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捕まえられた後は…
後話8.デートは甘い。(4) 微※
しおりを挟む唐突に、「今から行くぞ!」としても良かったが、事前に日時を決めて俺の運転の車で出掛けた。
ドライブ日和。
春先のひんやりした風が開けた窓から入ってくる。彼は、髪を抑えながら、外を眺めてる。
出会ったのも春だったな。
ーーーーホテル行っていい?
「タツオさん、海が近くなってきたよッ。潮の匂いがするッ」
澄んだ明るい声と一緒に可愛い笑顔の瑠凪がこちらを見る。
ーーーーすいません。水族館に行かせていただきます。
近くの幼稚園か何かの集団が集まってる。
カラフルな帽子を被った小さいのがいっぱいだ。平日ならではか。
小学生とか来そうだな。
海を背に大きな建物。奥にイルカショーをするエリアがある。
事前に購入していた電子チケットをゲートで翳して入る。
何本も並んだ柱のゲートをくぐりと薄暗い空間へと入っていく。
前方で響めきが起きてる。
青い光りに柔らかく包まれ、響めきの理由を知った。
目の前に大水槽があった。大きなウミガメが優雅に横切る。
横を歩いてた瑠凪が引き寄せられるように前に進んでいく。
その後ろをついていく。
これは見応えがある。
サメも魚も好きに泳いでいる。亀がここのヌシのようだ。否、ヌシだな。
離れたところにベンチもあって、ここで眺める人も多いのだろう。入ってすぐだから、待ち合わせにも使われてるのだろうか。
向こうの明るいエリアは土産物の売り場。別の方向のは大きなカウンター。インフォメーションか。
さて、続々入ってくる客の邪魔になる。順路を目指そうか。瑠凪を促し、進む。
じっくり見て回る。彼は、スマホで写真を撮ったりしてる。キラキラしてる横顔からなんらかのヒントにはなったように感じる。良かった。
だが、途中一緒になったガキたちが、わらわらと動いて、踏みつけそうで、こっちがひょいひょい避けてる内に、俺のツレは、ガキたち並みにふわふわと動いて、ガキたちと共に流れて行きそうになった。マジかッ。
薄暗い中で見失ったら、迷子呼び出しだ。色素の薄い彼はこの空間に溶け込んで消えそうだ。
手を掴んだ。
はぐれたら、なにかと面倒だ。
瑠凪が青い光りの中でも分かるぐらい赤い顔をして、手と俺の顔を往復で見てる。
あー、初ですね。
素知らぬ顔で握り直して、手を引いた。
握り返してくる手が熱く湿ってくる。ここで押し倒したくなる可愛さに、指を絡めて掴んだ。手が湿って濡れて来た。ベッドでの手の感触を思い出す。まぁ…アレコレと…。
どの水槽も魅力的で誰も周りの人間の事など気にしてない。唯一気になるのは、ベビーカーとちょろちょろ動く小さな生物ぐらいだ。
誰しも視線は床か水槽しか見ていない。
俺たちは互いの手の温もりを感じながら、展示を見て回った。クラゲが浮いてる丸窓の水槽はよく見えない。人の流れが淀んでる。小柄な彼は諦め顔で去ろうとする。
俺は手を離すとケツに腕を回して、スイッと持ち上げた。半ば肩に担ぎ上げるようにしてやる。彼の吐息のような息を感じた。ちゃんと観れたようだ。トントンと肩を叩かれて、『降ろして』と合図してくる。
耳の側を過ぎる時に、「ありがとう」と囁かれた。
あー、俺、デートしてるよ。
こういうのもいいなぁ。
時計を見れば、いい頃合いだ。イルカショーに促した。
遅かったか。座れそうな場所は子連れやカップルで埋まっていた。
仕方なく一番後ろの柵で立ち見。でも、これは良かった。風除けに彼の真後ろでバックからヤるような感じに、柵のバーを掴んで、腕の間に彼を立たせる。身体は密着はさせてないからセーフだろ。
彼の頭越しにショーを観る。
遮り物のない視界は、ショーを独り占めしてる気分だ。
ちょいと覗き見た彼は、こちらを見る事なくイルカショーに釘付けだ。楽しんでいる。身体が揺れる。尻が時より俺にぶつかる。
ーーーーココで入れていいですか?
「タツオさん、楽しいねッ」
身体を反らせて、下から俺を見上げて、キラキラした顔を向けて来た。
「ああ」
出来るだけ平常心で相槌を返す。
ーーーーごめんなさい。しません。出来ないです。
純真無垢な空気感の瑠凪が眩しい。
再入場も出来るというので、外のファミレスで食事をする。食器を横に寄せるとメモ帳に何か書き込んでる。刺激どころじゃなかったようだ。
その様子を見ながら、食後のコーヒーを啜る。
昼の明るい光の中にいる事に改めて驚いてる。こんな時間を過ごせるなんて思ってもいなかった。瑠凪は俺に色々と見せてくれ、体験させてくれる。
水族館と違って、なんとも言えない視線を感じる。援交してる男女みたいか?
俺から醸し出されてる雰囲気がよろしくないかな。そして、目の前のこの男は俺と一緒なら尚の事、小さく儚く見える。
どっかから攫って来たようにも見えるかな。
食器を下げに来たウエイトレスが、微妙な顔つきだ。俺たちの関係性に悩ませているようだ。
やっぱ、この組み合わせは変か。
瑠凪は幾つになっても可愛い。
「この後どうする。イルカショー早めに行ったら座れると思うが…」
キリの良さそうなところで声をかける。
「そうだね…。大水槽が、もう一度観たい。うん、アレが観たいッ」
暫く視線を動かしてたが、『決まった!』というようにキラキラした目でこちらを見遣って来た。眩しいゼッ!
伝票を掴むと立ち上がる。
後ろでバタバタと帰り支度をしてる。
支払いが終わった頃には、後ろに立っていた。
店を出るとツイっと手に温もりが、水族館でずっと手を繋いでいたので、そのままの気分だったのだろうか。ただ照れがあるのか指先を掴むような握り方にズレた。グイッと引っ張って、繋ぎ直す。
「行くぞ」
「うん」
再入場口から入って、大水槽の眺める。
ベンチが空いてたので、座って観てると、隣で舟を漕いでるのに気づいた。
朝からハイテンションでここに来て、歩き回って、腹も膨れて、この静かに流れる音楽もいい子守唄だな。
そろそろ帰るか。
「瑠凪、寝るなら車で寝るか?」
起きる気配がない。
耳に唇を近づける。
「ホテル行くか?」
ビクンと肩が跳ねて起きた。
信じられないって顔で俺を見てる。
「でっかいぬいぐるみでも買うか?」
しれっと土産売り場を指差した。
「あ、見に行こう。でも、大きいのは要らないよ」
スクッと立ち上がって、真っ直ぐ明るい方へ向かっていく。青い光りの中を出た瑠凪の耳が赤い。うなじのつむじを見ながら追いかけた。首もほんのり赤くなってやがる。
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