上 下
96 / 115

山を越えてジューケイへ

しおりを挟む

 春の夕闇の中、ラトタスの背に乗ってジューケイを目指して飛んでいく。

 あたしは、優勝者として世界強者決定戦のマツモト代表になった。
 本戦が行われるチェンマイまでは、陸続きの道なき道を徒歩で半年以上かかる。5ヶ月後に行われる本戦には、間に合わない。
 でも、大丈夫。一日30分飛行できる飛行形態のラトタスに乗っていけば、2ヶ月ほどで到着できる。
 何度も野営して、ラトタスを休ませながら進むことになるけど。
 この1ヶ月、レゴレのコテージで野営して、チェンマイへの中継地点の街、ジューケイに向かっている。
 せっかくだからジューケイに2、3ヶ月滞在しようかと思っている。
 ジューケイの周りにはダンジョンもあるし、なによりジューケイの近くの山奥で巨大な鳥を見たという情報があったからだ。
 
 長期間ロム万能薬マツモト店を不在にすることができるのには、理由がある。 
 店番をゴルゴダビッシュ改めゴルちゃんに任せてきたからだ。

 ゴルちゃんが日常生活では、身体を小さく変えれたことにまず驚いた。とは言っても2メートルの長身に屈強な身体では、充分巨人と言える大きさではある。

 しかも、銭勘定が得意なこと、更に意外なことに接客がめちゃくちゃ上手だった。しかも、ベテランの境地に入ったプロの域だ。手先も器用だし、手際もいい。

 理不尽なクレーターをファンに変えてしまう対応から親の名前も分からない迷子の子供、王族や有力者への対応、年間の売上計画や季節に合わせてのイベント企画など、ゴルちゃんから学ぶことが多い。

 武芸者と言えど、生計を立てるために飲食店や接客業で働く技術も磨いてきたのだとか。この努力と研鑽の積み重ねには、恐れ入るばかりだ。

 逆三角形のムキムキの大きな身体にロム万能薬のピンクのフリフリ付きのエプロンが妙に馴染むから不思議だ。
 ゴルちゃんに任せておけば、店は、大丈夫だろう。
 クリムトとも筋肉を鍛えるもの同士の不思議な共感があるらしく、いきなり仲がいい様子だった。

 そうそう。
 マツモトの予選は、大変だった。
 特にターニュの2回戦は、対戦相手が暴走して、闘技場が無茶苦茶になる非常事態だったらしい。
 結局、試合は無効になって、ターニュも失格になってしまった。
 もやもやする結果だけど、2人が無事でよかったと、あたしは思う。

 翌日の決勝戦を1日延期して、闘技場を修復することになったそうだ。屋根が半壊した闘技場を一日で試合を観覧可能なほど修復できるのがレゴレの凄さだ。

 リノス予選の優勝は、S級魔法使いのミピシト。最強の魔法使いとしても名高いエルフ。
 決勝戦は、一瞬で勝敗が決まってしまった。

 ミピシトの対戦相手は、もちろんS級の冒険者で、確か剣士だった。
 しかし、開始のドラが鳴った直後、気がつくと舞台の外に転移させられて、場外棄権となってしまった。

 ほとんど記憶に残らないほど、あっけない決勝戦だったらしい。
 開始のドラと終了のドラの計4回がほとんど連続して鳴らされたという。

 おそらくミピシトは、S級どころか、何級も更に上の実力なのだろう。
 水晶玉の設計を改良して、SS級、SSS級まで判定できるようにする計画があるらしい。

 さて、すっかり暗くなってしまったけど、もうすぐジューケイの街が見えてくるはずだ。
 今回、ジューケイ滞在の目的は数多くある。

・ラカン、ガンダル、ヤードルの情報集め
・巨大な鳥の情報集め
・ロム万能薬ジューケイ支店の立ち上げ
・ダンジョンの新しい入り口の発見
・ジューケイ代表の孫雷に会うこと

 大きく分けるとこの5つだ。
 これには、ジューケイの特産品や美味しいものの発掘ももちろん含まれている。
 ジューケイにはゴルゴダビッシュの弟子ピーロンという巨人の男の子がいるらしい。
 ショータにジューケイの冒険者ギルドマスターへの紹介状も書いてもらった。

 マツモトには商業ギルドがない。ピーちゃんが直接決まり事を作っているからだ。
 でも、ピッケルに頼んでゴーヨンに商業ギルドマスターへの紹介状も書いてもらったから、きっとうまくいくはずだ。

 やること盛りだくさん、ワクワクどきどきのジューケイだ。

 山を越えると暗闇の中に魔法の光で輝く街並みが見えてきた。
 あれがジューケイか。
 思ったよりも大きな街だ。それに、なんて明るさ。
 街全体にピンクや青や緑の光の魔法が散りばめられて、上空の雲まで照らしている。

 何万年も前、人類が栄えた都市が滅亡して、廃墟が荒廃してほとんど更地になった跡地に新たに造られた亜人の街。
 マツモトもそうだったけど、古代の建材や素材を散りばめて、魔法で作った街並み。

 ジューケイでは、味にうるさい猫耳族が作り出した、料理が有名だ。かつて人類が栽培していた唐辛子と花椒というスパイスは、猫耳族の好みに合わなかった。
 代わりに生姜、ニラ、八角を使った料理が有名だ。
 八角を好きになれたらジューケイの食は幸せと言われている。
 生姜とニラと鶏肉の冷麺が特におすすめらしい。

 ジューケイは、雷の魔法が主流の街。雷と風の精霊ゼラリスが街中に住み着いているという特異な都市。
 電気という光を作り出したり、物を動かす不思議な力が街中に施されている。
 真夜中でも眠らない街。不夜城として有名だ。

 魔法陣研究の中心地で、より小さな魔法陣で、より少ない魔力で魔法が発動できるように日々研究されている。
 機械仕掛けの魔法の街。

 高い壁で街を守っているところを見ると、周りには強い魔獣がいるんだろう。

 ちょうどラトタスの魔力が切れて、高度が落ちてきた。

 このラトタスの飛ぶ勢いなら充分、街まで飛んでいけるだろう。
 
 


 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

性奴隷を飼ったのに

お小遣い月3万
ファンタジー
10年前に俺は日本から異世界に転移して来た。 異世界に転移して来たばかりの頃、辿り着いた冒険者ギルドで勇者認定されて、魔王を討伐したら家族の元に帰れるのかな、っと思って必死になって魔王を討伐したけど、日本には帰れなかった。 異世界に来てから10年の月日が流れてしまった。俺は魔王討伐の報酬として特別公爵になっていた。ちなみに領地も貰っている。 自分の領地では奴隷は禁止していた。 奴隷を売買している商人がいるというタレコミがあって、俺は出向いた。 そして1人の奴隷少女と出会った。 彼女は、お風呂にも入れられていなくて、道路に落ちている軍手のように汚かった。 彼女は幼いエルフだった。 それに魔力が使えないように処理されていた。 そんな彼女を故郷に帰すためにエルフの村へ連れて行った。 でもエルフの村は魔力が使えない少女を引き取ってくれなかった。それどころか魔力が無いエルフは処分する掟になっているらしい。 俺の所有物であるなら彼女は処分しない、と村長が言うから俺はエルフの女の子を飼うことになった。 孤児になった魔力も無いエルフの女の子。年齢は14歳。 エルフの女の子を見捨てるなんて出来なかった。だから、この世界で彼女が生きていけるように育成することに決めた。 ※エルフの少女以外にもヒロインは登場する予定でございます。 ※帰る場所を無くした女の子が、美しくて強い女性に成長する物語です。

僕のギフトは規格外!?〜大好きなもふもふたちと異世界で品質開拓を始めます〜

犬社護
ファンタジー
5歳の誕生日、アキトは不思議な夢を見た。舞台は日本、自分は小学生6年生の子供、様々なシーンが走馬灯のように進んでいき、突然の交通事故で終幕となり、そこでの経験と知識の一部を引き継いだまま目を覚ます。それが前世の記憶で、自分が異世界へと転生していることに気付かないまま日常生活を送るある日、父親の職場見学のため、街中にある遺跡へと出かけ、そこで出会った貴族の幼女と話し合っている時に誘拐されてしまい、大ピンチ! 目隠しされ不安の中でどうしようかと思案していると、小さなもふもふ精霊-白虎が救いの手を差し伸べて、アキトの秘めたる力が解放される。 この小さき白虎との出会いにより、アキトの運命が思わぬ方向へと動き出す。 これは、アキトと訳ありモフモフたちの起こす品質開拓物語。

スキル運で、運がいい俺を追放したギルドは倒産したけど、俺の庭にダンジョン出来て億稼いでます。~ラッキー~

暁 とと
ファンタジー
スキル運のおかげでドロップ率や宝箱のアイテムに対する運が良く、確率の低いアイテムをドロップしたり、激レアな武器を宝箱から出したりすることが出来る佐藤はギルドを辞めさられた。  しかし、佐藤の庭にダンジョンが出来たので億を稼ぐことが出来ます。 もう、戻ってきてと言われても無駄です。こっちは、億稼いでいるので。

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

残念ながら主人公はゲスでした。~異世界転移したら空気を操る魔法を得て世界最強に。好き放題に無双する俺を誰も止められない!~

日和崎よしな
ファンタジー
―あらすじ― 異世界に転移したゲス・エストは精霊と契約して空気操作の魔法を獲得する。 強力な魔法を得たが、彼の真の強さは的確な洞察力や魔法の応用力といった優れた頭脳にあった。 ゲス・エストは最強の存在を目指し、しがらみのない異世界で容赦なく暴れまくる! ―作品について― 完結しました。 全302話(プロローグ、エピローグ含む),約100万字。

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

処理中です...