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ピンチに捕まえた人は…
2.食べていいのか。(1)
しおりを挟む「ああ、よろしく…」
電話を切るとポケットにスマホを捩じ込む。
部下に調べを依頼した。
すぐに分かるだろう。あちらさんも似たような商売だろう。
彼、対馬 瑠凪は、俺の部屋に連れて来た。
専門学校生らしい。今は春休みだとか。
丁度良かったかな。時間は自由に使える。
あちらは、休み中に行方不明って事にしたかったのだろう。休み中にあの年頃の人間ひとり消える事はよくあるという事か。
広い部屋のソファの隅で膝を抱えて小さくなってる。
今は顔を伏せているが、目が赤くなっていたな。
ここに来る途中からシクシク泣き通しだ。
トートバッグから箱を取り出す。
ソファの前にあるローテーブルにそっと置く。
風呂が沸いた音がした。
「風呂入ってこい。温まれば気も楽になるだろ」
小さく返事して、ふらっと立ち上がると、音のした方へ向かっていった。
気が小さいのかと思ったら、妙に肝が座ってる。こんなところに連れて来られたのに、ビクついてはいない。
強姦魔と一緒なんだがな。
リビング脇のキッチンに向かう。
20畳はあるLDK。
皿とフォーク出す。
紅茶がいいか…。棚を漁る。
箱を開けると二人で食べるには丁度いいサイズの白いホールケーキがきちんと入っていた。
ナイフを取りに行くとポットの湯が沸いた。
準備が出来たところで、ほこほこになった彼が、俺の部屋着のスエットを着てやって来た。下が白い…な。
「あのぅ、下履いたら引き摺るから…」
折り畳まれたズボンを渡された。
大きめだったから上だけでも十分小さな身体を覆えるが、膝下が丸見えだ。
「短パンか…。あったかな…」
俺が探しに行こうとすると、声が掛かった。
「あ、これで。これで大丈夫です。ありがとうございます」
ま、下着のトランクスが短パンみたいだもんな。と思ったが、トートバッグを持ってバスルームに引き返してる。
ん?
額に手を当てた。
あー、下着も大きかったかぁー。
なんか調子狂うな…。
あのトートには、ケーキのクッションにするように袋が入ってた。着替えでも入ってたか?
という事は、ノーパンだったかぁ…。
あの尻…。
触り心地の良かった尻を部屋の明るいライトの下で見てみたい。
挿れてぇ…。
手ぶらで帰ってきた。
ストンとさっきまで小さくなってた隅っこに座り、小さくなっている。立てた膝はスエットの中。
殻にでも篭っているようだ。
「ケーキどうしたらいい? 俺、こういうのは初めてでさ」
真っ黒な塊に茶色いのが乗っかってる。
ひょこっと顔が上がった。後で冷やしたタオルでも渡してやるか。まだ涙が滲んでるが。
「僕、要らないです。好きに食べて下さい」
鼻声でそう言うと、また俯いてしまった。
そうか…。好きにするかな。
ナイフとカップを一つ持ってキッチンに戻る。
マグカップと冷えたタオルを持って戻った。
タオルを渡すと大人しく目に当ててる。
ローテーブルにミルクで割った紅茶を置く。
電子レンジを使ったから熱い。冷めた頃に勧めるか。
座ってるソファの近くに腰を下ろした。ラグの上で胡座をかく。
そして、フルーツの乗ったホールケーキにフォークを突き立てた。
一度やってみたかったんだよな。ホールケーキってのは、大勢寄った時にある事もあるが、あれは気付けば切り分けられていた。
大きく掬って口に運ぶ。
仄かに甘くて、フルーツの甘味とちょうどいい。
チョコのプレートが乗ってる。
何やら文字があるが、別に関係ないや。
摘むとパリポリと食べた。
「うめーな」
二口目を口に放り込んで呟いた。
これなら全部食べれそうだ。
中にもクリームとフルーツが入ってる。
上に乗ってる緑の葡萄がパリパリと皮ごと食べれるヤツだ。
ケーキって柔らかいものばかりかと思ってたが、こういうアクセントもいいモンだな。
視線に気づいて見遣れば、彼がタオルを片手に俺を見ていた。
「美味しいよ」
サクサク掬って食べていく。
「そんな風に食べている人初めて見た」
ポカンとしてやがる。
生クリームのついた葡萄を摘むと半開きの口に押し込んでやった。
目を白黒させて、食べてる。
「うめーな」
指についたクリームを舐めながら言ってやった。
コクンと頷く。
小さめに掬って口元に持っていってやる。
渋々口が開いて食べた。俺の手に手が添えられてるのが可愛い。
「もうちょっとリキュール控えれば良かった」
「そうか? 俺は好きだ」
もう半分食べた。本当に全部食べてもいいのだろうか…。
「全部食べて」
優しい声が横でした。ソファから降りてきた。斜め前に座った。クッションを膝の上に置いてる。
邪魔だな。
「いいのか」
「食べてるところ見てる」
言われるまま掬って、食べ始める。
じっと見られるのも気恥ずかしい。
嬉しそうだな。
なんでこんな小僧に見つめられて、照れてんだ。俺は若頭だぞ。
「紅茶、ミルクティーにした。甘いぞ」
ハチミツも入れたからな。
「甘いの?」
「ああ、甘い」
あと少しになっちまった。
「ホント、甘い。それに…お酒入ってる?」
マグカップを両手で包むようにしてる。
唇に舌が這っていく。
暫く考えて、訊いてきた。
「ああ、少しブランデー入れた」
「ありがとう。香りがいい感じ」
笑ってる。小首を傾げて笑うのか。可愛いな。
最後のひと掬いを大口開けて食べた。
名残惜しくて、残ってるクリームをフォークで浚ってると、くすくす笑われた。
「美味かったから…」
ちょっと不貞腐れた。
「また作ります。今度はどんなケーキが食べたいですか?」
予約が取れた。
そうだなぁ…。
でも、その前に、食べたいモノが出来た。
腹が満たされたら、次だ。
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