4 / 23
夜に霞む
【4】 ※
しおりを挟む青い水面がキラキラしてる。
ゆらゆら。キラキラ。綺麗だ。手を伸ばす。
水面を見上げてる。
ああ、オレは沈んでたんだ。
ゆっくりキラキラの水面に近づいていく。
水面とキスして、膜を破るように水面を抜けていく。
…………
パチリと目が開く。
普通の目なら、漆黒の闇だ。
そして、オレの目は人間の普通な目ではない。闇とはオレの事。闇からオレは産まれる。
シーツも掛けていないマットレスの上で身体を起こす。
バキバキ身体が鳴る。
急激に身体が動き出す弊害だ。
自分が出しているんだが、毎度気分が悪い。
腹の中の粘液がウネる。
寝てる間に消化はされないか。
そっと再び横になる。
夜目の利く目でシミの浮かぶ天井を見上げる。
オレの身体は、混血もいいところだ。
何処かの遠いご先祖さまが、淫魔と番になったらしい。遠いので、発現するまで気づきもしなかった。
オレのお母上は「あらまぁ…」の一言で終わり。
父上は「仕方ないな」で終わり。
二人はイチャコラしててこちらには見向きもしない。
弟か妹が増えそうだ。
他の血縁に発現者はいない。
オレだけかよ。
小さい頃は可愛かったのだろう。もの凄く可愛がられた記憶はある。もうはっきりしないふわふわした感覚しかないが、たぶんアレが幸せだ。守られてる幸せ。
まぁ、独り立ちした子供は、同族の一人でしかないのは致し方ないな。
極々薄いらしいが、こんな両親のご先祖さまだ、他にも血が混ざってるかもしれない。こんなイチャイチャしてる同族見たことない。変わり者だよ。父上も、母上も。
発現しなければ問題なしと父上が言ってたな。
この嗅覚も怪しいんだよなぁ。
精液もオレのエネルギーに出来る。
便利といえば便利なのだが、吸血の方が好きだ。セックスは挿れるより挿れられる方が好き。これがたぶん淫魔の血がさせる事。
ご同類は、相手を気分良くさせて、血を蕩けさせて味わうらしいが、オレは自分を使って調理する。同じようなものだと思うが、昔、純正の吸血鬼はそんな事しないと言われた事がある。
なーーーにが『純正』だよ。純血が一番かよ。種族消えちゃうよ? 絶滅しちゃうよ?
あの種族集団と一緒は居心地が悪く、家族は居心地良かったけど、基本放置なので、居てもいなくてもだし。流れ流れて、日本に流れ着いた。
ここはいい。
なんでも受け入れてくれる。
宗教でも、人種でも、性癖も、なんでも御座れだ。
隣の住人が何をしてるのかなんて、余程の事がない限り気にも留めない。
なのに、会えば挨拶をする。
もう! このカオスさ。大好き!
ま、生きづらい時代もあったけどね。
あの時は、中東とかふらついてたんだっけかな。
そうそう、囲われて大変だったんだよ。あの大臣って、オレの正体薄々気づいてたんだろうな。
ま、安全は確保出来たけど、身体を好きなようにされて、あん時の薬、抜くのに思いの外、時間を食った。
ま、アイツの血は根こそぎ吸い取って、ミイラさ。あはは…。
今頃は、風化して砂漠の砂に混ざっただろう。
『永遠の命を』とか言ってたなぁ。
そんなこんなでオレは眷属は作らない。
ゴロゴロしてるうちに粘液が吸収されてきた。
|白尾《しろお 拓未……略して、白《しろ》タク。
キャハハ……
笑い過ぎた。腹痛ぁ。
大事なエネルギーが漏れるぅ。
この響き、悪い事してそうだね。
人の名前で遊んじゃ悪いね。ごめん、ごめん。
昨日はネクタイしてなかったけど、スーツ着てたな。
Yシャツの胸元のボタンが開いてて、アレは色気があって良かった。
……香水と消臭剤塗れのスーツさん可哀想。
タトゥー入れてるし、まともな仕事してるようには見えなかったなぁ。
人探しを仕事にしてるのかなぁ。
これだけ供給して貰ったから、当分フラフラしてられる。
ありがとう、白タクさん。
んー、この塒、変えようかな。
なんか嫌な予感がする。
思い立ったらだ! 不動産行こう。
吸収も終えた。
オレのお肌ツヤッツヤ。タクくん、あんがとう!
シャワー浴びて、さっぱりするかな。
変な臭いのついた服は勿体無いけど、処分しよう。
真新しいスタジャンを羽織る。
黒っぽい茶髪をキャップに収めて目深に被る。真っ黒なジョガーパンツ。真っ赤なハイカットのスニーカーを突っ掛ける。
身につけた物は全てが下ろし立て。気分がいい。
夜の街に繰り出した。
3か月。逃げ切ってる。
うふふん。
鬼ごっこ選手権があったら優勝しそう。
あう!昼の部は出れないから、不戦敗じゃん。キーーーーッ。
お兄さんから逃げれたらオレ的にはオールオッケー。
最高に楽しい。
鏡の自分を確認。今日はレンな気分の髪色。
ハニーブラウン。
だいぶん、色が抜けてきたなぁ。
タクの血は良かった。初めて黒に近くなった。取り込んだ人間の血で髪色が変わってしまう。アレかなぁ。バロメーターみたいな?
日本に来て覿面だったから、黒髪の遺伝子って濃いんだわ。オレってベース金なのよ。
髪だけじゃなく、目も茶色に変化する。
絵の具かッ!って初めは思ったけど、もう慣れた。
夜の街をビルの屋上の縁に腰掛けて見つめてる。
ぷらぷら赤いスニーカーが下で揺れてる。
ーーーーつまらない。
とは言え、生きる為には獲物を狩らねばならない。そろそろ新規開拓だなぁ。
おじさまは深みがある味わいだけど、摂取できる期間が短い。出来るだけ若くて長く味わえるのはいないものか。
チラチラとタクの顔が脳裏を掠める。
アイツと一緒に居たら、追いかけっ子より面白い事を教えてくれるかも……。
いやいや、抱き潰されて、朝の日差しと共にオレは灰だ。
心臓を別に保管してるから、灰のまま意識だけが漂う、気持ち悪い事になるなぁ。
おぉ! タクを眷属にする?
却下!
透かさず、横合いからもう一人のオレがズサーッとツッコンんで来た。
眷属からは飲まねぇだろ?!
そうだねー。
眷属からのは不味いから飲まないね。
あれは不味くて胸焼けする。
あの味を味わえなくなるよねー。
それに…。
ニヤッと笑ってしまう。
プライド高い男がオレの下に付くとは思えん。
そう言えば、タクって何してる人ぞ?
逃げ回ってて、知らない。知ろうともしてなかったし。
んーーーーーーーッ!
知りたい!
風にタクの匂いを探る。
今日は近くにいない。
探される者から探す者にポジションチェンジだ。追いかけるよぉ~。
舌舐めずりする。
追いかけるのは難しいのな!
匂いはあるのに捕まらない。
動くのを追いかけるのはやめよう。
匂いが濃いところを絞り込んで、タクの根城を押さえるか。
雑居ビルの前で佇んでいた。
『杉谷興信所』
窓にデカデカ書いてある。
あの階がタクの匂いが強い。
電柱の陰に気配を消して、様子を伺う。
ああいうのは、「探偵」とかいうやつか?
ほぉ、タクは、イギリスのベストセラーのパイプ咥えた御仁と同じ職業なのか?
なるほど、なるほど。
オレ、助手しようかなぁ。
楽しそうだなぁ。
ワクワクが止まらない。
クン…
風にタクの香りが混じる。
スラックスに両手を突っ込んだ背中を丸めた姿勢で、事務所に続く階段に足をかけて固まる。周りをキョロキョロし出した。
じっとこちらを見られた気がした。
変な汗を掻く。身じろぎせず。ひたすら無になる。
首を傾げながら上がっていく。
隠れんぼ成功!
ドキドキするねぇ。
もう血が沸き立つねぇ。
堪らんねぇ。
飲みたいねぇ。
じゃないわい!
これからどうしようかなぁ。
じっとしてたらうつらうつらしてた。
「エド。ココで何してる」
不機嫌な声が降ってきた。
ぼやんと見上げる。
キャップを取られて、確認されてる。
あー、タクだ。
出てきたら、後ろから抱きついて「だーれだ」ってするつもりだったのに。
それから、「捕まえたよ」ってするの。むにゃ…。
「お前、今日はパツ金かよ」
え……マジですか。それって不味いじゃん。
もう少し保つはずだったんだけど。能力使い過ぎた?
「寝んな…」
不機嫌に、担がれて、オレ運ばれてる。
あー、死んじゃうのかぁ。
全体的に面白い人生…人生? 鬼生?
あ、心臓と一緒じゃないと面倒だなぁ。オレなんで別にしちゃったんだろう……。
ヌッチヌチ……
オレの尻に、なんか挿入ってる。
後孔を出て…這入って…、ナカを擦られてる……。
「あ……」
いいとこに当たったよ?
「起きたか?」
いい顔でオレの上で腰振ってるタク……。
寝てる人を犯しますか?
あなた人ですか?
オレの兄でもここまで鬼畜じゃないよ?
「なんで?」
寝ぼけた声。
「冷えてたから、暖めようかなっと……」
目が泳いだ?
悪いと思ってる?
じゃあ、何故した?
「で、セックス?」
「初めは添い寝してたんだけどね。ムラっとね。えへへ」
あー、タクってあの探偵の御仁とは雲泥の差です。ぽりぽり頬を掻いてる。
「タクは探偵さん?」
浅いところをヌチヌチと擦られながら、尋ねる。気持ちいいので続けて貰おう。
「根城抑えられたかぁ」
コクンと頷く。
「もしかして、エドは俺を探してた?」
コクンと頷く。
「道理でぐるぐる回る感じがしたんだよ」
グインと奥を撫でつけられる。
ビクビクと身体が震える。
「嬉しいね。そんなにコレが良かった?」
違うけど、今はコイツの血を分けて貰おう。
「いいよ。朝まで可愛がってやるよ」
グイグイと抽挿されて、背が反る。
あぁ、急にぃぃ……。
「朝、までは、ダメ、ぇんん」
感じちゃう。
背に腕を回し、脚を腰に絡める。
「あの部屋見た」
耳元で囁かれる。
何???
「日光が苦手なのか? とは言え、異様だったがな」
ヌッチヌチと抽挿を続けながら、ポツポツと話してる。
蕩けかけた感覚が引き戻される。
頭が冷えてくる。ああ、終わりだね。
淫魔の能力が、タクから僅かに滲み出た精液を栄養にオレを助けたらしい。
もう少し欲しい。
肉筒を絞めて、促す。出せよ。
あの部屋は早々に引き払った。
勘は当たったのか。
来たんだ。
近々、取り壊す予定というので、部屋はそのままで出てきてたが、まずったな。
調理は諦めるか。
残念だよ。退屈が紛れるかと思ったのに、この男は何か考え出してる。
ただのお客さまで、鬼ごっこをする相手だったら、良かったのに。詮索しないでさ。
腰振りに忙しいタクを見つめる。
気持ちいいのにさ。
「タクぅぅ」
甘えた声で呼びかける。
「なんだ?」
ギラついた目が見遣ってきた。
視線を掴む。
目を覗き込む。奥の奥……。
「お、まえ……」
腰の動きが緩慢になり、倒れ込んでくる。
視線は遠い。
歯を立てる。
もう遠慮は要らない。
変死体がラブホテルのベッドに転がるだけだ。
そっとは抜かず、裂くように抜く。
噴き出る血を漏れないように啜る。
一滴も溢さない。
ナカでタクが震えてる。イくか?
腰を振るながら、ごくごくと飲み干していく。
喉が潤う。
タク、人生最後の射精だよぉ。
ぐちゅぐっちゅと下で水音が響く。
オレも濡れてきた? 命を貪る事に全身が沸る。
ギュギュッと締め付け擦った。
ここまでがギリギリのいつもの量。
ジュっと更に飲み進める。
ゴキュゴキュ……
調理してなくてもいい味だ。
眷属のラインを過ぎて、最後の領域に……。
腹に熱が広がる。
心臓の音を伺う。こちらの鼓動も釣られる。シンクロしてオレまで死んでは笑えない。心して飲む。
……心音が、うるさい!
コイツ生命力、強過ぎないか?
いやいや、強いとかの話じゃない。異常だ。
咥え込んでいた傷口から口を離す…。
ほとんど飲んだ…はず…だ…。
後孔から陰茎が抜ける。自然と抜けたのではない……。
「タク……」
ギラギラした目がオレを射抜いた。
3
お気に入りに追加
127
あなたにおすすめの小説

鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。
悪役令息の七日間
リラックス@ピロー
BL
唐突に前世を思い出した俺、ユリシーズ=アディンソンは自分がスマホ配信アプリ"王宮の花〜神子は7色のバラに抱かれる〜"に登場する悪役だと気付く。しかし思い出すのが遅過ぎて、断罪イベントまで7日間しか残っていない。
気づいた時にはもう遅い、それでも足掻く悪役令息の話。【お知らせ:2024年1月18日書籍発売!】

男子高校に入学したらハーレムでした!
はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。
ゆっくり書いていきます。
毎日19時更新です。
よろしくお願い致します。
2022.04.28
お気に入り、栞ありがとうございます。
とても励みになります。
引き続き宜しくお願いします。
2022.05.01
近々番外編SSをあげます。
よければ覗いてみてください。
2022.05.10
お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。
精一杯書いていきます。
2022.05.15
閲覧、お気に入り、ありがとうございます。
読んでいただけてとても嬉しいです。
近々番外編をあげます。
良ければ覗いてみてください。
2022.05.28
今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。
次作も頑張って書きます。
よろしくおねがいします。

【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】
彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』
高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。
その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。
そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?

美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜
飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。
でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。
しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。
秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。
美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。
秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。
Take On Me
マン太
BL
親父の借金を返済するため、ヤクザの若頭、岳(たける)の元でハウスキーパーとして働く事になった大和(やまと)。
初めは乗り気でなかったが、持ち前の前向きな性格により、次第に力を発揮していく。
岳とも次第に打ち解ける様になり…。
軽いノリのお話しを目指しています。
※BLに分類していますが軽めです。
※他サイトへも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる