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本編
12】決行。そして…(前)
しおりを挟む準備は整った。
クンティンがアリスンを睨んでる気がするが、気の所為かな。心当たりはない。準備は抜かりないようだ。疲れ切ったあの顔はどこへやらの肌ツヤの良さ。元気になったようだ。
魔王がにこやかに現れて、俺とアリスンの手を握ると、唇に引き寄せて、口付けしてきた。きたよ?!
「祝福を…」
甘い声で囁き手が離れる。目が色っぽく俺の視線と絡まる。ズクンと腹の奥が変な感じになった…。なんだ?
「なんだ、なんだ?」
サムエルの茶化した声がする。
やめてくれよぉ~。何にもないんだってぇ~。魔王とはちょっとあったけど。彼女とも、そう、ちょっとあったけど…。
「なんでもないったらぁッ!」
「ダロン、真っ赤でやんのぉ~」
クンティンの頭をポンポンしながら、サムエルがニヤッとした。この男どこまで何を嗅ぎつけてるんだ?! 野生の勘?!
サムエルに引っ張られる。
顔が近い。急に真顔になって囁くように告げられた。
「魔王には、惹きつける何かがある。魅了のようなものか、王族の血が為せるものかは分からんが、気をつけろ」
俺を解放するとトンと魔王の方へ押された。
「魔王さんもイタズラしてないで、さっさとやるぜ。クンティン、指示を。何がなんでも成功させて、凱旋するぞ~」
陽気に指揮を取り執り始める。
魅了?
ただの人にそんな事…?
魔王なんて称号は外の人間がつけたもので、彼は、この人は王子で、浄化する特殊能力があるだけの…。
「では、皆さん、こちらを飲んで、魔法陣上で手を繋ぎ『巡環』の準備を」
クンティンがグラスが置かれたトレイを持ってきた。
あ、集中しないと…。
リューリさんの血が混ざった聖水を一気に呷る。驚くほど身体中に巡るのが早い。魔法陣に引っ張られるのを感じる。
リューリさんは執務室で待機してもらってる。この魔法陣のある部屋は精神的に辛そうなので遠慮してもらった。
魔人たちは障壁の範囲に避難してもらってる。
魔王に手を取られ魔法陣上へ。魔王の反対側にはアリスン、その隣にサムエルが。宝珠や魔法陣の最終確認を終えたクンティンが俺の横にサムエルと手を繋ぎ『巡環』の準備は整った。
ゆっくり跪く。
クンティンは魔法陣にも手を加えていた。俺の要望に応える為に無理をさせてしまった。
クンティンと目が合った。感謝の気持ちで微笑むと頷きで返ってきた。目が潤んだ感じだけど、顔色もいい。元気になって良かった。彼の握ってくる手が力強くなる。不安なのだろうか。大丈夫。きっと成功するよ。
さて、やれる事はやった。サムエルじゃないが、さっさと終わらせて帰ろう…。
「始めるよ…」
クンティンの静かな声で、みんなの魔力が手を通って巡っていく。やがて、全身に巡り、魔法陣の一部になってる気分になった時、クンティンの静かな声が響いた。
「浄化の祈りを…。願いを…。全ての穢れを光りの元へ…。静寂の彼方へ…」
ドゥクンッ!
心臓が激しく波打った。
身体の中の何かが急激に吸い上げられる。
握る手に力が入っていた。前に倒れそうになるのをなんとか姿勢を保って、耐える。
意識的に巡らせなくても勝手に力が巡り吸い上げられてる感じだ。
全身が鼓動する。心臓になったようだ。
何が起きてる…。
閉じた目を無理やり開く。狭い視界は霞んで…否、白い光りが渦巻いて何も見えない。眩む視界に再び瞼が閉じる。
この魔法陣の展開が終わるまで、全てを委ね、自身がこの一部と化し、ひたすらに終わりを待つしかない。
……祈ろう。全てが上手くいくように。皆が幸せに暮らせる為に…。
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