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いつの日か

第4話

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何も変わらない画面。

朝のコーヒータイムは、いつもの画面を見ながら過ごすのが習慣になった。

何も返ってこない事に悶々とする。

俺がぼんやり送ってしまったメッセージは、既読のまま。

変わらな過ぎる画面に苛つきさえ覚えた。

「なんで、なんも返さないんだよ…」
変わらない画面に語りかける。

嫌われる!と唐突に怒りが湧いてくる事もあった。
ひとり怒っていた。
相手の様子なんて分からないのに。

彼が、自分と二人だけのメッセージアプリのグループから抜けてないのは、自分と繋がりが欲しいんだと結論付けたりして、嬉しくなったりしたりもした。

不安定だ。

度々感情がくるくる変わると感じていた。

とっても不安定だ。

自覚してる。

最近睡眠は摂れてるはずだが、朝早くに目が覚める。
そのまま走りに出てる。

体重も戻ってきた。運動部現役の頃に比べたら全然だが、身体は軽くなった。

自分がグループを抜けてないのは、ただ忙しいのとりんの名前を見るのも嫌で手付かずにしていただけだったのに。自分の事は棚上げ。相手もそうかも知れないじゃないか。

倫が自分を今でも好きなんだと思うと心が落ち着いた。

「いい加減照れてないで返せよぉ」
泣きたい気分だ。
恋しい。

俺、いつまで待ってるんだろ。

高校の頃、倫を待つのは苦にならなかった。

なのに、今は、苦しい。苦痛でしかない。辛い。

ここからなら、会いに行ける。そんな距離なんだ。

行きたい。会いに。

もう待たなくてもいいはずだ。

待つ理由がない。
行く理由も無いが。

この頃は、謝る謝らないとか、悪いのはどっちだとか、もうどうでもいい気分になっていた。

でも、俺から謝るのってなんだか癪だ。

倫が謝ればいい。

倫、会いたいよぅ。

…謝って?

虫がいいか?

自分では一歩も踏み出せず悶々としていた。
ぐるぐる回っていた。
一歩が出ない……。

事ここに至るまで、自分の倫に対する気持ちが、友人に対する好きだと思っていた。

親しい友達。親友だと。

…倫を好きかもしれない。

唐突に思い至った。

好きだ。そう、好きなんだ!

そうか!
恋だよ。

恋か…いいな。

もうこの想いに気づいたら、毎朝、毎晩妄想で鬱々悶々と過ごすようになっていた。

だって、ここに倫はいない。

いない倫を妄想で補う。

自分の腕の中で抱きしめられてる倫を思い浮かべてはほくそ笑む。
高校の頃の感触を思い出していた。

頬の感触を、髪の手触りを思い出して身体を熱くした。

倫の笑顔を思い出しては、会いたくなって苦しくなった。

そして、憎々しくなった。

出会ったらどう攫うかとか方法を考えたりして過ごすのが、朝のコーヒータイム。コーヒーが美味かった。

「はぁー、もう時間か」
今日の講義は落とせない。学校モード。
外面の良さは自覚してる。

妄想の中の倫。
笑顔だ。ギュウギュウに抱きしめた。
妄想の中の倫は柔らかかった。

大学が変わってから、余裕が出たのが良くなかったのだろうか。

好きなんだか、憎いんだか、よく分かってなくてきた。

ただ、抱きしめたい。

倫、会いたいよ…。





今日もコーヒーが美味い。
今日の妄想の議題は、会ったら離さない為にはどうしたらいいかである。

前の状況では物理的にちょっと来れるという距離ではなかったが、今は会おうと思えば会える距離だ。
倫は知らないだろうけど。

会ったらどんな顔するだろう。

驚くだろうなぁ

ムフフとほくそ笑む。
悪戯を考える子供のような気分だ。

この気持ちをぶつけたいが、逃げられてはいけない。

ニヤける顔をキリリと締める。

ジワジワ真綿で締めるように慎重に歩み寄って囲って行くんだ。

本当は直ぐにでも押し倒して、逃げられないように監禁したい。

いつもふらふらして、へらへら笑ってた彼をもうこれでもかってほどぎゅーぎゅーに自分しか見えないように監禁しよう。

そうだ、バカバカ言う口も言葉ごと塞いで吸い尽くしてやるんだ。

するりするりと幾度もすり抜けて、ひらひらかわす彼が憎たらしく思う。

今度こそ手放さないようにしなくては……。

追い詰めて怯える顔を思い浮かべて悦にいる。

想いを募らせ、重ねて、画面を見つめる。

この拗らせた気持ちは一歩自分が踏み出せば、あっさり解決しそうであるのに、躊躇している。

結局は、俺は、小心者なんだよ。



今日も今日とてコーヒーが美味い。

鎖とか買った方がいいかなぁ。手錠もいるかな。痛いのはダメだな。

そんな暗い妄想に浸っていたら、今まで変わらなかった画面に突然メッセージが表示された。

『元気だ。そっちはどう?』

いきなりポンと現れたメッセージに妄想も霧散した。

素で驚いて盛大にコーヒー溢した。

後ろ暗い妄想がバレそうで、狼狽えて慌てて打ち込む。

『元気だ。会わないか?』
送信。

指が震えてる。

びっくりして普通に返してしまった!

今までのシュミレーションはなんだったんだ。役に立たん。

しかも毎日妄想の中で会っているので、ついこないだ会ってた友達のように送ってしまった。
何をやってるんだ!
変わらない画面は、変わる事はないと決めつけていたのだった。

ああ、なんで待ってたんだろう、俺。

暗い霧か何かに捉えられてた気分だ。

待つ必要なんてなかったのに。

会いに行ける距離にいるじゃないか会いたい!

俺から行動したらいいんだ。

会えるんだ。

えっ……俺って会っていいの?

何かがカラカラと動き出した。

返事がない。

あまりに返しが普通すぎて、いや、喧嘩別れした奴が、何食わぬ様子で「会おう」なんておかしいと思われるじゃないか。

おろおろとスマホ片手に部屋の中を歩き回った。

『会わなくてもいい。』

送信して、ハッとする。

何を送っとるんじゃ!

既読が付く。
取り消しも出来ん! どうするねん!

慌てて、なんとか繋げなければと続けて
『メッセージだけは送ってもいいか?』
と送る。
すぐ既読。

もう支離滅裂だよ。

会いたい!

なんだったら舐めたい!

あ、今のナシ!

あああぁ! もう終わったぁ。

ポンとメッセージが出る。

『会う』

ん?
んん?
おお?
えっ!
マジ?
ホント?!

『すぐ会おう』
震える指で打ち込み、送信。

『ごめん』

はぁあ?!

膝から崩れ落ちた。
さっき会うって送ってきたじゃん!

『会おう! 今すぐ会おう』
俺必死。
涙目。

『どうしたんだよ。らしくないな』
軽い。
倫、軽いな。
何が? 誰が? らしくってなんだよ。

『ごめんって、会うのやめる?』
会うのやめるって事だろ?

『あの時、殴って悪かった。メガネ壊した』

『?』
取り敢えず送る。続けて
『メガネは壊れたが。ごめんはケンカした事の?』
送った。

『悪りー、ケンカの内容忘れちゃってさ』
謝ってるスタンプがいくつか送られてきた最後に
『怒ってる?』
って。

ああ、何これ!
くー、可愛い!

『怒ってない』

仕切り直しだ!

高跳びのマットの上で見ていた空を思い出しいた。

なんかスッキリしている自分がいる。

やっぱり、倫は可愛い!
うん、可愛い。ーーー好きだ。


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