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情けは人のためならず

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 朝日があたしとラタトス照らして、目が覚めた。
 よく見ると、壊れた魔道具のガラクタが散乱している。
 ラトタスのポシェタから魔王の鍵を出してもらった。

 鉄の錠前の鍵をガチャガチャと開けようとしていると、下の階からエルフの男の子が上がってきて、目が合った。
 とっさに錠前から手を離す。

「昨夜の物音は、君?どうして屋上に?」

 この男の子を信用できるだろうか。すっかりジューケイに住む人に疑心暗鬼が芽生えている。

 いやだ、いやだ。

「おはよう。昨夜ここに逃げ込んできたの。ニャダスって人に追われて」

「ニャダスは、商業ギルドのギルドマスターだね。おねぇさん、悪いことをしたの?」

 ニャダス、商業ギルドマスターだったんだ。
 それにしても悪い人かもしれないあたしに、悪いことをしたのって聞いてしまう無邪気というか、無防備で不用心な男の子だ。
 あたしもあたしだ。そんな子を疑ってどうする。

「あたしのゴーレムを強奪されそうになって、逃げてきたのよ」

「ゴーレム?その後ろに立ってるロボットのこと?」

 ロボットっじゃなくて、ゴーレムなんだけどな。あんまり違いは分からないけど。

「そうよ」

 なんか納得してくれたみたいだ。

「僕は、グリムゾナ・タッケ。
 ロボットが嫌いなんだ。人を不幸にするから。僕の両親はロボットのせいで死んだんだ」

 ロボットが嫌いなんだ。ラトタスを見て嫌な気持ちにさせてしまったかな。

「そうなのね。あたしはロム・カリンよ。
 あたし、どこか別の場所に避難したほうがいいみたいね」

「せっかくだから僕の部屋で話を聞かせてよ。カリン、街の外から来たんでしょう?」

 大丈夫かな。
 でも、あたしもジューケイのことを知らないと。

「ありがとう。じゃあ、タッケのお言葉に甘えてそうするわ」

 ラトタスは目立つし、ポシェタにしまっておくか。
 ラトタスに手を触れて、ポシェタにしまうことを伝えると、ラトタスが座って停止した。
 それからラトタスをあたしのポシェタに収納した。

「え?カリン、魔法が使えるの?しかも、あんなに大きなロボットを一瞬で、どこかに。。。」

「まぁね」

 あたしは、タッケの部屋について行った。
 部屋といっても、高層ビルの屋上にレゴレで作り足した仮設の部屋だ。
 あたしが驚いているとタッケが説明してくれた。

「エレベーターがあるのはお金持ちが住んでる15階まで。それより上は、レゴレで無理矢理作った格安物件なんだ。狭いけど、どうぞ。散らかってるけど」

 魔道具のガラクタが部屋中に置かれている。
 物がたくさんあるけど、汚くはない。
 キョロキョロしているとタッケが2人掛けのテーブルセットを指差した。

「そこに座ってて。お茶をいれるよ」

 タッケがお花の香りのお茶をいれてくれた。

 タッケの父親は、サザランガ商会のロボット研究所でかつて働いていた。
 サザランガ商会は、研究予算を与えると甘い言葉でタッケの父親を誘った。
 しかし、ロボットリーグで負けると、技術を強奪して、タッケの父親を追い出してしまった。
 サザランガ商会に抗議した父親は、母親と共に自動運転車の誤作動で事故死。
 タッケが言うには、自動運転車を運用しているサザランガ商会が、両親にぶつかるように操作したということだった。
 酷い話だ。
 
 タッケは、魔道具修理の仕事で、機械仕掛けや魔法陣の技師をして生活していたが、サザランガ商会の下請けいじめによって、働いていたお店が3日前に潰れてしまったらしい。

「いつか罰があたればいいんだ。許せない。
 でも、サザランガ商会に対抗するはずの商業ギルドは、ロボットリーグでサザランガ商会に負けっぱなしなんだ」

 悪どいやり方で技術をかき集めているサザランガ商会の強力なロボットに太刀打ちできないってことか。

「この街では、ロボットリーグに優勝すると、街の研究予算が与えられるんだ。2位は、半分も予算をもらえない」

 昨日、ニャダスが強引にラトタスを奪おうとした理由と関係しているのかな。そうだとしても、あんな強引なやり方が許されるわけがない。

「ねぇ、タッケ。その機械仕掛けや魔法陣について、教えてよ。初めて見る物ばかりだし」

 タッケがテーブルの上に、黒い魔石と爪ほどの大きさの中に魔法陣が何種類も書かれているものを持ってきてくれた。

「この街には、雷と風の精霊ゼラリスの加護がかかっているんだ。
 魔石から魔力を流して雷の魔法陣で機械仕掛けを動す仕組みだよ。
 そして、風の魔法陣で風を送って雷の魔法陣を冷やす。
 雷の魔法陣は、使い続けると発熱して、燃え尽きてしまうんだ。
 だから、雷の魔法陣を冷却するのが重要な技術なんだよ」

 んー!分からない。思った以上に複雑だ。

「こんなに小さな魔法陣、初めて見た!すごい技術ね」

「僕の父さんは、雷の魔法陣と風の魔法陣を鉄板の表裏に描くことを発明したんだ。
 今やほとんどのロボットに使われている技術なんだけど、サザランガ商会が権利を奪ってしまって、利益を独占しているんだよ」

 タッケが悔しそうに唇を噛む。

「でも、見て。
 これは僕が独自に改良した魔法陣なんだけど、今使われている魔法陣より半分の大きさで同じ効果を実現できるんだ。
 ロボットリーグの基礎技術部門で、銀賞をもらったんだよ。
 ロボットより小さな魔道具向けの技術なんだけどね」

 もしかしたらすごい技術者なのかな。

「タッケ、すごいね。こんな小さな魔法陣に技術を詰め込んでいるのね」

 それからマツモトやアレイオスの話をして、世界強者決定戦の話もした。

「カリンは、強いんだね。マツモトの代表だなんて。
 しかも、いくつもの都市でお店を成功させているなんて!」

 冒険者ギルドの場所をタッケから聞いた。
 ニャダスが冒険者ギルドで待ち伏せしてそうな予感がするけど、逃げ回るのは性に合わない。
 正面から堂々と立ち向かおう。こちらが後ろめたく思うことなど、何一つないのだから。

「タッケ、ありがとう。ジューケイでも頑張ってみるわ。今から冒険ギルドに行ってみる」

 タッケが立ち上がって、まっすぐあたしの眼を見る。
 こっちの胸が張り裂けそうなほど強い意志を感じる眼。

「色々教えてくれて、ありがとう。
 あ、あの。
 いきなりこんなお願いするのも変かもしれないけど、僕でよかったらぜひカリンのお店で働かせてほしい!」

 まだ会ったばかりなのに?

「え?タッケが?
 どうして?」

 いや、会ってどれだけかなんて関係ない。信用できるかどうかは、眼を見れば、分かる。

「広い世界が見たいんだ。
 この街だけじゃなくて、他の都市のいろいろな人と繋がって、ここだけじゃできないことをやってみたい。
 カリンの生き生きとした目を見て、ワクワクしたんだ。
 毎日、世界を変えるような発明ができるようにって願っていた。
 そうした、空からカリンが降ってきたんだ。
 願ってるだけじゃ、実現しない。
 父さんが言ってたんだ。
 チャンスが来たら迷わず手を伸ばせって。
 魔道具の修理なら任せてよ。
 他にもなんでもやるから!」

 タッケの足が震えているのがわかる。  
 将来に向けて、精一杯勇気を振り絞っているんだ。

 あたしもこうやって目の前に来たチャンスにドキドキしながら手を伸ばした日があったな。

「ワクワクする気持ち、大切だね。
 分かった。
 タッケなら信頼できる。
 一緒にいいお店にしよう!」

「あ、ありがとう!ジューケイで一番、いや世界で一番のお店にしよう!」

 あたしからタッケに手を伸ばすと、思ったよりも力強くタッケが握手してくれた。

「世界一のお店、いいわね。
 ロム万能薬は、みんなの万能薬になるお店。
 魔道具の修理をするなんて、考えてなかったけど、ジューケイに合わせて考えてみるのもいいかもしれない。
 できるだけ早くお店を作るつもりだけど、ほんの少し待っていて頂戴?
 本当にこれから準備を始めるんだから」

 情けは、人のためならず。因果応報、すべては繋がっている。

「分かった。待ってる。
 お店、成功させよう。
 それに探している仲間や大鵬の情報も見つかるといいね」

 必ずお店を立ち上げて、早くタッケを迎えに行こう。

「ありがとう。タッケ。
 お店、必ず成功させるわ」

 あたしは、タッケと一旦別れて、冒険者ギルドに向かうことにした。

 タッケと出会えてよかった。いい人ばかりでもないけど、悪い人ばかりでもないんだ。
 
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