上 下
27 / 55
本編

14】分かれ道

しおりを挟む
 
 確かに討伐してないからなぁ。誤魔化さねば…。クンティンを連れ帰る事しか考えてなかった。

 んー、ああ、アレならいけるか?

「それなら、なんとかなるかも…」

 ダロンが嬉しそうだ。
 彼は基本、嘘は嫌いだ。そんな彼が世界に嘘をつこうとしているんだ。ちょっとは悪知恵を絞ろうかね。

「みんなが聞いてた魔王の容姿って、あの王子だったか?」
 元気よくブンブンとみんなで首を振ってる。

「ツノが生えてて、口が裂けた牙の鋭い黒い生き物」
「大きな身体で、唸る声は地面が揺れる程」
「醜い容姿だと聞いてたわ」

 三人で聞かさせていた容姿をあげていった。
「俺も同じだ」
 俺のとも一致する。
 事前にアリスンから聞いてなかったら、魔王を探しちまうところだったよ。

「で、ダロン、厨房まで行って訊いて来てくれ。この前狩った魔獣の頭部はどうなったか?ってな」

 パッと明るい表情になったダロンが出口に向かった。
 意図は通じたようだ。

 アリスンが俺の袖を引っ張った。
 ん? 手の中に何か捩じ込まれた。

「ちょっとションベン」
 部屋を出て、手の中の紙を広げる。
『魔王の本当のお気に入りは少年のような容姿』

 確信がここで告げられるとは…。
 俺ひとりで、対策どうするんだよぉ~。決心が揺らぎそうになる。手の中の小さな紙を燃やし灰を握った。

 水で洗い流して、鏡の中の疲れた顔と対峙する。俺がやらなきゃな。クンティンの尻叩いてさっさと完成させさせて、結界から出よう。
 また入りたいと言われたら、体勢を整えてからとゴネるか。
 一層の事、クンティンに教えるか?
 いや、変に動揺させ、手元も頭も狂いが生じさせても困る。やはり警護するしかないな。

 手を拭き拭き戻ってるとダロンが駆けてくる。

「処分前だったぁ~。良い具合に腐ってるよ~」

 さて、筋書きとしては、魔王との死闘の末、クンティンと俺は死んで、魔王の首を持ち帰るので精一杯だったって事にした。
 魔王を倒した時、強い光が発生して浄化されたようだが、魔王城の瘴気は晴れなかったって事にした。光は瘴気を包んでるようだとでもしておこうか。

 これで、この辺りの浄化と結界の話については説明がつくだろう。

 瘴気には基本近づかないので、結界については気づかないだろう。調べるとしたら公国にある研究機関ぐらいだ。

 クンティンが俺の筋書きを頷きで同意しながら書き物をしている。

 書き終えた物を封書にして、アリスンに渡してる。
 どうやら俺の話を聞きながら思いついたようだ。

 クンティンが俺のあとを継いで、後始末の準備を話し出した。

「ダロンは褒賞に森の近くの土地を貰い受ける予定だったな? 森の管理を勇者もしくは関係者で出来るように話を持っていってもらいたい」

「村で引っ越すつもりだから、大丈夫だと思うよ。ダメでも魔獣が出てくるかもしれない森には誰も近づかないよ」

 明るく応えるダロンは嬉しそうだ。勇者出身の村には聖女の加護があるから大丈夫とでも言えとクンティン。
 続けて、アリスンを見て言葉を続ける。

「アリスンには、公国側の干渉地に聖教会の本部が無理なら支部を置いてもらうようにして貰えるように働きかけてくれ」

「任せて。褒賞はどうしようかと思ってたから良いわよ」

「それから、それを師匠に渡してほしい。アリスンの力になってくれると思う。師匠が瘴気専門家として聖教会や王様に適当に言ってくれるよ。あの人、適当が上手いから。干渉地にうちの研究所がついてくるかもしれないけど、入れてあげて。オレの手伝いもしてもらいたいし」

「それから、コレを二人に」
 紙束を渡してる。

「『伝書鳥でんしょどり』だ。俺のところに届くように設定してる。定期的に手紙を書いてほしい。外での様子が知りたい」

 紙が鳥に変化して飛んでいくと聞く。実物を見るのは初めてだ。

「こうやって、普通に紙に文字を書いて、『運んで』と言ってやれば…」
 クンティンの手の中でパタパタと紙が折り畳まれて、鳥の形になり羽ばたいた。

 クンティンの手から離れる頃には羽毛の生えた黄色味を帯びた茶色い小鳥になった。

 窓を開けるように俺に頼んだ。そこから飛んで行った。閉める。どこに飛んでったんだ?

「師匠のところに行ったはず。凱旋時には王都に居ると思うよ」

 アリスンが安堵してる。師匠を探すにはクンティン以上に難易度が高い気がしてたんだろう。

「手紙の最後には日付を忘れないように。飛ばす日が望ましいな。以上」

 いつもの締めの単語が出た。同時に出立だ。




 クンティンを途中まで抱えて移動する。
 魔王の首(仮)は、クンティン特製の鞄に入ってる。魔王城から色々持ち帰る用にあらかじめ用意していた物らしい。

 めんどいとかって…。あるんじゃないかぁ!と言いたいが、グッと飲み込んだ。紙束はアリスンのポーチに収められた。

 容量は小さいが、クンティン特製のポーチだ。女子は荷物が多いのとお願いしてたのがここで役に立った。実際はポーションが入ってる。彼女も自分の事より人の事だ。補助魔法を切らすのを恐れて余分にポーションを持ち歩いていた。

 執務室の扉をノックすれば、魔王とリューリが迎えてくれた。

「魔王、というのも変だが、便宜上、魔王でいいかな」

 頷きで許してくれた。

 魔王側の話では、光りの柱は天を貫いて伸びていたそうだ。柱はそのまま広がって消えていったと。障壁の中で見ていた魔人たちの証言だそうだ。障壁の外が浄化されたのを感じたそうだ。

 俺がこれからの事を報告した。

「クンティンと俺は、結界の補強の為に、ここにもう暫く残る。勇者と聖女は凱旋して、魔王討伐を報告してくる。この領地はそのままになるよう働きかける予定だ」

 ダロンとアリスンは旅支度が済んでいる。
 別れを言って、すぐに森に向かう予定だ。
 途中までライドできる魔獣で行く。
 隣りが帰還予定の王国だからな。

「分かった」
 魔王があっさり了承した。拒否する事柄は何もないのだから当たり前だな。
 クンティンを見る目が気になるぐらいだ。

 クンティンは魔王の前ではすっくと立っていた。相変わらず弱みを見せない男だ。小柄な事を事あるごとに突かれてきた結果だろうな。

「魔王さん、もう暫く世話になるわ~」
 クンティンが明るく言ってる。
「いつまででも居てくれ」
 返としては普通なんだが、裏を考えてしまう。頑張らねばッ。



 二人を見送る。
「空間魔法で別次元に切り取られた空間だから、王さまの前でプンプンと臭いと瘴気振り撒いてやれ~」
 クンティンが爆弾発言で送り出した。

 うわぁ~、王様にバカにされたの根に持ってやがる。ポーター風情って言われてたもんな~。

 小さくなる彼らを見送り、俺は気合いを入れる。
 魔王には触れさせないゾッ。






==================


研究者クンティン誕生ッ。ポーターは仮の姿。元に戻っただけですけどね。

走り回るクンティンと警護の為と追いかけるサムエル。
がんばれ、サムエルッ! 忍び寄る魔王ぉ…。
てな感じかな?

続きが気になる方、お気に入りに登録またはしおりは如何でしょう?

感想やいいねを頂けたら、さらに嬉しいです。

↓下の方にスタンプや匿名でメッセージ送れるの設置してあるので、使ってみて下さい

https://wavebox.me/wave/8cppcyzowrohwqmz/

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

真面目系委員長の同室は王道転校生⁉~王道受けの横で適度に巻き込まれて行きます~

シキ
BL
全寮制学園モノBL。 倉科誠は真面目で平凡な目立たない学級委員長だった。そう、だった。季節外れの王道転入生が来るまでは……。 倉科の通う私立藤咲学園は山奥に位置する全寮制男子高校だ。外界と隔絶されたそこでは美形生徒が信奉され、親衛隊が作られ、生徒会には俺様会長やクール系副会長が在籍する王道学園と呼ぶに相応しいであろう場所。そんな学園に一人の転入生がやってくる。破天荒な美少年の彼を中心に巻き起こる騒動に同室・同クラスな委員長も巻き込まれていき……? 真面目で平凡()な学級委員長が王道転入生くんに巻き込まれ何だかんだ総受けする青春系ラブストーリー。 一部固定CP(副会長×王道転入生)もいつつ、基本は主人公総受けです。 こちらは個人サイトで数年前に連載していて、途中だったお話です。 今度こそ完走させてあげたいと思いたってこちらで加筆修正して再連載させていただいています。 当時の企画で書いた番外編なども掲載させていただきますが、生暖かく見守ってください。

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

失恋して崖から落ちたら、山の主の熊さんの嫁になった

無月陸兎
BL
ホタル祭で夜にホタルを見ながら友達に告白しようと企んでいた俺は、浮かれてムードの欠片もない山道で告白してフラれた。更には足を踏み外して崖から落ちてしまった。 そこで出会った山の主の熊さんと会い俺は熊さんの嫁になった──。 チョロくてちょっぴりおつむが弱い主人公が、ひたすら自分の旦那になった熊さん好き好きしてます。

オメガなパパとぼくの話

キサラギムツキ
BL
タイトルのままオメガなパパと息子の日常話。

フルチン魔王と雄っぱい勇者

ミクリ21
BL
フルチンの魔王と、雄っぱいが素晴らしい勇者の話。

スライムパンツとスライムスーツで、イチャイチャしよう!

ミクリ21
BL
とある変態の話。

催眠アプリ(???)

あずき
BL
俺の性癖を詰め込んだバカみたいな小説です() 暖かい目で見てね☆(((殴殴殴

処理中です...