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4.お付き合い
しおりを挟むこんな飲み屋で良かったんだろうか。
雑多な感じだが居心地のいい大衆食堂のようなところだ。
料理は安いし美味い。平民の客が大半だが、騎士の出入りも多い。
こういうところしか知らなかったし、常時阻害魔法も大変だろうといくつかある個室を予約した。
そもそも人混みに連れ出すのがどうかという話なんだよな…。人嫌いって感じはしないが、阻害魔法を掛け続けてるって事は、あまり好まないって事だろうし…。
ぐだぐだ悩んでいたが、次の言葉で吹っ飛んだ。
「実はね、職場の飲み会でしか外で飲んだ事なくてね。めっちゃ楽しみ」
職場という事は、歓送迎会とかで大広間貸切の飲み会か?
今日も暗めの色のローブを羽織っている。
「別なの着ようかと思ったんさけど、これ自体に魔法がかかってるから、こっちの方が便利でね」
それに阻害認識のがかかってるのか…?
「コレから注文するのか? いっぱいで迷うなぁ」
その魔法のローブは既に脱いでる。
なんだか気を許されてる感じでこそばゆい。
騎士嫌いだと思ってたが、俺は話がしやすいそうだ。『お前はなんか違う』とポツリと言われた。
嬉しい限りであるッ。
メニュー表を捲っている。冷たい感じは拭えないが、ここに座るまでずっと喋って、今も喋っている。
本当に彼はお喋りだ。
ウキウキしてるのが分かるが、浮かれ過ぎでは?
その様子にこっちは落ち着いてきた。
「適当に注文するから、ゆっくり選んでくれ」
店員を待たせるのも悪いから定番のメニューを幾つか頼む。飲み物はとりあえずエールをお願いした。
「ねぇ、これどんなの? あー、遠いッ」
俺の隣の席に出現。転位?!
俺が一瞬慄いてる横できゅるんと猫っぽい表情で澄ましてる。
ーーーーこれは確信犯。
イタズラ好きでもあるらしい。
「これは煮込みです。これは焼き物…」
ちょっと癪だから、驚いてないぞと澄まして対応。
小さく舌打ちが聴こえた気がしたが、スルーしておく。
このイタズラは、この人の鉄板か?
驚かせてか。可愛い事をする。
ん? こういう感じのは経験があるような…。
酒もちゃんぽんになって、ほろ酔い気分になっていた。
好き嫌いは判明した。酒の好みも分かった。そして、お互いザルだと分かった。
ザルじゃないな。枠だな。
でも、このピッチで飲むのは流石に酔って来たかな?
うん。彼がとても陽気になってるから、少しは酔ってるかも知れない。俺は彼に酔ってると思う。
不意にポケットに手を入れて、ハッとした。
渡し忘れるところだった。
まだ意識がしっかりしてる。大丈夫だ。
酔っ払いの大丈夫は、当てにはならんが。
「これがメインだったよ。返し忘れるところだった」
魔道具の指輪を出した。
太い指に摘まれた輪っか。
「おー、それか。私も持ってるぞぉ~」
上機嫌で襟元から鎖を引っ張り出す。輪がついていた。
「知ってるか? 自動でサイズが変わるんだぞ」
グラス片手にスイッと手が差し出された。
受け取る為に出された手…。
俺サイズで大きな輪。
このまま、コレを彼の掌に乗せればいいんだが…。
二つを視界に収めて、見てると…。
手を掬い、手の甲を上に向けさせ、そっと薬指に輪を通していた。
スッとリサイズが起きて、彼の指にフィットした。
やんわりと支えていた手を握る。
「好きだ。付き合ってくれ…」
転がり出る言葉。
返事をもらうまで、離さない……。離さ……
ん?
んん?
え?
ええ?????
血が沸騰した。
一瞬酔いが冷めた。
俺、なんて言った?!
気恥ずかしさに手を引っ込めかけたら、その細腕から想像も出来ない力で握られ阻まれた。
「ふふーん。いい度胸してるな。『氷の死神』と分かっての告白だよな? いいよ、付き合ってやろう」
あっさり承諾されたが、目が座ってる……。
正直怖いです。
「で、『お付き合い』というのはどうするんだ?」
シラフになってからもう一度話そうと呼び出したら、こんな風に切り出された。
どっと疲れた。
記憶はあるらしい。告白諸々ちゃんと覚えていると。ただ、『お付き合い』とは何をするのかが分からんときた。
ベンチで横並びに座っていた。大きな身体を折りたたんで、膝に肘を置いて、項垂れていた。どうする?
「付き合うのは無しか?」
背中に手を掛けて、密着しつつ、覗き込んでくる。
逆さまなので前髪が下?上?兎に角顔が丸見えだ。
狡いゾ。可愛ええなぁ……。
腹を括った。
男相手でもなんとかなるだろう。好きなのは確かなんだから、彼が『イヤ』となったらそこで手を引けばいい。ーーーー退くんだぞ!
ヨシ!
身体を起こした。
「あわわぁ~」
彼が横でひっくり返りそうになっていた。
支える。
「デート行ったり、触れ合ったりして、愛を確かめるんです」
我ながら臭いセリフである。
「ふーん」
悩んでる。簾前髪で表情がよく分からない。
「あなたが嫌だと思ったら、そこで、お付き合いは解消しましょう」
条件を提示してみた。
自分の中だけだったら、ズルをしそうになる。こうして宣言しておけば、ストッパーになるだろう。
「そうなのか…。終わるのは残念だ。お前と話すのは好きなのだがな」
心臓を撃ち抜かれました。
音にすれば、『ズキューーーン』でしょうか。
「と、友達に戻るという事でどうでしょう」
狡い大人だ。
同じ年なのに、恋愛に奥手なのをいい事に、繋がりを切れないようにしようとしてる。
正気の俺が俺にドロップキックだ。
「おー、いいな。気が楽になった。では、これからよろしく」
握手を交わした。
『お付き合い』が始まった。
学生の恋愛かってほどの触れ合いから始まった。
彼は恋愛というか、性的な事柄が欠落してる程の無垢に近かった。
真っさらな彼を自分好みに出来る事実に、欲が出そうになったが、相手の気持ちに重きをと最初に決めたと自分を戒め、ゆっくり確認しながら、お付き合いを進めて……。
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