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3.返却
しおりを挟む翌日はデコイ相手に連携を確認。
練度を高めたらいけるのを確認した。
汎用性のあるものに変更したものを考案。
陣営での運用の提案をまとめて、終了。
次の検証に入る。
順調に演習行程が進んでいく。
次々と早く済むおかげで、諦めていた通常業務もサクサク済んでいく。
睡眠も私用時間も取れて、体調は頗る良い!
「こんな木も登れねぇのか? 騎士になるんだろ?」
上に黒髪の男の子がいる。
「登ってるだろ」
悔しくって、必死に手足を動かしながら、悪態をつく。
あの頃の俺は小さく細かった。体の使い方がイマイチ分かってない子供だった。
ああ、これは保養地の夢だ。
すっかりあの風景は色褪せていたが、夢では鮮やかだった。
夢を夢と分かって、揺蕩い観ていた。
一緒に騎士に。王都の騎士になろうと約束した。小指の感触まで思い出していた。
入団して、約束の彼の姿を探して、居ないと分かって、落胆して、諦めた。
初めての友人だった。
母についてやってきた保養地は今までのところより穏やかな気候で、母の体調も良さそうだった。
安心した俺は外に遊びに出る事が多くなっていた。
そんな折りに森の中の泉で出会った男の子と友達になった。
近くの屋敷に住んでるらしい。
自分は一生ここで暮らす事になると決められてるのが嫌だと言った。だから、騎士になって王都に行くのだと。
木の上でそう語ったあの子は結局あそこで燻っているのだろう。
俺は遅れたが、約束通りココに来たというのに。
遅れたから、去ったとも考えられない。あそこから出る為にココに立つと言ってたのだから…。
あの頃、確か魔法を見せてくれたんだった。
ーーーーあの後、………どうも記憶が曖昧だ。
また遊ぼうと約束したような気がするが、どうだったか。
寒くなるからと保養地を後にして、次の年にはあそこに行けなかった。母は楽しみにしていたが…、逝ってしまったからな。
身軽になってあの辺りを散策してるかも知れないが。
短い期間の友達。
ーーーー淡い恋心。
幼い頃の恋心だ。同性に対して起きても不思議じゃないほど、彼は可愛くて……兎に角、愛らしかった。子供の頃の淡い思い出だ。小枝を打ち合わせて騎士の真似事をして……。
目の前が真っ赤になった。
飛び起きた。
彼と木の上で、遠くに見える景色にはしゃいで、気分のいい夢だったはずなんだが。
嫌な汗でぐっしょりだ。
心臓も呼吸も全力疾走の限界を超えたようになっていた。
のろのろとベッドを降りた。
風呂やトイレがなくても、狭くても個室が有り難かった。ここの寮のいいところのひとつに共同部屋がない。部屋の広さと設備は階級によるが。
顔を洗ったが、さっぱりするはずもない。共同浴場へ向かう事にした。
おかげで、今日はギリギリだった。
最終日だというのに。
二手に分けられ、野営演習場に移動次第開始となった。
輸送も判定が入ってるらしい。
一応審査も行われるらしい。表彰でもあるんだろうか。
否、今後の運営の参考にするのだろう。どれが最適で、運用に耐えうるか。
遊撃隊員である彼とは別行動だ。
阻害認識魔法で斥候も兼ねてるようだ。
戻ってきて司令部のテントに入っていったようだ。
渡された魔道具で彼の位置がなんとなく分かる。
魔法師の彼ならもっと精度良く分かるだろう。俺は魔法を扱えるがこういう道具には精通してないからイマイチだが、使えるという事は、高価な物だな。
今回の作戦でバラバラで動く事になったが、俺は他の団員と行動を共にする事になっていた。魔法師の数名が同行している。
さっき渡された魔道具を確認する。
指輪なんて初めてで、変な気分だ。
これで俺の位置が判る。
魔力をサーチすればすぐ見つけれるらしいが、こちらの方が手間が省けるそうだ。
これのおかげで、俺も彼の動きがざっくりだが知る事ができる。便利な物だな…。
ん?
これって、指輪で繋がってるって事か?!
まだ、告白とかしてない。
キスだって、何も済ませてないのに、指輪って?!
ーーーーーはい。
暴走してました。ドードー…
これはただの魔道具です。
はい、ただの魔道具ね。
大事な事なので、繰り返しましたよ。
ただの魔道具ねッ!
トドメ!
気持ちまで筒抜けじゃなくて良かった。位置情報だけと言ってたな。
そこまで筒抜けはな。プライバシー無しはアカン。
さて、作戦通りに動かねば。前日行った会議を頭で確認。大丈夫。俺は戦闘をしつつ各方面に罠を貼ればいい。
起爆は他の者がタイミングを見る。
地雷式も今回やってみる事になったが、これは、彼とは別の魔法師の案だ。
このビー玉の様なのを撒けばいいのか?
この小さいのに、魔法陣か何かの仕掛けがあるのか……。
前線に風になって向かった。
右翼が想定より進軍が速いとか。
地雷と仕掛けを先行して撒く事になった。
騎士としてこれどーなん?
前線になりそうなところに撒くから敵と接触したりする。だから、戦闘はしてるんだけどさ。斬り合いはしてますよ。
なんだか釈然としないだけです。
この演習用刀剣、良くできてます。
当たり判定が急所に入ったら、退場です。
俺、結構な退場者出してないか?
このまま突き進んだら、昇進あったりか?
急に周りの空気が冷えた。
鼓膜を劈く打撃音。
振り向き様一閃。同時に足元に旋風。己を撃ち出して間合いを取る。
ヤババッ!
障壁か。何処からかサポートがあったんだ。この冷気は彼か。
退場になるところだった。危ない。
今回の最終ミッションは相手陣営の旗を取って、自軍に戻る。
んー、運動会?
旗は、たぶん彼が取りに行くんだと思う。
今、敵軍を迂回しながら奥へ移動して行った。
出来るだけこちらに前線を引っ張って後方を薄くするのが俺たちの役目。地雷は分断して各個攻撃しやすくする為の仕掛けでもある。
さっきは油断した。
ここで消えたら昇進は夢のまた夢である。
階級だけでも彼に近づけなければ…。
指輪を見遣る。
恋人の指輪を贈るんだッ!
戦闘とは頭がワクらしい。
順調に前線を高速に引っ張れてる。後方が遅れてはと長く伸びてるはずだ。
敵司令部の防御も薄くなってるだろう。
撤収指示が伝令されてきた。
どうやら敵方が通信妨害をしているらしい。
電撃起爆のついた擬似柵を展開して撤収に入る。進むより退くこの時が一番難しい。
後方に魔法師が来てるはずだ。
合流地点に魔法陣が展開されてるはず。そこに入れば、転送。撤収が完了する。
魔法陣大きいものを想定されていたが、小さいモノに変更されたらしい。
発動時の妨害は命取りだ。
定員を少なくして数で押すらしい。
俺は最後まで盾役になる予定。
魔法陣までが遠い。
まだか…。
完了したら、陣を引きつけここら一帯が爆破されるらしい。あの地雷が発揮される。
巻き込まれは嫌だな。最後のにでも乗せてもらうか…。少々魔力残量が…。
魔法拡声器で終了サイレンが鳴った時、心底助かったとその場で膝をついた。
魔力が枯渇した。
やべぇ…。ギリだった。
魔獣や敵兵相手だったら、『はい、そこまで』なんて有り得ない。
魔力配分が俺の課題か。持ち物のポーションなどの見直しも必要だな。
そして、帰還して困っていた。
大柄で無表情の厳つい顔が仇となって、ポーションの配給が後回しになっていた。
目が回りそうだ。この図体で倒れたら迷惑だな…。困った。
このタイミングでリンツ先輩に捕まって雑用言い渡されたら、軽く死ねる。
「ホイッ」
横合いからポーションが渡された。
配給とは違う物だ。
差し出された手を辿れば、オールバックの彼が悪戯っ子の笑みで立っていた。
「私の家に伝わる秘伝ポーションだ。効くぞ」
そんな貴重な物をと礼もそこそこに一気に呷った。マジやばかったんで。
「美味ッ」
全身に一気に漲る魔力。
効き目が高い物ほど不味いのが定番なのに、これは美味い。それに、………懐かしい?
唇に着いたものも勿体無くて舌で舐めとった。
「美味そうに飲むなぁ。なんか嬉しいよ。あー、あと戦場で油断はダメですよぉ~」
フードを被ると手をひらひらさせて去って行った。
「あ、ありがとう…」
たぶん声は届いてない。
何かお礼がしたいと考えてたら、先輩に捕まった。
演習の後始末を仰せつかりました。
ポーション助かりました。
返し忘れた指輪。
ポケットに入れたまま。演習終了後、外したきりだ。
装備すれば居場所が判るかも知れないが、なんか違う気がして使えない。そもそもこれの対の指輪の位置が分かるだけだ。彼が持ち歩いてるかどうかも分からない。
どうしたものか悩みつつ、魔法師連隊の棟に来ていた。
造りは俺たち騎士団と同じ様だ。この奥に寮か何かがあると思う。
城内で会う事も無かったので、諦めて、呼び出して貰う事を選んだ。
あれから1週間も経ってしまった。
指輪を返して、夕食も兼ねた飲みに誘うつもりだ。
彼の名前を受付に伝えて、出てきてもらうか、もしくはこちらから伺っていいか訊いて貰えないかと伝えた。
返事までぼんやり周りを観察していた。
食事か…。
好き嫌いとか事前に訊いておくべきだろうな…。
ーーーー面会を拒否られた。
えーと、結構仲良く出来てたと思ってたんだが。美人さんは、厳つい顔の大男とは、プライベートまで一緒に居たくないのだろうか……。
振られたのかなぁ……。
魔道具は高価な物だから、手渡しで返したいので、『出直す』と言い残して、帰宅した。
折角の非番が傷心のヤケ酒で終わった。
肩に小鳥が止まった。
耳元でチッチチッチと喧しい。
手で軽く振り払うが、ひらりと戻ってくる。
ーーーーー根負けした。
掌に乗る。
解けた。
瑠璃色の小鳥が崩れた。
無機質な空気感と共に生き物の形そのままで、形がするりと解けて一片の紙になった。
解けた時は、驚いたがグロくは感じなかった。不思議な物を見た気分だ。紙を光に翳していた。どうなってんだ?
『体調が悪かったんだ。もう大丈夫だから、都合のいい時に来て』
体調?
あの小鳥は彼の瞳と同じ色だった。
あんなに元気そうだったのに。
ポーションを渡してくれた時、嬉しそうに細まる目を思い出していた。
周りに尋ねてみた。
シークレット事項でもないのか、割と色々教えてくれる。
どうやら、俺の先の演習での動きが周りに受け入れられた様だ。馴染めたよ。
ますますちゃんとお礼をせねば。
色々教えてもらったのを纏めると、1ヶ月の内、数日は自室に篭ってしまうらしい。だから、遊撃隊員のままなのだという事らしい。
実力からか上層部が事情を何か知ってるのか、病弱なのかは、定かではないが、問題視はされてないようだ。そういう事として受け入れられてるようだった。
『体調が悪い』は、正しいんだろう。
すぐ仕事を片付け、返却と食事に誘うべく、数日前に傷心に打ち拉がれて帰った道を意気揚々と進んだ。
魔道具の返却なのに、一世一代の大仕事の様に感じていた。
肩に力が入る。
この前出た臨時ボーナスで新たに騎士服を購入した。下ろし立てだ。
前から来た人が飛び退く様に道を開けてくれる。退いてくれた人の顔が引き攣ってるが、気にしない様にする。
俺の顔が緊張で固まってるのを感じてはいた。
「ミッシェル=フューデルさんに繋いで欲しい」
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