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アシュリとの文通

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「本当にピッケルなの?無事なの?私は、アシュリよ」

 私は、はやる気持ちを抑えることができずに、挨拶も前置きもすっ飛ばして、大きな紙に言葉を書いた。

 昼だけど、ここは古代博物館。窓のない暗闇の地下遺跡。ファイポの灯火で字を読めるくらいの明るさになっている。

 ルーマンがその文字を読んだ。これで伝わるんだろうか?
 しばらくすると、ルーマンが筆を取って、インクに筆先をつけた。
 ドキドキする。本当にルーマンの向こう、はるか遠くにピッケルが?

 ルーマンの持つ筆の先、描かれる文字のひとつひとつを凝視する。

「アシュリ!嬉しい。アシュリに話したいことがたくさんあるんだ!ピッケルだよ。出発の時は、叱ってくれてありがとう。浅はかな弟子でごめんなさい」

 ピッケルだ。私のピッケルが生きている。よかった。
 遠い異国の地で危険に囲まれていることだろう。
 それでも、今、そこにいる。

「私も素直に褒めてあげれなくてごめんなさい。
 ピッケルがゴサスチ様から授かったゴレゴレムやレゴレは、未来を大きく変えてしまうほど、役に立ってるわ。
 私もそんな魔法を見つけるのが夢よ」

「いつも万能薬になる魔法を見つけるって言ってたもんね」

「そうね。でも、私自身が万能薬になるって決めたの。
人を救うのは、魔法じゃなくて、魔法を使う人だから」

「そうだね。本当にそうだ。出発の日もこんな風に素直に話し合いたかった。アシュリに褒めてもらいたくて、失敗しちゃったな」

「私も頑固だった」

「違うよ。アシュリが叱ってくれたから、今、命があるんだ。
 今もアシュリの教えを大切に、安全を一番に慎重に行動するようにしているよ」

「そう。よかった。本当に」

 涙がサラサラと流れてくる。嬉しいやら心配やら、気持ちがグルグルして大変だ。

 気がつくと夢中で言葉を書いていてた。
 大きな紙が字でほとんど埋め尽くされている。
 ピッケルと言葉を交わすのが楽しくて仕方がない。
 でも、楽しくないことも伝えなくては。

「私もしっかり生きるわ。蛮勇王ガラガラがまた侵攻してくるの。
私も戦うことになる」

「え?アシュリが?戦争に?」

「そうね。人と人の殺し合い。
どうして、人はこんなに死を求めるのかしら」

「北の魔獣の森に炎犬の王、ケルベウスが住んでいるんだ。
 力を貸してもらえるかもしれない。
 ケルベウスが威嚇をするだけで、無駄に人間同士殺し合わずに、蛮勇王ガラガラを退けれるかもしれない」

「どういうこと?
 炎犬が力を貸してくれる?
 魔獣が人に協力するなんて聞いたことがないわ」

「炎犬はね、魔王の飼い犬だったんだ。
 魔獣と会話できるラカンが話を通して、ケルベウスが僕らに力を貸してくれたんだ。
 今も、ケルベウスは味方をしてくれるかもしれない」

「確かに、炎犬を見かけたけど、攻撃されなかったって話が数日前話題になっていたわ」

「可能性があるかも。
 地下に僕の作った砂のミニゴーレムがあるはず。
 ミニゴーレムを連れて、北の魔獣の森に行ってみたら?」

「うまくケルベウスに会えたとして、どうやってケルベウスに事情を話すのよ」

「分からない」

 あははは。分からない、か。それはそうだ。でも、1人でも死ぬ人が少なくなるなら、考える価値がある。

「エタンとゾゾ長老に相談してみるよ。もしかしたらいい考えに繋がるかも」

「アシュリ、無理しないで」

「あら、私はピッケルより随分安全なところにいるのよ。ピッケルこそ、無理しないで。
 私は無事にピッケルに会いたいわ」

「僕もアシュリに会いたいよ」

 なんだかドキドキする。

「私も早く会いたい」

 どうして出発の日にこんな会話ができなかったんだろう。

 古文書で読んだ歌を思い出す。

君が去ってから
声は、風に散りさった。悲しみが枯れた木を濡らせ
どうして君と踊れないの
涙は、海を目指し、地を這い、闇に沈むよ

 この歌には続きがあったはずだ。再会を喜ぶ歌詞が。

 きっとこれは愛の歌なんだ。

 旋律や舞が失われて、歌詞だけが伝わっていた古代の歌。リノスでは、旋律が受け継がれているらしい。
 いつかピッケルと歌に合わせて踊りたいな。

 そうだ。私はピッケルを愛おしく思っている。その気持ちに素直になれるかどうかは、まだわからないけど。

「おやすみなさい。また明日」

「また明日ね。おやすみなさい」
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