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ゴブリンダーとの死闘

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「これで20体目だ」

 地下1階で倒したD級ゴブリンの右耳を切り落とす。
     最初の1階で倒した80体のE級ゴブリンの耳と合わせて、ちょうど100体。
 宝箱も3つ見つけた。中には古い金貨や宝石が入っていた。
 ダンジョンの中で丸一日過ごして、そろそろ帰る時間だ。
 でも、地下2階に向かう階段を見つけてしまった。

「これは、行くしかないよな。危険度も分かっているし。今なら大丈夫」

 魔法を使わずに、短剣だけでゴブリンを倒しまくったから、短剣の基本動作や技が身についてきた。
 今ならC級ゴブリンダーも倒せるはず。

 地下2階は、大広間になっていた。いかにもボスがいそうな雰囲気。
 ムワッと獣の匂いが立ち込めた。暗闇の中に魔獣の気配が満ちている。

 え?

 数十対の赤く光るゴブリンの目が闇に浮かび上がる。

 ウォォォ!!!

 地鳴りのような咆哮。

 まずい。

 急いで壁にファイポをつける。

 そこには50体ほどのD級ゴブリンと3倍ほどの大きさのゴブリンが1体いた。
 
 あれが、ゴブリンダーか!想像していたよりもデカいな。
 それに数が多い!

 まずは魔法で数を減らすか。

「ファイガス!!」

 どうやらゴブリンは、火に弱い。
 リノスの周辺には、炎の魔法を使う人が少ないから、あまり認知されていないのかもしれない。
 簡単に倒せるけど、耳まで灰になってしまうのが残念だ。
 焼け焦げる匂いが広間に充満する。
 雪が溶けるように、どんどん燃え尽きていった。
 目の前に立つゴブリンダー以外は。

 ウォォォ!!!

 怒りに満ちた咆哮だ。それになんのダメージにもなっていないようだ。
 魔法の耐性があるみたいだな。さすがC級。ただのゴブリンとは違うのか。

 でも、これで敵はゴブリンダー1体のみ。
 短剣で倒してみるか。

 ゴブリンダーがこちらをにらむ。

 ウォォォ!!!

 しかし、この威圧感。両手に握られた長くて刺々しい棍棒に当たったら即死だな。

 ゴブリンダーが両手の棍棒を構えてジリジリと動き出す。
 こいつはきっと武器を振り回すだけじゃない。武術ともいえる、何かを習得している。そんな雰囲気だ。

 チャンスがあるとすれば、あの大きさ。懐に入る隙もあるはず!

 ザッ

 ゴブリンダーが踏み出して棍棒を叩きつける。

 ブンッ

 ブンッ

 ブンッ

 高速の3連撃。おいおい、速すぎるだろ。
 気がつくと、壁際に追い込まれていた。
 壁を蹴ってなんとか避ける。草舟のブーツのおかげだな。速度上昇がなかったら死んでいた。

 すぐに間合いを取ってこちらを睨みつける。

 ブンッ

 ブンッ

 ブンッ

 また3連撃。鍛え上げられた技だ。冗談抜きで死ぬかもしれない。
 飛び跳ねながらなんとか避ける。

 当たれば即死!

 敵ながら中段、下からの攻撃で防御のバランスがいい。

 大広間を右に左に避けまくる。

 ワンパターンだけど、懐に入る隙がないじゃないか。避けるので精一杯だ。
 懐に入っても、3撃目を避けるイメージが湧かない。
 危険すぎる。

 でも、こちらは身体の小ささを活かすしかない。

 思ったよりピンチだ。実力は、ゴブリンダーの方が明らかに上。

 でも、逃げてばかりでは、ダメだ。
 まず、右脚を狙おう。機動力を奪えば、勝機が生まれる。
 今度は、こっちから!

 全速で間合いを詰める!

 ゴブリンダーがさっきと同じように構える。

 恐れず懐にに飛び込む!

 さっきと同じ3連撃!

 ブンッ

 上段から下に振り下ろす攻撃。
 避けて踏み込む!

 ブンッ

 左からの中段の一撃。
 頭を下げてギリギリかわす

 下から振り上げる3撃目を避けるのは無理だ!ゴブリンダーの方が速い!

 だったら!

 とう!!!

 短剣が深々と柄の根元までゴブリンダーの右足のスネに刺さった!!
 ガリッと硬いスネの骨を貫いた感触!

 どうだ?!スネは、弁慶の泣きどころ!

 でも、さっさと短剣を抜いて、間合いを取りたいけど、抜けない!

 ウォォォ!!!

 ゴブリンダーが唸りながら左膝をつく。

 グシャ

 と嫌な音がして、ゴブリンダーの右足がスネから不自然な方向に折れ曲がった。

 よし!

 でも、どうしても短剣が抜けない!!焦りの汗が吹き出す。

 バシンッ

 ゴブリンダーの強烈な左の張り手で吹っ飛ばされる。

 ドシンッ

 地面に叩きつけられた。

 ゲホッ

 口から血が流れる。口の中が切れたみたいだ。
 すぐにキュアで回復する。

 良い突きが決まったぞ。
 でも、短剣がゴブリンダーの骨と肉に食い込んで抜けなかった。

 短剣がゴブリンダーの折れ曲がった右足にぶっ刺さったままだ。
 深く刺しすぎるとダメだな。抜けなくなる。次から突き刺すだけじゃなくて、切り裂くようにしないと。
 特に一撃で倒せない相手には。
 さぁどうする?武器がない。
 
 ガンダルの言葉を思い出す。
 諦めずに希望を見つけること。

 何が使える?
 なんでもいい!何か!
 
 ゴブリンダーがしゃがんだまま短剣の柄を掴んで自分の右足から短剣をひっこぬく。
 勢いよく血が吹き出した。
 それから握った短剣をジロジロみている。
 ゴブリンダーの身体の大きさからすると短剣がアイスの棒くらいにしか見えない。

 それからゴブリンダーが短剣を僕に向かって投げた!

 ヒュン!

 気がつくと短剣が僕の腹にグサリと刺さっている!

 膝が勝手に崩れ落ちて、視界が一瞬暗くなる。
 痛みより先に、嫌な冷たさが身体を貫く。

 うわぁぁぁあ!!!

 強烈な痛み!どうする?どうしたらいい?短剣を抜いて、キュア?

 ダメだ力が入らない。

 ゴブリンダーが四つ這いでこちらに近づく。

 ウォォォ!!!

 やばい。ダメかも。

 目の前でゴブリンダーがよろめきながら立ち上がる。

 ダダダーン!!!

 いきなりゴブリンダーが派手に転んだ。
 地面にめり込むように倒れて、床が割れている。
 砂埃が舞い上がって、よく見えない。

 新手か?!それとも誰かが助けに来てくれたのか?

 でも、そこには静寂しかない。

 舞い上がった砂埃がゆっくりと落ち着いて、倒れたゴブリンダーの巨大な顔が見えた。
 首が折れて、白目をむいて絶命している。

 何が起こったんだ?!

 分からない。でも、敵も味方も誰もいない。

 このままだと僕もお腹に刺さった短剣で死んでしまう。

 自分で抜くしかない。

 短剣の柄を掴んで、抜く!

 痛すぎて手がブルブル震える。腕に力が入らない。
 困ったな。抜けない。

 横に転がる勢いで無理矢理抜く!

 プシュ!!!

 うわわわぁぁ!!!

 抜く時に余計に切れた!!!
 大量出血!!!

 痛い痛い痛い痛い痛い痛い!!!

 痛くて何も考えられない!

 うわぁぁぁ!!!

 キュア!キュア!キュア!キュア!

 はぁぁぁ!!

 キュア!!!!

 はぁはぁ。

 キュア!!!!

 何度キュアをかけたか分からない。

 赤ん坊の時、階段から転げ落ちて瀕死の僕にパンセナがキュアをたくさんかけてくれたな。

 内臓の傷までは、完全に治せないな。ジンジン痛みが残る。

 でも、応急処置ができた。

 シャリっ

 ポシェタからポムルスを取り出してかじった。
 いい感じだ。
 爽やかな香りで気持ちも落ち着いてきた。

 立てるか?

 はぁはぁ。

 よし、いける。

 よろよろと立ち上がる。ポケットから出て来たミニゴーレムがフレーフレーと応援してくれている。

 足がブルブル震えるな。
 やっぱり膝から崩れ落ちてしゃがみ込む。立っていられない。

 はぁ。

 ここは地下2階か。どうやって帰ろう。歩けない。階段なんて無理だ。途中に大量のゴブリンが湧いている。

 ミニゴーレムが走って倒れたゴブリンダーの方にいった。

 なんだ?

 しばらくして戻ってくると、ゴブリンダーの右耳をちぎって持ってかえって来た。

 ははは。そうだね。たしかに。戦利品だ。

 ありがとう。ミニゴーレム。

 ミニゴーレムが僕の目の前でレゴレを使って2メートルくらいのゴーレムを作った。

 どうするんだ?

 それからゴーレムに乗り移る。

 おお!そんなことができたのか!

 動かなくなったミニゴーレムの身体を拾い上げて僕に渡す。

 ミニゴーレムも短剣もゴブリンダーの右耳もポシェタに大切に入れておこう。

 ゴーレムが僕をヒョイっと軽々担ぎ上げる。そして、出口へと向かっていった。

 あぁ!そうか。魔王の剣には、装備すると即死するほどの不運の呪いがかかっていたな。
 まさか呪いに救われるなんて。
 ゴサスチ様の話は、やっぱり本当だったんだ。
 でも、これでは、剣術で勝ったことにならないな。

 もっと経験を積んで、鍛錬して技術を上げないと。

 あぁ

 眠い。意識が遠くなっていく。
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