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ナニをさせるのさ?!

4-中.それでも好き。 微※

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 肌が擦れ合う温もりに頬が緩む。
 もそりと頬に触れてた部分に鼻を押し付けた。呼吸と一緒入ってくる匂いに蕩けながら、頭の奥が冷えていくのを感じた。

 このコロンと体臭…好きな人の……

 目を開ければ、見下ろす目と合った。
 熱い胸板と張った肩から腕に流れるの筋肉、太い首の上にある顔は彼だった。

 ヒィュッと短く息が吸い込まれ、詰まった。
 目の前が真っ赤に染まってくる。
 めちゃくちゃに手を振り回していた。
 爪が何かを掻いた気がするが、よく分からない。手に当たってる気はするが、痛いとも思わなかった。喚いてる気はする。

 身体が拘束される。
 手が腕が動かせない。脚をバタつかせるがそれも動かせなくなった。

「息をしろッ!!!」

 遠くでそんな事を何度も言われる。

 拘束されて苦しい。ぎゅうぎゅうに押さえつけられてるから苦しいだよッ!
 離せッ!!!

 声が出ない。喉が詰まって、息をしてるのに、苦しい…赤くなってた視界がぼやけてくる。

「吐け、息を吐くんだッ!」

 耳元で短く「息を吐くッ! 吐けッ!」と何度も言われる。
 痺れる手足を縮こまらせて、その命じられる言葉通りに、息を吐いた。吐いて、大きく吐く。ゆっくり吐いて…いつしか、ゆっくりと息をしていた。強張っていた手足が解けていく。

 背中を撫でられてる。
 この温もり好きな感じ…。
 呼吸が落ち着いてきたら、眠くなってきた。

「大丈夫だ。大丈夫だから…」

 その言葉がゆっくり染み込んでくるようだった。頷いてるつもりだったが、どうだっただろう。

「…気付けなくって、ごめん…」

 そんな言葉を最後に眠りに落ちた。



 台所スペースで物音がしてる。
 小さい頃、朝はこういう音で目を覚ましてた気がする。実家を出てからもう聞かなくなった音だった。

 パジャマを着ていた。
 頭に整髪料が残っていて、なんとも中途半端だが、身体はさっぱりしていて、ここ暫くぶりのゆっくり眠った感じがする。

 そういえば、会社を早退して、3日程の有給をとった様な気がする。

 起き上がってみた。
 少し頭が重い。手が痛い。見れば、青あざが出来てる。どこでぶつけたのだろう…。

 喉が渇いた。冷蔵庫に向かおうとベッドを降りようとした。
 気づいたら、床に伸びていた。転んだ?

 足音が慌ただしく近づいてくる。
 目の前にその足が。膝を折ってオレを覗き込んでくる。触れては来ない。なんだか不自然な感じ…。
 身体を捩って見上げれば、ここにいるはずのない彼、ひがしがいた。同期で同僚で同性で恋人の彼。

「やあ…」

 元気?も変だなと思いながらもなんと言っていいやらの中途半端なご挨拶。

「大丈夫か? …触るぞ」

 変な事を訊く。

「転んだみたいだ。触る? どうぞ」

 こちらからも妙に力の入らない手を差し出す。起こして欲しいには欲しい。
 起こしてもらって、座らせてもらう。床は硬いがひんやりして気持ちいい。
 額に手が当てられた。

「まだ熱っぽか。ーーー覚えてるか?」

 ?

 首を傾げる。よく分からん。鍋が吹いてる音がする。「待ってろッ」と言われて置いてきぼり。

『覚えてるか?』
 何を?

 あ、リングチェックの接触時間が過ぎてる。そもそも早退したから、連絡入れないといけなかったのに、失念してた。あの場にいたスタッフは、オレの早退も有給の件も知ってると思うが、彼は別フロアの会議室で打ち合わせをしてたはずだ。

 慌てて、パジャマのウエストを引っ張り中を見る。リングを確認。剃毛したばかりでつるりとした股間は、いつ見ても違和感が強かったが、あるはずの物がない。

 血が凍る。
 床に転がる音を思い出した。キョロキョロと周りを見回すが、あのリングはない。

 どうしよう。

 彼がここにいる。

 リングがない。

 窓を見れば、夕日だろうか。赤い光が映っていた。
 胸を触る。自分の肉体だけ。触って、ぞわっとした。肝心のシリコンのアレがない。

 脂汗が滲んできた。

「腹減ってる?」

 彼がリビングへ続く出入り口に立ってる。夕日に照らされる顔はちょっと翳っていて表情は見えにくかった。

「あ、喉が、喉が渇いてて…」

 言い訳を考えないと、探さないと、冷たくなっていく身体を抱きしめる。頭の中がぐるぐる意味もなく回ってる。

 オレの様子は明らかにおかしかったと思うのに、彼は何も言わずにそこから消えた。次に現れた時には手にスポーツ飲料のペットボトルが握られていた。

 冷蔵庫の開閉音を聞いた様な気がする。

 受け取りキャップを握るが上手く開かない。
 スイッと取り上げられて、開けてくれた。
 オレはなんとか握って傾けるが上手く傾けられなくて、握ってても滑りそうで…。
 そっと手が添えられてる事に気づいた。

 気遣いが出来る人だなといつも見ていた。彼が笑うと周りも明るくなってた。
 ゆっくり喉を潤した。ゴクゴク飲んでいく。
 全てを流し込んだ。空っぽになった。ひと息つくと、涙がじわじわと溢れ出てきた。

「ごめん、ごめんなさい。せっかくくれたのに…無くした。許可もなく、外してしまった。ごめん、勝手に…。約束守れなかった…オレ、ダメだ…出来ない。ダメだ…お前の、お願い、きけな…かった。ごめんなさい…」

 泣きじゃくりながら、言い訳も何もかもなく。ただただ、謝っていた。

 抱きしめられた。

 一気に胃に収められたモノが押し出される様な勢いに涙が止まって、口を思わず覆った。

「謝るのは、謝らなければならないのは、俺だ。君が平気そうだから、強姦も何もかも受け入れてくれてるんだと。…もっと、慎重に様子を見ないといけなかったのに…。何もなかった事にして……嬉しくって…先に進んで、すまなかった」

 謝られた。どうして?
 あの強姦は、オレをモノにしたくての強行で、好きはオレもだったし、黙ってるつもりだったけど。ちゃんと告白して、丸く収まったじゃん。終わった事だよ。

 オレは何も言えずにじっと彼を見ていた。
 じっと目を見ていた。
 彼の目の中のオレは、随分疲れた顔をしていた。




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