【完結】運があるのか、ないのか…【時々更新かも】

アキノナツ

文字の大きさ
上 下
1 / 45
ピンチに捕まえた人は…

1.甘い香りに誘われて…(1)

しおりを挟む

痴漢表現があります。

===========

やっべ。
無茶苦茶ムラムラする。
俺ってそんなに性欲魔人じゃないんだが、しかもこんな場所で不味いよなぁ。

夕方の満員電車。

香水とデオドラントにコロンに体臭…。つまり人のニオイで充満している。しかもむわぁんと熱気も篭ってる。

『久々に乗ったらこれだよ。あー、あと何駅?』

暫く乗らなかったから、この時間帯が混むのを忘れてた。

朝ならまだここまでニオイが充満しないかもなぁ。草臥れたサラリーマンのおっさんがいっぱいだよ。
ま、俺もおっさんと言えばおっさんなんだけどね。

なんとかこのムラムラを抑えないと良からぬ事をしてしまいそうだよ。
何か気を紛らわそう。
手元のスマホを見るが、広告のアレコレが……ダメだ。ポケットに捩じ込んだ。

ぼーっと窓の外の夕闇に色が変化していく空をぼんやり眺めてると、甘い香りが鼻をくすぐった。

『近いな…』

嫌なニオイの中にいい匂い…。
性欲は食欲にも繋がってるのだろうか。
どっちも『欲』だから、繋がってるかもな…と腹の具合を宥めながら、匂いの発生源を探った。

暇に任せて発生源を探す。
風が僅かに流れてる。こっちからか?
視線を向けると、小柄な茶色い頭が目に飛び込んできた。
『かわいいなぁ』と唐突に思い浮かんだ。

大きめのカーディガンを着てる。髪はショート、マッシュだな。俯いてるから顔はよく分からないが、全体の雰囲気は小動物といった感じか。淡い色で纏まってる服もそう思わせるのかもな。

しかも、トートバッグを胸の前に抱えて、ちょっと震えてるのとかまるでチワワかハムスターじゃないか。
ん? 震えてる?
不意に顔が上がって、小さく周りを見ている。動きがますます小動物。目が離せなくなった。

俺がじっと見てたからだろうか。
こっちを見た時、視線が絡んだ。

濡れた目が怯えてる。
唇が動く。

『!…痴漢か』

手をちょっと伸ばせば容易に届く距離。

揺れを利用しながら近づき、変に密着してるサラリーマン風のおっさんの間に割り込んだ。

「すいません」

ワザとぶつかったのだが小さく謝る。
襟を開けたカラーシャツにジャケット羽織った男がサラリーマンには見えないだろう。
何も文句言わずに会釈で向きを変える。後ろめたさ満載だな。

カーディガンの子をガードする位置で立った。
甘い匂いがした。
発生源はトートバッグの中のようだ。

じっと見てしまった。

「ありがとうございます」

小さい声に視線を上げた。顔じゃなくトートバッグの中を見てたわ。
見上げる顔がちょっと赤くなってる。安心したんだろう。さっきは真っ青だった。
しっかし、全体的に小さいな。
吊り革持ってる俺はまっすぐ立って見下ろしていた。

カーディガンから覗いてる手が小さい。
俺が大きいから余計にだろうが、上から余裕で見下ろせる。
下から見上げるようにこっちを見てる。首が痛いだろう。

「ああ」
こちらも小さく応じた。

返事がなければ不安になるだろうし、下も向けないだろう。

再び甘い香りが気になって、視線を戻していた。

「ケーキです」

視線に気づいたのか、中を確認しながら教えてくれた。

『ケーキか』匂いの正体が分かって、なんとなく落ち着いた。
ムラムラもちょっと落ち着いた。危なかった。さっきのおっさんのような事しそうになるところだったわ。

周りがふわっとした空気になった。
『ああ、電車降りたらケーキ屋かコンビニ行きだな』と思った。それだけ魅力的な香りだった。
この子自体からも甘い香りがする気がする。

俯いた頭を見ていた。柔らかそうな髪だ。
うなじにつむじがある。

電車が止まった。
俯いてた顔がハッと上がり、外を確認して、扉の方へ顔を向けた。
会釈してる。
動く髪から匂いが香った。
甘い香り。

人が流れる。
俺もその流れに乗って降りた。
降りる駅ではなかった。香りに釣られたのかもしれない。

静かに後をつけた。



しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

アルバイトで実験台

夏向りん
BL
給料いいバイトあるよ、と教えてもらったバイト先は大人用玩具実験台だった! ローター、オナホ、フェラ、玩具責め、放置、等々の要素有り

目が覚めたら囲まれてました

るんぱっぱ
BL
燈和(トウワ)は、いつも独りぼっちだった。 燈和の母は愛人で、すでに亡くなっている。愛人の子として虐げられてきた燈和は、ある日家から飛び出し街へ。でも、そこで不良とぶつかりボコボコにされてしまう。 そして、目が覚めると、3人の男が燈和を囲んでいて…話を聞くと、チカという男が燈和を拾ってくれたらしい。 チカに気に入られた燈和は3人と共に行動するようになる。 不思議な3人は、闇医者、若頭、ハッカー、と異色な人達で! 独りぼっちだった燈和が非日常な幸せを勝ち取る話。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

皇帝陛下の精子検査

雲丹はち
BL
弱冠25歳にして帝国全土の統一を果たした若き皇帝マクシミリアン。 しかし彼は政務に追われ、いまだ妃すら迎えられていなかった。 このままでは世継ぎが産まれるかどうかも分からない。 焦れた官僚たちに迫られ、マクシミリアンは世にも屈辱的な『検査』を受けさせられることに――!?

いつかコントローラーを投げ出して

せんぷう
BL
 オメガバース。世界で男女以外に、アルファ・ベータ・オメガと性別が枝分かれした世界で新たにもう一つの性が発見された。  世界的にはレアなオメガ、アルファ以上の神に選別されたと言われる特異種。  バランサー。  アルファ、ベータ、オメガになるかを自らの意思で選択でき、バランサーの状態ならどのようなフェロモンですら影響を受けない、むしろ自身のフェロモンにより周囲を調伏できる最強の性別。  これは、バランサーであることを隠した少年の少し不運で不思議な出会いの物語。  裏社会のトップにして最強のアルファ攻め  ×  最強種バランサーであることをそれとなく隠して生活する兄弟想いな受け ※オメガバース特殊設定、追加性別有り .

処理中です...