上 下
80 / 115

ピッケルへの依頼

しおりを挟む
「ダメだな。やっぱりこの店は、すぐに潰れる」
 
 便利屋ブースに座って草木の魔法の古文書を読み返していると、
 頑固そうな気難しい顔の猫耳族の老紳士がやってきた。そして、いきなりひどい言葉を投げかけてきた。

 なんなんだ。失礼な人だ。素人ながら頑張っているのに。何様なんだろう。
 確かに、今日も1人もお客さんが来ていないけど。

 ニーチェが慌てて走ってやってきた、

「ピッケル、ちゃんと挨拶しなよ!商業ギルドマスター、ゴーヨンよ」

「おぉ、ニーチェか。相変わらず元気だな。
 プチンに用事があってな。ついでに便利屋とかいうのを見にきたが、ひどいもんだ。
 子供のおままごとでも、もっとマシなものもあるくらいだ。
 便利屋のピッケルよ。この店はなんだ?」

 ゴーヨン!この人が。

「なんだと言われても。。。」

「この店の未来像が見えないな。考えてないんだろう。
 それにギルドにこんなにたくさんの往来があるのに、誰もこの店が何の店かも分からないし、少なくともまだ誰も求めていない。
 毒にも薬にもならない。
 だから、誰も来ない。
 そして、お前は、暇を持て余して、何もしていない。
 客引きさえしないで、本を読んでいる。
 まるで、価値が分からない目の前の人を見下して馬鹿にしているようだ。
 目の前の人の価値がわかっていないのが自分の方だとも気づかずに」

 心を折ってくるな。でも、何も言い返せない。

「未来像。。。確かにそんな大それたものは、今ないけど、自分にできることを1人ずつ伝えていけたらと思って。。。」

 ゴーヨンが僕に諭すように語りかける。そうか、この人は、僕に教えてくれようとしているんだ。お店をやるということを。

「それで?
 お前はどうなりたい?
 何を伝えたい?
 この店があるとリノスにどんないいことがある?
 お前が世界から求められているものは何だ?
 勘違いするなよ、ピッケル。
 お前の提供できることは、金の卵だ。
 だが、ピッケル自身が何も分かっていないな。
 このままじゃ、店もお前もダメだ。
 心と眼を開いて、目の前にあることを一つ一つ丁寧に考えるんだ」

「確かに、この店はできたばかりでダメなところばかりかもしれないけど。少しずつよくしていくよ」

「はぁ。なにも伝わっていないな。
 上手くいってから未来像を練るようでは、そもそも上手くいかないぞ。
 まぁ、言葉で伝えるより、まずはその身で思い知るがいい。
 何よりも大切なのは、続けることだ。じゃあな」
 
 ゴーヨンがギルドの2階に向かって行ってしまった。

 厳しい。でも、いつかゴーヨンに認められるようなお店を作ろう。

 ニーチェが,心配そうに僕を慰める。

「ピッケル、大丈夫?ゴーヨンにボロッカスに厳しいこと言われてたわね」

「ニーチェ、ありがとう。でも、言われたことを助言にしてお店をよくしていくよ」

「そうね。プチンも冒険者ギルドをリノスで始めた時、ゴーヨンにボロッカスに言われたって言ってたわ。
 それから世界で2番目に大きな冒険者ギルドになったの。
 ゴーヨンが組織運営の先生なのよ。そうは言っても、厳しい人よね」

 そうだったのか。
 
「僕もお店を大きくできるように、頑張るよ」

「その勢いが大切よ。
 そうだ、ピッケル。鬼殺しのダンジョンの新しい入り口の開け方を知ってるって言ってたわよね?」

「う、うん」

「情報の価値が上がったわ。最初は、B級の情報だったのに、今はA級になったの。
 結局、誰も開けられなかったのよ。A級の冒険者でも。
 情報提供の依頼がしたいから、昼過ぎに部屋に来て欲しいってプチンが言ってたわ」

 結界の解き方の情報がついにA級に。それもそうだろう。あそこを開けるには、絵図の謎解きもそうだけど、ゴレゴレムか、岩を動かしてパズルを解く怪力が必要だ。

 中には何があるんだろう?
 前人未到のダンジョンなんて、危険だけど、ワクワクする。
 他の冒険者もそうなんだろう。みんなこぞって新しい入り口を開けることに挑戦した。
 そして、開けられなかったんだ。

「報酬とかあるのかな」

「もっちろんよ!A級の情報なんて、滅多に手に入らないのよ?
 1000万パルから5000万パルが相場ね。それ以上だとS級になるわ。
 今回の情報は、プチンが仕切って先遣隊としてパーティを編成するらしいから、少なくとも3000万パルくらいになると思うわ」

 おお!それだけあれば開業資金になるな。

「すごいな。僕、開けるよ。すぐできるから」

「ええ?!ピッケルが開けるってこと?強力な古代の結界が張ってあるって話よ?」

「できるんだ」

「すごいわね。だったら、結界解除の手数料も入るわ。
 ピッケルの等級も上がりそうね」

 それはやるしかない。

 確かにゴーヨンに言われたことの何一つ分かっていないかもしれない。
 でも、一つずつ目の前に来たことに真剣に取り組むしかない。

 求められたことをする。

 きっとその中に前に進むヒントがあるはずだ。

 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

性奴隷を飼ったのに

お小遣い月3万
ファンタジー
10年前に俺は日本から異世界に転移して来た。 異世界に転移して来たばかりの頃、辿り着いた冒険者ギルドで勇者認定されて、魔王を討伐したら家族の元に帰れるのかな、っと思って必死になって魔王を討伐したけど、日本には帰れなかった。 異世界に来てから10年の月日が流れてしまった。俺は魔王討伐の報酬として特別公爵になっていた。ちなみに領地も貰っている。 自分の領地では奴隷は禁止していた。 奴隷を売買している商人がいるというタレコミがあって、俺は出向いた。 そして1人の奴隷少女と出会った。 彼女は、お風呂にも入れられていなくて、道路に落ちている軍手のように汚かった。 彼女は幼いエルフだった。 それに魔力が使えないように処理されていた。 そんな彼女を故郷に帰すためにエルフの村へ連れて行った。 でもエルフの村は魔力が使えない少女を引き取ってくれなかった。それどころか魔力が無いエルフは処分する掟になっているらしい。 俺の所有物であるなら彼女は処分しない、と村長が言うから俺はエルフの女の子を飼うことになった。 孤児になった魔力も無いエルフの女の子。年齢は14歳。 エルフの女の子を見捨てるなんて出来なかった。だから、この世界で彼女が生きていけるように育成することに決めた。 ※エルフの少女以外にもヒロインは登場する予定でございます。 ※帰る場所を無くした女の子が、美しくて強い女性に成長する物語です。

スキル運で、運がいい俺を追放したギルドは倒産したけど、俺の庭にダンジョン出来て億稼いでます。~ラッキー~

暁 とと
ファンタジー
スキル運のおかげでドロップ率や宝箱のアイテムに対する運が良く、確率の低いアイテムをドロップしたり、激レアな武器を宝箱から出したりすることが出来る佐藤はギルドを辞めさられた。  しかし、佐藤の庭にダンジョンが出来たので億を稼ぐことが出来ます。 もう、戻ってきてと言われても無駄です。こっちは、億稼いでいるので。

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

残念ながら主人公はゲスでした。~異世界転移したら空気を操る魔法を得て世界最強に。好き放題に無双する俺を誰も止められない!~

日和崎よしな
ファンタジー
―あらすじ― 異世界に転移したゲス・エストは精霊と契約して空気操作の魔法を獲得する。 強力な魔法を得たが、彼の真の強さは的確な洞察力や魔法の応用力といった優れた頭脳にあった。 ゲス・エストは最強の存在を目指し、しがらみのない異世界で容赦なく暴れまくる! ―作品について― 完結しました。 全302話(プロローグ、エピローグ含む),約100万字。

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
ファンタジー
HOT 1位!ファンタジー 3位! ありがとうございます!  父親が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 その他、多数投稿しています! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

処理中です...