絡める指のその先に…

アキノナツ

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《4》 ※

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「コレってあいさん?」
メガネさんが腕枕してくれながら、スマホの動画を見せてくれる。

メガネさんは、オレの作品AVのファンだった。
店のプロフィール写真に惹かれて来店してくれたって教えてくれた。
微妙に顔は隠してたのにね。バレちゃた。

初めて会った時、個室に「ご指名ありがとうございます」って入ったら、正座されちゃったのよねぇ~。驚いちゃった。
「間違ってたらすみません。アイさんってあの藍さんですか?」ってストレートに訊かれちゃったんだよね。
オドオドしながらだけど、真剣な目で見られちゃね。困っちゃう。

真剣な態度には、真摯にお返事。
「はい、あの藍です」ってね。

全作品網羅って嬉し恥ずかしです。

感激してくれたんだけど、エッチな事はできないって言われた。
エッチなお店に来てるのに。作品観てくれてるのに。変なメガネさん。
「お疲れなご様子。寝てください。ただ……添い寝をお願いします」
土下座された。お客さんなのにぃ~。

男ってみんなそう。最初は良いように言って、襲って来るんだから。
でも、オレって慣れちゃった。

「いいよぉ~」って添い寝したのね。

で、来る度に添い寝。襲ってこない。
腕枕してくれる。今のオレの癒やしの時間。

不思議なメガネさんが、すまなそうに話しかけてくる。睡眠時間を削って申し訳ないって感じ? お話しするのも好きだからいいよ。

動画には覚えがあった。

オレが引退しようかなってなる少し前に青斗あおとくんがフリーになって、自分でも動画とか作って販売するとか言ってたんだよね。

買ってもらってた時に、動画撮らせて貰っていいか訊かれて、了承して撮ったヤツだった。
そうそう、あの時、契約書とか書いたなぁ。しっかりしてるよね、青くん。

恋人シチュエーションで、イチャイチャしながらのエッチだった。
腕枕して貰ったり、手の平に頬っぺたくっ付けたり。オレがしたい事いっぱいしたね。

アンアン啼いてるオレ。
腰が動いちゃってる。咥え込んでゆっくり青くんの肉棒を出し挿れしてる。相変わらず、青くんの大きいねぇ。
気持ちいいんだよね、彼とのセックス。
めっちゃ潮吹いてるし。恥ずかしい。
動画の俺も恥ずかしそうに青くんに抱きついちゃってる。
トントンしてくれる青くん、可愛くってカッコいい。
ーーーーなんか、オレ、幸せそうです。
綺麗に撮れてる。このアングルいいね。

今の自分が惨めに思えてくる。

「オレだね。青くんの個人作品。了承して撮ったハメ撮り。販売するかもって言ってたのだよ」
青くん、個人事業者ってのになったんだ。
社長じゃん! おめでとう。

「無断じゃないんですね。大分前に載ってたみたいで。無断かと思ったんですよ。良かった。今までのどの作品にもない映像なんで、驚いて。通報案件かと…」

「そうだねぇ~。引退して間が空いちゃってるもんね」

「青さんとお付き合いしてたんですか?」
動画を観ながら、訊いてくる。
「青くんと? ないよ。仕事仲間」
驚いた。そんな風に思われてたの?

オレは周りの噂とか疎かったから、知らなかった。

「青さんとの絡みって恋人って感じで。いいですよねぇ」
演技が認められた気分。
「AAコンビって言われてましたよね」
ああ、そんな売り出しされた事もあったな。

「コレって恋人に見える?」
「とっても幸せそうで、観てる側も幸せな気分になります」
メガネさんが微笑んでる。
照れくさい。
すりっと胸に擦り寄った。
「ありがとう」

幸せな気分のまま眠った。


◇◇◇◇◇◇


藍さんに会いたい。
会わないといけない。
あの動画を会員サイトにupした。

共同作品だ。売上の一部は藍さんの取り分。渡さないと。
連絡取ってから上げたかったが、取りようがなくて、なんだか手段になったが、手掛かりなるかもと上げた。
本人から抗議でもいいから連絡が来ないかとも考えた。

この動画上げる前に、事務所に藍さんと連絡が取りたいと打診したら、取れないと社長も困っていた。

社長と雑談しながら、どうしたものかと話してると、のっそりと強面の男が入ってきた。

俺と目が合うと、顔をくしゃっとさせて、人懐っこい笑顔。

「あ、青さん。お久しぶりです」

事務雑用のスタッフ。
大きな身体と顔面の作りから、あちらの人に間違えられる。ファッションセンスもあっちのテンプレなのも間違えられる要因だと思うけど。

「カオルちゃんも元気そうで。そうだ。カオルちゃん、藍さんと仲良かったよね?」

「仲って。あの人は誰とでも仲良しですよ」
事務処理の作業をしながら、話に乗ってくれる。

「そうだけど。俺、住んでる処すら知らんかったぞ」
なんだか仲間外れな気分をぶつけていた。カオルちゃんが藍さんと飲みに行ってるとかを言ってるんじゃないけど。ヤキモチみただな。モヤモヤがもやっと湧き上がって来た。

「私は知ってますよ」
書類をチェックして捌きながら、なんて事はないといった風に返して来た。

「「はぁあ?!」」
社長とハモっちまった。

「私、時々荷物取りに行ったりしてたから」
キョトンと手を止めてこちらを見ている。

初めて聞いた。
社長もだったようで、引っ越し先の住所記載抜けてんだよとかなんだかんだとなんか言い合ってる。
下火になるまで待つ。これからの行動手順を考えていた。

いざ接触出来るとなると、思考が止まる。
真っ白。



ドアから出て来たのは、藍さんではなかった。
お前、誰やねん!

「藍さん居られますか?」
本名知らんって話したら、字が違うだけってカオルちゃんに教えて貰ったので、心置きなく尋ねてみたら…。

「あー、今居らへん。何? 金?」
奥から女の声がする。
良からぬ感じ。撤退がベストだが…。

「近所まで来たんで、どうしてるかなぁと。いつお帰りに?」

「帰ってこないよ」
「え? でも…」
表札は、『A l』って書いてある。
丸っこい手書き文字。藍さんの字だ。

「何ぃ?」
面倒臭そうに言われる。

「今何処に?」
「知らん。もういい?」
扉が閉じた。

スーツで来て良かった。
服の選定にバグっただけなんだけどね。
格好で対応してくれたみたいだ。イケ好かないヤツだった。
なんであんなヤツが居るんだ?

ネクタイを外しながら、駅に向かう。

カオルちゃんなら知ってるかな。
事務仕事は凄いんだよ。なんでも知ってる。雑談には積極的には入って来ないし、訊かれない事は喋らない。口が固いって事かなぁ。なんか違う気がするけど、結果は同じか?
それだから、藍さんはカオルちゃんに頼んでたのか?

さて、困った。



困って、動画をupした。
カオルちゃんの助言も後押ししてくれた。

やっと、狙い通り手がかりが来た。
やっとだったが、ありがたい。

『可愛い』『美味しそう』『抱かれたい』
などというコメントの中にマッサージの子に似てるってのがあった。
あったが、マッサージ?
他人の空似だろうが、なんでもいい。当たってみるか。

コメント書いてくれてた人にDMを送ってみた。

みんなの前から消えて、2年目が見えて来ていた。どんな手がかりも欲しいところだった。社長とも話してたが、興信所頼もうかとも思ってたところだった。

店の名前を教えて貰って、検索。
店の子の写真には藍さんらしき写真はない。
困った。
やっと繋がったと思ったのに…。



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