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1.目撃

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初めてのカントボーイものです。
よろしくお願いします。


================


あそこに居るのは誰だ…?

ローブでよく分からないが、軽やかな足捌きはダンスでもしてるように無駄のない動きで。手にしている棒切れを剣に見立てているのだろうか。

旧館に昔の資料を探しにきて、その中庭に彼がいた。知らない人物ではないのだが、別人のようで。
暗い色のローブは彼が好んで着ている物だ。ローブは魔法職の制服のような物。
フードは降りして、髪が風をはらんでいる。

普段は氷のような表情で誰もを拒絶するような雰囲気で鎧ってる魔法師が、こんなところで……?

風が髪を後ろに。陽光に目を細め微笑む顔が顕になる。
透明感のある晴れやな表情は、生気に満ち溢れていた。

俺は息をするのも忘れて引き寄せられるように見つめていた。
生き生きとした血の通ったひとりの美しいひと

ーーーーこの瞬間、俺は彼に恋をした。
実は二度目の恋だったとは、その時には気づかなかったが。





彼は騎士嫌いで有名だった。
何がそんなに嫌いなのかは知らないが、殺されるかって程の眼光で射抜かれる。
だから、騎士の誰も彼には近づかないようにしてるようだ。

何故、騎士嫌いの彼が騎士の真似事をしてたのか。
アレは演武のようだった。否、もっと実践的な敵を想定した模倣? あの棒の向こうに誰かを見立てて居たのだろうか。
あの表情は、心底楽しそうで、今ここに死んだような目をしてる男と同じとは信じられん。

合同演習。

まだ入団したての俺は、この御仁のお相手に抜擢された。
何故?

たぶん、あれだ。分かってる。押し付けられたというヤツだ。
新入りで辺境貴族の出自だからって、なんだかんだと面倒なのは俺に回ってくる。

リンツ先輩、…なんか、言ってたよなぁ。
目つき悪いし、図体デカイから丁度いいって、結構失礼ですね。なんだかなぁ。
『何があっても丈夫そうだもんな』って背中叩かれて言われたが、アレはなんだ? 何かあるのか? 丈夫?

挨拶はして置こうか。
「よろしくお願いします」
挨拶は大事だからね。
「……よろしく」
小さな声だけど、返ってきた。

側にいた奴がビクついたけど何故?

俺は王都の騎士団に入団はストレートじゃなかった。
予備連隊で、実績積んでやっとだった。夢の為と頑張ってここまできたのだ。ここに来てすぐ目的を果たす為に行動したが、成果はなかった。もう、ダメかもな。
あー、これは、この演習とは関係ないな。

この魔法師殿は、俺が予備連隊で奮闘していた頃には、ここの魔法師連隊に居たとか。
めきめきと頭角を現して、今では連隊の中でも屈指の実力者。二つ名もあるほど。
なのに、連隊長でも副でもない。実力はあるだろうに遊撃隊員扱い。

いつもは目深に被ってるフードは、今日は被っていない。あの時と同じ。
周りは目を合わせないようにしてるようだ。でも、珍しいのだろう。チラチラと盗み見してるよ。
顔が髪で隠されていても美しいのだ、気になるのだろう。

交流会も兼ねての演習なので、魔法師でいつもはフードを被ってた方々も今日は被っていない。
顔合わせも兼ねてるからね。

肩口で切り揃えられた黒髪が陽光に煌めいていた。
色白の顔は伸ばされ前髪でよく見えないけど、俺は知ってる。知ってるんだよね~。

俺は優越感にも似た感情に心躍っていた。俺の無表情は変わってないと思うがね。

俺の肩辺りの高さある横顔をぼやっと見ていた。
声、ちょっと高めで可愛いかったな…。変声期来なかったのかな。
なんて事を考えてたが、厳つい顔の上に無表情で定評の俺。なので、何を考えてようと読める人間などいない。

あっ……ひとり居たな。

「下らなそうな事を考えてないで、始めますよ」
冷たく言われてしまった。
ん?
何故分かったんだろう。

いつの間にか今回の演習の意義などに説明が終わっていたようだ。
あー、終わったのにぼんやりしてたからか?
まぁ、まぐれだな。

この演習最終日には、魔法師と初めてと言っていい連携模擬戦をする事になっている。
その為に二人一組で色々と試してみようという事である。あちこちで複数のグループも出来ている。
交流は順調なようだ。

元々、魔法師と騎士団はあまり交流がなかった。

俺たち脳筋と一緒は嫌だと思われていたと思ってたが、蓋を開けてみればそうでもなかったと聞いている。
気質だけの問題だったようだ。

つまり、外向き集団と内向き集団。昼型人間と夜型人間。要は相容れない人たちってだったて事だ。

上手くやれるのかねと思ってたが、存外やれそうだ。

俺としては、今まででいいんでね?と思っていた。これまで上手くやれてたんだし。

そんな下っ端の考えなど既に考えてたと思われる上層部は、今まで通りの行き当たりばったりの連携より、より効率的な戦術を求めているという事のようだ。

魔法師の集団も連隊とはなってるが、グループ分けしてる集団といった感じだと聞いてる。あちらも内部改革が必要ではないのですかね。
とは言っても、互いに内情をよく分かってないのが実情。あちらの事情もあるだろう。あちらはあちらでお願いしましょう。

上で上手くやってくれるのでしょう。

その話し合いか何かで、同じ国防を担ってる者として、如何なものかという事になった訳なようですね。
そうだよね。
今までがよくやってたという事だよ。

あちこちが転移など使って、方々に散っていく。

移動が面倒なので、このだだっ広い平地のここでいいんじゃないだろうか。
近くには誰もいないし。残り物的だが。俺はココでいいんだが…。

「ここでいいか」
おー、意見一致。連携も問題なくサクッと終わりそうな予感。楽勝だわぁ~。

さて、何から話しますかね…。
ん?

「遮る物ない。障壁を張れば、壊れる物も出ないだろうし…」
ブツブツ言ってる。ついでになんか手が動いてますが…。障壁? 魔法展開してるの?!

俺ここに至っても何も発言してません。
この御仁、独立独歩の人?! 相談は?
この演習、話し合いをしましょうだったんじゃない?

「あ、あのー」
同じ年ぐらいだと思うんだけど、ペーペーの俺はなるべく下手に。階級もこの人の方が上だし。

「さて、思いっきり攻撃して貰おうかな」
やっぱり、ぼっちの人です。聞いちゃいねぇ。
「は? 攻撃ですか? どれをですか?」
ここには何もない。俺と彼のみ。

「私だが?」
当然と、親指で胸を差しながら笑ってる。
綺麗に笑う人ですけど、その笑顔、心底冷える笑顔なんですが。簾髪の向こうの目が笑ってない気がする。

「自分が、貴方あなたを?」
大仰に頷いている。

嗚呼ッ!
手が自らの額に動いた。
べちっと当てて、ため息が出た。

我が国の中央騎士団は魔法騎士の精鋭の集まりである。
攻撃魔法が得意な者が多い。剣技との合わせ技で敵を殲滅していく。
攻撃こそ最大の防御とは言わないが、割とイケイケどんどんの集団。
それを、魔法師連隊がサポートをするのが今までの流れであった。

魔法師にも攻撃を得意としてる者もいる。
例えば、ここにいる御仁など、ひとりで暴れられる方だ。

『氷の死神』

彼の攻撃から逃れられた者はいないらしい。
いないのなら、なぜ、そう言われてるのか。
味方側に目撃者がいるって事だ。
暗い色のローブを好むものだから、『死神』なんて言われてるんだろうが。二つ名が付くほどだ。本物だろう。

冷徹な態度もなのだろうが、氷系の攻撃魔法を得意としてるのだろうな。

俺は電撃を得意としている。
炎と風も割と操れるが、この大ぶりの剣に魔法を纏わせて振り抜くのだが主な攻撃方法。
普通に剣技も出来るが。

「互いの手の内が分からないと先の話も出来ん」

そこは話し合いでなんとかなるだろ?
デコイを攻撃するのだっていいんじゃなのか?
言いたい事は色々あったが、飲み込んだ。

この御仁には通じない気がする。

「分かりました。ーーー手加減は出来ませんよ?」

「そうでなければ測れないから、力一杯よろしく。やり直しなど出来ないからそのつもりで。ではッ」
『始め』は殆ど聞こえなかった。
言い終わるかどうかのタイミングで目の前から消えた。
予備動作なしに転位魔法を使ったようだ。

詠唱してる?
転位如きに詠唱なんていらんてか?
無詠唱で操るのって結構高度ですよね?

仕方がない。腹を括ろう。

んー、距離はちょい遠いが加速つけて、アレしてこうして行きますかねッ。
高速で戦闘プランを組み上げて、彼の転位先を認識したと同時にダッシュ。地面を蹴る。

俺も大概である。スッと戦闘モードに切り替わっていた。

身体に強化魔法は勿論だが、この強化は速く走る為とは違って、魔法による防御の方に寄ってる。

つまり、風魔法で自分自身を撃ち出してる。このスピードについて来れる者にまだ会った事がない。

真っ直ぐ突っ込んんでくるだけだと思ったか? 笑ってやがる。
こうやって、バランスを変えると方向転換も、上からでも、地面ギリギリの移動も、色々と攻撃も出来るんですよ。
俺自身が弾になってるんでね。
脚を使いながら変則させる。

んー、弾丸って表現したけど、飛行してるって方が感覚に近いかな?と言っても魔法師のような飛行とは違うけどね。客観視してみたり。一気に間合いを詰める。

上空から飛来物。
降り注いでくる氷。地面に刺さってる。俺の周りで砕け散ってる。旋風が鎧になってる。推進力であり防壁。
降り注ぐ先の尖った氷垂は、段々に太く大きくなってる。術者に近づいてるってとこだ。

ここまで悠長に行われてるような感じがしてるかもだが、1分も経っていない。秒の世界で進んでいる。
彼の前面には氷垂がツララの壁を形成していた。隙間が見る間に塞がって行く。

攻撃魔法を防御にも使うのか。
ちょっとやそっとじゃ壊れそうにない硬度の高そうな氷の壁。
だが、俺は氷垂が降ってる中、放った風に仕込みを施していた。

あの氷壁が形成されるまでに届いたはずだ。

剣に魔素を掻き集め纏わしぶん回で放出。間合いをとって、次弾装填。上段の構え。
砕け散った壁の向こうに居るであろう彼に向けて振り下ろした。

振り下ろした時点では砕けてはいないんだか、氷垂内の忍ばせた雷の種が先に壁に打ち込んだ俺の衝撃が引き金になって、内と外から爆ぜる電撃が波になって広がる。
どうだ! 氷なんぞ木っ端微塵じゃ!

砕けたのを目視してたら間に合わない。
風に煌めく雷のタネを仕込んで振り下ろした。

崩れる氷壁の向こうにやはり彼はいなかった。
どこだ?! 視界の隅に影を見た。
振り下ろしてすぐに体は動いている。俺は留まらず、場所を移動していた。

俺の居た所にいくつもの刺さる氷垂。

串刺しにする気か?!

俺も人の事は言えないな。

彼が落ちて来た。

さっきの風は、上空に駆け上がっていた。放った後でもざっくりした操縦は可能の風を選択していたのだ。
影を追わせただけだったが、上手くいったようだ。

風が無効にされたようだが、雷の鎖は有効だったようだ。
衝撃があって初めて発動するトラップだったんだが、上手くいった。

仕上げだな。

一気に詰めて馬乗り。カチャッと喉元に切っ先を当てる。ツプっと血が玉を作る。
『降参』してくれ。終わっただろ?
あとひと刺しで絶命だ。

反撃?!
この状態で?!
終わったよな?!

氷の攻撃。
水蒸気が辺りを包んだ。
風で一気に吹き飛ばしたが、一瞬の隙に切っ先の先に彼が居ない。
マジか…。

血と肉の焦げる臭いが漂う。

鎖は解いたようだが、身体は痺れてるはずだ。
少し離れたところに彼が立っていた。悔しそうに喉に手を当てている。

指の隙間に血が見える。

剣を白く輝かせる熱を纏わせるのじゃなく、風で切り刻む方が良かったか? 殺す気はないんだ。
熱さでギブさせたかった。まさか自ら焼き切られる方を選ぶとは。氷の攻撃魔法で冷却したか…。

手が離れると傷が薄っすらと残っているが塞がっているようだ。
治癒魔法も使えるのか…。

口が開く。
何かを発しようとして、咳こんだ。

ケホッと地面に吐き出したのは、血の塊だった。
ザックリ裂いてたようだ。

「引き分けだな」
ん?
俺の勝ちだろう。

血の臭いは近くでしていた。
臭いの発生源は自分?
脇腹に手をやる。

サクッと脇腹が裂けた。
鋭利な刃物で斬られていたのか、時間差で傷口が開いたようだ。
内臓が出るかと想像して慌てて手で押さえる。
真空にして傷口を合わせて塞ぐ。
内臓までは、行ってなかったようだ。風の鎧と自身の筋肉でなんとかなった。

きちんと防御魔法が付与された騎士服を着ていたら、もっと傷は浅かったかもしれない。

今日は挨拶と話し合いぐらいだろうと、形だけの普通布の騎士服で来ていた。
冷や汗が出る。

スパッと切れてるからか圧着でなんとかなりそうだ。

「お前、治癒魔法は出来ないのか? というか、なんでそんなちんけな物を着てるんだ?」

足取り重く近づいてくる。
お前だって、人の事言えんだろう。
そっちの装備は俺より上なら、やっぱ俺の勝ちだな。

「装備も戦術の内だ。私の勝ちと言いたいが、そこを差っ引いて『引き分け』にしてやる。戦場なら死んでる」

ニンマリしそうな表情を引き締めた。
確かに。
膝をついてた俺は納得した。
脇腹から急激に身体が冷えていた。冷やされて切られた事に気づかなかったのか? 冷気が全身に回るようだ。毒のようだな。
立っていられなく片膝をついていた。

俺の手に手が重なる。
フードを投げ下ろす。
髪が撫でつけられてオールバックに固まっている。表情が丸見えだ。
まつ毛長いのな。見惚れていた。今にも倒れそうで、意識もあやしくなってるのに、俺って余裕か?

魔力が入ってくる。
温かい…。懐かしい感じのする温もり。この温もりは…。

「ティディ…」

呟いていた。
温もりが途切れる。
傷の治癒を始めていただろう魔力が離れた。

グッと顔が近づく。キスが出来そうな距離。

ん????
治療は?

「お前、名は?」
「エヴァンドロ=グランデール」
名簿見てないのか?
ん?
変な顔してる。
俺なんか言ったか?

イッテー!!!
冷気が消えていた。治癒魔法の中断で、傷が開いてきちまった。
冷えて痛みが分からなかっただけのようだ。

痛みで目が霞む。

「エドラではないのか…」
倒れる寸前、懐かしい響きを耳にしながら、意識を失った。

彼との手合わせは、カップラーメンが出来るか否かの時間で終わった。



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