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いつの日か

第3話

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大学は結局両方受けれた。

結果は、行きたかったところは落ちて、最後までギリギリだった東のC大学に受かった。


進学した後は、学びはハードだった。学ぶ事は好きだったから楽しかったが、もうがむしゃらに齧り付いて学んだ。
ふとした時、チクリと胸が痛くなるが、ムシ。

気づかないふりをして、専門書を必死で読んだ。

焼きそばパンを見ると、りんの笑顔がチラつく。
隅に引っ込んでろ!

パン屋に行けねぇじゃねぇか!
パンばっかり食いやがって!

パン屋への八つ当たりだ。
分かってる。
坊主憎けりゃ袈裟まで憎い。
チクショウ!

パン屋多いな!
日本人は米じゃないのか!
握り飯食え!
パンなんて滅んでしまえ!

コンビニの冷え切ったおにぎりを頬張る。
バリバリの海苔ごと噛み砕いた。

ネットで最新論文を漁った。


長期の休みは出来るだけ帰って、弟成分を補給した。

倫が居たらこんな苦しい思いしなくて済むのに。
憎々しく、奥歯をキリリと噛み締めた。

弟をぐりぐり抱きしめて、匂いを嗅ぐ。

真司しんじの匂いがする…」
汗臭さが増してきたな。くちゃくていい。

「兄ちゃん、しんどい?」
珍しく神妙な顔をして見上げてくる。可愛いな! コイツ!
ぎゅーと抱きしめる。
ぐりぐり。
「大丈夫! 真司が居れば頑張れる」

台所からココアの入ったマグを持ってきたおふくろが、微妙な笑顔でそっと置く。

「ちゃんと食べてる? バイト辞めていいんよ?」

「学費と家賃出してもらってるんやから、生活費ぐらいなんとかするし。バイトって言っても勉強の延長みたいなもんだから、負担ないよ」

真司の頭を撫でる。大人しい。されるがまま。ムフフ。

「生活費少しは送れるわよ。真司も大分落ち着いたしね」

真司がこっちを見て、にぱっと笑って、おふくろと見合うと二人して「ねぇー」って声を揃えて笑ってた。

確かに帰ってくる度に癇癪魔人は、モンスタークラスになり、今では癇癪持ち程度だ。
そして、あまり噛まなくなった。

ちょっと寂しい…。
ほらほら、噛んでいいよ? お噛み?

「顔色悪いわよ。生活費送るから。母さんがそっちに行く交通費だと思ってよ。行きたくてもそうそう行けないから…」
「目付き悪い! お目目真っ赤!」
弟が自分の目をぎゅっと小さい手で引き上げて見せる。
眉間にシワ寄せて細くしてる目がなんか可愛い。

そっか、目が痛いなとは思ってたんだが。
目が充血してるか…。寝不足かな。

運動辞めて筋肉落ちたから、体重は減ったとは思うが。痩せたか?
そう言えば、何食べてたっけ?
オイオイ、ヤバイよな。

笑ってると、手が伸びてきた。
俺の眉間をゴシゴシしながら、「兄ちゃん笑ってる方がいい」と真司が口尖らせている。

思わず摘んだ。

指噛まれた。
ちょっと嬉しい。

実のところ勉強の方は追いつくのに必死で、生活の時間を相当削ってる自覚はある。特に睡眠。
心配させてしまった。

有り難く受ける事にした。




夜中、やっとの思いでレポートを書き上げた。提出期限ギリギリになってしまった。

コーヒーを片手にひと息入れて、スケジュール確認にスマホを手に暫く弄っていた。

ぼんやりする頭で画面を眺める。

寝た方がいいのはわかっているが寝れそうにない。
寝過ごして提出が出来なかったら、泣くに泣けない。

明日、あ、もう今日じゃん。
とっくに日付変わっていた。
取り敢えず、寝るのは提出してからだ。

コーヒーを飲み終わったら、段取りを考える。
シャワー浴びて、大学行く用意かな。行ってしまえばなんとかなるだろう。

ふと懐かしい顔が浮かんだ。
なんとなくメッセージアプリを立ち上げていた。
『元気か?』
流れるように思ったままを打って送信していた。

コーヒーを啜りながら、画面をぼんやり見ていた。

暫しそうしていて、はたと気づいた。

はぁあ?!

しまった!

立ち上がった勢いで手からスマホが滑り落ちた。

溢したコーヒーに悪態をつきながらカップを置く。
濡れた手を気にながらスマホを拾い、壊れていないのを確認。

そして、固まった。

既読がついていた。

起きてたのか!
…起こした?

暫く息を詰めて画面を見入っていた。



どのぐらいそのままでいただろう。

チュン、チュン…

外が白んでいるのに気づいた。

なんの変化のない画面。

ゴトン。
スマホを閉じると乱暴に机に置く。

冷え切ったコーヒーを一気に空けると浴室に向かった。
苦味が口に広がって、ギリギリと奥歯を噛み締めてた。

「あ“ー!」

腹立たしいのは誰に対してなのかわからなくて、腹の底から呻きのような唸り声が絞り出た。

忘れよう。
忘れるんだ!

何度目かの決意をした。




実家から封筒が速達で届いた。

封を開けて出てきた封筒。行きたかった大学の名前。
不思議に思いながら中身を確認して、驚いた。

内容は、要約すると採点ミスが分かり、合格してたことが判明したという事らしい。
色々書いてあったが、要するに俺の場合は、編入扱いにするから入学するか?とのお伺いらしい。判明まで1年近く経ってのことの配慮か。

迷った。

が。

自分の心に素直に向き合った。
打算も斟酌もなく思索した。

出た答えは「行きたい」だった。
師事を乞いたい教授がいた。
今もその教授の論文はチェックしている。

返答期限が迫っていた。

実家に連絡した。

大学からの封書に親の方も只事じゃないと即速達で送ってくれたようだ。

何かと忙しくしてるであろう両親に感謝した。

電話の向こうの声も心配が滲んでいた。

封書の内容と今後の希望を話した。
勝手ばかりで申し訳なかったが、快諾してくれて、こちらで手続きするものがあるなら、代行するとも言ってくれた。


そして、漸く念願のB大学に立ったのだった。

先ずは、慣れるところからと、がむしゃらに目の前の事を片付けていくだけで精一杯だった。

最近やっと地に足が着いてる気がしてきた。

勉強も詰め込んでるより学んでると感じてきたし、何もかもが気持ちいい程染み込んでくる。

心が息をしてるのが分かった。

最近は、少し走ったりしている。

サークルにも入ってみようかと思い出していた。

余裕のようなものが出てきたんだと思う。
と言うのも、倫の顔がチラついてきたからだ。

抑えてた何かがコトンコトンと押し上げて出てこようとしてると感じる。

隅に押しやって、忘れようとした倫の笑顔。

コトン…コトン…


俺は絶対に謝らない。

謝らないからな。


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