テーラーのあれこれ

アキノナツ

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後1.小部屋の鍵.1 ※

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「仕事帰りには寄らないで貰えないだろうか」

香苗かなえくんは、毎日ではないが、会社帰りに店に寄ってくれる。
取り敢えず、お伺い。
こちらの要望を出してみる。

「ちゃんとお客さん居ないの確認して入ってますよ? 顔見るぐらいいいじゃないですかぁ」
今日もよく働いたのだろう。仕事帰りの哀愁が漂っている。多少着崩れてるが、許容範囲だ。
……もう少しあそこを摘んで薄くしていいか…。
ついつい改良を考えてしまう。

色々試させて貰ってるので、その分価格に反映してる。持ちつ持たれつ、都合よく使わせて貰ってたりする。
悪い大人だ。

「スーツばかり見てないで、俺を見て下さいよぉ~」

チラッと顔を見て、リストに視線を戻す。

顔を見れるのは嬉しい…のは認めるが、如何せんこの男の匂いに問題が。問題を起こしてるのは、私の感覚だ。彼の所為では無い。

「仕事にならないから、もう帰れ」
「えー、一緒に帰りましょうよ」
「明日も仕事だろ?」
早く帰れ。
自分じゃ気にならないだろうが、1日動いた身体の体臭がピークなんだよ。布の匂いでいっぱいの店内にホワイトムスクの香りが充満してきている。

私の身体が保たない。

書き終えたリストをファイルして、出してた布束を片付け、新たに出す。

「私は明日も仕事。まだやる事があるんだ」
「あれ? 明日は定休日でしょ?」
「目安ってだけで、予約が入る事もあるさ。名刺にもその旨を載せてあるよ」
「そうなんですけどぉ~」

仕事を邪魔しては悪いと思ってくれてるのか、出入り口のカウンター付近で陣取って部屋奥の作業台には近づいては来ない。だが、そろそろこちらの限界が近い。

「予約中心の店だからね。別の日を休みに充てるつもりだよ」
声の調子は平静でいられてるだろうか。

「じゃあ、俺の休みに合わせるのも可?」
明るい声が弾んでいる。

「んー、土日か……。半休には出来るかな」
布を裁つ準備をする。
さて、ここからは心を落ち着けて作業がしたい。

チラリと彼を見る。
ニッコリ笑い返してくれる。
その顔に癒されるのを感じてるが…。

「帰りますね」
ひらひらと手を振って、ドアベルを鳴らして消えた。
香りを残して……。

暫く作業にはならないな。
今日中にこれだけはやっておきたい。

小部屋で頭を冷やすか。
暫くすれば、店の匂いも落ち着くだろう。

店の出入り口を施錠し、灯りを落とす。

小部屋に入り、仮眠にも使うソファに腰掛ける。後ろの小棚に幾つか並べた小さなガラス製のキャニスターを指で辿る。
青い星が入ったので止まる。
手に取り、キュポンと蓋を開けると、青い金平糖を幾つか出して口に放り込む。
サイダーの爽やかな香りと密やかな甘さが広がる。

キュッと蓋をして、小棚に戻す。

定期購読してる雑誌を広げた。

映画情報を中心にカルチャーやファッションなどが色々と散りばめられて、パラパラと見るだけで、心躍る画や見出しが楽しませてくれる。

口の中の金平糖が完全になくなったところで、雑誌を閉じて小部屋を出た。

気合いを入れて、終わらせてしまおう。



作業部屋の隅にある背の高い机で立ったまま、書き付けをしていた。

「来週の土曜日がまるまる空いた。連休初日だからかな。私も休む事にしたよ」
今日も安定の香苗くんの来訪。
隅に置いてある椅子に座って、今日も私の観察をしている。

今日も襲いたくなるから困る。
抱きついたら、反対に襲われるだろうからしないが。

「金曜の夜とか何処かでゆっくり食事でもしようか。酒も付き合ってもいいよ」
今日は事務処理が殆どで数値だけ気を付けていれば良い。気が楽だ。何かミスがあってもリカバリーも出来る。
明日再びチェックするから余計に気楽なのだろう。
布はそうはいかないが。

緊張ばかりでは身体が保たない。こうやって他の仕事も織り交ぜる。
一人でしてるからこそこういう配分で出来る。

映画でも観に行こうかと思ったが、是が非でも大画面や音響で観たいと思える作品がない。香苗くんとゆっくり過ごす方が私には魅力的だった。

カフェでゆっくりもいいな…。
先の休日に気が飛んでいた。

「イチャイチャしてもいい?」
黙って聞いていた香苗がポツリと呟いた。

飛んでいたからか、一瞬反応が遅れた。

艶のある声に驚いて書面から顔を上げた。
熱っぽい視線で見つめられていた。
いつ立ち上がったのだろう。もう足が前に進んでいた。

「えーと、香苗くん?」
どうしました?と尋ねるたくて呼びかける。近づいてくる香苗くんの口元に視線が釘付け
になる。
唇が乾くのか舌がチロリと舐めた。

「爛れた夜を過ごしていいですか?」
爛れたって……。
ふわっとホワイトムスクの香りが……。

「あー、それは…ちょっと……。あっ、映画観に行く?」
健全なデートをしよう。
しどろもどろ。追い詰められてる。物理的に…。

「今日は触っていい?」
目の前だ。
「あー、少しなら?」
あー、どうなるかなぁ…。
私も触りたかっただが、自制が…。
キスまでならいいか……?
理性と欲望が鬩ぎ合う。
組み敷きたいんだが、そうはならないよね……。

最後まで言い終わる前に抱きすくめられていた。

「はぁぁぁ、タロさんだぁ」

首に息が掛かるぅ。くすぐったいよぉ。

おずおずと香苗の背中に手を回し、スーツの衣擦れの音を聞いていた。

「はい、私ですよ」
こんな風に抱き合うなんて、何時振りだろう。
香りに包まれて、いつしか私はうっとりと香苗の身体の温もりを掌、否、全身で感じていた。
キスしたいなぁ。
ぼんやり思って、顔を見れば、香苗もそうだったようだ。自然と顔が近づいて、唇が重なった。

では、遠慮なく……。
唇を喰み、舐めて、吸う。

香苗に下唇を吸わせて、私は上唇を柔らかさを堪能しながら、吸っていた。
唇裏の隙間に舌をねじ込み、歯茎を舐める。
舌を絡ませたいのに、まともなキスができない。
イラッとしてきた。

香苗が下唇を離してくれないから。舌さえも自由に入れない。唇を喰みながら焦れてきた。

んん?!

尻を揉まれてる……。

テーラー服のスラックスの上から尻を撫で回されていたが、今は揉まれてます。

スンッと熱が引いていく。

コイツは、私に突っ込みたいんだよね。
私は、そっちの才能があるらしいのだけど、どうも割り切れなくて、香苗と致したのは、あれ切りだったりする。

肌は合わせたいのだが、率直に言うと、香苗に突っ込みたい。相容れないこの状態に悶々とする。

若いのに、耐えますな。
性処理は別でしてるらしいのでその辺りは別にいいのか?

キスも思い通りに進まないし、やられてるって感じになんだか腹が立ってきた。

プッチュンと無理矢理唇を離すと、胸を思いっきり押した。
スルッと腕が解けかけて、引き戻されるように抱き込まれた。

「タロさん、どうしたの?」
可愛く言われて、きゅんとなる私って。
いやいやいやぁ! 気を引き締める。
どうしたはこっちが言いたいわ。

「キスもまともにしてないのに、ケツ触って挿入いれたいアピールは無いと思うのだよ」
腹立ち紛れの乱暴な言い草だ。

「ヤりたい」
その言い切り、清々しいわ。

「私もヤりたい。いや、私は香苗くんに突っ込みたい」
私らしくないが、どストレートに言ってみる。
ムカムカする。

ガルガルと睨み合い?
不毛だ……。

「いいですよ。タロさんがしたいんならしましょ? でも、その後は俺がしたい」
軽く交わしてくる。
私が出来ない事を、こうも軽く越えてくる!

言い切ると、噛み付くように唇を塞がれた。

返事もしてないし、なんだよこのキス!
襲われてるみたいじゃん!
あーーーーッ、腹が立つ!!!

リードされる事にイライラして、香苗の後頭部を抱き込むと、絡められてた舌を引きずって思いっきり奥まで押しこむ。
舌の根元をグリグリと嬲り解けたところで、吸い付いて、舌をこちらに引き込んで、甘噛みしながら、ヌメヌメと舌全体で舌に擦り付けながら唾液を混ぜて吸った。

香苗も嘔吐くような呻きを漏らしつつ、口端から唾液を垂らしながら啜っている。

前を固くして、私に擦り付けて、なんて可愛いんだろう。
もっと甚振りたい。
互いに擦り付けていた。

んー、私も男だな。
爛れた休日か……。悪くないな。

ジュパッと唇を離すと、二人とも息が上がってた。
額と額をこつりと合わせて微笑んだ。

次第に、細い目が更に細くなってると自覚出来るほどニンマリと笑っている気がする。

「分かった。爛れた休日を過ごそうか」

そのあとは、お互いの口の中を行き来しながら舌を絡め、互いの舌を愛撫しあった。
久しぶりの濃厚なキスにいつまでも酔いしれて、その先を互いに求めていたが、留まった。

名残り惜しげに銀の糸が唇を繋いでいる。

「タロさん、この続きはお楽しみでいいですか?」
あっ、切れた。
「いいが……。治るまで、抱き合っててもいいかい?」
「治ります?」
「治るが?」
「そうなんだ…」
治らないのか?
私はこの香りの中だと、ムラムラもするが、ある一定ラインを過ぎると、落ち着いてしまう。
さっきのキスである程度発散してしまったみたいで、今は心地いいしかない。
罪な香りだな。離れなれないじゃないか。

「タロさん、また嗅いでる…」
含み笑いで、私の背を摩ってる。
緩く体温が上がってる。思考がぽやんとしてくる。
彼も嗅いでる…?

「周りにはなんて事はない臭いの程度なんだと思うのだが。……私には、なんとも離れ難い匂いだ」
うっとりと耳の後ろに頸に鼻を擦り付けて呟いていた。もう意識した言葉じゃなくツラツラと溢れでる。

「香苗くんに逢えるのは、嬉しいのに、この香りが私を惑わして困る…」
言うつもりもなかった事も喋っていた。
「嬉しいんですか? 俺も嬉しい」
スリっと抱きしめた腕が締まる。

ハッと自分の漏らした言葉に気づいて、ボンと全身が熱を発すのが分かった。
するって抱きしめる腕は締まった気がする。

ジタバタと暴れて、その腕から抜けると、奥へ走った。小部屋に逃げ込む。

顔を見られたくないッ。
細長い姿見に映ってる自分は……。
嗚呼、なんて顔をしてるんだッ。
こんな私……知らない……。

「こんなところに扉があったんだ」
「帰れ」
扉を背に蹲る。
鏡の中の自分を見たくなくて、両の手で顔を覆った。

「ここはタロさんの『鍵のかかった部屋』?」
「そうだな。……たぶんそうだ。……帰ってくれ」
丸裸になった気分だ。あんな心の奥底が外に湧き出てしまったとは…。

「週末の相談はスマホでいいですか? 俺も仕事前倒しで片付けて時間確保しますから」
「ああ……」

情けない声音に、自分が自分ではないような恐怖が忍び寄ってくる。

スマホが振動する音が遠くで聞こえる。
作業場に置いてきてたようだ。

ドアベルが鳴ってる。

私は香苗くんが好きだと思う。
冗談混じりに『好きだ』と伝えたが、今は、あれとは比べ物にならない気持ちが渦巻いてる。
香苗くんは私を口説いてるのだから好きなんだろう。そばにいてくれると言ってた……。

言ってた…。

ーーーー?

おや?

香苗くんから『好き』の言葉を聞いたかな?

口説かれてたんだから、好きだろ?

狙ってるとか、束縛していいとか、寝たいとか……。

おや??

態度が好きと言ってる。
そもそも付き合ってくれってのは、好きだからだろ?

分かってるのに、このもやっとしたものは、なんだ?

私は、言葉で聞きたいのか?
おーい、どんだけ乙女だ!?

ふぅと息つくと、部屋を出た。
疲れた。
なんとも言えない感覚は治っていた。

スマホには、香苗からのメッセージ。
ここにあるとは思わずに送ってしまったのだろう。
『帰ります』

『気をつけて』
暫く迷って、送った。

40を前にした男がうだうだと何をしてる。もっと毅然と大人であるべきだと思う。

ーーー金平糖、捨ててしまおうか。あんなものを並べてるから、まだまだお子様なんだ。
小部屋の方を見ていた。

小部屋は見つかった。
秘密基地は終わりと言う事だ。

片付けるか。
元々は、物置兼仮眠室だったのだから。元に戻すだけ。

甥っ子くんが来る前に始末できてよかったではないか。


***


週末。

居酒屋で過ごして、コンビニでしこたま酒やら食料を買い込んだ。酔っ払いが酒で気が大きくなって買い物してるようにも見えるのだろう。店員が苦笑いでレジを通している。

コンドームも入り込んでるのだが、ピッピとバーコードを読み取り袋へ。

これから爛れた休日を過ごす支度だとすると、なんだか可笑しく思えてくる。
巣篭もりするリスなどの小動物を思い描きながら、表示されてる金額をぼんやり見ていた。

なかなかの金額だ。

カードで支払った。

香苗の家で過ごす事になっている。連れ立って、夜道を歩いていた。
初めての訪問だ。

オートロックのマンションだった。

角部屋のドアを開けた。
広い…。
驚いた。
大きな会社だとは、お客さまを通しても分かってたが、香苗の稼ぎって…。

「独身男にしたら広くてびっくりしました? 社宅なんですよ。単身用が空いてなくて、割り当てられたのがココで」
キッチンのテーブルに買ってきた荷物を広げながら、宣ってる。

「なるほどね。ここは、夫婦とかを想定したタイプかな。一人だと少し広いね」
「単身用が空いたらって言われてたけど、このままですよ。なんなら、タロさん越してきます?」
楽しそうに話してる。

「何を言ってるんだ。社宅だろ。これは、あれだ。彼女でも作って、身を固めろってヤツだな。そしたら、再割り当ての手間が省ける」
コンビニの袋から、ビール缶を取り出して、カリュッと開けて、クビリ、グビリと飲んで合間に言い募る。

酒で思考も口も緩くなっていたみえる。

「タロさん飲み過ぎ」
年長者に言ってきやがる。
「私は、ワクらしいから酔わない」
どうだ!と胸を張る。
手の缶をグイッと傾けた。

あー、美味いッ。

「前にお酒合わなくなったって言ってたの、合ってるかもしれませんね」
いつの間にか、後ろに立たれてた。抱きつかれる。
缶ビールを抜き取られて、テーブルに移された。
飲んではダメらしい。

「飲むのは、つまみと一緒に。座って飲みましょうね」
なんだか上から目線な言い方。気に入らん!

「なんだよ。偉そうに」
「タロさん……」
頬に香苗の唇を感じる。

「そうだ。香苗くん!」
唐突に浮かんだままを口にする。
ここ数日浮かんでは消えていた事柄がツラツラと出てくる。

「私の事は好きか? 口説いてるのは、身体目当てだったり?」
私は何を言ってるのだろう。
足元が少しふわふわしてる。

「私を完全にネコにしたら、目標達成か?」
ケラケラと笑って、唐突に泣けてきた。

「タロさん……」
香苗の声が悲しそうだ。

「うん。これは完全に酔ってる。悪い大人の見本だな……すまない」
腕を解き、開けたビール缶とつまみの袋を手にソファに座った。
ローテーブルにそれらを置くと、頭を抱えて身を小さくした。

「タロさん…」
横に香苗が座った。
香りがする。
その香りが落ち着くどころか更に私を悲しくする。

「情けな男だよ。これからお楽しみって段になって、尻込みしてる。これが終わったら、またひとりなのかと思うと……怖いのかな」

独白だ。
もう帰ってしまおうか。
ここまできて情けないな。
香苗に気持ち良くなってもらって、全て清算してしまおうか。

「タロさん……ひとりで結論出さないで下さい」
肩に温もりを感じてる。香苗は温かい。私は年下の男に甘えてるんだ。嫌な大人だ。
私の理想じゃない。

「顔が見たい」
「……上げたいんだが、今は情けない状態で、上げるに上げれないんだよ」

おじさんの泣き顔は情けなさすぎる。

「大丈夫ですよ。イキ顔も見せ合った仲じゃないですか。泣き顔ぐらいいいじゃないですか」
ポケットを探る。
ハンカチを出すと、顔を覆って、乱暴に拭いた。ローテーブルの下にティッシュの箱を見つけた。引き寄せると、数枚勢いよく取って、思いっきり鼻をかんだ。

ーーースッキリした。

スッとゴミ箱が差し出される。
「ありがとう」
ポトンと捨てた。

「タロさん、身体目当てで口説いてない。貴方が好きだから、口説いてる」

「うん」
抱きしめられた。

「付き合おうじゃなくて、好きだって言い続けた方が良かったのかな」
香りが満たされる。

「どうだろう。分からない。好きだって、分かってたのに」
そっと体重を香苗に寄せた。

「不安にさせてたんでしょ? 最初の口説き文句が、セックスしたいだもんね。あれがスタートだとすると、俺でも、こいつ大丈夫か?って思うよ」
シニカルな響きが含まれてる。

「そういう場所だったから、別に構わないと思うが」

やっと落ち着いてきた。
回されてる香苗の腕を緩く掴む。
あの湧き上がってきた感情はなんだったんだろう。

最近、情緒が安定しない。

仕事はきちんとこなしてる。
お客さまの表情に何も変わりがなかったから問題はないはず。

「仕事詰まってて、疲れたんですかね」
香苗くんも同じ結論に至ったようだ。

「疲れを癒す為にココにきたんじゃないか。ーーーー飲み直すか?」
香苗を見遣った。やっと目を合わせれた。
目が赤いと思うが、細いから目元が赤くなってるだけだと思う。糸目で良かった。
初めて自分の身体で良かったと思ったな。

笑ってる。
やはり酷い顔か。

「飲み直すより、タロさんはこっちの方がいいんじゃないですか? 確か、落ち着くって言ってませんでした?」
腰を引き寄せられて、密着して、抱きしめられた。

胸が合わさって、顔が近い。
キス?
キョトンとしてると、後頭部に手包む。頭をそっと首筋に誘導してくれる。
香苗に腕を回して抱きついて、遠慮なくクンと嗅いだ。
確かに落ち着く。癒される気さえする。

落ち着いてくると、胸につっかえてるのをどうにかしたくて、ポツポツと転がり出てくる。

「香苗くん、好きだ。……以前言った感じじゃないんだ。どうしようもないぐらい好きなんだ。……こんなに気持ちが溢れて、どうしようもないのは初めてで、どうしていいか分からない」

「嬉しい……」
しみじみと噛み締めるように呟いてる。

「私は、情けない大人だ。年だけ重ねて何も知らない、薄っぺらい男が人をこんなに好きになって」
良い訳がないんだ。

ーーー私は独りが相応しい。

私の結論はこの瞬間に出た。
捨てられる前に去ればいい。

最後だ。
香苗には楽しんで貰えばいいさ。
そうだな、私は、思い出を貰おうか。

そして、距離を置いこう。

甥っ子クンがそろそろウチの仕事に入り始める。大学生だから、バイト扱いだが、引き継ぎも兼ねて慣れてもらわないと。
私みたいにいきなり放り出されたら、戸惑うだろう。

頭が突然回りだす。

私の弟子入りという事になるらしいが、テーラーの仕事で教えるものはないだろう。
顧客と業者への顔合わせが中心だ。
私も仕事をするが、彼が大学の卒業と同時に完全に引き継ぎだな。
私は裏方で仕事をさせて貰おうか。

スッキリしてきた。
方針が決まれば、あとは実行に移すだけ。
芯ができた。

「タロさんが好きなんです。好きなんです」
痛いぐらいに抱きしめられて、香苗くんが、噛み締めるように言ってくれてる。

奥には沁みてこない。

ありがとう。

唇を合わせた。

さぁ、爛れた休日を楽しもうか。



「タロさん、解したんですが、まだきついかも」
申し訳なさそうにしてる。たぶんこの話が決まってから、頑張ってくれてたんだ。

「試してみてダメだったら、素股させてよ」
こめかみにキスを落としながら、筋肉で引き締まった尻肉を撫でる。

コレコレ。程よく弾力があって、叩き心地がいいケツだ。

ローションを手に取ると、後ろを解しにかかった。
ーーーー大丈夫。ヤレるね。
この前の勝負の時ほどキツくはない。

二人とももう身につけるものもなく、ベッドで絡んでた。
香苗は温かい。陽だまりのポカポカだ。

「後ろからしようか。そちらの方が負担が少ないだろ?」
私の言葉に大人しくうつ伏せになって、尻を上げて、後孔を晒す。

いい眺めだ。

香苗が、身を捩ってこちらを伺っている。
仔犬がいる。不安そうに耳を伏せて、困り顔だ。
頭を撫でてやりたいが、ローションでベタベタだ。
チュッと唇を重ねて、鼻先を香苗の鼻先に軽く押しつける。クリクリ、フニフニ。犬の挨拶だ。
香苗が笑ったところで、額を軽く合わせて、後ろに回った。

ほら、すぐに私の指を咥え込んだ。

ーーーーあった。

腰が揺れてる。

「タロ、さん…」
竿も玉も撫でていくだけで、ガチガチに勃って、張っている。鈴口からたらりと先走りが垂れた。指で掬って亀頭に塗りつける。
全身がプルルッと震える。

孔に入ってる指は3本。余裕でバラバラに動かせる。くぱっと開いて誘惑する孔を見つめる。前立腺を刺激してやると、プシュウと僅かばかりの精液が漏れ出た。

「はぁぁぁぁ……」
気持ち良さそうな香苗くんの声。
ツキンと私の雄を直撃だ。

尻にキスをし、指を抜くとゴムを這わせた雄を、孔に切っ先を当てる。

尻に手を添え、ズブリと挿れ込んで行く。

「あぁぁぁ……」
「はぁぁぁぁ……」
二人の吐息が押し出されて濡れて絡む。

奥へ。行きつ戻りつ這入っていく。
前立腺のところでは、角度を変えたりしながら、擦り付けて念入りに擦り付けた。

「あぐぅ…んくぅん…はぅん……」

ジュブジュブンと勃ち上がった香苗の雄からシーツに垂れる。

ナカがウネる。
奥に到達した時は、搾り取られそうなウネりになっていた。
額に滲む汗を拭う。
香苗は喘ぎ続けていた。
イきっぱなしなのだろうか。久方ぶりの行為に感覚よりもこの状況に昂るかも知れないな。

背中に身体をするつけながら、合わせていく。香苗の鼓動を全身で感じながら、胸に手を回した。
両乳首をサワサワと触りながら、様子を伺う。
もう動いていい頃合いかな?

「動くね」

身体を合わせたまま、ナカの雄を動かす。

「あぁぁん!」

がっしりした男を乱れさせるのは、最高だ。
私の雄が更に上向くのを感じた。
腰をクイクイと細かく動かし、肉壁のウネりを堪能する。

乳首をきゅっと摘んで、離し、身体を立てた。乳首の刺激に反応して孔が筒が締まる。
さぁ、これからだ。
腰を掴み、長いストロークからの抽送を開始した。
香苗は背を反らしながら、悶え出した。

もう少しで私がイく。
香苗は既に果てていて、「めて」「やめて」と喘いでいるが、イった後の肉筒の痙攣と弛緩の中を抜き挿しするのは、格別なので、やめない。
やめる訳がないだろッ。

尻を叩く。
緩み切る前の刺激に肉壁の律動が更に蠢き、私を包む。

もう一発。
打つ音が高く響く。
高く啼いて、香苗も悦がって、悶えている。
シーツを掴む手が小刻みに震えている。

腰を打ちつける音と尻を叩く音が重なり合い、絶頂に導く。
両手で腰を思いっきり掴み、奥まで届けと打ち込み、果てた。
小刻みに腰を動かし、最後の一滴まで出し切る。
香苗くんは再び射精してたようだ。
私に出す前に空になるのではないだろうかと無用な心配をしていた。

一息ついて、ズルズルと萎えた雄を引き摺り出す。
ゴムを始末し、自分の雄とぐったりして尻だけ上げてる香苗を簡単に拭いて、汗で湿った身体を絡み、抱きついた。

こめかみにキスをする。
「香苗くん?」
出来るだけ甘ったるく呼びかける。

薄っすらと目を開ける香苗は可愛い。
濡れた瞳に私を映して、緩く微笑んでいた。

香苗に今の全て捧げる。
それで許してほしい。

サイドテーブルに置いてあった。水を分け合って飲んだ。飲んでいるんだかキスしているんだかわからなくなるような状態だったが。

何がおかしんだか、笑いも漏れて、絡みあって、不思議な感覚のまま、私は組み敷かれていた。

後孔に入り込んだ指は縦横無尽に蠢き、私を翻弄していた。
そして、この感覚。
快感だと分かっているのだが、何か違う感覚の波に私は躊躇して乗り切れず、何かがジレジレと身体を苛み辛くなっていた。

これでは、香苗にあげれないではないか。
不甲斐ない自分に焦れた。

「タロさん、大丈夫だから。俺に任せて。頼って」
任せてる。されるがままだ。
頼ってる。甘えてると自覚している。
なのに、何を言ってるのか…。

熱が溜まった身体を香苗に擦り付ける。

「その波は快感だから、素直に乗って。どんなに乱れても、タロさんはタロさんだから。俺見てる」
答えをくれた。これも快感なのか? 頭が白くなるような快楽があるのか?

さっきからふわっと意識が白くなる。

じっと目を見る香苗の目に私も合わせて、心を決めた。
目を閉じて、香苗に縋り付く。
全てを委ねた。

「…あはぁん、ん、ん、んふぅぅん…ぁぅんん……」

遠くで喘ぐ声がする。これは私が出してるのか?
媚びを売るようで、いやらしくて、嫌になる。
完全に雌じゃないか。

抗っていた波に乗った途端、脳に痺れるような電撃が突き抜け、思考が止まり、快楽だけが私を支配した。

香苗を迎えてからは、尻を振り、幾度も吐精して、もう出るものもないのに、垂れた陰茎からは、プシュプシュと色の薄い液体が断続的に垂れ流れていた。

初めこそ後背位だったのだが、背面座位、正常位と体位を何度も変え、今は松葉崩しでグリグリを奥を、更に奥を責められている。

最奥が開く。
私もやった事はあるが、こんなにも、刺激的な快感だったとは。
縋り付くように握り締めたシーツではこの感覚を押し止められず、どうしようのなく、私を翻弄して、私は木の葉のように快感の渦に飲み込まれていた。

「はぁ、あ、あ、あん…、やぁぁん、あっ、ぁぁん…」

香苗は、初めこそ声をかけてくれていたが、呻くような、時々喘ぐような、声を押し殺すように漏らしながら、腰を振っている。

香苗も感じてくれてると確信できていた。
獣のように私を開いていく。

空になるのではと思ったのは杞憂なようだった。
あれから何度か吐射してるようだが、萎える事がない。
硬い肉棒は私を幾度も貫く。

奥が開き、香苗を迎えた。
チカチカと視界でスパークを起こし、頭が真っ白になって、遠くで、甲高く長く喘ぐ声を聞きつつ、堕ちていく。あの声は私か……。

腹のナカで奥の奥が擦られて、ビリビリとした刺激に肉壁が痙攣を起こしているようだ。
香苗が呻く。

ーーーーイイ。これはとてもイイ!

私は、快感の渦に飲まれて意識を手放していた。


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高校生の朝好にとって卒業までの二年間は奇跡に満ちていた。クラスで目立たず、一人の時間を大事にする日々。そんな朝好に、クラスの頂点に君臨する修司の視線が絡んでくるのが不思議でならなかった。人気者の彼の一方的で執拗な気配に朝好の気持ちは高ぶり、ついには卒業式の日に修司を呼び止める所までいく。それも修司に無神経な言葉をぶつけられてショックを受ける。彼への思いを知った朝好は成人式で修司との再会を望んだ。 高校時代の初恋をこじらせた二人が、成人式で再会する話です。珍しく攻めがツンツンしています。 ※以前投稿した『初恋はおしまい』を大幅に加筆修正して再投稿しました。現在非公開の『初恋はおしまい』にお気に入りや♡をくださりありがとうございました!こちらを読んでいただけると幸いです。 今作は個人サイト、各投稿サイトにて掲載しています。

ACCOMPLICE

子犬一 はぁて
BL
欠陥品のα(狼上司)×完全無欠のΩ(大型犬部下)その行為は同情からくるものか、あるいは羨望からくるものか。  産まれつき種を持たないアルファである小鳥遊駿輔は住販会社で働いている。己の欠陥をひた隠し「普通」のアルファとして生きてきた。  新年度、新しく入社してきた岸本雄馬は上司にも物怖じせず意見を言ってくる新進気鋭の新人社員だった。彼を部下に据え一から営業を叩き込むことを指示された小鳥遊は厳しく指導をする。そんな小鳥遊に一切音を上げず一ヶ月働き続けた岸本に、ひょんなことから小鳥遊の秘密を知られてしまう。それ以来岸本はたびたび小鳥遊を脅すようになる。  お互いの秘密を共有したとき、二人は共犯者になった。両者の欠陥を補うように二人の関係は変わっていく。 ACCOMPLICEーー共犯ーー ※この作品はフィクションです。オメガバースの世界観をベースにしていますが、一部解釈を変えている部分があります。

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

エリート上司に完全に落とされるまで

琴音
BL
大手食品会社営業の楠木 智也(26)はある日会社の上司一ノ瀬 和樹(34)に告白されて付き合うことになった。 彼は会社ではよくわかんない、掴みどころのない不思議な人だった。スペックは申し分なく有能。いつもニコニコしててチームの空気はいい。俺はそんな彼が分からなくて距離を置いていたんだ。まあ、俺は問題児と会社では思われてるから、変にみんなと仲良くなりたいとも思ってはいなかった。その事情は一ノ瀬は知っている。なのに告白してくるとはいい度胸だと思う。 そんな彼と俺は上手くやれるのか不安の中スタート。俺は彼との付き合いの中で苦悩し、愛されて溺れていったんだ。 社会人同士の年の差カップルのお話です。智也は優柔不断で行き当たりばったり。自分の心すらよくわかってない。そんな智也を和樹は溺愛する。自分の男の本能をくすぐる智也が愛しくて堪らなくて、自分を知って欲しいが先行し過ぎていた。結果智也が不安に思っていることを見落とし、智也去ってしまう結果に。この後和樹は智也を取り戻せるのか。

【魅惑の妖香】 イベリスの香り

一ノ瀬 瞬
ライト文芸
今宵も妖艶な香りに導かれ 御客人がいらっしゃるのです…… そんな一夜の物語

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