【完結】逃げる男と追う男

アキノナツ

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夜に霞む

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青い水面がキラキラしてる。

ゆらゆら。キラキラ。綺麗だ。手を伸ばす。

水面を見上げてる。
ああ、オレは沈んでたんだ。
ゆっくりキラキラの水面に近づいていく。

水面とキスして、膜を破るように水面を抜けていく。

…………

パチリと目が開く。
普通の目なら、漆黒の闇だ。
そして、オレの目は人間の普通な目ではない。闇とはオレの事。闇からオレは産まれる。

シーツも掛けていないマットレスの上で身体を起こす。

バキバキ身体が鳴る。
急激に身体が動き出す弊害だ。
自分が出しているんだが、毎度気分が悪い。

腹の中の粘液がウネる。

寝てる間に消化はされないか。
そっと再び横になる。

夜目の利く目でシミの浮かぶ天井を見上げる。

オレの身体は、混血もいいところだ。
何処かの遠いご先祖さまが、淫魔と番になったらしい。遠いので、発現するまで気づきもしなかった。
オレのお母上は「あらまぁ…」の一言で終わり。
父上は「仕方ないな」で終わり。
二人はイチャコラしててこちらには見向きもしない。
弟か妹が増えそうだ。
他の血縁に発現者はいない。
オレだけかよ。

小さい頃は可愛かったのだろう。もの凄く可愛がられた記憶はある。もうはっきりしないふわふわした感覚しかないが、たぶんアレが幸せだ。守られてる幸せ。

まぁ、独り立ちした子供は、同族の一人でしかないのは致し方ないな。

極々薄いらしいが、こんな両親のご先祖さまだ、他にも血が混ざってるかもしれない。こんなイチャイチャしてる同族見たことない。変わり者だよ。父上も、母上も。

発現しなければ問題なしと父上が言ってたな。

この嗅覚も怪しいんだよなぁ。

精液もオレのエネルギーに出来る。
便利といえば便利なのだが、吸血の方が好きだ。セックスは挿れるより挿れられる方が好き。これがたぶん淫魔の血がさせる事。

ご同類は、相手を気分良くさせて、血を蕩けさせて味わうらしいが、オレは自分を使って調理する。同じようなものだと思うが、昔、純正の吸血鬼はそんな事しないと言われた事がある。

なーーーにが『純正』だよ。純血が一番かよ。種族消えちゃうよ? 絶滅しちゃうよ?

あの種族集団と一緒は居心地が悪く、家族は居心地良かったけど、基本放置なので、居てもいなくてもだし。流れ流れて、日本に流れ着いた。

ここはいい。

なんでも受け入れてくれる。
宗教でも、人種でも、性癖も、なんでも御座れだ。

隣の住人が何をしてるのかなんて、余程の事がない限り気にも留めない。
なのに、会えば挨拶をする。

もう! このカオスさ。大好き!

ま、生きづらい時代もあったけどね。

あの時は、中東とかふらついてたんだっけかな。
そうそう、囲われて大変だったんだよ。あの大臣って、オレの正体薄々気づいてたんだろうな。
ま、安全は確保出来たけど、身体を好きなようにされて、あん時の薬、抜くのに思いの外、時間を食った。

ま、アイツの血は根こそぎ吸い取って、ミイラさ。あはは…。
今頃は、風化して砂漠の砂に混ざっただろう。
『永遠の命を』とか言ってたなぁ。

そんなこんなでオレは眷属は作らない。

ゴロゴロしてるうちに粘液が吸収されてきた。

|白尾《しろお 拓未たくみ……略して、白《しろ》タク。
キャハハ……
笑い過ぎた。腹痛はらいたぁ。
大事なエネルギーが漏れるぅ。
この響き、悪い事してそうだね。

人の名前で遊んじゃ悪いね。ごめん、ごめん。

昨日はネクタイしてなかったけど、スーツ着てたな。
Yシャツの胸元のボタンが開いてて、アレは色気があって良かった。

……香水と消臭剤塗れのスーツさん可哀想。

タトゥー入れてるし、まともな仕事してるようには見えなかったなぁ。

人探しを仕事にしてるのかなぁ。

これだけ供給して貰ったから、当分フラフラしてられる。
ありがとう、白タクさん。

んー、この塒、変えようかな。
なんか嫌な予感がする。
思い立ったらだ! 不動産行こう。

吸収も終えた。
オレのお肌ツヤッツヤ。タクくん、あんがとう!

シャワー浴びて、さっぱりするかな。

変な臭いのついた服は勿体無いけど、処分しよう。



真新しいスタジャンを羽織る。
黒っぽい茶髪をキャップに収めて目深に被る。真っ黒なジョガーパンツ。真っ赤なハイカットのスニーカーを突っ掛ける。
身につけた物は全てが下ろし立て。気分がいい。

夜の街に繰り出した。



3か月。逃げ切ってる。
うふふん。
鬼ごっこ選手権があったら優勝しそう。
あう!昼の部は出れないから、不戦敗じゃん。キーーーーッ。

お兄さんから逃げれたらオレ的にはオールオッケー。
最高に楽しい。

鏡の自分を確認。今日はレンな気分の髪色。
ハニーブラウン。
だいぶん、色が抜けてきたなぁ。

タクの血は良かった。初めて黒に近くなった。取り込んだ人間の血で髪色が変わってしまう。アレかなぁ。バロメーターみたいな?

日本に来て覿面だったから、黒髪の遺伝子って濃いんだわ。オレってベース金なのよ。
髪だけじゃなく、目も茶色に変化する。
絵の具かッ!って初めは思ったけど、もう慣れた。

夜の街をビルの屋上の縁に腰掛けて見つめてる。
ぷらぷら赤いスニーカーが下で揺れてる。

ーーーーつまらない。

とは言え、生きる為には獲物を狩らねばならない。そろそろ新規開拓だなぁ。
おじさまは深みがある味わいだけど、摂取できる期間が短い。出来るだけ若くて長く味わえるのはいないものか。

チラチラとタクの顔が脳裏を掠める。

アイツと一緒に居たら、追いかけっ子より面白い事を教えてくれるかも……。

いやいや、抱き潰されて、朝の日差しと共にオレは灰だ。
心臓を別に保管してるから、灰のまま意識だけが漂う、気持ち悪い事になるなぁ。

おぉ! タクを眷属にする?

却下!
透かさず、横合いからもう一人のオレがズサーッとツッコンんで来た。
眷属からは飲まねぇだろ?!

そうだねー。
眷属からのは不味いから飲まないね。
あれは不味くて胸焼けする。

あの味を味わえなくなるよねー。

それに…。
ニヤッと笑ってしまう。
プライド高い男がオレの下に付くとは思えん。

そう言えば、タクって何してる人ぞ?
逃げ回ってて、知らない。知ろうともしてなかったし。

んーーーーーーーッ!
知りたい!

風にタクの匂いを探る。
今日は近くにいない。

探される者から探す者にポジションチェンジだ。追いかけるよぉ~。
舌舐めずりする。



追いかけるのは難しいのな!
匂いはあるのに捕まらない。
動くのを追いかけるのはやめよう。

匂いが濃いところを絞り込んで、タクの根城を押さえるか。

雑居ビルの前で佇んでいた。
『杉谷興信所』
窓にデカデカ書いてある。
あの階がタクの匂いが強い。

電柱の陰に気配を消して、様子を伺う。

ああいうのは、「探偵」とかいうやつか?

ほぉ、タクは、イギリスのベストセラーのパイプ咥えた御仁と同じ職業なのか?

なるほど、なるほど。
オレ、助手しようかなぁ。
楽しそうだなぁ。

ワクワクが止まらない。

クン…
風にタクの香りが混じる。

スラックスに両手を突っ込んだ背中を丸めた姿勢で、事務所に続く階段に足をかけて固まる。周りをキョロキョロし出した。

じっとこちらを見られた気がした。
変な汗を掻く。身じろぎせず。ひたすら無になる。

首を傾げながら上がっていく。

隠れんぼ成功!
ドキドキするねぇ。
もう血が沸き立つねぇ。
堪らんねぇ。
飲みたいねぇ。
じゃないわい!

これからどうしようかなぁ。

じっとしてたらうつらうつらしてた。

「エド。ココで何してる」
不機嫌な声が降ってきた。
ぼやんと見上げる。

キャップを取られて、確認されてる。

あー、タクだ。
出てきたら、後ろから抱きついて「だーれだ」ってするつもりだったのに。
それから、「捕まえたよ」ってするの。むにゃ…。

「お前、今日はパツ金かよ」
え……マジですか。それって不味いじゃん。
もう少し保つはずだったんだけど。能力使い過ぎた?

「寝んな…」
不機嫌に、担がれて、オレ運ばれてる。
あー、死んじゃうのかぁ。
全体的に面白い人生…人生? 生?
あ、心臓と一緒じゃないと面倒だなぁ。オレなんで別にしちゃったんだろう……。



ヌッチヌチ……

オレの尻に、なんか挿入ってる。
後孔を出て…這入って…、ナカを擦られてる……。
「あ……」
いいとこに当たったよ?

「起きたか?」
いい顔でオレの上で腰振ってるタク……。
寝てる人を犯しますか?

あなた人ですか?
オレの兄でもここまで鬼畜じゃないよ?

「なんで?」
寝ぼけた声。
「冷えてたから、暖めようかなっと……」
目が泳いだ?
悪いと思ってる?
じゃあ、何故した?

「で、セックス?」
「初めは添い寝してたんだけどね。ムラっとね。えへへ」
あー、タクってあの探偵の御仁とは雲泥の差です。ぽりぽり頬を掻いてる。

「タクは探偵さん?」
浅いところをヌチヌチと擦られながら、尋ねる。気持ちいいので続けて貰おう。

「根城抑えられたかぁ」
コクンと頷く。

「もしかして、エドは俺を探してた?」
コクンと頷く。
「道理でぐるぐる回る感じがしたんだよ」

グインと奥を撫でつけられる。
ビクビクと身体が震える。

「嬉しいね。そんなにコレが良かった?」
違うけど、今はコイツの血を分けて貰おう。

「いいよ。朝まで可愛がってやるよ」
グイグイと抽挿されて、背が反る。
あぁ、急にぃぃ……。
「朝、までは、ダメ、ぇんん」
感じちゃう。
背に腕を回し、脚を腰に絡める。

「あの部屋見た」
耳元で囁かれる。
何???

「日光が苦手なのか? とは言え、異様だったがな」
ヌッチヌチと抽挿を続けながら、ポツポツと話してる。

蕩けかけた感覚が引き戻される。
頭が冷えてくる。ああ、終わりだね。

淫魔の能力が、タクから僅かに滲み出た精液を栄養にオレを助けたらしい。

もう少し欲しい。
肉筒を絞めて、促す。出せよ。

あの部屋は早々に引き払った。
勘は当たったのか。
来たんだ。

近々、取り壊す予定というので、部屋はそのままで出てきてたが、まずったな。

調理は諦めるか。
残念だよ。退屈が紛れるかと思ったのに、この男は何か考え出してる。
ただのお客さまで、鬼ごっこをする相手だったら、良かったのに。詮索しないでさ。

腰振りに忙しいタクを見つめる。
気持ちいいのにさ。

「タクぅぅ」
甘えた声で呼びかける。

「なんだ?」
ギラついた目が見遣ってきた。
視線を掴む。
目を覗き込む。奥の奥……。

「お、まえ……」
腰の動きが緩慢になり、倒れ込んでくる。
視線は遠い。

歯を立てる。
もう遠慮は要らない。
変死体がラブホテルのベッドに転がるだけだ。

そっとは抜かず、裂くように抜く。
噴き出る血を漏れないように啜る。
一滴も溢さない。
ナカでタクが震えてる。イくか?

腰を振るながら、ごくごくと飲み干していく。
喉が潤う。
タク、人生最後の射精だよぉ。

ぐちゅぐっちゅと下で水音が響く。
オレも濡れてきた? 命を貪る事に全身が沸る。

ギュギュッと締め付け擦った。

ここまでがギリギリのいつもの量。
ジュっと更に飲み進める。

ゴキュゴキュ……
調理してなくてもいい味だ。
眷属のラインを過ぎて、最後の領域に……。

腹に熱が広がる。

心臓の音を伺う。こちらの鼓動も釣られる。シンクロしてオレまで死んでは笑えない。心して飲む。

……心音が、うるさい!
コイツ生命力、強過ぎないか?
いやいや、強いとかの話じゃない。異常だ。
咥え込んでいた傷口から口を離す…。
ほとんど飲んだ…はず…だ…。

後孔から陰茎が抜ける。自然と抜けたのではない……。

「タク……」

ギラギラした目がオレを射抜いた。



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