寧に手当てしてたから、中身は充実してるはずだ。
トトトと倫が下に降りていく。
俺がちょっかい出さなかったら、噛まれないだろうから、薬大丈夫かな?
遅れて降りていくと、おふくろが出したのか救急セットがリビングの机に広がってた。
「優太が怪我って珍しいね」
おふくろが呑気に言ってる。
怪我だらけの真司と比べたら小さな切り傷とかかすり傷なんて可愛いものだからな。
「優太ぁ、なんでこんなに充実してるのに手当しないの?」
困惑してる倫。すまん。全部真司の為のものだ。
「弟の為のだから」
「えー、過保護」
「あはは、本人見てそれが言えたらいいんだけどな」
「どう言う事?」
ささっと手を出す!と手振りで催促された。
黙って手を出すと、消毒から始まって傷薬と…手際よく進める。その様子を見ながら、話す。
「とーーーッと走って、ずざぁぁぁッと転ぶと、抉られた傷口に土と小石が入り込むんだよ。消毒液で流しながらそれを取り除かないと傷が塞がらないんだ」
はい、終わりと絆創膏を貼って、俺の話に目をパチクリしてる。
だよねぇ。
そんな馬鹿なって思うよね。そんな派手に転ばんだろうって思うよね。
「ただいまぁ」
ドッスンとランドセルが廊下に転がる音がする。
それが帰って来たよ。
おふくろが手際よく、あっという間に救急セットをしまった。
鋏でも刃物は危険だ。
本人より周囲の人間の安全の為。
「兄ちゃん!」
ほら来た!
ジャーンプ、ドッスンと腕の中。
今日もちゃんとキャッチ。
今まで失敗した事はない!
でも、そろそろやめてもらわないと大きくなったな。
「おかえり。手洗ってこい!」
「はーい!!」
びゅーんと洗面所へ。
倫の事は見えてないようだ。
危険物は前もって片付けるに越した事はない。
「あ! 屋根裏。おふくろ、真司の相手よろしく」
「はいよ」
やばい。
真司に屋根裏見つかったら、うるさい。
さっさと閉めてしまわないと。
慌てて、しかし、静かに二階に上がる。
倫もなんだか楽しそうについて来た。
同じく足音を極力立てずに。
吹き出しそうに、クスクスしてる。
収納庫の梯子と扉をしまった。
これでよし!
「さっきのが真司くんだね」
小声で話しかけてきた。
ぐふふって笑ってる。
「うん。真司」
こちらも自然と小声。
「可愛いね」
あの状況見て、可愛いと言えるのか!
倫、ありがとう。
◇◇◇
真司くんが帰ってきた。
嵐だ。台風が体現してるみたいな勢い。
なんか楽しそうな子!
可愛い!
あれでは生傷は絶え無さそうだ。
救急セットの充実は納得!
忍び足で階段上がるの楽しかった。
下が騒がしい。
お兄ちゃん何処行った?とかなってるのかな?
おや? ポスター剥がれかけてる。
優太の部屋に貼ってあるポスターが剥がれかけてたので、手を伸ばしたら、視界の端で優太がビクッとなった。
ビクッ?
お?……壁に穴空いてる。
「あ、よろけて、手ついたら、脚立倒して穴空いて、親に言うのカッコ悪くてさ」
優太らしくなく、ぐだぐだ言い訳してる。
よく見ると、壁に凹みやキズがあちこちにある。
「思春期は色々あるよねぇ」
ムフフ……
優太にも反抗期あったんだ。
両手で口を抑える。
込み上げてくる笑いが漏れる。
オレの顔見て、頭掻き回してる優太。可愛いな。
◇◇◇
倫……口元を両手で隠してるけど、ニヤけてる目元が。
何が言いたいのか分かるよ。
俺が殴ったか、物投げたと思ってるんだな。
ぐふふって何だよぉ。気持ち悪い笑い声漏れてるぞ。
俺でいいや。
勘違いしててくれ。
真司が癇癪で投げた図鑑の結果とは思わないよな。
小さい身体でも、リミッターが外れるととんでもないとこ出来るんだよね。
瞬間を見ないと分かんないよね、あはは。
「真司くん、お兄ちゃん探してるみたいだし、片付けて下りる?」
「だな」
俺はポスターを貼り直して、倫がアルバムを戻してる。
中学のアルバムを開いてた。
「優太の腕の傷跡ってちゃんと手当てしてなかったからだったんだね」
「え…なんで知って」
「いつだったか忘れたけど、傷跡少し見えた事あって。優太、アームカバーしてたから触れられたくない事なのかなって思って、訊かなかった」
俺は今どんな顔をしてるんだろ。
ヤバい…。
目元が湿ってきた。
「この頃の優太にも会ってみたかった」
背を向けて慌てて顔を擦る。
「行こうか」
後ろでコトンとアルバムが本棚に収まる音がした。
「兄ちゃん! おやつすごいよ!」
「フォーク振らない」
「こんにちは」
俺の後ろからひょっこり顔を出して倫が挨拶する。
真司がフォークを挙げたまま固まっている。
家族と自分の友達以外の人が家にいるのにびっくりしたのかもしれない。
「こんにちは」
ゆっくりフォークを下ろして、胸の前でキュッと掴むと、大人しく挨拶をした。
おふくろと俺は見合った。
いつもの元気はどうした?
「お兄ちゃんの友達の牧野、倫です。よろしくね」
おふくろが横からフォークをそっと取って、ケーキ皿に戻した。
イスから勢いよく降りるとテテテと倫に近づく。
「山田真司です。倫ちゃんよろしくね」
ハキハキ言うと手を差し出した。
握手を求めてるようだ。
握手?!
挨拶OK!褒めるレベル!
だが!
おい!『倫ちゃん』て!
どっからツッコメば良いのやら!
ニコニコ握手してる二人。
ぽやぽや花が咲いてるのが見える。
可愛いんだが! だがぁぁ!!
「真司。兄ちゃんの友達はお前の友達じゃないんだ。倫お兄さんな」
変な動悸を抑えつつ話しかける。
「んーーー」
唸ってる。
不満?
何か悩み出した。握手は続いてる。
ニコニコその様子を眺めてた倫は、屈んで視線を合わせてる。
「言いやすいので良いよ?」
「倫兄ちゃんは?」
「良いよ」
言いづらかったんかい!
真司が頭を撫でさせてる。
させてる?!
「可愛いな」
呟く倫に、にへらと笑う真司。モジっともしてる。
可愛いんだが! だが!!!
いつもの真司は何処行ったぁぁああ!
真司は、握手の手をそのまま握って、引っ張って倫を椅子に座らせる。
自分の椅子を倫に寄せると座った。
横?!
仲良くしてくるのは嬉しいんだが!
俺の指定席を取られた?!
反対側にスペースは無く、仕方なく斜向かいに座る。
おふくろと目が合った。
なんか微妙な顔して見てくる。
「ロールケーキ買ったんだ。美味しそうだね」
棒読み気味に目の前のケーキの感想。
ちょっと白々しいか?
真司にはココアが置かれてた。
俺たちには紅茶を出して、自分も小鍋のをマグに並々注いで座る。
おふくろはミルクティーが好きだ。
俺と親父がコーヒー党で紅茶は辞めてたみたいだったが、買ったんだ。
幸せそうにミルクティーを飲んでる。
真司がいる空間でこんなに穏やかに過ごせるなんて。
俺もおふくろも目を細めて倫と真司を見ていた。
誰に重きを置いて見てるかは、個々に違うが、そこは置いておいて。
可愛いを堪能させてもらった。
真司の野郎、離れないな。
宿題見て!とか、これで遊ぼ!とか言って倫から離れない。
随分と倫を占領してくれる。
夕飯は食べて帰る事になった。
それは想定内だったんだが。
ひっつき虫だ。
「真司ぃ、兄ちゃんも居るんだけど」
「うん! 倫兄ちゃん、これ見て!」
一瞬こっちを見て元気に返事はするが、直ぐに倫に向き直る。
無視されるのには慣れない。
やさぐれてきた。
ううぅ、真司成分が足りない。
ふらふらと真司に近づくと、後ろから抱きしめて、頬を頭にぐりぐり押し付けた。
パンパン腕を叩いてる。
「ヤ!」
真司汗臭いな。
ウーッと唸るとカプッと腕を噛まれた。
ピリッと痛みが走ったが、服の上からだから、血は出てないからいいや。ぐりぐり続行。
ジタバタ暴れてたのが、ピタッと止まった。
腕の痛みが和らぐ。甘噛み?
あーーー、そうだね…。やっちまった。
倫が居ましたね。
馴染み過ぎて、油断した。し過ぎだ、俺。
「真司くん。優太。ここ座って」
リビングのカーペットの上をトントン叩いてる。
倫さん怖い……。
大人しく二人並んで座る。
「真司くん、噛んじゃダメです。優太は、嫌がる可愛がり方はしない」
ごもっとも!
「ごめんなさい」「すみません」
二人して正座でぺこりと謝った。
おずおず倫を見る。倫と目が合う。ニカッと笑った。
「オレも真司くんぐりぐりしたいのに!噛むんじゃ出来ないじゃん」
「「え?!」」
「ぎゅーしてイイ? 優太はそっちから」
返事を待たずに真司に抱きつく倫。
真司笑いすぎ。
倫に腕を引かれて真司を倫を抱きしめる。
ナニコレ!幸せ過ぎる!
「なになに? 私も混ぜなさいよ」
おふくろがキッチンから顔を出して、団子を見ると、仲間に入ってきた。
ふんわりくっついてるおふくろはなんか泣いてるみたいだった。
そう言えば、噛んだ事を謝ったのは初めてかもしれない。
「倫兄ちゃん、一緒にお風呂入ろ!」
え? 風呂?!
もうこんな時間。
「泊まってく?」
既におふくろ客間片付けて、布団の用意してる。
「うん!」
スマホを出して、メール打ってるみたいだ。
「泊まる! お世話になりますぅ」
おふくろに声をかけてる。
おふくろがこっちを見ると、二人はひらひら手を振った。
めっちゃ仲良しになってる!
風呂に俺もと行ったら、真司に追い出された。
パジャマは俺のを着てもらったらピッタリだった。
俺は袖とかがいつもちょっと足らなくて、パジャマだからいいかと放置してたが、これでは、俺の方が借り物みたいだ。
いつの間にか支度した真司が客間に入って行く。しっかりマクラ持参。
えーーーーッ?! 一緒?
どこまで懐いてんだよ。
そして、俺は追い出された……。
なんで?!
渋々自室のちょっと埃ぽいベッドに入った。
暫くすると、控えめなノック音がした。
「優太、寝てる?」
開けると悪戯っ子みたいに笑ってる倫が立ってた。
「昼間広げてたから寝れないかと思って、真司くん寝ちゃったし、客間で寝ない? おばさん二組敷いてくれてるし」
倫の布団に真司が隣の布団に俺が寝る事にした。真司が落っこちそうだったので布団を寄せる。
さて寝るか。
夜中だったと思う。
倫がこっちの布団に潜り込んできた。
真司が大の字で寝てる。
追い出されたのは倫だったみたいだ。
背中に倫の体温を感じつつ眠りについた。
「なんで! 兄ちゃん居るの!」
ゲシゲシ布団の上から蹴られた。
「倫兄ちゃん取らないで!」
朝から元気だな。
俺は両方に両方取られた微妙な気分だったんだよ。
「取ってない。お前の寝相が悪過ぎて、倫兄ちゃんが避難しただけ。俺の部屋ちょっと散らかってたからこっち来た。以上。分かった?」
渋々起き上がって、真司を抱っこする。
「分かった」唇尖らせて言ってもなぁ。
倫がもそもそ動くと俺の腰にしがみついてきた。
寝ぼけてる?
そっと腕を解くと真司を小脇に静か客間を出た。
「兄ちゃん、顔赤い」
「ほら、学校だろ。支度しろ」
おふくろがキッチンから顔を出す。
何か言いたげに、じとーっと見てる。
「顔洗ってくる」
ニヤけてたかも。
学校から帰っても居る?と真司が起きてきた倫に頻りに尋ねている。
確約出来ないから、困ってる。
「倫兄ちゃんホントの兄ちゃんになれば、ずっといる?」
それいいな!
また視線。おふくろがじとーっと見てる。
またニヤけてたか?
生暖かい視線がちょっと居た堪れなくなってきた。
「俺たちも学校行かないと行けないからな。また来てくれるから。な?」
「うん、来る来る! また遊ぼ?」
納得したのか、離れて登校して行った。
今日はゆっくりしてあっちに戻るかな。
倫に提案したら、「ゆっくりはいいね」と決まった。
一旦解散で、昼過ぎの電車で大学の方へ戻る事にした。
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