【完結】運があるのか、ないのか…【時々更新かも】

アキノナツ

文字の大きさ
上 下
40 / 45
捕まえられた後は…

後話8.デートは甘い。(4) 微※

しおりを挟む

 唐突に、「今から行くぞ!」としても良かったが、事前に日時を決めて俺の運転の車で出掛けた。

 ドライブ日和。
 春先のひんやりした風が開けた窓から入ってくる。彼は、髪を抑えながら、外を眺めてる。
 出会ったのも春だったな。

 ーーーーホテル行っていい?

「タツオさん、海が近くなってきたよッ。潮の匂いがするッ」
 澄んだ明るい声と一緒に可愛い笑顔の瑠凪るながこちらを見る。

 ーーーーすいません。水族館に行かせていただきます。

 近くの幼稚園か何かの集団が集まってる。
 カラフルな帽子を被った小さいのがいっぱいだ。平日ならではか。
 小学生とか来そうだな。

 海を背に大きな建物。奥にイルカショーをするエリアがある。
 事前に購入していた電子チケットをゲートで翳して入る。

 何本も並んだ柱のゲートをくぐりと薄暗い空間へと入っていく。
 前方で響めきが起きてる。
 青い光りに柔らかく包まれ、響めきの理由を知った。

 目の前に大水槽があった。大きなウミガメが優雅に横切る。
 横を歩いてた瑠凪が引き寄せられるように前に進んでいく。
 その後ろをついていく。
 これは見応えがある。
 サメも魚も好きに泳いでいる。亀がここのヌシのようだ。否、ヌシだな。

 離れたところにベンチもあって、ここで眺める人も多いのだろう。入ってすぐだから、待ち合わせにも使われてるのだろうか。
 向こうの明るいエリアは土産物の売り場。別の方向のは大きなカウンター。インフォメーションか。

 さて、続々入ってくる客の邪魔になる。順路を目指そうか。瑠凪を促し、進む。
 じっくり見て回る。彼は、スマホで写真を撮ったりしてる。キラキラしてる横顔からなんらかのヒントにはなったように感じる。良かった。

 だが、途中一緒になったガキたちが、わらわらと動いて、踏みつけそうで、こっちがひょいひょい避けてる内に、俺のツレは、ガキたち並みにふわふわと動いて、ガキたちと共に流れて行きそうになった。マジかッ。

 薄暗い中で見失ったら、迷子呼び出しだ。色素の薄い彼はこの空間に溶け込んで消えそうだ。

 手を掴んだ。
 はぐれたら、なにかと面倒だ。
 瑠凪が青い光りの中でも分かるぐらい赤い顔をして、手と俺の顔を往復で見てる。

 あー、初ですね。

 素知らぬ顔で握り直して、手を引いた。

 握り返してくる手が熱く湿ってくる。ここで押し倒したくなる可愛さに、指を絡めて掴んだ。手が湿って濡れて来た。ベッドでの手の感触を思い出す。まぁ…アレコレと…。

 どの水槽も魅力的で誰も周りの人間の事など気にしてない。唯一気になるのは、ベビーカーとちょろちょろ動く小さな生物ぐらいだ。

 誰しも視線は床か水槽しか見ていない。

 俺たちは互いの手の温もりを感じながら、展示を見て回った。クラゲが浮いてる丸窓の水槽はよく見えない。人の流れが淀んでる。小柄な彼は諦め顔で去ろうとする。
 俺は手を離すとケツに腕を回して、スイッと持ち上げた。半ば肩に担ぎ上げるようにしてやる。彼の吐息のような息を感じた。ちゃんと観れたようだ。トントンと肩を叩かれて、『降ろして』と合図してくる。

 耳の側を過ぎる時に、「ありがとう」と囁かれた。

 あー、俺、デートしてるよ。
 こういうのもいいなぁ。
 時計を見れば、いい頃合いだ。イルカショーに促した。

 遅かったか。座れそうな場所は子連れやカップルで埋まっていた。
 仕方なく一番後ろの柵で立ち見。でも、これは良かった。風除けに彼の真後ろでバックからヤるような感じに、柵のバーを掴んで、腕の間に彼を立たせる。身体は密着はさせてないからセーフだろ。

 彼の頭越しにショーを観る。
 遮り物のない視界は、ショーを独り占めしてる気分だ。

 ちょいと覗き見た彼は、こちらを見る事なくイルカショーに釘付けだ。楽しんでいる。身体が揺れる。尻が時より俺にぶつかる。

 ーーーーココで入れていいですか?

「タツオさん、楽しいねッ」
 身体を反らせて、下から俺を見上げて、キラキラした顔を向けて来た。

「ああ」
 出来るだけ平常心で相槌を返す。

 ーーーーごめんなさい。しません。出来ないです。

 純真無垢な空気感の瑠凪が眩しい。

 再入場も出来るというので、外のファミレスで食事をする。食器を横に寄せるとメモ帳に何か書き込んでる。刺激どころじゃなかったようだ。
 その様子を見ながら、食後のコーヒーを啜る。

 昼の明るい光の中にいる事に改めて驚いてる。こんな時間を過ごせるなんて思ってもいなかった。瑠凪は俺に色々と見せてくれ、体験させてくれる。

 水族館と違って、なんとも言えない視線を感じる。援交してる男女みたいか?
 俺から醸し出されてる雰囲気がよろしくないかな。そして、目の前のこの男は俺と一緒なら尚の事、小さく儚く見える。
 どっかから攫って来たようにも見えるかな。

 食器を下げに来たウエイトレスが、微妙な顔つきだ。俺たちの関係性に悩ませているようだ。
 やっぱ、この組み合わせは変か。
 瑠凪は幾つになっても可愛い。

「この後どうする。イルカショー早めに行ったら座れると思うが…」

 キリの良さそうなところで声をかける。

「そうだね…。大水槽が、もう一度観たい。うん、アレが観たいッ」
 暫く視線を動かしてたが、『決まった!』というようにキラキラした目でこちらを見遣って来た。眩しいゼッ!

 伝票を掴むと立ち上がる。

 後ろでバタバタと帰り支度をしてる。
 支払いが終わった頃には、後ろに立っていた。

 店を出るとツイっと手に温もりが、水族館でずっと手を繋いでいたので、そのままの気分だったのだろうか。ただ照れがあるのか指先を掴むような握り方にズレた。グイッと引っ張って、繋ぎ直す。

「行くぞ」
「うん」

 再入場口から入って、大水槽の眺める。
 ベンチが空いてたので、座って観てると、隣で舟を漕いでるのに気づいた。

 朝からハイテンションでここに来て、歩き回って、腹も膨れて、この静かに流れる音楽もいい子守唄だな。
 そろそろ帰るか。

「瑠凪、寝るなら車で寝るか?」
 起きる気配がない。
 耳に唇を近づける。
「ホテル行くか?」

 ビクンと肩が跳ねて起きた。
 信じられないって顔で俺を見てる。
「でっかいぬいぐるみでも買うか?」
 しれっと土産売り場を指差した。

「あ、見に行こう。でも、大きいのは要らないよ」

 スクッと立ち上がって、真っ直ぐ明るい方へ向かっていく。青い光りの中を出た瑠凪の耳が赤い。うなじのつむじを見ながら追いかけた。首もほんのり赤くなってやがる。




しおりを挟む

    読んでくれて、ありがとうございます!

  『お気に入り』登録してもらえたら嬉しいです。
      更に、感想貰えたら嬉しいです!


      ↓ ▼ ↓ ▼ ↓ ▼ ↓ ▼ ↓

▶︎▶︎恥ずかしがり屋さんの匿名メッセージはココ!◀︎◀︎
 (アカウントなしで送れます。スタンプ連打もOK♪)

      ↑ ▲ ↑ ▲ ↑ ▲ ↑ ▲ ↑
感想 2

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

目が覚めたら囲まれてました

るんぱっぱ
BL
燈和(トウワ)は、いつも独りぼっちだった。 燈和の母は愛人で、すでに亡くなっている。愛人の子として虐げられてきた燈和は、ある日家から飛び出し街へ。でも、そこで不良とぶつかりボコボコにされてしまう。 そして、目が覚めると、3人の男が燈和を囲んでいて…話を聞くと、チカという男が燈和を拾ってくれたらしい。 チカに気に入られた燈和は3人と共に行動するようになる。 不思議な3人は、闇医者、若頭、ハッカー、と異色な人達で! 独りぼっちだった燈和が非日常な幸せを勝ち取る話。

ヤクザと捨て子

幕間ささめ
BL
執着溺愛ヤクザ幹部×箱入り義理息子 ヤクザの事務所前に捨てられた子どもを自分好みに育てるヤクザ幹部とそんな保護者に育てられてる箱入り男子のお話。 ヤクザは頭の切れる爽やかな風貌の腹黒紳士。息子は細身の美男子の空回り全力少年。

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

皇帝陛下の精子検査

雲丹はち
BL
弱冠25歳にして帝国全土の統一を果たした若き皇帝マクシミリアン。 しかし彼は政務に追われ、いまだ妃すら迎えられていなかった。 このままでは世継ぎが産まれるかどうかも分からない。 焦れた官僚たちに迫られ、マクシミリアンは世にも屈辱的な『検査』を受けさせられることに――!?

Take On Me

マン太
BL
 親父の借金を返済するため、ヤクザの若頭、岳(たける)の元でハウスキーパーとして働く事になった大和(やまと)。  初めは乗り気でなかったが、持ち前の前向きな性格により、次第に力を発揮していく。  岳とも次第に打ち解ける様になり…。    軽いノリのお話しを目指しています。  ※BLに分類していますが軽めです。  ※他サイトへも掲載しています。

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

処理中です...