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飲まれるな

飲まれるな

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違うがなー!

ホットワイン作りながら、フツフツと自分不甲斐なさに悶絶した。

小鍋もフツフツしている。

りんには触りたい。
あんなに近くにいるんですよ?
触りたいんです。

が、しかし!

触るのは、ほどほどにしなければ、嫌われる。

俺は、倫と、両想いになりたいんだ。うん。両想い。

嫌われたら無理だ。

両想い。
ああ、いいなぁ…。

倫とどうにかなりたい……。

仲良くなりたい。もう仲はいいんだが……。
あと一歩…。

あー、ニャンニャンしたい訳では…したい…です。

アカン!

順番な?
いいか、優太ゆうたさんよぉ~。
手順がいるやろ?
レポート書く時と一緒や!

恋人になりたいんですわ…。

きゃ! 恋人って、お兄さん!
照れるじゃん。赤面じゃん。

大きめのマグに出来立てのホットワインを注ぐ。

いい香り。心が落ち着くね。

残り物の寄せ集めとは思えない出来だね。
自画自賛!

ソファに座って、テレビのリモコンに手を伸ばす。

頭の中は今日の出来事の大反省会。
脳内反省会だ。

反省と願望が交錯して、考察も検証もあったもんじゃない。

チャンネルをザッピング。
ここに座った時のルーティン。

ポチポチとボタンを押しながら、自分に確認!

俺に惚れさせてからの告白。
この段取りでしょうがぁ、優太さんよぉ!

そうだよ! 告白するけど、玉砕はしたくない!



公園を散策した後、近くにあった美術館で写真アートの現代美術を鑑賞して、解散になった。

解散になった。

俺的にはさっぱり分からん世界だったが、倫は熱心に鑑賞してたと思う。
詰まらんかったら、ごめん。
あの様子だと大丈夫だと思うが…。

飲みに誘うつもりが、いや、夕飯でもと延ばすつもりが、解散。

解散でしたよ。

解散だったのよ!

ホットワインを啜る。
うん、正解。
ビールって感じじゃなかったんだよな。

アルコールは飲みたかったんだが。

料理で使い切れなかったワインを小鍋にぶち込んだ。
コーヒーのアクセントにと買って放置してたシナモンスティックも入れた。
冷蔵庫にあったマーマレードを合わせた。

ザ・残り物。

作りながら、脳内は忙しくなっていた。

一口毎に体が温まる。

笑顔の倫…可愛かったぁ。

次はいつになる事やら…。

ふぅ……健全なデートでした。

ああああ!高校生かぁあ!

いや、きょうびの高校生でもこんなデートせんわ。
もっと…如何わしい事してるやろ…。

……すいません。知らんです。

俺が高校生時って…何してた? デートなんかした事ない。
倫とゲーセンは行っとった。

とにかく、倫に触っても嫌な顔されんように、じゃなくて、目標は両想い!

俺を好きになってもらうのですよ! ムフフ…。

今日、俺が倫に触っても、舐めても大丈夫だった。
汚いと言われたが、それは横に置いといて。

高校時代に帰った感はあったよ。

うん。いい感じだ。

倫の匂い嗅ぎまくって、なんかすっ飛ばしそうになってた。
妄想のまま突っ走りそうに…否、走りました。反省。

おー! 反省じゃい!
反省だぞ!
アカンやん!
もう泣きたい案件やん。
馬鹿やん、アホやん、俺ぇぇぇ…。

妄想、封印な。
もう! ナシ!
NO妄想!

本物の倫がおるのに、妄想に浸ったら、何処で湧き出て来るか分からん。
危ないって!

暴走したら取り返しがつかん。
今回はなんとか?
頭の中の俺がヘッドバンキング並みにブンブン激しく頭を振る。

無視した。

取り敢えず、なんとかなった。なったが、今日みたいな暴走は阻止せねば。

ん? 電話?
卓上充電器の上でスマホが振動している。

牧野 倫まきの りん
画面に表記された名前に慌てて出る。

『あ、優太? 今忙しい?』
「いや、大丈夫。…何?」
『えーと、今日楽しかったなって思ったらさ。電話したくなっちゃった』
電話口で笑ってる。
テレビの音も聞こえてるから、部屋でゆっくりしてるのかも。

リラックスしてる部屋着の倫…良い…尊い。
風呂上がりだったりするんだろうか…アカン! ダメダメ! NO妄想!

手のマグをクイっと傾け、しまったと思ったが、後の祭り。

熱いです。

『どうかした?』

心配そうな声に黙っててはまずいと取り敢えず現状報告。

「ひた、やへどひた」

なんで思いっきり口に含むかな。マーマレードが熱かった。

『はぁ?』
だよねぇ。分かんないよねぇ。
顔が見れてたらな。
「舌を火傷してしまった」
やっと発音できる。舌重要!

『どうして?』
なんか呆れてた倫さんの声。

シュン。
悄気ました。
カッコ悪いですね。

「ホットワインを入れてたのを忘れてコーヒー飲む感じで飲んじゃった」
凹んだまま説明してると、弾んだ声が返ってきた。

『ホットワイン!』
「うん、ホットワイン」
『どこで呑んでるの?』
「部屋」
倫さんめっちゃ声弾んでる。どうしましたか?
『売ってるの?』
そう言えば、ホットワイン専用のとかあったなぁ。
「自分で作った」
今度は火傷しないように飲む。
『へ?』
「え?」
およ? なんで驚く?

『…作れるの?』
「作れます、よ?」
なんか予想外な返し。作んないの?

『飲みたい! 作って!』
更にテンション高くなる、倫さん。
ハイ! 喜んで!
高らかに、心が高揚する。
しかし、ここは倫のテンションに飲み込まれないように落ち着いて。

「うん、いいよ。材料さえあれば、倫も作れるけど?」

『えー! 優太が作ってよぉ~』
あれ? 
倫ってこんな言い方するやつだっけ? 酔ってる?

「作りますよ。あり合わせじゃなくて、林檎とか入れてちゃんとしたの作ろうか? なんちゃってだけどね」
『おぉ! 今度優太んち行っていい?』

なんと言いましたか?! ウチ来る?!
モチのロンですよ!
歓喜の歌声が聞こえる。

「今度、宅飲みしようか?」

落ち着いた声出てるか?
心臓バクバクなんですが。

『よっしゃ! ゲームとか持ってこうか?』
浮かれた倫の声。

あれ? 宅飲みの約束しちゃいましたよ。
およよ?
あれれ???

その後たわいない話をしてたら、あっという間にいい時間になってしまった。
これ以上は明日に差し支えるかな。

作ったホットワインも空になってそろそろ電話を切り上げようかと思ったが、倫もこっちの様子に察したみたいなのに切り上げてくれない。
名残り惜しそうにして延ばしてくる。なかなか切ってくれない。
どうした?
こんな駄々っ子みたいに甘えてくる事あったか?
なんかおかしい…。

「倫? 眠い?」
あ、これって真司しんじだった。

真司は眠くなると子猫みたいにぐずって甘えてくる。可愛いんだよ。
ハッ! 今は倫!

『んー? あー、オレも飲んでたから酔ってるかも?』
「呑んでたんだ」
『うん、冷蔵庫にあった酎ハイ。誰かが置いていったヤツ』
倫のとこはよく人が集まるのか?

「誰かって、鍵とか大丈夫?」
『してないよ?』
なんと言いましたか?
え?何?! 鍵掛けてないのか?

ケラケラと笑って空の缶が落ちた音がした。

えっ?! 倫さんご機嫌ですが、鍵重要! 防犯上必要! 危ないですよ?

「大丈夫だって。オレ男だし、取られるものも無いし」
今時男とか関係ないし。不用心。
特に俺とか。

ヨイショって。
何かを拾い上げてる? 落ちた缶?
『およ? ドシュウ…ちゅよいな。どおりでまわりゅわけでしゅねぇ』

なんか怪しい声が聞こえてきた。呂律まわってない?
「倫?」
『ゆうたぁ、ねりゅぅ』
か、かわゆい…。
「あ、おやすみ…」
トゥルンと切れたスマホの画面を眺めていた。

妄想の中で、蕩けた倫さんが腕を絡ませてくる…。
あああああああ!
倫さん、宅飲み楽しみです。ハァハァ。

ハッ!
こ、こんな邪で大丈夫か?!

順番だよ、優太!
NO妄想!


◆◆◆


帰ってきちゃったよ。

ご飯にでも誘えば良かったのかな。

もやもやした気分のまま浴室に向かう。

身体はサッパリしたが、もやもやが晴れない。

冷蔵庫を開けたら、覚えのない缶酎ハイが入っていた。
この前集まった時の余りかな。

しっかり温まった身体のは冷たい飲み物も悪くないか。
部屋も空調がいい感じにかかってる。おこたでアイスと同じだな。

テレビをつけて、チビチビ飲み出す。

ちょっと辛いな。

お笑い番組か。漫才やってた。
テレビの中の笑い声が響く。

楽しかったんだけど、優太なんか変わった?
変わったのは、オレ?

首元を無意識に摩ってた。

クスッと笑いが込み上げてきた。
優太の鼻くすぐったかった。
感触まで思い出す。

スマホを手元に引き寄せる。
充電コードがくっついてくる。

写真をツイツイと繰っていく。
優太がキョトンとしてる。
今度は笑顔の優太を…。

可愛いな。

電話帳を立ち上げる。
優太にコール。

「あ、優太? 今忙しい?」
なんとなくかけちゃったよ。

『いや、大丈夫。…何?』
楽しかったって伝えて、次の約束しよう。それだけのつもりだった。
どこ行こうかな。ワクワクしてきた。

今日のアート展の話とかしてると、電話の向こうでウッとか言ってる。
呻いてる?
心配になる。

「どうかした?」

心配なんだけど、頭が少しふわふわしてきてる。

『ひた、やへどひた』
「はぁ?」
ふわふわしてるからか?
何言ってるか分かんない。

『舌を火傷してしまった』
なんですと?
「どうして?」
びっくりついでに缶を呷る。

『ホットワインを入れてたのを忘れてコーヒー飲む感じで飲んじゃった』
なんと! オシャレ単語が出てきた!
今日なんとなく思ってたんだけど、優太って案外オシャレさん?
黒のハーフコートもスマートだったし。オレはダッフルだったし。高校生に未だ間違えられる時あるし。

「ホットワイン!」
単語がテンションを上げる。
『うん、ホットワイン』
「どこで呑んでるの?」
『部屋』
部屋は分かってるよ。テレビの音めっちゃ入ってるし。

売ってるやつかと思ったら自作! しかもあり合わせとか言ってるし!
飲みたい!
オシャレ優太さん、飲ませて下さい!

で、宅飲みの約束を取り付けた訳だが、さっきからふわふわが止まんねぇ…。

あ、空になっちゃった。
冷蔵庫からもう一本。

他愛もない話を取り止めもなく続けてた。

約束取り付けれたんだから、もう切り上げてもいいのに、電話切りたくない。

優太ともっと話したい。

あれ? ふわふわがぐるぐるになった?
およよ?
優太が眠いのか?と訊いてくる。
オレ、眠いの?
手元の缶を見てぼんやり思った。
酔ってるのか?
二本目もかなり空けてた。

「んー? あー、オレも飲んでたから酔ってるかも?」
『呑んでたんだ』
呑んでましたよぉー。

なんか鍵がどうとか言ってるけど、優太が慌ててるのが面白くて、笑いが込み上げてきた。
空の缶に手が当たった。
カランカランと派手な音を立てる。

もう!と腹が立って勢いよく拾いに行って回った。

おおおお?!

拾った缶のアルコール度数を霞む目でじーっと見てると思ってた以上の度数でした。

「およ? ドシュウ…ちゅよいな。どおりでまわりゅわけでしゅねぇ」
独り言のような呟きの実況。

ああ、回るわ。

優太が焦った声で呼んでるが、声、遠いな。
ダメだ。寝よ。

「ゆうたぁ、ねりゅぅ」
取り敢えず言えた。
電話も切った。
スマホも机の上に置けた。
フラつく足取りでベッドへ。

誰だよ。あんなキツイの置いってたのぉぉぉ。



翌朝、頭痛で目が開けれませんでした。

酒は飲んでも飲まれるな。

あと度数チェックもお忘れなく。



============

『二人っきり』へ続く。
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