思い通りにならないもんだ。【後日談をぼちぼち】

アキノナツ

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男の日常 (5)

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荷物を担ぎ直す。
不動産屋に入った。
ピンとこない。どれも似たり寄ったりだけど。オレのふんわり要望を上手く汲んでくれてるという事かな。
いい人に出会った。

3件目で適当なのが見つかった。
ここがいいな。ここだね。
気に入った。

やる気になったら、すぐなんだけど、ここまでがフラフラしてしまう。

書類を作って貰ってる間にぼんやりしてると、彼を思い出していた。

あそこに置いてきちゃったね。
棒立ちだった彼。

『キライ』って言ってしまった。
だって、アイツちっとも条件守ってくれないんだもんよ。
腹も立つってもんだ。

色々言ってやりたかったが、ぐるぐるして、グワッと湧いてきた言葉がアレだった。

オレ付き合ってやってる気でいたんだが、アイツは違ったんだろうか。

ひと言に集約されてて、あの時の気分を言語化できてよかったと達成感的に嬉しくなる。

うん、あの言葉は、ビタッと来たよねッ!

アイツの今までのお相手がなんだか気の毒になってくる。

不履行はダメだよ。ふらふらしてるオレでも約束は守るよ。

ふらふら根なし草のオレでも誠心誠意ご奉仕するよ? だって等価だろ? そこはオレでもわかってるよ。

だ、か、ら!

お前が悪いんじゃ!

ムフフ…と密かに笑ってしまった。




「先生居る?」

先生が居るはずの部屋の扉を開けて、顔だけ突っ込んで尋ねる。

「居ませんよ。出張中です」

あー、この人なんか苦手。
なんですか?って感じでじっと見てる。

ドアの隙間に腕を突っ込んで、封筒をぷらぷらさせる。
不動産屋のロゴ入りの封筒。

「保証人になって欲しいんだ」

「は?」

「引越ししたいの。というか、前のところはもう更地かも」

「はぁあ?」

当たり前の反応だな。
あれから随分経ってる気がするから、こそっと指折り数えて『おー』と驚いてたのは内緒。

「渡してぇ~」

更にぷらぷらと振る。

事務仕事をしてたらしい事務方の男が漸く席を立ってくれた。コツコツと足音を響かせて近づいてくる。
封筒渡したら、今日はどこに行こうかなぁ~。

腕を掴まれて、中に引っ張り入れられた。
おっとと…

「仕方のない人ですね。お茶を淹れますから、顛末をお話し下さい。ーーー先生にも連絡とりますから」

この人優しい?

オレが研究生だから面倒みてくれてるだけだろうけど。
先生が気にかけてるオレだから、面倒見る対象って事だけなんだけどね。




書類を持って不動産屋に向かう。
事務の人が話つけたらしいので、即入居でいいそうだ。
オレがお茶してる間に先生と連絡が取れ、諸々の手続きが終わってしまった。詳しい事は知らんけど。
で、終わったら邪魔だと追い出された。

書類封筒を持っていくようにお使いを言い渡される。
かくして封筒と交換で鍵が貰えた。
その足で、軽トラックをレンタルして荷物を回収して部屋に入れた。

散々セックスで酷使された身体で動き回ったら流石に眠くなってきた。

寝袋を出して、潜り込むと、泥に沈み込むように眠った。



◇◇◇



メッセージを送り続ける。
既読にならない。
電話もした。
出ない。

俺を振るとは…。
振られた事なんて俺の人生で初めて動揺してしまった。

この俺がこんなに連絡してるというのに、何故、出ない。

俺を振るなんて認めない。

俺が好きだと言ってるのに。
俺専用のメス穴に仕上がってきてたってのに、何が気に入らないんだ。あんなに悦んでたじゃないか。

俺に媚びるようにケツを振っていい声で啼いていた。
思い出すだけで前が勃ってくる破壊力。
あれは…アイツは最高だよ。

タチにだって戻れない身体になってそうなのに…。

『だれぇ…?』
掠れた声。寝てた?
やっと出たよ。

「おい、俺を無視しや……あ、いや、寝てたのか? 寝れたか?」

『…………』

無言だ。
さっきまで腹を立ててたが、声を聞いたら、そんなのどうでも良くなった。
会いたい。
心が躍る。

心躍らせながら、不意に心配になってきた。身体は大丈夫か?
いつもなら帰ったらビデオ通話で確認出来てたが、今回は出来てない。
事後の様子が確認出来てないのは不安でもあった。ちょっと乱暴にヤっちまったからな。

「おいッ」

ちょっと強く言ってしまった。
言って後悔。
コイツに対してどうしてこうしか出来ないんだろう。いっつもこうだよ。
今までヤってきたヤツにしてたように、甘い言葉でも掛けてやればいいとは分かってるんだが。どうも優しく言えない。どうやったら言えるんだと悩む。

あー、コイツ相手だとなんでこうなるんだ。
どうしたもんだろう。

『……チッ』

小さいがはっきりと舌打ちが聞こえた。

「はぁあ?!」

寝起きだから、俺と認識するまで間があったのだと思うが、思うが!舌打ちはねぇんじゃねぇか?!

息を吸いこみ怒鳴り掛けた耳の軽やかな通話が切れる電子音が届いた。

ーーーーー!
切りやがったッ!!!

スマホを足元に投げつけそうになった。
既のところで、己の手で止めた。
ふるふる掴む手が震えていた。



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