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オレたちの夏
3】夏の終わり (※)
しおりを挟むサブテーマの最後のセリフは、
「おい、やめろ。そのすいかをそっと降ろせ」です。
ーーーーーーー
あと1週間程でここを撤収する。
庭の手入れと垣根の修理。
棚や扉の立て付けなどを補修。
雨樋も掃除もした。
ほとんど終わった。
ちゃんと仕事はしたぞ。
イチャイチャもしてたけどな。
なんかほとんどチカがやってくれた気がするけど……。
まあ、いいか!
爺ちゃんいつでも帰ってきてもOKだぜェイ。
今日は、爺ちゃんの畑に行く。
早朝、清々しい空気の中、深呼吸。
昨日収穫した野菜を持ってきてくれたお婆ちゃんにそろそろ爺ちゃんが退院だって話をしたら、オレらが帰る前に畑においでって言われた。
スイカがあるらしいから、今日はスイカ食べながら、花火でもしようかな。
スイカがない……。
爺ちゃん婆ちゃん達が、畦道で呆然と立ってた。
「ハナ婆ちゃん…」
皺深い顔をくしゃっとさせて、すまなそうに呟く。
「スイカ泥棒にあってしもたわ。すまんなぁ」
オレらがスイカを楽しみに来たと思ってるんだ。
「こんな田舎の年寄りの小さい畑に泥棒ってなぁ……」
爺ちゃん達が悔しそうに呟いてる。
トマトやキュウリが踏まれて潰れてる。
近所の悪ガキだろうな。
溜まり場は、村外れの今は使われてない作業小屋か、橋の下の河川敷。
ここにくる途中、橋を通ったからそこじゃないな。
「チカ、付き合ってェ」
無言で頷いてくれた。
「明日また来るねぇ」
婆ちゃん達に手を振って自転車に跨がる。
自転車が転がってる。
五人か?
お巡りさん呼んどこ。
駐在さんに電話。
奥さんが出た。
伝言をお願いする。
んー、勢いで来たけど、喧嘩とかした事ねぇ。
田舎の悪ガキなんて大した事ねぇだろう。
パンッと引き戸を開けようとして、立て付け悪くて、ガタビシしながら開けた。
格好つかねぇな!
「お前らぁ~」
ちょいと巻き舌で虚勢を張る。
居ません。
あれ?
小屋横から悪ガキが顔を出した。
中高生かな?
手にスイカ!
オレが食べるはずだったスイカ!
オレのスイカ!
小屋の中は確かに暑いよな。
ズカズカと歩み寄る。
「お前らぁ、そのスイカどうしたぁあ?」
キョトンとしながら、ムシャっと食べてるヤツもいた。
その奥で、あり得ない事をしてるヤツがいた。
足元に破裂したスイカ。
ビールケースの上に立って、頭上高く掲げたスイカ。
「おい、やめろ。そのすいかをそっと降ろせ」
「オッサンの指図は受けねぇよ!」
ブンッと手を振り下ろす。
グシャっと潰れた。
カチンと来た。
いや、プツンか?
そっから先はよく覚えてない。
「これ育てるのにどんだけの手が掛かってるのか分かってんのかぁぁぁあああーーー!」
首根っこ捕まえて、ビールケースから引き摺り下ろして、スイカの残骸に顔を押し付けた。
「スイカも頑張って育ってんだよ。ちゃんと食べてやんねぇと成仏出来ねぇだろう! お前ら、食いもん粗末にすんじゃねぇ! 食え! 責任持って、食え! 食べ物粗末にすんじゃねぇ! バチ当たって目潰れっぞ!」
はい、殴られました。
ボッコボコのコンボで殴られ蹴られました。
言葉が響くんならこんな事してないよねぇ……。
受け身も取れずに倒れた。
チカが悪ガキ殴って、柔道の模範演技みたいにバッタバッタと伸していってた。
その様子を痛む腹押さえて、ぼんやり見てた。
かっこいいな、チカ。
駐在さんの笛が鳴り響く。
近くを通りかかった軽トラが止まる。
おじさんが、なんだなんだ?と降りてきた。
伸びてる悪ガキとオレ、チカを順繰り見てる。
おじさんと駐在さんとチカとで、軽トラの荷台に伸びた悪ガキを積んでる。駐在所に向かうらしい。
オレ、蹲って見てるだけ…。
ついでに無事だったスイカをハナ婆ちゃん達に届けて貰える事になった。
オレは診療所に行けって言われた。
で、チカに背負われてやってきて、若先生に診て貰ってます。
爺ちゃんなのに、若先生…。
ーーーーーオレ役立たず。ぐすん。
「チカ、ごめんな」
「俺こそごめん。サブやれるのかと思って……」
ですよねぇ~。あの流れだと喧嘩慣れしてるのかと思うよねぇ。。。
「あはは…、なんか出来る気がしてた」
「馬鹿サブ」
「馬鹿だわ」
「頭は元からか。……全治1週間って感じかな。君は丈夫だね」
カルテ書きながら、若先生が妙な言い回しをしてる。
もう立てる感じなので、ゆっくり歩いて帰る事にした。
チカは背負って帰る気だったみたいだが、辞退。だって、オレ役立たずだもん。。。
功労者に負担をかけられん。
すっかり昼。
炎天下をぷらぷら。あっちー。
カーポートに自転車が帰ってた。
どうやら駐在さんがしてくれたようだ。
留守電に入ってた。
折り返し電話して、怪我の報告と自転車のお礼をした。
疲れた……。
泥だらけの服を着替えて、昼飯食ったら、眠くなってきた。
扇風機の風を感じながら、畳の上でゴロゴロしてたら寝てた。
頭に二つ折りの座布団。
腹にタオルが掛かってた。
ヒグラシが鳴いてる。
蚊取り線香の香り。
風鈴が鳴ってる…。
台所で音がする。
オレ、チカに頼りっきり。
チカが居なかったら、ダメダメじゃん。
居ても居なくても、ダメダメな気はするけどさ。
チカって、凄いヤツなのに、オレ役立たずで、足引っ張る存在になるかも……な。
「サブ、起きたか。ハナさんがスイカ持ってきてくれた。冷やしてるぞ」
テキパキ片付けて、座卓を拭いてる。
夕飯はここで食べるのか。
野菜たっぷりのカレーが用意された。
「チカぁ、オレ役立たずじゃん。……このままでいいのかなぁ。オレって、チカの恋人失格じゃん。友達に戻った方がいいのかなぁ?」
カレー突きながら、真面目な話をしてる。
この時点でダメダメだね。
「サブ…、俺の事、恋人って思ってくれてたのか?」
スプーンが止まってる。
「えっ、違うの? オレら付き合ってるのかと思ってた」
パクッとでっかく一口。モグモグ。
チカ、料理も上手いのな。
「俺……セフレでもいいと思ってた。ーーー好きって言って貰ってないし。声は好きって言われたけど……」
「あー、そういえば、そうか。ーーーーん?」
今度はオレの手が止まる。
「チカぁ、オレら、好きって言ってねぇな」
チカの視線が右に左に、顎に手を当てて考えてる。
「だな……」
「「好きだ」」
同時に告白した。
大爆笑!
「チカ、役立たずでもいいか?」
「そういうサブが好きなんだよ。役立たずじゃないからな。ソコだけは訂正するからな」
なんかスッキリしたら、腹が減った。
「おかわり!」
スイカ食べながら、花火で遊んだ。
夏が終わるけど、オレ達は恋人として続く事が決定した。
やっぱり、長い付き合いになりそうだ。
チカを見てたら、近寄ってきた。
「花火しないのか?」
「チカに見惚れてた」
「見られてたなーーーほら」
線香花火を渡される。
もうお終いらしい。
並んで、チリチリと弾ける火花を眺める。
「ここの生活も終わりだな…。チカがいて良かった。ひとりだったら、どうなってたか…」
「サブは、たぶんひとりでも大丈夫だったと思う。そう考えると、俺がサブの邪魔してるかもしれないな……」
チカが花火をじっと見てる。
もう弾ける玉は落ちたのに……。
「チカ…」
オレの声に、寂しそうにこっちを見遣った。
唇を重ねてた。
「ありがとう。チカがいてくれて良かった。これからも居てくれよ?ーーーー嫌って言っても、オレが離さねぇけどな」
はにかんでる。
可愛いヤツめ!
オレより大きいけど、逞しい身体してるけど、可愛くって仕方ねぇぞ!
思いっきり、噛み付くようにキスした。
その夜は燃えました。
恋人宣言の初夜ですからね。
チカがオレの怪我を気にしてたけど、流されちゃいました。
流されなさい。
オレが可愛がってやるからよ!
ーーーーーー
これで企画参加の本編は終わり。
次は、後日談が続きます。
お付き合いいただければ嬉しいです。
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