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後.思い出の地 (3)
しおりを挟む目が笑ってない。
冗談ではないようだ。
えーと、コレはどうしたらいいんでしょう…。
じっと見つめてしまった。
内心嵐なんだが、無表情が板についてるので、内情は表面化してない…はず。
「あっ、そうだった。ちょっとそれ見せて」
一気に空気が変わった。
俺の左手を指差しながら、掌を向けて催促される。
言われるまま差し出された掌に手を乗せた。
ガシッと掴まれる。
メガネを押し上げながら、薬指に嵌ってる指輪を見ている。
あの魔道具を嵌めている。
位置を知る為の魔道具だったが、位置関係は互いに念じなければ発動しないようにロックをかけて、別の仕様をティディが施していた。
「んー、甘いな。ジェニ、どう思う?」
横のジェニも覗き込んでいた。サンも。
「よく出来てる方だと思うよ。確かに甘いけど、発動短縮とか実戦を考えてコレがベストじゃないかな…」
「んー、実戦か。だが、ココをこうすれば魔力の流れが良くなるとは思わんか? そうすれば発動時の負担もロスも無くなる」
「なるほど。そうすると、ここをこうしたら…」
何処から出したのか紙が挟まったバインダーが彼の手元に。紙の上をペンか走る。
横合いからジェニも書き込んでる。
二人して指輪と紙を視線が往復している。
「ごめんね。二人とも魔道具マニアなの。仕事熱心なだけ」
口元に手を添えてこそっとこちらにすまなそうな表情で、サンが囁いてきた。
「この件はあの子にアドバイスしてやるか」
「そうですね」
お話は終わったようだ。
俺の視線に気付いたのか。小さく咳払いすると「ありがとう」と手を離してくれた。
「コレとアレは、別だから…なんだ、えーと、来てくれて、ありがとう。歓迎する。ゆっくりしていって下さい」
初めて声を掛けてくれた時のような穏やかな雰囲気になって微笑んでくれた。
こちらも混乱するが、どうもお父さまも色々思うところがお有りのようで…。追々、なんとか説得というか、説明か、話す必要があるようだ。
離席しようと立ち上がった彼がよろけた。
一緒に立ち上がっていたジェニにがすかさず支える。慣れた感じのする安定の支え方だった。
「すまない」
「工房まで」
「ああ」
短いやりとりでも、コレが度々起こる事なのだろう。
サンがにこやかにタネ明かしをしてくれた。
「父は脚が悪いんだよ。お手製の魔道具で今では普通に歩き回ってるけど、ティディが小さかった頃は、まだ杖も使ってたんだよ」
なんとアレは努力の結果なのか。
『出力不足』とはそういう事か。
では、あの衝撃で何かしらの不具合が出たのかも。
「その魔道具、父のオリジナル。持ち出されてたとは思わなかったよ。しかも、無理矢理だけど色々改良しちゃってるし。うふふ…コレも愛ですかねぇ~」
「オリジナル?」
「ティディってよく行方が分からなくなる事が多かったから。ね?」
魅力的なウィンクをされる。
なるほど、迷子防止か。
瞬時に障壁を無詠唱で張れるようにしてくれたんだが、無理矢理だったのか。
一度試しに使ってからほぼ使っていなかったが、さっき使ってみて、コレは自動で張られてる様な気もする。
「愛されてるね~。僕は付き合いもその先も応援しちゃうよ。本気なんだろう? じゃなきゃ…。ね?」
「本気ですッ」
スッと細められる目と一瞬視線が絡んで、金縛りのような衝撃を感じた。
ここで敵に回すと一番不味い人間かも知れない。
「嬉しいよ。騎士さまが弟かぁ~」
じゃ!と片手を挙げて、荷解きしてる二人に合流して行った。
自分もあちらへ行った方がいいのだろうけど、ちょっと休憩したい。初めての場所なのにソファに凭れて一時力を抜いた。
鍛錬より疲れる。特に精神的に。
直ぐに気合いを入れて、ティディのところへと思ったら、ふわりと後ろから抱きつかれた。
「私の父さまは優しい人だろ?」
「ああ、技師としても凄そうだ」
優しいかどうかは分からない。『認めん!』とピシャリだったからね。
左手をひらひらさせる。
「なんだ、もう分かっちゃったの?」
「サンさんに教えてもらった」
「そっか~。怒られに行こうかなぁ」
控え目にチュッと頬に唇を寄せると、彼らが消えた方に向かった。
「あら~、彼氏さんは置いてけぼり?」
お母さまがふわんとやってきた。
気配が読めない。
「この度は…」
「夕飯後でいい? まだあの人、整理がついてないというか、気持ちが落ち着いてないのよ。みんな揃ってからの方がいいわよね?」
やばい、もう言っちゃってるよ。
「はい」
静かに答える。
ざわついていた気持ちがスンっと凪いだ。
リセットさせて貰おう。この人も分かってるようだ。というか、俺が浮かれ過ぎてるというか、緊張し過ぎて暴走してるかも知れない。
「お茶淹れ直すわね。あの子が戻ったら部屋に案内するわ」
ティディが戻るまで何故か夫婦の惚気話を聞く羽目になった。
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