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夜に霞む
【3】 ※
しおりを挟むこの街を離れる気はしなかった。
ココはオレの狩場。
獲物のローテーションも決まってる。別の街で一から構築するのは骨が折れる。
だって、苦労して、優ばかりの上物たちだよ。
手放すのは惜しいのぉぉ!
で!
バーのある付近には近づかないように気をつけて、オレの獲物たちと逢瀬を重ねていた。
そろそろ半年が経とうとしていた。
極上の味を時々思い出して、ジュルっと唾液を飲み込む。
今日は例のバーとは反対側の地区でふらふらと新規開拓の物色をしてた。このバーは騒がしいのがいいカンジ。
「久しぶりだな」
聞き違えようのない声音と微かな匂い。
後ろを取られた……。
何故この至近距離まで気づかなかった?
この半年、実はニアミスはあった。
目が合った事も。
大体がスイっと逃げ切れていたのだが、後ろを取られるとは不覚。
横の席に座られた。
おまけにカウンターテーブルに乗せていた手まで抑えれては逃げられない。
手首からしっかり握られてます。
浮かせた腰を諦めて据える。
もう降参です。
とは言え、オレってなんでお兄さんから逃げてたんだったかな?
逃げる事が楽しくなってて、本題を忘れてた。
なんだったかなぁ……。
ワイングラスを傾ける。
しっかし、臭いな!
思考が邪魔される臭さ!
臭いのが居るなぁとは思ってたんだけどね。
「その臭い何?!」
怒鳴りたかったが、声を潜めながら、静かに抗議。
手で鼻を覆う。
煙草と香水の臭いが充満して騒がしいバーだったが、怒鳴り散らす訳にはいかない。悪目立ちはしたくない。
臭いが酷いから残りを飲んだら引き上げるつもりだった。さっさと出れば良かった。後の祭り。
「やっぱ、臭い?」
笑ってる。
僅かな匂いに、ジュルっと涎が出そうになるのを、手でカモフラージュ。
あぁ、飲みたい。
思い出した!
あまりに美味しかったから、暫く期間空けようって思って逃げたんでした。
では、今夜の獲物はお兄さんで!
ーーーーでも、この臭いは酷いなぁ。
「やっぱり、キミって鼻が利くんだ」
腕とか胸元を摘んで嗅いで、顔を顰めてる。
マスターもちょっと微妙な顔です。
鼻良くなくても臭いみたいですよ。
「覚えてる? えーと、4ヶ月程前かな。キミを見かけたんだけど、目も合った気がしたのに消えたでしょ?」
うん、逃げたよ。
目も合った。あの距離で合ったと思ったお兄さん、凄いな。何者?
「んーー? そう?」
惚けておいた。
「実は、キミを探してた。レンくんでいいのかな?」
オレ探されてたの?
通りで、避けて行動してたのにニアミスするはずだ。
狭くはない街だよ。意図的に避けてるんだから出会う訳ないはずなんだよ。
ちょっと地区移動したら、まず会わないはずだったんだ。
匂いが残ってる場所は避けてたのに、オレの周りでチラチラ。不思議に思ってたんだよ。
匂いがしたら、反射で逃げてた。
もうぉおね、聞いて!
逃げるのって楽しかったのなんのって。
ウキウキしちゃった。
楽し過ぎて、身悶える愉悦。
後ろから、様子を伺ってた事もあったりするんだよ。うふふ。
お兄さんがキョロキョロしてるのを小躍りしたくなる気分で、こっそり見るのは楽しかったぁ。
笑いが漏れそうになって質問返し。
「名前教えた?」
でも、それって偽名だけどね。
色々名乗ってる内の一つ。
「探してる過程で色々とね。俺をこんなに梃子摺らせたヤツ初めてだよ。リョウくんてのもあるね」
「あぁ……」
グラスを傾ける。
「うぅ、臭いわ。出ようか」
臭い自覚あるんだ。
目の端てマスターがほっとしてる。
オレの鼻がおかしいんじゃなかった。
「えーと、……」
さっさと支払いを済ませて、オレの手を引く。
喋らせてくれない。ま、この臭い嗅がされながら、喋るのはキツイからいいか。
訊きたい事が浮かんできたけど消えた。
オリエンタル系のスパイシーな香り。
セクシーなムゥディな香りなんだろうけど……臭い!!!
「フリ過ぎたな……」
手首を掴まれ、連れ立ってぷらぷら歩いてる。
ポケットから香水の瓶を出した。
「キミさ。鼻利くだろ。俺みたいな勘の方じゃなくて、物理的な方で。ーーーさっき確信したところだったんだけどね」
繁華街を人が避ける中を進む。
そうだよねぇ。皆さん、臭いよねぇ。
香水振り撒いてそうな派手なお姉様も顔を顰め避ける。
オレはいつも人の中をヒョイヒョイとすり抜けて歩いてるから面白い。
目の前で人が避けてくのウケるぅぅ。
どっかの海だか川をザパァーっと割り開いたおっさんの話を思い出す。
おや? 避けないお人が。
スマホを耳に何か話してるホスト風の男。背中を向けてるからかな。避けようとするオレがガクッと揺れる。
オレの獲物。大柄でガッシリなお兄さんはびくともしない。
避けないの?
ホスト風男の肩をトントンと叩くオレの餌。
あぁあ?と振り返る男。
振り返るなり「臭ッ!」叫ぶ。
うんうん、解ります。
男ののジャケットのポケットに香水の瓶を捩じ込む。
香水の事とかよく知らないオレけど、そのブランド見たことあるよ。
いつだったかなぁ……。イギリスかどっか居たときだったかなぁ。記憶が曖昧だわ。という事は、かなり以前て事だな。
「兄ちゃん、やる」
ホストのお兄さん驚いてんじゃん。瓶見て更に驚いてる。やっぱ有名なヤツか。
歩き出した獲物に引き摺られる。
「要らないの?」
オットットとなりながらついていく。
「俺、香水嫌いなんだ。体臭消しにあれしか思い付かなかった。ーーーー早く落としたいわぁ」
顔顰めてる。
確かに餌のあの匂いが微かにしか感じられなかった。
「店入る前に念の為に振り撒いたからな。やり過ぎた」
ニッと笑って見遣ってくる。
キュン。
その野生味ある笑顔、胎の奥がズクンとクル。涎も垂れそう。
「3ヶ月ぐらい前なんて、近くにも寄れなかった。目は合ってなかったのにさ。入れ違いの時もあった。もうぉ、ちょこまかと、すり抜けていくし。聞き込む度に、キミは名前が色々だし、掴みどころないし。ーーーー燃えたね」
顎先を指で撫でてニヤニヤしてる。
どうやらお兄さんも楽しんでいたみたい。
キラギラネオンの大型の薬局に入ると、カゴを持たされ、スエットとTシャツに下着とニオイ消しのスプレーを次々放り込まれる。
荷物持ち? オレがぁ?
レジを通って、大きなビニール袋を渡される。
あぅぅん! なにこれ?!
なんか重いと思ったら、飲み物とか入ってるし。いつの間に入れたぁ?
オレもなんだか、されるがままになってるし。
付いっててるし。
なんなのこの人ぉぉぉ。
ホテルに入って、部屋に入れば、財布と鍵、スマホをテーブルに投げて、即行で服を脱ぎ出した。
おぉ? ヤルの? ヤっちゃうの?
ムードゼロだけど、ヤっちゃうの?
テーブルに袋を逆さにして、商品を出すと、消臭スプレーめっちゃ吹きかけた服をそこに次々放り込んで、更に袋の中にもプシュプシュと吹きかけて、ぎゅっと縛って閉じた。
あーーー、なんかめちゃくちゃ。
香水もこんな感じで吹きかけたのか?!
「ふぅ…。風呂入るわ。ーーーこれ俺に吹いたらこの臭い消える?」
いい笑顔で訊かれても。しかも全裸で何も隠そうともしてないし。
よぉ!息子クンお久しぶり。
「抱かれたくなくなるから、ノーセンキュー」
オレの声を背にバスルームへ、ぷらぷら向かってる。
オレも臭いの移ったから、入ろうかな。。。
スタジャン脱いで、ハンガーにかけて、シュッシュ。キャップにも。
もう!
ラブホテル来てなにやってるんだか。調子狂うぅぅ。
オレも全裸になって、バスルームへ。
湯船に浸かってるお兄さんと目が合う。
「よぉ、来たか」
洗いながら様子みてると、しきりに臭いを確認してる。
「大丈夫。お兄さんの体臭だけだよ。多少は残ってるけど」
「おー、そうか。良かった」
「さて、キミの名前はどれが正解? 他も言おうか? 言ってくれると助かる。覚えてないのもあるから。メモした手帳は袋の中だわ。あはは…」
大雑把。
「……どれでもない」
なんとなく、本当の名前が言いたくなった。真名は言えないけど……。
「エド」
「外人?」
言い方ぁん。
「混じってる感じ? ミドルネーム的な?」
適当に答えて、横にスルッと擦り寄る。
「本名だけど、愛称か。ま、いいか」
なんか納得したみたい。
オレの餌、いい匂い。
額にかかる黒髪を掻き上げる。
「俺は、白尾 拓未。タクでいいぞ」
透かさずオレを膝に乗せて抱き込む。
お尻に硬度のあるのが当たる。
「お前って、髪って染めてる?」
「髪?」
「この前見かけた時はもう少し赤っぽい茶色だった。初めて会った時は、栗色だった。今日は、薄い栗色かな。度々違う気がする」
コイツ、手帳がどうの言ってたけど、全部記憶してんじゃないか?
「光の加減じゃない? それより……」
臭いもなくなったし、致しませんか? もう涎が止まりません。
身体を捩ると唇を合わせる。
チュッとリップ音をワザと立てて離れる。
尻に当たるものがムクっと当たる位置が変わる。
美味しく調理しましょう?
「…あ、あ、あはぁぁん…」
風呂で茹だる前にベッドで絡めた。
危うく、風呂で挿れられるところだったよ。
別にいいんだけどね。
ちょっと長風呂は不得意。
茹ってくるとぼんやりするでしょ?
気が緩んで、鏡に姿を映すの忘れちゃうの。てへへ。
「あはぁぁん、あぁぁ…う、ぁあん……」
今は、後ろからドチュンと突き挿れられて、アンアン啼かされています。
結合部は吐き出された精液で泡立ってる。腿に垂れる白濁。どんだけ出してる。
「はぁ、お、おくぅぅん……」
このタクの逸物、奥まで届くし、肉筒を隙間なくみっちりと埋め尽くして、前立腺も何もかもを擦って刺激するから、もの凄くクル!
でも、この持久力どうなの?!
「ぁぁあああ、い、イくぅぅん……」
何度目の熱が胎の中に広がる。
この感覚すら、快感……ッ。
「にゃぅぅううう……」
オレの雄も薄い液体を吐き散らす。
「うぐぅぅ……」
もう、出ない……。
くったりしてたら、肩掴まれて、入ったままだった雄芯が突き挿れられてぐりぐり奥を擦られる。
「はぁぁん! あ、あぅ、はぁぁああん、ダメェェん…」
えーーーーッ、もう復活?!
タクさんよぉ! あんたバケモンか?!
「絞めろよ。緩く、なってる、ぞぉ」
もう食事にしたい!!!
後ろの感覚が無くなってきた。
腹だって、薄っすら膨れてる気がする。
後ろだから目が合わない。コイツ、勘が良いって言ってたな……。
正常位は初めの方だけだったな! 本能で動いてやがる???
付き合うしかないのか?!
シーツを握りしめる。
「この背中、ばっかり、追いかけ、させやがって」
イラついた声。
声とは裏腹に、イラつきをぶつけるのではなく、ゆるゆると確認するように腰を振ってる。
ヌチ…トン、ヌチュ……と出入りする陰茎。
「ぅうう、あはああん、あはぁ…」
緩い刺激が悶えさせられる。じわじわ広がる感覚がじれじれする。
手を前に伸ばして、シーツを掴みずりあがる。逃げたい……。指がめり込む程、腰を掴まれて、実際は上半身がグネグネと動くだけ。
「俺の最長記録だ。ムズイのだって、いつもなら2か月、長くて3か月で、ケリつけるのに、6か月だ。…おい、半年だ。チクショウ、溜まった分、やらせろ」
「そぉん、なぁぁん、のぉおお…」
なんだ、その論法。
「しぃんにゃぁぁ……いぃぃん……」
気持ちいいけど、過ぎる快感は苦痛だ。
「お客に、媚びろってんだ。尻振れ」
「はぁ、ああん……」
ぼやける頭を叱咤しながら、尻を押し付け筒を絞めつけ、自ら擦り付け腰を使って抜き挿しする。
動きが緩慢になりかけた時、衝撃が尻に。そこから痺れが背を走る。
パァァン! パシン!
尻を叩かれる。
「あぁぁああん!」
「絞めれんじゃん」
はぁぁ……と気持ち良さそうな声が出てる。
オイタが過ぎるお客さまだ。
身体を捩じって、後ろを伺う。
ギラギラした目と出会う。
ーーーーいける。
目の奥を見つめ、誘う。
『こちらにおいで……こっち…』
しっかり掴んで、引き寄せれれば……。
「なんだ。キスか?」
グイッと引き寄せられて、無理な姿勢で唇を重ねられる。
当たるところが極端に変わって、背中をゾクリと電気が駆け上がり、目を閉じてしまった。
クチュ、チュッ…ジュチュ、グチュ…
舌を絡め、打ち合わせ、擦り合わせる。
ブチュ、グチュ、ヌチュ……
細かく腰が揺すられる。ナカで粘液が掻き混ぜ、肉襞を擦られる。
上の下もグチョグチョ……
あぅぅぅ、もう堪らん。気持ちいいが、もう十分練り上がっただろう。意地でも食事だ!
目を開けると、噛み付くようなギラギラの目。
肉筒でタクを思いっきり抱きしめて撫で上げる。
痙攣するような刺激を感じながら、尻で円を描き射精を促す動きを加速させる。
ほら、イけよ。
同時に目を覗き込みように見つめ続ける。
唇を引き剥がすように外される。
「お前!」
餌が呻くように吐き捨ててる。
ギラギラが抑え込まれつつあった。ーーーあと少し。。。
見つめながら、グニュンと尻を押し込み奥でタクを抱きしめて、腰を回して胎の奥で撫で付けた。
「はぁぁん」
快感で吐息が漏れる。
餌は唇を噛み締めて呻いてる。
目だけは挑むように睨みつけてる。
奥の奥を見つめ続ける。
クイッと絞めつけ、ビクビクなるのを耐えて、思いっきり締めながらズルリと引き出し、ズブンと押し込み、フィニッシュ!
胎に熱が広がる。やったね。
「…また、やり、やがった…な」
ギラギラが揺れてる。
彼の片手が躊躇なく首を鷲掴み、ギリっと握り込んだ。
「くはぁッ……」
どうもコイツは、射精の主導を握られるのが許せないようだ。
尻に陰茎を挿れたまま、目を合わし続ける。あと少し。。。
喉を掴まれながら、ニヤッと我知らず口角が上がっていた。
ジュブンと後ろから雄を抜き取り、首を掴む力が緩んだ手を掴みとって、正面に向き直る。
後孔から腹が薄っすら膨れる程に出した白濁が、動きと共にジュブブと漏れ出た。
遠くなった視線の男がゆっくり腕の中に倒れ込んで、きた。
「いらっしゃい。ここからは、オレの時間だよ。お客さま」
首筋をねっとりと舐め上げる。
あの味を思い出して、興奮が抑えられない。
伸びた犬歯を逞しい首から肩にかかる緩やかなカーブを描く皮膚をチリチリと裂きながらゆっくり埋め込んでいく。
脈動を感じるそこまで歯根を深く刺し込んで引き抜くと、喰らい付いて啜った。
一滴も唇から漏らすことなく、喉に流し込んでいく。
『嗚呼! なんという芳醇な香りと味。以前より濃縮されたような奥行き。……少しの苦味。苦味はあの射精か。管理されたくないらしい。なんともプライドが高い男よ』
これ以上はというギリギリのところで唇を離し、傷口を舐め回す。もう傷口は修復されてるのに、名残り惜しい。
また追いかけっこも、楽しいか。
探すのは得意と言ってたな……。
精々、振り回してやろう。
男を蹴り上げるように横倒しにして、下から這い出す。
ん? ちょっと身体が重い……。不味い!
慌ててベッドボードの時計を見て、朝が近いのを認識した。
このホテル、建物に囲まれたて遮光遮音がいいらしい。
塒に帰る時間を考慮して、風呂に入ってる時間はない。
脱ぎ散らかした服を掴み、気持ち悪い下半身に意識を向けないようにして着込むと、財布から基本料金を抜き取り、男の静かな寝息を背に外へ駆けて出た。
気配を消す。
腹の中の男の精液が、姿を完全には消させてくれない。しかし、この極上の血が力を与えてくれる。
限りなく無にさせる事も可能だ。監視カメラのない屋上伝いに跳び越え駆け抜ける。
もし誰かに見られたり、カメラに映っても猫か何かの影ぐらいにしか見えないはずだ。
塒のアパート到着。
夜明け前も暗闇が青く滲んでいる。
繁華街近くのアパートは、そういう職種の住人ばかりで今の時間帯は留守だ。
周りも賑やかで、音を気にする人間も居ない。
日が高くなれば、ここの住人は眠る。
オレと同じ。ただオレより後に眠り、先に目覚め活動してる。タフな種族だ。
中に入ると幾つもの鍵をかけていく。
奥の部屋に入る。カーテンその他がしっかり閉まっているのを確認すると、ベッドに近づきシーツも掛かっていないマットにそのまま倒れると目を閉じた。
呼吸が浅くなっていくのを感じつつ、自分ではどうしようもできない眠りに堕ちていく。
仕方がない事とは言え、この時間が一番嫌いだ。夢ぐらい見れたら楽しいかもしれが。そんなものが見れた昔が遥か過ぎて、どういったものかも忘れた。
思考が切れ切れになって闇が広がり、活動が止まった。
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