彼とメガネの彼の話【時々番外編更新】

アキノナツ

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言えなくて

第5話

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アイツは返事を待っていてくれるだろうか。

そういえば、アイツはいっつも待ってくれていた。

数学の問題でも解けるまで、向かいに座ってじっと待ってくれていた。

拘りまくって周りが見えてなかった時でも、振り返れば、
見上げれば、
いつも、待っていた。

晴れのち曇りの雲を見つめている。

メッセージアプリ内の一覧に『元気か?』が表示されている。

今どうしてるだろう…。
アイツは何にでも真面目なヤツだった。
根詰めて体悪くしてないだろうか。

なんとなく物事にちょっといい加減なオレだったけど、釣られて色々頑張ってみたら楽しくなった。

アイツはちょっと手を抜くのを覚えたと笑ってた。
いい笑顔だと思った。
写真に残したくなるぐらいに。
ま、撮れなかったけど。
カメラ向けると逃げてたからな。

オレ、何から逃げてんだろ。
たぶんオレが謝らないといけない気がする。
でも……。

またアイツから歩み寄ってくれたのに。
メッセージ送ってくれたのに。
きっかけくれたのに。

ツキンと胸の上辺りが痛んだ。
ギュッと胸元のシャツを握りしめた。
ヤベ、泣きそう。

アイツが謝るんなら。

なんでやねん!
謝るならオレじゃないか!
アホ、バカ、オレ。
成長してないオレ。

またアイツにおんぶに抱っこじゃんか。
分かってたんだ。アイツに全部押っ被せる気でいるんだと。でも、でも……。

涙は引っ込んだが、酷く落ち込んだ。

降りなきゃ…。
ポケットにスマホをねじ込む。




今日も見てます。
睨みつけてます。

見られてる気がする。
ぼんやり視線がを上げると、目が合った。

困った顔が見てた。
視線が優しかった。

照れ臭くなって、慌てて視線をスマホに戻す。目を閉じた。

メガネさんの表情が焼き付いてる。
がんばれって励まされてるような気がした。

あの目、なんか覚えがある。

ああ、そうだ。中学の時の先生だ。
教科担任だったかな。
寡黙でいっつも無言で生徒を見てた。
クラス担任はした事ないって言ってたかな。
優しい眼差しで、直接何か言うわけでは無かったけど、授業での雑談などのみんなに向ける言葉は少なかったけど、そのひとつひとつは胸に残っている。

『ガンバレ』って目で励まれていた。

ああ、あの目だ。

再びメッセージを見る。
違って見えてきた。

アイツ心配してくれてる。
譲歩とかじゃない。
謝るとか謝れとかそんな事じゃない。

『元気だ。そっちはどう?』

打て……た。

震える指が送信ボタンの上を彷徨った。
押そうかどうか迷ってる。
この期に及んで!
何やってんだ。

スマホを握る手が湿ってきた。手汗が…酷ッ。

ガタン。電車が揺れて……押してしまった!

あうあう、あああ!
押しちゃったよ!

なんだかワタワタして、顔を上げたら、薄っすら笑ってるメガネさんと目が合った。

気まずい。

立ち上がって移動して、扉に寄りかかった。
メガネさんに背を向け、スマホを抱え込むように背中が丸くなる。

送信した事にあたふたしてたが、既読になっている事に気づいて、さらに慌てた。
どうしよう…。
スマホを閉じようとした時、振動が。

恐る恐る画面を見ると、

『元気だ。会わないか?』

随分な御無体な放置の上の返信なのに、極々普通に返してきた。
ついこないだ話してた相手のように。

手汗が酷い。
たぶん顔も赤くなってるかも。
心臓が飛び出そうにドキドキする。心臓が痛い。全身心臓になってる。全身痛い。

返信しなきゃ!

なかなか指が動いてくれなくて、誤字ばかりで、消しては打って、打っては消しての繰り返しで、スタンプでもいいかと、焦っていると。
振動が!
ピコン!とメッセージが表示される。
立て続けに更に表示。

ちょ、ちょっと待って!
今入力してるからー!
こちらの心の叫びなんて聞こえる訳もなく。

会う会う会う! 会いたいんだよ!

『会わなくてもいい。』

『メッセージだけは送ってもいいか?』

と次々送られて来る。

なんだかアイツも焦ってる気がする。

いっつも待ってくれるアイツが。待ってくれない。待ってくれそうにない。

あああ、待ってくれ!
今までこちらから「待って」など言った事なんてない。
何かが違う。
このままだと、これっきりになりそうな、決定的な何かが送られてきそうな予感。

嫌だ!!!!!!

折角アイツがくれたチャンス。
オレだって! ああああ! 指動けよ! ミスるな。ああああ、消すなよ!

大混乱。
指も頭もグルグル、あちこち大嵐。
さっきから耳の中で砂嵐の音が大音量で鳴り響いてて、頭がぼーっとしてきてる。
もうどうなってんだ!

泣きそう。
泣くな、バカ!

ますます慌てて。

…長文は諦めた。

『会う』

即送信。

精一杯だった。
祈る想いでスマホを握りしめる。
首の辺りがギュンギュン締まって息苦しくて痛い。

既読。

再び、振動。

フッと息が漏れる。

力が抜けた。
軽やかに手が動く。

ガタン、ゴトン……。
電車の音が戻ってきた。

あの時、言えなくて。
ずっと胸の奥でつっかえて。
ツキンと痛んで見ないで蓋して、わだかまって。沈んでた。
言えなかった一言を送信。

いつもアイツは苦笑いでなんでも許してくれて。なのにあの時は…。

最後のアイツの記憶は冷たい無表情の顔。
ツキン。
腹が立って。

心臓痛い。

悪いのはアイツだ。

ツキン。

分かってる…違うんだよ。
言えなくて。
言えなかったんだ。

なあ? オレってバカだよな?
変われるかな。

顔を上げる。
青空だ。抜けるような青い空。

景色が鮮やかに流れる。
背筋が伸びた。

手の中のスマホが振動している。




=========

『いつの日か』へ続く
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