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本編

23】未来に向かって(中)

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 手を翳して、微々たる回復魔法を詠唱してみた。長い詠唱。少しも省略出来ない程に威力が弱い。聖魔法がいっぱいなのに、こっちには向いてないのだ。補助魔法なら幾らでも掛けられるのに。

「ありがとう。止血されたみたいだ」

「アリスンなら全回復できるんだけど、オレのは切り傷の止血ぐらいしか…」
 口を切ったのか。良かった、役に立って…。

「卑下するな。十分だ。実はちょっと防御を張ってしまった」
 悪戯っ子のような表情で氷を消してしまった。内出血も止まったらしい。オレの魔法も満更でもないか。

 防御か…。そうだよね…。咄嗟に張っちゃうよね。エヴァン程の魔法の使い手だったら、無詠唱で出来るんだ。凄いなぁ…。
 でも、やって良かったよ。じゃなかったら、首が折れてたかも…。サムエルの怪力を思い出していた。強化してなかったら、ただの鉄拳だけど重いんだ…。

 オレのイタズラに本気で脳天にゲンコツ喰らわしてきたもんなぁ。アリスンいなかったら、オレの身長縮んでたね。

 思わず、クフフ…と笑ってしまった。
 エヴァンに変な顔させちゃった。イケメンは変顔もかっこいいね。

 思い出し笑いだと言ったら、「聞かせて」って囁かれた。
 旅の話をあれこれしてると時間はあっという間に過ぎて、朝ごはんの時間になっていた。

 支度を整えるとエヴァンに気遣われて移動する。
 エスコートなんてされた事ないので照れまくってしまう。

 オレたちの様子に食事が終わるとリューリさんがエヴァンを連れて行ってしまった。
 このまま二人でいたら、ベッドに逆戻りになりそうなので有り難かった。

 ちょっと残念だけど、結界の様子を確認しに行こう。

 広大な農地地区の周りに張った擬似結界も上手く作動してるようだ。中の瘴気は擬似結界の外ほど濃くなってない。思った通りだ。ここが明るいのも外界の光りを反映してるから。

 高台など瘴気が薄いところは、外界の様子が透けて見える感じがあった。実際は光の嵐のような感じなんだけど。今までも雨のようなのが降ったりもしてたようだ。外に接してた瘴気が湿度を含んで、降らしてたのかな…。

 結界で区切ってしまった事で、完全に隔離してしまったので、改良を施した。

 アリスンの報告には、結界の周りに瘴気が薄っすらと纏わり付いているとの事だった。それを取り込むと同時に今までと変わらず外界の色々を取り込めるようにしたのだ。

 これで隔離状態が無くなったはず。そして、擬似結界は瘴気だけを取り込まないようにした。結界の改良前の状態を参考に作ってみた。これで瘴気の中で瘴気のない外界と同じような空間ができるはず。

 瘴気を吸収するように加工した魔晶石を利用して浄化していけば、穢れの少ない食べ物を作る事が出来るはずだ。

 えーと、予定通りには、なかなか進まないようだ。

 結界外の瘴気は徐々にと思ってたのに、急激に入って来てしまったなぁ。昨晩の激しいアレコレを思い出して、ひとり悶えてしまった。
 襲われてたんだけど、もの凄い想いが流れ込んできて…めっちゃ嬉しかっし、気持ち良かった…。

 オレって、あんな感じの方が感じちゃったりするんだろうか。だって…、あんなにセックスが気持ちいいなんて…、今まで思った事なかったからさ。

 顔が熱い。手でパタパタ扇ぎながら、設置予定の場所も確認し、周りの状況も調べて記録する。

 さて、先に持って帰ってくれた魔晶石でひとつ作ってみるか…。
 移動用の魔獣に跨るとぼちぼちと帰った。
 腰がちょっと重い…。歩きにすれば良かったかな…。揺れで変な気分になってくる…。困った。




 サムエルと向かい合わせで座っている。テーブルを挟んでるので、なんとか気持ちが落ち着いてるが…。
 テーブルの上のカップから、ゆらりと湯気が香りを伴って漂っている。
 すぐに座るのが気不味くて、お茶を淹れてみた。目の前にカップ…。

 サムエルが口をつけている。
 カチャっとカップが置かれた。

「で?」

 あとは質問に答えるだけと思ってたのに、丸投げされた。ええーっ!

「あっ、えーと、オレたち、その、両想いででしてね。その、あの、お付き合い、する事に、なりました…」

 モジモジしてしまう。なるべく、簡潔に。余計な事は言わずに…。
 襲われてたなんて言ったら、エヴァンが殺されちゃう。

「あいつに絆された訳じゃないのか?」
 訝しんでる。
 ブンブン首を振る。

「オレから告白した。ちょっと、お酒の…力を、借りま、し、た…」

 酒はサムエル同席と言われてたのに。
 少しだけのつもりだったんだもん。
 ふにゃぁ~、バレた…。
 でもね、でも、だって、エヴァンとのお話は楽しんだもん。寝酒のつもりで……。

「んーーーーーー」

 ああ、唸られた…。腕組みしてる…。俯いてしまったので、頭しか見えない。
 テーブルの縁を指先で行ったり来たりしながら、その頭を見つめる。

「分かった。これからどうするんだ?」
 上がった顔は、怒ってなかった。でも、ちょっと固い。

「ここに残ろうと思ってる…」
 さらりと口をついて言葉が勝手に出てきた。いつか言わなければと思ってたが、言った後だが、今でいいと思った。

「ーーーーそうか」

 暫くの沈黙の後、静かに返ってきた。
 少し表情が和らいだ気がする。

 オレは身体が固くなっていた。全てが終わったら、二人で帰る予定だった。オレはその後、調査に戻ってくるつもりだったが…。
 約束を反故にしてしまった気分だ。





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