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ナニしようとしてます?

2.ヤバい?

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 手を引く。
 後ろの男を振り返れない。
 エレベーター前。ボタンを押したら、すぐに開いた。
 入ってすぐに腰を引かれたが、もがいて腕を解く努力をする。小競り合い。
 コイツ絶対ジムとか行ってやがる。

 誰もいない箱の中とは言っても、防犯カメラがあるんですよ。
 チラリと見た彼の顔は、楽しそうだ。いつかテレビで観た猫を構ってるタレントを思い出す。
 マジか?!

 抱き寄せたい彼とそこから抜け出そうとするオレの攻防戦は、軽やかな電子音と共に開いた扉に固まるように停戦。外で固まる事務員に愛想笑いで入れ替わる。

 ポケットから事前に預かっていた書庫のカギを出す。
 過去の資料がどうしても必要になって、紙媒体しかないのでココに来た訳だ。ひとりでは荷物だと思ってたので、台車を使うつもりだったが、コイツに手伝ってもらう事にした。

 作業をしながら話しと言うか、対策と言うか、そう、今後の話がしたかったのだ。事前にしておくべきだった。

 話をつけないとな。
 事前の機会はあった気はするが、オレの気力が無かったのだ。仕方がないとしてくれ…。

 連休残り1日は、回復日として帰してもらっただけでも良しとしてくれよ。
 なんだか許可制のような流れになってしまったが…。

 しかも帰る時は逃げるように帰ってしまって、釘を刺せず仕舞いだった。いい大人だから分かってると思ってたんだ。オレが甘かった。

 オレたち、ホントにおバカです。

 カギ開けてるオレの背後に立ってる彼からの圧が熱い。熱いんだ。すっごく熱い。
 オレも熱に煽られて…。不味い。ここは職場です。

 軋む扉を開けて中へ。灯りのスイッチを探して手探りで壁を探ってると、彼が入って来た。
 軋む音を立てて扉が閉まって行く。ガチャンと扉が締まって暗くなった。

「あった…」

 パチンとスイッチを入れるも、水銀灯のように薄暗い…。そのうち明るくなるかな。
 見えなくはないから、さっさと目的の棚へ向かおう。

 彼は黙ってオレについてくる。沈黙も気不味いので話し始めた。
 仕事は迅速に。
 今のオレは、仕事モード。

「あのさ、なんて言うか、会社では、今まで通りで居ようよ」

 目を合わせたら、恥ずかしくなってまともに口が利けない気がして、前を向いたまま。目で棚を探しながら、口を開いた。

 聞こえてるはずなのに、返事がない。

「聞いてる?」

 あまりに静かに後ろに居る彼が不気味で、ちょいとイラつきとムカつきに勢いつけて振り返る。
 ドンと背中が壁に当たった。部屋の奥の壁際まで来ていたが…。

 え?
 オレ、今『壁ドン』されてる?!
 一瞬、ドラマの主人公にでもなった気分だったのか、不覚にも胸がキュンとしてしまった。

 そうじゃなくて! 自分にツッコミ!
 こうも流されやすい自分に呆れる。

「俺を誘ってる?」
 雄味溢れるお顔が間近です。

 遠くで眺めてだけで良かった『推し』的な彼が、いつも仏頂面だった彼が、オレに性的な色香を滲ませて、鼻先が触れ合う距離で…。連休のあのモードに切り替わ…

「さ、誘ってないッ。オレは、仕事とプライベートは分ける主義なんだッ」

 狼狽えてしまったが、挽回とばかりに一気に言い切った。頑張ったオレッ! 心臓ヤベぇ。

「残念。で、どうしたら?」

 スッと離れてくれた。
 ネクタイを緩めて、風を送る。焦った…。

「運ぶ資料が多いから手伝って。それから、さっきも言ったけど、会社では、以前の距離感と仏頂面でよろしく」

 棚から資料を選定する。
 ついでに付箋を貼りながら、ファイルを横に除ける。ファイルごとになるのでやはり大荷物になりそうだ。

「距離感と…仏頂面?」

 横に除けたファイルを幾つか持って、出口付近の机に運んでる。ブツブツ言いながらダンボールを組み立てる。運ぶ準備をしてくれてるようだ。

 サクサク作業を進め、終わって、フゥとひと息。ハッと気づいた。

「勝手に連れて来てしまったけど、都合大丈夫か?」

「大丈夫だ」

 爽やかイケメンだ。チクショー、好きだ。

 そうは言っても強引に連れて来てしまったから、早く元の位置に戻してやらねば。
 緩めてたネクタイを締め直す。

「何故締める? 色っぽくて良かったのに…」

 後ろから腰に腕を回して身体がピッタリ引っ付いてしまった。コイツの前が、尻に…。僅かに硬くなってる。

「線引きしたいんですけど?」

 オレの身体が熱くなってくる。流されそう…。泣きたいよ。

「これでも治って来てる。誘われたのかと思った」

「ここでするつもりでした?」

「するつもりでした」

 即答。マジっすか?
 首筋に鼻を押し付け、擦り付けてくる。臭いでも嗅がれてるみたいで、なんだか恥ずかしい。

「しないよ」
「分かった」
 素直はよろしいが、絡んだ腕が離れてくれない。

「キスはいい?」
 執拗い。
「イヤ」
 流されるなオレッ。

「仏頂面って?」
 残念そうに唇を首肌に押し付けてくる。

「えーと、連休前までしてた顔だよ。眉間に少々皺が寄って、難しいそうな顔ですよ」

「俺…そんな顔してた?」

「してた」

 してたんだが…。嫌そうな顔というか…。無自覚ですか?
 じゃあ、何故、仏頂面?

 暫く抱きつかれたまま固まる。

「分かった。その代わり就業後は一緒「ダメだッ。週末だけ」

 沈黙後、漸く抱きついたままだったが耳に吹き込むような至近距離で呟くように喋り始めた。
 ええ声ですぅ…。
 不穏な単語に慌てて、被せるように否定した。
 うっとり、頷くところだったッ。危なかった。

「分かった。週末に」

 腰に巻き付いてた腕を解いてくれた。
 分かってくれた事に安堵して振り返れば、ニタリと笑う表情とカチ合った。
 そして、言葉の内容にハッとした。
 あうぅぅ、内容を吟味してなかったぁあ。チョイス間違ってるぅぅ…。

「行くぞ」
 カギを開けて扉を開けてる。廊下の灯りが白い。清々しいまでに白い。

 置いてかれる。不味い。色々不味い。何処からどうしていいか分からん程、不味い感じがする。

 今は仕事に戻ろう。

 彼は、ダンボールを抱えて、仏頂面で待ってる。

 待っててくれてるんだが…。

 あうぅ、週末?!



==========

えーと、まだエロに入りませんな( ̄▽ ̄;)

不定期更新です。
よろしくお願いします。


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