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言えなくて
第4話
しおりを挟む最近メガネさんを見てないです。
消えてませんよ。
いつもの時間にいつものように乗車してきますよ。
いつもの席に座ってると思います。
こちらが視界に入れてないだけです。
なんかこっちを見てる気はしますが。
もう観察してないんです。
気が向かない。
それより今はこれをどうしようか悩んでます。
もうなんだか頭痛いです。
吐き気もします。
レポートでも、単位でも、バイトとかではないのです。
ずっと保留にしてた事をどうすべきか、スマホと睨めっこです。
げっそりです。気力が。
食欲もだから身体的にもげっそりきてるかも。
今の今まで見ようとしてこなかったから仕方のない事ですが。
自業自得というヤツですよ。
分かってます。
これって、やっと向き合えてるのでしょうか。
気力がごりごり削られてます。
なので観察に気が向きません。
逃げたです。
笑いに持ってけないでしょうか?
無理ですねぇ。
というかこれどうにかしなきゃと思ったのは、メガネさんの存在あっての事ではあるのですが…。
只今、スマホを立ち上げて、アイコン睨みつけている内に画面が暗くなるを繰り返してます。
画面って触らないと消えるんですね。
あー、そういえば自分で設定してました。
振動。
肩が跳ね上がる。
メッセージの通知。
大学の友人からでした。
力が抜ける。
なんか肩凝ってるわ。力入ってたかな。
グループに来てるから飲み会の招集だろうか。
肩をやわやわ揉みながら、メッセージを確認後、返信。
暫くやり取りしてたら、降りる駅に到着。
スマホをポケットに捩じ込んで、下車。
来たらというか、読んだらなるべくすぐ返す様にしてるのです。
時間がなければ、開けないようにしてます。
でも…。
ここに一件、例外が存在してます。
居座ってます。
スマホをポケットの中で握りしめる。
ツキンと、小さな棘が刺さったまま。
ホームに降り立てば、いつもの風景なのになんだかいつもと違う。イライラする。
握りしめてる手の関節が白くなってるかもしれない。
痺れてきた。
既読をつけたまま放置してるメッセージが一件。
ずっと、ずっと、そのまま…ずっと。
ツキン、ツキン…とじくじくしてる。
ーーーーーー
サクラサク。
サクラチル。
合格発表を高校に見に来た。
ネットで見れるのは分かってる。
初は直に見たかった。
ドラマとかであるじゃん。あれがやりたかっただけだったのだ。ミーハーな動機です。
とっても軽い気持ちでやってきて、校門で後悔した。
吐きそう。
あれだけやってたのだ。大丈夫。頑張った。手応えあった。
いざ!
足重い。重いよ。
横を親子連れで通り過ぎていく。
ほら!と気合い入れて一歩を踏み出す。
一歩出れば、トトトと掲示まで一直線。
校舎の端から端まであるような長さ。
数字、遠目にも分かる大きさ。
だから長くなったのね。
親切だけど、オレの番号だと端まで歩かなきゃならいわ。
えーと…上の桁のところ来ました。
後は順番に下に(ほら! ドラマと同じヤツ!)見て行って……有りました!
有りました!
ありがとうございます。
写真撮って親に報告せねば。
あ……写真…自撮りでいいか。
それとも、番号だけでいいのか?
「サクラサク」って電報ぽいメッセージ送った方が良い?
親子で来てるのいいなぁ。
写真撮って貰えんじゃん。
もたもた、キョロキョロしてたら、
「写真撮るの?」
明らかに同年の男子の声が後ろから掛かった。
「あっ、お願い出来る?」
いいタイミング!と喜び勇んで振り返った。
太いセルロイドの黒縁メガネの詰襟男子が立っていた。
似合ってねぇなと思ったら顔に出てたらしい。
「何番? 一緒がいいんだろ?」
明らかに不機嫌そうに、手の平を上に差し出している。
ほらほら、さっさとしなって感じだ。
「あ、上の方だから、この列が入ってる感じでよろしく」
スマホをカメラモードにして渡す。
ダッサいメガネくんの写真も同じようなアングルで撮る。
お互い一人だった。
なんとなく浮かれて、第一印象悪かっただろうなと思いつつも、いつしかそんな事は関係なくなって、一緒に行動した。
書類取りに行ったりと帰り道もほぼ一緒で、移動中ずっと話してて、かなり盛り上がってしまった。連絡先も交換した。
メガネについては、今朝踏んでしまったので予備をして来たのだと教えてくれた。
その時「ダサいって思っただろ」って脇腹を小突かれた。
入学式前にアイツとは友人になった。
親友ってヤツだと思っていた。
クラスも一緒で高校の三年間全部いつも連んでた。
いや、全部じゃないな。
高三の秋の終わりだったか、冬の始めだったか、街路樹が色づいてた気がする。
もう何でケンカしたのかも忘れてしまった。
相手は覚えているかもしれないが。
忘れるぐらいだから些細な事だったと思う。
アイツとは学校はもちろん放課後もいつも一緒だった。
よくもあれだけ飽きもせず一緒だった思う。なのに、だからケンカしたのか。
周りがドン引きするぐらい、卒業までの数ヶ月、目も合わせず口もきかなかった。
進んだ大学は違った。
アイツが行った大学は知らない。覚えてない。
周りが親切心から教えてくれたが、俺は西でアイツは東。方角も反対じゃんって、不貞腐れた気分になったのだけは覚えている。
大学で心機一転と、勉強、バイト、サークル、やってみたい事を色々やった。
へらへら笑って、全部楽しかった。
鼻歌まじりに玄関を開ける。
思いっきりカラオケでシャウトしてきた。
喉痛ってぇ。気分は最高!
深夜。辺りは静まりかえってる。
さっさとシャワー浴びて寝よ。
ガシガシ頭拭いてたら、スマホがチカチカ光っていた。メッセージの受信通知だ。
さっきのメンバーの誰かかな。
楽しかった気分のまま、手に取り、流れるように操作して、メッセージを開いて、固まった。
『元気か?』
アイツからだった。
…返事に困って、そのまま閉じた。
寝た。
見なかった事にしよう…。
あれから随分経った。返事はしてない。
地元に帰省する時どこかでばったり会うかなと思ったが、会うことはなかった。
会ったら会ったで、どう対応すべきなのかすら思いつかない。
なんだか逃げ回ってるような気分のまま、もう忘れてしまおうと過ごしていた。
あれから、アイツからは何も来ない。
…忘れよう。それがいい。
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