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憐れみの森と洞窟

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「いやぁぁぁぁ!!!!」

 なんで森ってヌメる触手が出てくるの?
 ポタボタと通り雨のように粘液が降ってくる。
 無数のヌタヌタと怪しく光沢する触手が伸びてくる。

 ジェッカ!
 ジェッカ!
 ジェッカ!

 ラトタスも長剣を振り回して、触手を斬りまくる。
 
 切っても切ってもキリがない。

「ラトタス、後ろは頼んだ!もう触手なんか見たくもない!」

 ジェッカを乱発しながら森の奥に向かって走り出す。

 踏みならされていない森の中は、走りにくい。うねうねと木の根っこが凸凹と自由に伸びていた。
 しかも、木の根っこにびっしりと苔が生えていて、滑る。
 どこもかしこも緑。これは迷うな。
 でも、よく見ると木が焦げた後や、樹木が燃え尽きた炭がある。

 この焼けた跡を辿っていけば、炎犬にたどり着けるはず!

 ブニョ

 ブルンッと滑ってずっこけた。

 なんだなんだ?今度は何?

 ブニョン
 ブニョン

 ブニョン

 何これ透明なゼリーみたいな生き物。気持ち悪い。なんでみんなベトベトしたり、ヌメヌメしてるのかしら。

 多分これが水のスライムね。水のスライムは、ヴィラナで一撃で倒せるとショータが言っていた。草の根がスライムを養分にしてしまうらしい。しかもイメージした魔草を作ることができる。

「ヴィラナ!」

 プシプシュ

 ほらね。イチコロだわ。
 余裕、余裕。へへーーん!キキリにファイ、アインも!
 アインがあれば、アイスクリームを冷やしながら食べることができる。ふふふ。

 ドワラゴンにもらった草舟の草を糸にして編んだローブと改良版の草舟のブーツも調子がいい。

 ヴィラナ!
 ヴィラナ!
 
 ヴィラナ!!!

 よっしゃ!倒した!ヴィラナいいね!魔草も豊作豊作ぅ!

 きゃーーーー!!!!

 ゴボ

 ゴボ

 ゴボ

 いきなり上からズボッとデッカいスライムが降ってきた!

 やばい!
 息ができない。

 すっぽり身体をゼリーに包まれて、暴れても暴れてもダメだ。

 ズボッ!!!!

 いやーーー!!!

 ラトタスがあたしの右足を掴んで巨大スライムからあたしを乱暴に引っこ抜いた!

 その場でしゃがみ込んで、粘液を吐き出す。

 ケボ

 ゲホッ

 うぇぇぇぇ!!!

 スライムが口の中や鼻の中に入った。身体を中ヌメヌメのびしょびしょだ。
 服の中までスライムが入ってきている。

 うわぁぁ。森って最悪!毎回こんなことばかりだ。

「キュール!!!」

 ポムルスをシャリッとかじる。
 これで大丈夫。いつものあたしだ。

 歪な形になって潰れていた巨大スライムがポヨンポヨンしながら球体に戻っていく。

 許さない!お前は!!


 ヴィラナ!!!!

 特別にたくさん魔力を込めて渾身の魔法を放つ。

 ニョキニョキニョキ!!!!
 スバババババ!!

 巨大スライムに無数の葉っぱが生えて、一気に育ってガランの大木になった。ドワラゴンに見せたら喜ぶだろうに。

 とにかく、これでよし!

 お?!

 周りを見ると森のいたるところに焼け焦げた跡があった。

 進むほどに、どんどん焼け跡が増えている。

 これは、近いな。

 焦げた跡を辿って森を進むと狭い洞窟をがあった。

 バウ!

 洞窟の入り口に炎犬が1頭いた。小さな炎犬が洞窟の中に2頭。

 まずい。
 どうやら炎犬には言語がないから、言の葉の首飾りで話すことができない。
 ケルベウスに成長したら話せるのかもしれないけど。

 相手は炎犬だ。
 その気になれば、あたしを焼き尽くせる。

 バウ!

 
 あの炎犬は、後ろの小さな炎犬を守っているのかな。

 あたしとラトタスの姿を見て、炎犬が尻尾を振っている。

 あたしたちのことを覚えているんだ!

 炎犬が身にまとう炎を消して、黒い毛並みの身体になった。
 こうなると普通に黒い大型犬だ。パスカル村にいた時は、火をまとった戦闘時の姿しか見たことがなかった。
 そうか。この姿になると目立たないから、いつもいきなり現れたように思えたんだ。

 どうやら大きめの犬が母親で、2頭の子犬をここで産んだらしい。

 炎犬は、雨が苦手だから、洞窟を見つけて住処にしていたんだろう。

 子犬も洞窟から出てきて、あたしにスリスリしてきた。

 かわいいなぁ。

 まさか、炎犬に懐かれたり、ヨシヨシ頭を撫でるようになるなんて、信じられない。

 幼い頃、パスカル村のダヨダヨ川を渡って、魔獣の森に踏み込んだ日のことを思い出す。

 怖かったよな。炎犬に焼かれて死にそうだった。

 アクアウ様に助けられた時だって、いつでも死と恐怖の化身が炎犬だった。

 何が変わったんだろう。何が変えたんだろう。

 アレイオスの北にある魔獣の森でケルベウスに会った時から、変わった。ラカンがケルベウスに話しかけて、ケルベウスがピッケルを認めたんだ。

 そうだ。ピッケルだ。

 ピッケルが変えたんだ。
 そうだ。
 ピッケルがこうして世界を少しずつ、でも確かに変えている。

 なんだか嬉しい。

 この炎犬は、あたしが守る。3頭の炎犬を連れてプトレマイオスに会い行って、街の外で飼うことを許してもらおう。

 バウ!
 ブルルル!
 キャン!

 あたしは3頭の炎犬を抱きしめる。あったかいっていうか、ちょっと熱いけど、火傷するほどではない。

 よしよし!
 お前たちを仲間に合わせてやるよ。
 あたしも仲間を探しているんだ。
 一緒に探そう。
 大丈夫。きっと見つかる。

 あたしたちには、ピッケルがついているんだから。
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