とんでもねぇな!

アキノナツ

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とんでもねぇな! ※

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『Twitter企画「#現世転生BL」』参加作品。
よろしくお願いします。
作品の都合上、事故や死の表現があります。

================


生まれ変わったら、オレの恋人はめっちゃ年上のおっさんだった。

大学入学。これからルームシェアという名目で同棲を始めるって事でウキウキの中、オレは交通事故で呆気なく死んだ。

神様も不憫に思ったのか。即行生まれ変わった。
とは言え、赤ん坊の時にこの記憶、前世の記憶というのを持っていた訳ではなかった。
あったら、神童的な人生だっただろうが、ついこの間思い出したので、その特典は得られなかった訳。

今、こんなに軽く過去を振り返ったりしてるが、思い出した時は頭がどっか持ってかれるかって程に痛んで倒れ、寝込んでしまった。
とんでもない事になってしまった。なってるのか。元々こうだったのか?
ハァ、とんでもねぇな!
頭の中を組み替えられてる気分だったよ。
実際組み替えが行われていたのかも知れない。熱が出たもんな。

今まで生きていた自分ともう一人の自分。どちらも自分でこれの折り合いをつけるのに、これまた混乱の極みで……。

編入学早々に学校を休んでしまったのだが、周りは疲れたのだろうと生暖かく見守ってくれたので、頭を整理する時間はあった。



「あらっ。ネクタイ結ぶの上達早いわねぇ~」
朝ごはんの支度と弁当の準備をしてる母が、のんびりした口調で話しかけてくる。
平常運転。

何だろう……ちょっと距離を感じる。これは、自分の問題だなと反省しながら食卓につく。

「いただきます。練習したからね」
「うふふ…無理は禁物よ?」
「うん。大丈夫」
なるべく今世の自分に近づける。

おでこに手。
「…熱はないか。調子悪かったら帰っておいでよ?」
「大丈夫だって」
高3で編入だ。気合いを入れねば……。

こっちに引っ越して来て、なんとなくノスタルジーというか兎に角懐かしく思っていた。

記憶を思い出した今は分かる。
ここは前世の自分が住んでた町だ。
父の席に置いてある新聞を確認する。
うん。20年前に俺の前世は終わってる。前世で関わりのあった人たちもまだ生きてるだろう。
ハァ、この制服も3年間着倒した高校のだ。
母校にもう1年通う事になるとは。
微妙なモデルチェンジはあったようだが、ブレザーにネクタイは変更なし。

詰襟の制服からネクタイの制服に変更になって四苦八苦したのは、つい先日のみ。
確かに変に思われるか……。

前に住んでた家に行ってみようか……。
辞めておこう。
行ってみたところで、どうなる訳でもない。

ため息が出そうになるのを味噌汁を冷ます息に変え、汁と一緒に飲み込む。

それに一番会いたいと思うだろう人間にはもう会っている。
出会ってしまった事で倒れた訳なんだが。

アイツ、渋くなりやがって……。

オレは前世とは、雰囲気変わっちまった。
前世は、小柄で可愛い感じで線も細かった。
で、今世、ガッチリな長身モデル体型。スポーツもそこそこ出来て、そこそこモテる。

今の今まで女の子が好きだと思ってたが、前世が混ざったからか…否、以前から違和感はあったから、多分、オレは元からゲイなんだろう。

制服も着られてる感じから着ている感じで、似合ってると言えるだろう。

あの日、オレはアイツの部屋のベッドで愛を確かめ合った後、小声で囁きあっていた。
「もうすぐこんなコソコソとする事なく、いつも一緒に居れる」
囁かれ、啄むようなキスにオレはメロメロで、頷くしか出来なかった。

もうすぐ彼の家族が帰ってくる。
オレたちがこういう関係だというのは秘密だ。
エンジン音が近づいてくる。
門扉が開く音を聞きながら、身支度を整える。
もう慣れたが、虚しくも感じる。

「お邪魔しましたぁ~」
玄関が静かになった頃合いに、階下に降りて、外に出る。

進学のワクワクと同棲のスタートにドキドキが止まらなく、オレは確実に浮かれていた。

真新しいヘルメットを被り、スクーターの跨る。お尻の座りを調整。さっきまで彼を受け入れていたのだから、ちょっとの刺激でもビクビクと身体が揺れそうになるし、変な声が出ちゃう…。
服に擦れる胸の尖りも、擦れて腰が重くなって……帰らなくっちゃ。

中古のスクーターだが、きちんとメンテナンスしてる。主に兄が自分のをする序でにやってくれてるが、オレだってみてるから、エンジンも一発でかかる。

向こうに持って行くか、新しいのを買うか…悩んでるところである。運転に慣れたら、新品を買おうと思ってた…。

そんな事を考えてたから、スクーターが臍を曲げて事故ったのだろうか……。

オレはガードレールを乗り越えて崖下に転落して死んだ。
彼の家は小高い丘の上。下って、ちょっとした森のような小山を越えて、オレの町に帰る。
大した距離じゃないが、アップダウンにカーブ……ブレーキの効きが悪くなって……スリップだったのだろうか……よく分からないが、気づいた時には、眼下にスクーターと崖があったのだった。直前スピード上がって……コントロール出来なかったのはなんとなく覚えてる。

冷や汗が滲む。

「ごちそうさま」

洗面所に向かう。入れ違いに父。
「似合うなぁ。丈夫に育ってくれたから油断した。無理するなよ」
頭をガシガシ撫でてくる。
セットする前だからいいけど、困ると思ったら、顔に出てたんだろうか。
すまんすまんと笑いながら、食卓に向かった。

オレは死産寸前だったらしい。
父は身体は大きく丈夫にと神様にお願いしたらこんなに育った、と事ある毎に言っていた。
多分、その子は死んだと思う。今ならそう確信してる。神様が慌てて、この身体に前世のオレを突っ込んだのだろう。
崖下のオレの身体はどうしようもなかったって事だ。

髪もセットして、身だしなみチェック。
OKと呟いて鏡を後にする。

ここまでデカイのを、保健室まで運んでくれたのは誰だろう。礼を言わねば。



賑やかな教室で静かに文庫本を読んでいた。
転校生に構う年でもないのだろう。変に絡んでくる事もない。
中には「もう大丈夫なのか?」と気遣ってくれるヤツもいるが。
前世今世のミックスのオレを不思議に思うヤツもいない真っさらな状態に感謝した。

生き直しにしては、この人物はどうしたものだろう。

教壇の男を見つめる。
威嚇してる訳ではないので、適度に視線は外すが、気づくと目で追っている。

スタイルは変わってない。長身で筋肉質。そして年齢を重ねた事で適度に丸味が出て、それはそれで何というか……唆る?
いやいやいやぁ~。ダメでしょ。左手の薬指のアレ、既婚者ですってヤツじゃん。
結婚してやがるよ。

責められんよ。
うん。幸せになってくれて嬉しいよ。
オレが居なくなって寂しかったんだよね。
ゲイのおっさんがどんなヤツと一緒かは気になるよね? オレの知ってるヤツなのかとかさ。
ーーーー女だったりするのかとかさぁ。



「ところで、倒れたオレ運んでくれたの誰?」
昼休み。近くのヤツと机を寄せ合って弁当食いながら、駄弁る。
「なんで?」
焼きそばパンを頬張る前の席の『やなんとか』てのが、不思議そうに訊いてくる。

「お礼言いたいからさ。重かっただろうし」
卵焼きを頬張る。

「先生と俺」
お前だったのか。前の席だしな、当たり前か。
あー、二人かぁ。ひとりじゃ無理でしたか。
「ありがとうな。今度なんか奢るわ」
ブンブン手を振られた。

「ええって。あっ、先生にはちゃんとお礼言っといた方がいいかも。腰やり掛けてさ…くふふふ…傑作でさぁ~」

えっ、腰?

「お前ら自習だってかっこよく言って抱えたのよぉ~」
立ち上がった。再現してくれるらしい。

大丈夫か?と叩いたりしてる仕草。抱え上げる予備動作。そして、さっき言ってたセリフを渋い声音で真似て、グッと持ち上げ、止まった。

「ーーーーや、梁田やなだ、手伝えぇ…腰やる、コレ…」

オレを抱えたらしい格好で固まって、プルプル震えながら訴えてる声も震えてる。
オーバーにしてるんだろうけど、なんだかなぁ。

確かに一見冷たそうな顔つきだもんな。
にこりともしないし。あの頃もあまり笑わない方だった。笑うと可愛いんだよ。エクボがさ。

ドッと周りが笑う。オレも釣られて笑ってしまった。
「そこですかさず俺が手を貸して、二人で持ち直して運んだんよぉ~。面白い物見れたから、奢りなくていいよ」
再び座って、牛乳飲んでる。

耳朶を引っ張りながら、このクラスでやってけると思った。
「そうだ。飴食べる? コレでチャラ」

「ええよぉ。お前借りとか作りたくないタイプ?」
飴を受け取りながら、探るように見てくる。

「そんな事ないけど、オレって忘れっぽいから、出来る時にしておく」
ニッと笑えば、梁田も笑った。



そんな縁で梁田とは何かと一緒に行動している。割と調子がいいヤツでフットワークが軽い。

先生の情報も教えてくれた。

子供がいるらしい。女と結婚してやがった。子供も作れたのか。バイだったとは。もしかして、オレ遊ばれてとかなかったよな……。

あの関係って……振り返る。

………

「今日放課後来いよ」
肩を抱き寄せられ、囁かれる。
嬉しくなって頷く。

部屋に連れ込まれると、当たり前のように抱き合う。そのままセックスに傾れ込む。

嵐のようなセックスに喘ぎ、声を抑え込むように口で塞がれ、終わる頃には息も絶え絶えで、囁くようなあれこれに頷きで答えるのが精一杯。

で、彼の家族が帰ってくる頃には身動き取れるまでには回復してる。男子高校生の回復力は半端ないのだ。
小さな身体だったけどね。

同棲するって決めてたから、セフレじゃないよな?……何だか自信がなくなってくる。

前世のオレって可哀想な事になってたり?だから、神様急いで生き返してくれた?

ーーーーーもう考えるのはやめよう。

前世は前世。今はこの身体で生きているのだから、ちゃんと生き直そう。
否、生きて行こう。前を向け、オレ!



「もう倒れないでくれよ?」
提出物を渡しに行った。先生が爽やかに言ってくる。
「大丈夫です」
アレから何かとこんな感じで絡んでる。

お礼を言いに行ったら、バツが悪そうに頬を掻いていた。
その癖変わってない。
「もう倒れませんから、大丈夫です」
笑って言ったら、何故か一瞬だが、固まった。
「あ、ああ、気をつけろよ」
誤魔化すように早口に言って、仕事の続きを始め出す。
失礼しますと職員室を出たが、なんか引っかかる。
耳朶を引っ張りつつ、教室に戻った。


進学先が決まった。
前世と同じ大学だが、学部も学科も違う。
オレの頭は今世は優秀だったようだ。
ちょっとだけ前世の記憶が役に立ってたのはプチギフトとして有り難く受け取った。

隣りの家が賑やかだ。
引越しのトラックが来ていた。

中学生ぐらいだろうか。男の子が隅でリフティングしてる。
案の定、父親だろうかに怒鳴られて引っ張られて行った。

その様子を2階の自室の窓から微笑ましく眺めていたが、父親の顔がよく見える角度になった途端、どうしようと狼狽えた。
先生だった…。



挨拶に来て、案の定驚かれた。
担任ではないので自宅を知るはずもないから無理もない。

山元やまもとなんて何処にでもいそうな苗字だしな。

「山元のウチだったのか…」
心底驚いてる先生が可笑しかった。
「教科担任の先生」って親に紹介すれば、どちらが挨拶に来たのかていう程のぺこぺこ合戦になった。

それを中学生にしては体格のいい息子さんとオレは眺めていた。
大学卒業と同時に結婚かな。
陰で見づらいが、奥さんの顔には覚えがあった。陰でいつもアイツを見てた気の弱そうな同級生。
へー、どうやって取り入ったんだろうな…。



帰省する度に、息子さんが彼に似てくる。
高校はオレたちと同じ高校。
それもまずい。同じ制服…錯覚を起こす。

オレにも彼氏らしき人は出来た。
多分「彼氏」でいいと思う。思いたい。
前世の事のモヤモヤで、どうも恋愛に奥手になってしまっていた。

周りにはカミングアウトしたくなくて、探り合いで、少しずつ歩み寄って、やっとゲット出来た相手だ。

「どうだい大学は?」
車を洗ってる先生と立ち話。
もう先生とどうこうなりたいとは思っていないが……嘘です。ムラっとします。あの目眩く嵐のようなセックスを思い出して身体が疼きます。

「楽しいですよ」
ニッコリで平静を装おう。
まただ。先生が一瞬固まる。
何だろう……。

「先生、オレの顔に何かついてます?」
今回は思い切って訊いてみた。
何でもないと言いかけて、今日は気持ちいい風が吹いてて、大学の話で盛り上がったのもあったからだろうか。

「君さ。首傾げながら笑うのって癖?」
ん? そんな事してたか?
そう言えば、前世で、『小首傾げながら笑う君が好き』とか言われてたような。
「それから、耳朶引っ張るのも」

考え事をする時に耳朶を触ってるらしい。
両親にもこっち来てから変な癖がついたねって言われてたなぁ。

「気づきませんでした。癖ですかね。何か?」

「あ、ああ、ーーーー昔の…知り合いに同じ癖があって、何だか……懐かしいなって思っただけさ」

「知り合い?」

「ああ、居なくなってしまってね」

「ーーー生まれ変わりとか? その方が嬉しいですか?」
オレ、ちょっと攻撃的になってしまった。
弱々しく視線を泳がせながら言うのが悪い。

『知り合い』って何さ。
好きな人とかでもいいじゃん。
そういう話できるぐらいにはお近づきになってると思う。

息子くんの家庭教師だってした事あるんだし。酒だって一緒に飲んだりしてるじゃん。
割とオレ、この家族に入り込んでるんじゃないだろうか。

ハッとオレを見た目は、ガラス玉のようだった。何も読めない。

「どうして、君……。そうだな。嬉しいかな。どうかな…」
何かオレに言おうとして、言葉を飲み込んでしまった。
おっさんの彼が更に老け込んだ気がした。

しまった。
オレ死んでるんだよ。辛い事を思い出させるんじゃない。
オレは生きてる彼と話ができる事に嬉しくって、当たり前になって、油断していた。

「生まれ変わりなんて事ないですよ。小説じゃあるまいし」
慌てて否定に入った。嬉しいって気持ちが湧き上がってる。
何だよッ。心躍らしてるんじゃねぇよ、オレッ!

「そうだな…。うん、そうだな…」
ワックス掛けに入り出した。

「あれ? やまにぃ。丁度いいや、勉強みてよ」
息子くん帰宅。
チクショウ! めっちゃ似てきてんじゃんッ。けしからん!

オレが兄呼ばわりされるとはな。前世は兄が居たが、今世はひとりっ子だ。
何だか可愛い。オレがお兄ちゃんかぁ~。

「いいよ」

息子くんの部屋に上がる。

うっかり押し倒したら問題になるのでしないが、まだこの体格差ならイケる気がする。
抱かれてたオレが抱く側になるってのも悪くないかと邪な妄想を巡らせながら、本棚に目を向けていた。

草臥れた雑誌のような本があった。他の本とは異質だ。手に取る。
付箋も貼ってる。熱心に読み込まれた代物だ。
バイク関係の専門書のようだった。

パラパラと見てると、制服から部屋着に着替えた息子くんが、オレの手元を見た。
「それ、父さんの。本棚の隅にあって、もう見てないみたいだから貰ってきちゃった。俺、機械系っていうか、工学部行こうと思うんだ。デザイン関係も良いかなとかも思うんだけど」

彼の子だ。彼は教師じゃなくてエンジニアとかになると思っていた。ただ、彼は電子工学だった。

付箋が貼られてたのはスクーターの構造関連だった。

ーーーーオレって、殺されたって事ないよ、な……?

「そうか…。頑張らないとな」



オレは暗い考えに鬱々としていた。

否定しては疑問が湧き上がって来て、否定する。そんな日々だ。

精神衛生上、頗る悪い。
今を生きると決めたのだ。前を向こう!
と思っても、悪い考えが頭を擡げる。

あの本は、彼のじゃなくて、あの女のじゃないだろうか。アイツがオレのスクーターに細工したとか。
控えめで、柔らかく笑う奥さんの顔が過ぎる。
あり得ないと頭を振る。

馬鹿な事考えてないでと顔を上げた先に見知った顔を見つけた。ここに居るはずがない人。

「先生ー!」
跳ねる気持ちのまま声をかけて、駆け寄っていた。
大学のキャンパスに先生が突っ立っていた。

こちらを見た顔が不安そうな表情から安堵に刷き変わる。

「おぉ、山元」

「どうして、ここに?」

「同窓会というか、恩師が勇退するから、その囲む会に参加するのに来たんだが」
スマホに視線を落とす。

「事前に仲間と会う予定なんだが、ココ何処か分かるか?」

「あー、これ最近出来た学内カフェですよ。案内します」
示されたメッセージのやり取りに、行ってみようかと思っていたカフェが記載されていた。

並んで歩きながら話す。
彼より背が高くなってしまった。
見上げていた前世のオレが……。
肩幅だって同じ感じだよ。
彼の背中はちょっと丸くなって、すっかりおじさんだ。

泊まり掛けで出て来てるようだ。会場にしてるホテルに泊まってるとか。
実行委員のひとりになってしまったとぼやいているが、楽しそうだ。
オレが知らない彼の時間がそこにある。悔しさにそっと唇を噛んだ。

「なんかあったら、メッセージ下さいよ」
連絡先を交換した。
息子くん関連で電話番号は教えていたが、個人的な交換。思わずしてしまった。
個人的な情報に心が躍る。



『山元ぉ~、こっちに来ないかぁ?』
酔っ払いって感じの先生の声が電話の向こうでする。結局電話でした。でも嬉しい。
囲む会も無事済んで、気分が良いらしい。

「いいですよ。すぐ行きます。何処のホテルですか?……」

部屋番号を聞いてメモる。

準備をして出掛けた。



ノックをすれば、ほんのり赤ら顔の先生がにこやかに迎えてくれた。

缶ビールを手土産にやって来たオレだが、ちょっと、否、大分と邪な気持ちで来てしまっていた。

今日の会の話や大学時代の話を肴に、酒が進む。
泥酔でもしてくれたら、食べてしまおうと思っていた。この鬱々とした気持ちをそんな事で発散したくなっていた。
最後に前世の自分にプレゼントしてもいいじゃないか。殺されたのだとしたら、恨み言でも言いながら、絞りとってやろう。
そんななんだかぐちゃぐちゃな事を考えていた。

「先生の知り合いってさ、どんな人? オレに似てるんですか?」
意地悪く話題を振った。

スッと表情が落ちた。
気持ち悪くなる。自業自得なのに。

「実はな。俺が好きだった人なんだ。君は勘がいいのかな。死んだって言ってないのに生まれ変わりなんて、言うんだもんなぁ…」

「いなくなったって……」
ハタと気づいた。確かに居なくなったといっても死んだとはハッキリ言ってない。
オレは聞き返さなかった。亡くなったのですか?とか引っ越しとか?と。

オレは死んでるのを知ってるから、思わず。

「君は…『ユキ』だろ?」
彼の言葉に、キュッと心臓を鷲掴みされた。

咄嗟に言葉が出てこない。
『ユキ』って誰ですか?って言えばいいのに。笑って、何言ってるんですか?って。
なんで、何も、声にならないのか。

「返事がないって事は、合ってるんだ」
先生は、ソファに深く座り直した。

「違い、ますよ。オレはオレです。先生の知り合いじゃない…」
手の中の缶を捏ねる。くるくると回して、自分に落ち着けと言い聞かせる。

「俺は謝らないといけない事がある…」
先生の言葉を聞きたくなかった。

ローテーブルに缶を乱暴に置くと先生に覆い被さった。
言わせたくない。聞きたくない。

唇を合わせていた。
懐かしい感触。ちょっと乾燥してるけど、酒臭いけど、彼だった。
腕の中で暴れて、オレを押し離そうとしている。
ビクともしない。体格差を考えて欲しいものだ。『ユキ』とは違うんだよ。

チュッチュと吸って、舐めて、抉じ開けようと執拗に唇を舐めて、割れ目に舌先を捩じ込む。
抗議の唸り声に前に血が集まるのを感じる。
固くなり出したモノを先生の身体に擦り付けた。

先生のモノも気になる。手を伸ばせば、固くしていた。先生もやる気じゃん。
気を良くして撫でる。

撫でられて、諦めたのか、押していた手が止まり、おずおずと背に手が回って、唇が開いた。嬉しくなって、性急に舌を差し込んで口内を舐め回す。

息苦しい息遣いと卑猥な水音が鼓膜を揺する。
奥で逃げ回ってた舌はいつしか絡まり、昔のように擦り合わせ、しゃぶり合う。

夢中だった。
いつしか上下が変わり、オレは先生の下で喘ぎながら、懸命に先生の唾液を飲んでいた。

ここは狭い。
先生を抱きしめて、持ち上げ、ベッドに運んだ。
押し倒し、首に鎖骨にと唇を触れさせ、舐めながら、シャツのボタンを外す。
先生も自分でベルトを外して脱ぎ出してる。
足でズボンを蹴り脱いだ。
視界が回った。
先生が見下ろしている。

悲しそうな色の中に喜びがちらつくのが見て取れる。
乱暴にオレの服を剥ぎ取っていく。
あの頃の彼がいた。
全てを彼に委ねた。



激しく突かれて、前世の記憶が覚えてるままの彼を感じていた。
前立腺をカリが抉るように刺激しながら肉壁を擦り上げて奥まで突いてくる。

ドツドツと遠慮のない突きに、あられもなく啼き叫んで、オレのナカは彼を抱きしめる。
肉襞が彼を撫で摩る。
悦びに全身が震え、オレの陰茎は涎を垂らすように先走りでヌラヌラと光っていた。

彼は譫言のように『ユキ』と何度も呟く。
ユキは死んだ。死んだんだよ。
オレも喘ぎながら、その都度何度も答えていた。
オレは涙を流していた。
目尻から流れる涙は、耳に入っていく。
舐め取られるのを感じた。

「愛してた。好きだった…」
そんな言葉を耳元で囁き、殺しそうな勢いで突き上げてくる。

「殺したんでしょ? スクーターに、仕掛けしてぇ……」
ぎゅっと彼のモノを締め付け、鬱積してたモノを吐き出した。
ドチュンと奥が開かれる感覚に背が反り返り、ナカが激しく痙攣を起こしてるのを感じる。
声もなくイっていた。
鈴口からとろりと白濁が溢れる。

動きがピタリと止まる。
奥に嵌ったままナカでヒクヒクと彼が動いている。そんな些細な動きもオレを翻弄するには充分で。
イった身体はヒクヒクと快感に反応し、息も絶え絶えで、呂律がおかしい。
「はひぃ、な、何でぇ…。ぬ、抜いちぇてぇ…イっちぇ…」
早く奥に嵌ったモノを抜いて欲しいのに居座って居る。
オレの腰は彼に乗り上げて、腹を突き出し股を限界まで開き、尻を彼に突き出していた。
動けないオレは、彼が動いてもらえなければ、このままに悶えるしかない。

「細工なんてしてない。あのスクーターはリコールがかかっていて…。ユキは生まれ変わってから調べなかったのか?」
なんか言ってるが、耳の中がシュンシュンと自分の血流と心音でいっぱいで、聞き取れない。

グリっと結腸口を擦られ、痺れる快感が脳天を突き抜ける。

「調べなかったのか?」

「調べ? 前世なんて調べたって、うきゅっ…どうにもなんないじゃん! あはぁん、うふぅ……だ、誰もオレだって分かってくれる、訳じゃない。オレは、『ユキ』じゃない。オレなんだぁ、あぁああん…う、あ、あぅぅん…」

悶えて、腰が揺れてしまう。

「そうだな…」

オレだって、事故の事を調べようとはしたが、怖くなって辞めた。前世の家族の事も。
オレが居なくなった事で、死んでしまった事で、何か良くない事になってないだろうかとか色々と考えが浮かんで、怖くなって、調べる事を辞めた。

今を生きよう。今の両親を、家族を大切にしよう。自分を生きようと決心した。

なのに、なのに、先生が悪い。
先生がオレを『ユキ』に引き戻す。

「あの時、帰さなかったら、ゆっくり帰れの一言が言えれば。いや、俺が誘わなかったら、手加減できてたら、、、好き過ぎて抱き潰すような抱き方しか出来なかった自分が憎い…」

今も充分激しく抱かれてます。
おっさんだと見くびっておりました。

奥の奥を痺れさせ、愉悦に腰を揺らし、心が満たされる。

「ユキ、すまなかった。好きだった。これを最後にするから。ユキでいてくれ」

先生が泣いてる。抱き込んでるオレの耳に鼻を啜る音が聞こえる。

自然と先生の頭に手が伸びた。
ゆっくり撫でる。
この時、オレは、完全に『ユキ』になっていたかもしれない。

「『ユキ』とは似ても似つかないオレで良ければ、気が済むまで抱けばいいよ。違うな。抱いて欲しい。抱き潰して…『ユキ』を慰めてやってくれよ。ちゃんとお別れが言いたくて帰って来た『ユキ』を」

そうなんだ。オレは気づいていた。
先生に意地悪がしたかった訳でも襲いたかった訳でもない。
ただただ、ちゃんと、『お別れ』がしたかったのだ。
こんなみんなが生きてる時代に生まれ変わらなければ、こんな気持ちは昇華されてたかもしれないが、目の前に先生が、彼がいる。

前世の記憶を思い出したのは、お別れが言えなかったのが言える環境の出現に『ユキ』が目覚めたのだと思う。

「先生、悔やんでくれてたんだ。ありがとう。もういいから。今日でサヨナラ。ありがとう」
オレを好きでいてくれて、ありがとう。そしてサヨナラ。幸せになって。
前世と今世の融合されたオレ。これがオレ。でも、今は『ユキ』よりの自分。
『ユキ』を昇華させたかった。

それからのセックスは激しく嵐のようでした。
抱き潰されたよ。先生、絶倫ですな…。



「もう少しこうしてていいか?」
朝です。先生に抱き枕されてます。
「別にいいけど。チェックアウト大丈夫なのかよ」
「夜のチェックアウトだから、夜の新幹線で帰る」

そうですかぁ…。反論出来ないね。
スリっと先生の腕を撫でる。オレももう少しこうしていたい。

「あの事故の後、お前の……『ユキ』の兄貴がリコールの記事を見つけて、怒ってた。怒って行動に移してた。製造メーカーやら何やら撒き込んで、リコールの公表の仕方やら何やら変えちまってさ。あ、今、会社役員やってるよ。『ユキ』の家族は元気に前向きに頑張ってる。心配ない」

オレが知りたかった事を教えてくれる。流石先生です。

そっかぁ。兄らしい。
生徒会長とかに立候補したりして、『ユキ』と違ってなんでも積極的で、利発そのものの人だったが、そう来ましたかぁ。

「オレさ。恋人できた。多分彼氏だと思う。遊ばれてはないと思う。コレって浮気になるのかなぁ」
安心して、『ユキ』が落ち着いたのか、急に不安になって来た。
オレなんて事しちゃったんだろう。

顔を隠したってコレがなくなる訳でもないのに、両手で顔を覆ってる。
クッと肩を引き起こされる。こちらを向けという事らしい。

先生の方を向いて顔を見たが、恥ずかしくなって、胸に顔を押し付けた。

「俺の方が浮気だろうな。お互い様かな。
アイツとの事も気になってるんだろ?」

奥さんの馴れ初めを聞かされた。

大学には進学したが、オレとの事を誰にも言えず、ルームシェア予定だった部屋も思い出に縋って解約出来ず、バイトと学業に邁進して身体を壊して休学したのだそうだ。
実家に帰って、気晴らしに行った図書館でバイトをしてる彼女に出会ったのだとか。
ゆっくり喋る彼女に癒されて、彼女は『ユキ』を知ってて、仲が良かった人が死んで辛かったねって言ってくれたのだそうだ。

「俺やっと泣けたんだよ……」

ポツリと呟く彼が彼女を愛してるのが伝わってくる。
あの女呼ばわりして申し訳ない。心の中で謝った。

「『ユキ』は満足だと思う。ありがとう、先生。オレ……オレを生きれそうだよ」

頭を撫でられ、抱きしめられる。
キスはない。先生と生徒、親子のような、そんな抱きしめだった。互いに全裸だけどね。
オレも先生を抱きしめる。

「最後まで、名前は呼んでくれなかったな…」
そのつぶやきは無視した。
その単語はオレがオレでいられなくなる。
オレの自衛です。

これ以上は、本格的には浮気になりそうなので、帰る事にした。

「先生、オレ、こっちで就職する事にしたんだ。今度帰る時は気持ちがキチンと整理出来た時にする。暫くバイバイだね」
シャワーでサッパリして来て、頭を乾かしながらこれからの事を話していた。
昨晩の情事などなかったようだ。

「そっか。息子が寂しがるから早く帰省出来るようにしてくれな」
笑った。エクボが可愛い。

「分かってる。両親の事も心配だし。ひとりっ子なのに、ゲイで、孫の顔を見せてやれないのが、気になるところだけどね」
服をきちんと整えて身支度完了。
耳朶を引っ張りながらポツリ、ポツリと言葉を紡ぐ。

「そこは任せろ。家族ぐるみの付き合いだろ?」
そうですね。

オレはオレで良かった。
先生に笑顔を返す。
多分小首を傾げてる。癖なんてすぐには抜けない。これ込みでオレだ。


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ウブな二人のカウントダウン

アキノナツ
BL
少し大人っぽい剣道男子 × 小柄なのを気にしてる文化部男子 の高校生二人が、両想いになって、エッチにも興味があって、何もかもが初めてで手探りのらぶらぶエッチなお話。 少しずつステップアップするように近づいていく二人の様子を綴っていきます。ゴールはアレがアレにされてドロドロになるまで。その後は後日談で綴っていきます。 二人っきりの勉強会は、キャッキャうふふ…目的がぁ〜。 ウブな二人のじれじれと興味からの暴走をお楽しみ下さい。 R18はタイトルの後ろに※をつけます。 (本編:全23話、後日談:5話←増えるかも)

保育士だっておしっこするもん!

こじらせた処女
BL
 男性保育士さんが漏らしている話。ただただ頭悪い小説です。 保育士の道に進み、とある保育園に勤めている尾北和樹は、新人で戸惑いながらも、やりがいを感じながら仕事をこなしていた。  しかし、男性保育士というものはまだまだ珍しく浸透していない。それでも和樹が通う園にはもう一人、男性保育士がいた。名前は多田木遼、2つ年上。  園児と一緒に用を足すな。ある日の朝礼で受けた注意は、尾北和樹に向けられたものだった。他の女性職員の前で言われて顔を真っ赤にする和樹に、気にしないように、と多田木はいうが、保護者からのクレームだ。信用問題に関わり、同性職員の多田木にも迷惑をかけてしまう、そう思い、その日から3階の隅にある職員トイレを使うようになった。  しかし、尾北は一日中トイレに行かなくても平気な多田木とは違い、3時間に一回行かないと限界を迎えてしまう体質。加えて激務だ。園児と一緒に済ませるから、今までなんとかやってこれたのだ。それからというものの、限界ギリギリで間に合う、なんて危ない状況が何度か見受けられた。    ある日の紅葉が色づく頃、事件は起こる。その日は何かとタイミングが掴めなくて、いつもよりさらに忙しかった。やっとトイレにいける、そう思ったところで、前を押さえた幼児に捕まってしまい…?

孤独な戦い(3)

Phlogiston
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おしっこを我慢する遊びに耽る少年のお話。

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